28- 再会
(まあ、二日間くらいなら問題ないよな)
俺はしばらく家を空けることになったという旨のラインを玲へと送る。
綺麗な秋晴れの空の下、俺は憂鬱な気持ちを抱きながらマンションから出た。
目の前には、一台のリムジンが止まっている。
俺はわざとらしくため息をついて、そのリムジンへと近づいた。
「……お迎えに上がりました、凛太郎様」
ドアを開けて姿を現わしたソフィアさんは、俺に向けて丁寧なお辞儀をした。
こうして顔を合わせるのは、無理やり手紙を押し付けられた時以来である。
「別に迎えに来る必要はなかったんじゃないですか? そんな遠いわけでもないし、電車でも行けたっスよ」
「凛太郎様にそのような真似はさせられませんので」
「何度も言ってるっスけど、俺はただの一般人です。必要以上の世話は求めちゃいない」
「……心得ておきます」
どうせ口だけだ。
この人たちは丁寧な対応を装いつつ、家を出た俺のことを軽蔑している。
親父の跡を継ぐ気がない俺を、大事に扱う意味もないのだから。
「どうぞ、お乗りください」
促されるまま、俺はリムジンへと乗り込む。
何故この車はこんなにも無駄に豪華なのだろう。別に俺の送迎程度なら、軽自動車でも十分すぎるのに。
「手紙の内容についてはすべて把握されてますか?」
「……一応」
「ならば説明は省かせていただきます。詳しい内容につきましては、直接社長と話していただければと」
ため息がこぼれそうになる。
社長とはつまり俺の親父のことで、さらにつまるところ、一番会いたくない人物と言っても過言ではない。
そんな相手と会わなければならないと思うだけで、俺の心は酷く乱れていた。
「――――正直、意外でした」
「え?」
「私としては、こちらがどんな手を使っても来ていただけないと思っていました」
「……行かなくて済むなら、今でも行きたくはないっスよ。でも、少なからずここまで育ててもらった恩はあるわけだし、自分一人で生きてきたなんておこがましいことは思ってないから……一度くらいは会っとかねぇとって……ほんと、そんなもんっスよ」
「……なるほど」
それっきり、俺とソフィアさんが車内で会話することはなかった。
彼女はとにかく合理的な人間で、必要以上に会話する必要はないと判断したのだろう。
俺もその辺りの考え方は共感できるし、無理に話しかけられるよりはよっぽどいい。
やがてリムジンが止まり、俺とソフィアさんは運転手を置いて降りる。
「相変わらず……馬鹿でかいな」
目の前にそびえ立つ超高層ビル。
これが、俺の親父の会社である志藤グループの本社である。
「行きましょう、凛太郎様」
「……うす」
ソフィアさんに案内されるまま、ビルの中に入ってエレベーターに乗る。
エレベーターが止まったのは、最上階。
扉が開いた先には長い廊下があり、その一番奥にはオートロックのような形式の自動ドアがあった。
「少々お待ちください」
言われるがままに待っていると、ソフィアさんは扉の前にあった操作パネルにパスワードらしき番号を打ち込み、電子ロックを解錠する。
「どうぞ」
開いた扉を、今度は俺が先頭を歩く形で進んでいく。
――――部屋の一番奥。
大きな机の向こうにある椅子に腰かけていた男は、窓の外に向けていた視線を俺へと向けた。
「……久しいな、凛太郎」
俺の父親である志藤雄太郎は、相も変わらない不愛想な顔のまま、そう告げるのであった。
これにて第三章完結となります。
百話以上という長編になってしまったこの物語をここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。たくさんの応援コメントや、キャラクターに対する愛を送ってくださった皆様のおかげで、なんとかモチベーションを保ち続けることができています。
すでにエンディングの形は決まっているのですが、それに至るまでの話は可能な限り膨らませることができればと考えております。何よりも私自身が本作のキャラクターたちを気に入ってしまっているため、それぞれのエピソードや深堀もして行けたらと思っております。
希望する声が多いようであれば、エンディング後にifルートなんてものがあってもいいかも……なんてことは考えておりますが、今はまだ確約はできないということで……申し訳ありません。
今後とも本作を続けていくに当たり、ブックマーク、評価、感想やレビューにて応援していただけると幸いです。大変励みになります。
そして第四章の話ですが、プロローグの更新は6月27日以降を予定しております。
そこから本編までは諸事情によりかなりの時間をいただくことになるかもしれませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、今後とも「大人気アイドルなクラスメイトに懐かれた、一生働きたくない俺」をよろしくお願いいたします。