姫の過去
進藤さんは白のロンTを着て、自分の過去を語り始めた。
進藤さんは小学校の時から、教育熱心な両親に厳しくしごかれていた。テストは毎回いい点を取れとか、通知表は常に『5』を取れとか、そんなことを毎日言われていた。進藤さんは成長するうちにだんだん反抗するようになり、父親がひどい暴力を受けるようになった。
「なんだと。親に向かってその口の聞き方があるか!!」
進藤さんのお父さんは学生時代、剣道を習っていてその護身用の竹刀で進藤さんを殴っていた。日に日に暴力はエスカレートしていって、ひどい時には、背中にナイフを突き付けて軽く切ったりしていた。進藤さんにとってその虐待は、一番苦痛なものだった。
月日が経ち、ついに進藤さんがキレた。今までの虐待がストレスになったのか、ある日に暴力を受けていた時に進藤さんがお父さんを睨み付け、いきなりワイシャツの襟を掴んだ。
「いい加減にしろ!!私はあんたの玩具じゃない。一人の人間なんだ!!」
そういうと、進藤さんはお父さんを壁に突飛ばし、そのまま部屋に閉じ籠る。そして、旅行バッグに必要なものを揃えてそのまま家出をした。もうこんな家には戻らないと心に決めて・・・。
「それで、その後は?」
「その後、隣町の親戚の家に居候した。事情を話したら、叔母さんも理解してくれてしばらく静かに暮らしていけた。そして、遠くの中学校に通うために一人暮らしを始めたの。食費とかのお金は叔母さんが毎月送ってもらっているから生活には困らない。」
「・・・進藤さん。確かに君の辛い事情はよく分かるよ。でも、逃げてても何も変わらないんだよ。過去のことは忘れて、また新しい生活を・・・。」
進藤さんは俺の顔に向かって手鏡を投げつけた。俺は間一髪の所で避けたが、右頬を切り、傷口から血が出る。
「あんたに何が分かるって言うの?忘れろって簡単に言うけど、忘れたくても忘れられないんだよ。あんたみたいに優しい両親に育てられて、何不自由なく幸せに生きてきた人間に私の気持ちなんかわからないんだよ!」
進藤さんは俺を部屋から追い出すと、そのままドアを思い切りバタンと閉めた。
『あんたみたいに幸せに生きてきた人間に私の気持ちなんかわからないんだよ!』
俺はソファーに横になると、さっきの進藤さんの言葉が木霊する。
「そうだよ。俺、何にもわからなかった。進藤さんの気持ち、一つもわからなかった。最低だよ・・・俺。」
俺は好きな女の子の気持ちすら知らなかった自分の鈍感さに涙を隠せなかった。俺はその日、一晩中泣き続けた・・・。