姫とお喋り
自販機の前に来ると、俺は鞄の中から黒い財布を取り出した。
「何飲み?俺が奢るよ。」
「・・・カルピスソーダ。」
俺は財布から二百四十円を出すと、それを投入口に入れ、ボタンを押すと、下の出口からガゴンッとジュースが二本出てきた。俺はカルピスソーダを進藤さんに渡すと、自分用に買ったコーラの口をプシュッと開けた。
「進藤さんってさ、なんでここにいるの?」
俺は進藤さんを自販機の側にあるソファーに座らせた。
「・・・学校が嫌いだからだよ。」
彼女はカルピスソーダを一口飲むと言った。
「なんで嫌いなの?」
俺はコーラを飲みながらまた質問した。すると、彼女は口を開いた。
「私、小学校の時から成績が良くて、周りから天才天才って言われて一目置かれてた。でも、みんな私のこと妬んでいて、私ひどいくらいいじめられてたの。それ以来、激しい人間嫌いになって人ともまともに話せないし、友達もいない。でも、その方がいい。なんか気楽で自分の思っていること自由にできるもん。」
「・・・でも、友達がいなくて寂しいって思ったことない?」
「全然。だって所詮、みんなただつるんでるだけでしょう?他人の顔色ばっか伺って、ライオンに媚びるネズミのように機嫌のいいこと言って・・・あなただってそうでしょう?」
「そ、それは・・・。」
もちろん、彼女の言ってることは間違いではない。むしろ、当たってる。昔の記憶、俺は今でも覚えている。
小学校三年の時、俺のクラスの女子がいじめられてたんだ。みんな、あいつは暗いからとか、むかつくからとか、そんな適当な理由をつけて徹底的にいじめていた。俺は直接手を出さなかったが、今考えれば俺もいじめの常習犯だ。結局、彼女は転校したが、今はどこにいるかはわからない。
「鈴木君、聞いてるの?」
俺がいろいろ考え事をしていると、進藤さんが苛ついた口調で言ってきた。
「あ、あぁ。ごめん、なに?」
そういうと、進藤さんはブスッとした顔をして、革の鞄を肩にかけて立ち上がる。
「やっぱあんたとは絡みづらい。人間なんてみんな同じなんだよ。」
そういうと、進藤さんはすたすたと部屋の中へと入ろうとする。
「進藤さん、待ってよ。」
「ついて来ないで!」
俺は進藤さんの後を追いかけようとしたが、彼女が振り回した鞄が俺の顔面に直撃。俺はぶっ飛び、つるつるの硬い床に頭をぶつける。俺はしばらく倒れたままになるが、すぐに起き上がる。しかし、進藤さんは既にいなくなっていた。
「あいたたたー。」
俺は床にぶつけた頭を撫でながら、学びの部屋を去ることにした。
俺はどうしたら彼女に振り向いてもらえるかな?
そんなことを考えながら、俺はとぼとぼとタイル張りの道を歩いた・・・。