第1話 Mission Accomplished
「ジ・エイスの作戦行動5秒前。4、3、2、1、行動開始!」
上官の行動開始命令が骨伝導で頭に入ってくる。
私は仲間と一緒に目標の建物へ突入した。
ヘルメットに内蔵されている拡張レンズが、獲物がどこにいるかを示してくれる。
我々は足音一つ立てず、獲物のいる部屋の前まで来た。
私が所属するのは第八情報戦略中隊、通称 ジ・エイスだ。
民間軍事会社ユビケーンの特殊部隊で、アメリカ、いや世界で最も優れた部隊である。
今回の作戦内容は建物内に潜伏するテロリストの捕縛および抹殺。我々にとっては朝飯前だ。
普通であれば、テロリストの処理はもっと下の連中が行って、ジ・エイスは出動するまでもないのだ。
しかし今回は事情が事情だ。テロリストは小型核爆弾を所持していると思われる。下手をすればこのラス・ベガスの街ごと吹っ飛んでしまう。それ故に戦術的、戦略的に最も長けた我々が出動するのだ。
「...ナ、ユリナ。こちら第二小隊。状況を説明せよ」
急に自分の名前が呼ばれて驚いた。第二小隊長オリバーからだ。
「ターゲットが我々に感知した可能性はゼロ。オールクリアです」
「了解。幸運を祈る。日本の美女よ」
こんな時まで女たらしでいられるのがオリバーの長所かもしれない。
上官からのメッセージが拡張レンズに表示される
[第二小隊はチャーリーで待機。第一小隊は二〇秒後に突入]
そのメッセージが残り二〇秒のタイマーに切り替わる。
いくら訓練を積んでも、兵士は失敗する。しかし、我々、ジ・エイスに失敗は許されないのだ。私のこめかみに冷や汗が滲む。
[突入]
画面に表示されたのはそれだけだ。
次の瞬間、先頭の兵士がドアを硬化防楯で破壊した。迅速に、かつ的確に兵士が部屋へ流れ込む。その動作一つ一つに1センチの誤差もない。
そして突入からコンマ五秒と経たないうちに、決着がついた。残ったのは脳天を穿たれ、穴から脳漿を元気よく吹き出すテロリストの遺体だけだ。
「こちら第一小隊長、ユリナ。任務完了。帰還の手配を頼む」
私はそう本部に連絡した。
その直後であった。私は背後から尋常ならざる殺気を感じた。背中が凍りついた。腰に下げたベレッタ92に手をかけるのにコンマ1秒。構えながら後ろを向くのにコンマ2秒。異常な集中力のせいで非常に短い時間が、長く感じる。
そこに見えたのはテロリストの残党だ。
AKの銃口が私の方に明確な殺意をもって向いていた。
...殺される!
照準を合わせる時間はなかった。私は引き金を引いた。