姫のもう一つの居場所
次の日の朝。俺は進藤さんと一緒に登校しようと担任の先生が教えてくれたアパートの前にいた。俺はしばらく待っていると、進藤さんがアパートから出てきた。
「進藤さ・・・」
俺は挨拶しようとしたが、彼女は俺に目もくれず、スタスタを歩いていった。しかし、何故か彼女は学校とは反対の方向へと歩いていく。
「どこ行くんだろう?」
俺は思いきって彼女の後をついていくことにした。
アパートから五分歩いてそこからバスに乗って二十分。進藤さんは大きな建物に入って行った。
「ここは・・・」
白と茶色で縁取られたシンプルな建物。看板には『ようこそ、学びの部屋へ』と書いてあった。学びの部屋とは、族にいう不登校になった子供達が集まる場所で、ここにいるだけで学校に行ったことになるシステムだ。小学校の時、俺のクラスメートだった女の子が不登校になってここに通っていたのを聞いたことがある。俺は早速、中に入ってみることにした。
中は保育園や老人ホームのように暖かい場所だった。クリーム色の壁に囲まれた広い部屋で、不登校になった子供達が元気よく遊んでいた。トランプゲームをしている子供三人。部屋の隅でゲーム機で遊んでいる男の子。テーブルで勉強している男の子とノートに可愛い絵を描いている女の子。みんな、とても不登校児とは思えないくらい無邪気だった。
「あら、こんにちは。あなたのここに来たの?」
入り口でぽつんと立っていると、ここの人らしい女の人が親切に話しかけてきた。ふわふわのショートヘアにふっくらとした体型。赤紫色のワンピースを着た優しそうな人だった。
「いえ、あの・・・こちらに進藤舞さん、いらっしゃいますか?」
「進藤・・・あぁ、舞ちゃんね。舞ちゃんなら、あそこのパソコンのところにいるわ。」
女の人が指差す方を見ると、そこに熱心にパソコンに打ち込んでいる進藤さんがいた。
「ありがとうございます。」
俺は女の人にお礼を言うと、進藤さんのいる所へ向かった。
「進藤さん。」
「あら、あなたもいたんだね。」
彼女は一言そういうと、すぐにまたパソコンに目をやる。
「何調べてるの?」
「通信販売。私、服とか本とかみんな通販で買ってるんだ。」
進藤さんはキーボードをカタカタと打ったり、カーソルを動かしたりして、通販の掲示板を見ていた。そこには、俺の知らないチャラチャラした服や女の子向けの本と値段と発送日が書いてあった。一通り調べ終わったのか、進藤さんはパソコンの電源を消した。
「で、あなたは何の用?」
進藤さんは立ち上がると、俺に素っ気ない質問をしてきた。
「あ、えーと・・・せっかくだし、よかったら一緒に話とかしない?向こうの自販機の側とかでさ。」
「・・・いいよ。」
そういうと、進藤さんはパソコンが置いてあるテーブルの側にある鞄を肩にかける。
俺は彼女を自販機の所まで誘導している間、考えていた。今日、学校を休む言い訳を・・・。