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乱の42 魔術師の戦い


 クローは座り込んでいた。下敷きにされた草が、あたりに青々しい匂いをただよわせている。戦場であろうと、建物が大きければどこかしら人目を逃れる場所があるものだが、そこに入り込んだら気が抜けて、少年は思わず地面に落ちてしまったのだった。


 疲れた、眠りたい、帰りたい、魔術使いたくない、帰りたい。


 でもまだ、最後の術が残っている……。


「はぁああ、こき使いすぎです」


 魔術は精神的な負担が大きいものなのだということを、魔術覚えたてのころ以来、ずいぶん久しぶりに実感した。さすが伝説の術とよばれるだけはある。操縦が大変だ。余裕だと思っていたのは、能力の過信だったらしい。

 足を抱えて座りながら、クローはフッと笑った。


「……こういう挫折は、はじめてかもしれません」


 大人の階段を上ったつぶやきに応える声はなく、代わって戦いの音が聞こえてくる。すぐ近くで戦っている人がいるのだ。壁一枚隔てた場所で、命がけで戦っている。

 僕がやらなきゃ……。

 無駄な血を流さないために、術が必要だ。

 大きな術だ。疲れたままで失敗したら大変だ……ありえないけれど。

 くっくっと声を殺して笑う。少し、緊張が解けた気がする。

 背伸びをして、大きく息を吸った。


「……よし! がんばろう」


 最後なんだ、これで。あとひと踏ん張りだ。

 周囲の魔力を知覚する感覚を冴えさせながら、そそそ、と場を離れて、城壁の前まで忍びよった。


 背の五倍はある城壁を見上げる。

 城壁の内側から、魔防壁の赤と緑の色が立ち上って、半円状に城を取り囲んでいる。

 クローは、ニッと笑って、全身から魔力を溢れさせた。

 マユの糸がしゅるしゅると現れカイコの体を覆っていくように、クローの周りに魔力の渦が出来ていく。魔力は空間をゆらめさせ風が吹く。黒いローブがカイコの転変を願うように力強くはためいた。


「大地よ」


 少年は久しぶりに――言葉――を唱えた。

 術を成功させる確率を、わずかでも高めるものだ。内容などは適当でいい。願う結果を言葉に込めれば援助してくれるもので、誰も知らないが美羽の故郷でなら言霊ことだまと呼ぶ万象の摂理だ。ここではただ唱えると言う。魔術の言葉を唱える――名付けて、呼ぶ。


「高くせり上がり、人を防げ」


 クローを覆っていたまゆがばらけた。それらは大地へ溶けて消え、靴の裏から振動が伝わりはじめた。遠くから、太鼓を力任せに叩くような音がする。遠く、下から。


 足元を鋭くにらむ。

 唸る大地に、声が送られた。


「――来い」


 ズンと大地が歪んだ。地震だ。真下からの突き上げにクローの体などは一瞬宙に浮きあがる。本物の地震であるなら直下型の地震といえるだろう。

 戦闘中の人々も驚いているのか、剣が重なり合う音が地鳴りよりも小さくなり、聞こえなくなっている。

 クローには見えないが、地震は勝敗を決する機会になっていた。

 地震に気を取られた者は荒らぶる大地に血を捧げ、地震に動なかった者は剣を収めて大地の揺れを乗りこなそうと身がまえ、あるいは何かにつかまった。


 地震が人々を圧倒していく。足元がおぼつかない。立っていられない震えと轟音が城を包み込み、恐怖で人々の心を闇に包んだかのように、視界そのものも暗くなった。視界が悪くなったのを、王の兵たちは恐れとともに受け入れる。


 ――暗い。何が起きている。


 ――地震なのか。これが。地震とはこういうものなのか。


 ――まるで夜だ。地震が起きると夜になるのか?


 突然の変化に目が心が追いつかない。見えない目をしばたたかせているうちに、彼らは何人も斬られていた。


 ――なぜだ。


 ――状況は敵も同じはず。


 ――……知っていたのか?

 

 どっと石床に体が倒れる。起き上がろうとしても血が足りずに頭を朦朧とさせて、疑問とともに生温かい血だまりに伏せった。



 いま何が起こっているのか、城内の敵には分からないでしょうね。

 上手くいった術を見上げながら、クローはほっと息をついていた。仲間たちは上手く対応しているかな。


 術によって、大地はクローの目の前にうず高くそびえたっていた。敵の魔防壁の内側を這うようにして、土の壁が城を覆っている。外から見たなら卵の殻のようだろう。殻の中にいるヒナから見る世界はこんな景色だろうかと空を見上げる。殻の天辺にあたる部分だけ、ヒナがつついたように割れて光が入りこんでいた。しかし、さんさんと輝く空には太陽が見えなくて、それがまた実に気分が良い。太陽は嫌いだ。


 上出来です。これなら並の魔術師には壊せないでしょう。並以上でも無理だ。まぁ、僕ほどなら可能だけど。


「やっと終わった」


 うんと思いっきり伸びをした。

 早く逃げよう。

 術を使ったから敵は急いでここに来るだろう。転移のため、自分と周囲の魔力に意識を向けたとき、しかし彼はそれに気付いた。近くに、いる。自分の物ではない魔力がある。ただの人ではない。今まで気付けなかったくらいだから、術で魔力を隠すことが出来る人間だ。……敵か。

 この状態で転移するのは得策じゃない。転移を妨害されるのは危険すぎる。


 さんさんと降り注ぐ光を浴びながら、クローは意識を敵へ向け、目は近くに生えてい木々を向いた。光を遮られてしまった木は、心なしか物憂げに見える。足元には草が大盛況で、枯れて落ちた小枝も元気な草に引っ掛かっている。草ばかりは闇の中でも元気に見えた。そして植物の気配はとても落ち着いている。敵のそれの異様さがよく分かった。間違いなくいる。


「誰ですか、そこにいるのは。僕はもう何もしないので、見逃してはいただけませんか」


「そうはいかないな」


 やっぱり居た。溜息が出た。気のせいなら良かったのに。

 声がした方を見た。薄汚れた白壁が見える。その角から、もったいぶった足取りで黒いローブがやってきた。ローブには赤い刺繍が施されていて、なんだか見慣れないと思った。あれがアルザートの魔術師のローブなのだろう。だから見慣れないんだと分かった。いつも逃げてたから会ったことがないのだ。


 どうしよう。

 顔にはおくびも出さないで、少年は心の中で困った。

 どう対応しましょうか。あまり戦いたくはないけれど、反乱軍を思うなら敵の魔力は消費させておきたいですし。ああ大変だ、腕がなります。


「ちょい楽しそうだね、黒の魔術師くん。しかし本当に子供なんだな。会ってみたいと思ってたけど、そっちから来てくれるとはね、うれしいよ、少年」


 魔術師は笑う。目尻に三本のしわが寄って、なんだか愛嬌のある顔になった。敵意は感じられない優しげなもので、きっと初対面の人ともすぐに打ち解ける人だろう。だが通例に反してクローには敵意が湧いた。


「子供扱いしないでください。僕は会いたくありませんでしたよ、おじさん」


 目尻の皺がさらに深くなる。穏やかな気性の魔術師なのだろう。


「おっと、残念。君は嫌でも、僕はこの時を楽しみにしてたんだよ。強い魔術師とはなかなか戦えないんでね。タルタスの術師とはまだ僕は戦ったことがないんだ。避けられるのは悲しいね」


 ずいぶんおしゃべりな人だ、と思った。敵だってことを忘れているのか、子供だと馬鹿にしているのか、甘く見ているのか。

 クローの口端がひくりと上がる。


 ――馬鹿にするな。


「ではもっと悲しい思いになってください」


 少年は素早く扇を取り出すと、力任せに風を巻き起こした。またたく間にぐるぐると渦を巻く小さな竜巻ができあがった。それは少年を取り囲んで飲み込むと、その力強い風で周囲の草や木や大地を削り取りはじめた。

 鋭利な切り口の枝やとがった小石が巻きあがり、穏やかだった魔術師の顔にやっと焦りが浮かぶ。


「ちょい、少年、待ってくれよ」


 風が唸る。空気が通り過ぎていく音が魔術師の耳へ返事をする。

 魔術師のローブがふわりと風にはためき、むき出しの肌を小石や枝が斬りつけてくる。


「いたたた」


 顔をかばう腕がじみーに痛い。

 少年の方をうかがえば、さっきまでそこにあった黒は、巻きあがる土が竜巻に混ざって見えなくなっている。


 土と風でできた小さな竜巻のまわりを、小枝や石が飛びまわる。ちくちくちくちくと、やっぱり地味に痛い。

 術師は見ていて、小枝たちの動きの変化に目が行く。それらは複数のまとまりをつくり始めているように見える。いや集まっている。ひと塊りになり、あれは、そう、大きな剣の形になっている気が――気じゃない、なっている。あれで斬りつけるつもりか。


「ちょいちょい、困った、本気だな。自己紹介もまだっていうのにね」


 魔術師は一歩退いて、懐からガラス球を取り出した。

 手で包み込むと、ガラスはとろりと指の隙間から溶けて溢れだす。

 こまごまと襲ってくる物との間にガラスが入り込み、術師の前に広がって固まった。コンコンと石や小枝がはじかれる。溶けだしてから固まるまでの速さを誇るよう、小枝一つ混じらぬガラスは、天上からの光をなめらかに反射している。


 はためいていた術師のローブのすそが、静かに地面へ落ちた。

 クローの風が入ってこられない中で、地面に手をつける。と同時に、足裏がまた大地のふるえを感じた。先ほどよりは弱いふるえだ。

 術師は微笑む。


「やはり、今の土に彼の魔力はないね」


 クローの竜巻へ目線が行く。黄色い魔力が、竜巻の周りを囲うように地面から滲み出てくる。それが目で知覚されてすぐ、魔力は土を従えて急上昇した。地崩れでも起きたような音をたてて土のかたまりが竜巻を包み込む。竜巻は、ちょうどクローが取り囲んだ城と同じ状況になった。


 細長い塔となった土の塊は、しかしクローのそれと違って穴がない。外壁から中の様子はうかがいしれず、でこぼこした壁だけが見えていた。外にいる王兵たちは、城の周りでこんなものを見ているのだろう。


 しかし術師は、見えないだろうそれを凝視して、小首を傾げた。

 

「なんだ。いなくなってる?」


 土の塊が徐々に小さくなっていく。

 そこに人がいるなら窒息して普通だろう。が、風を抑え込んで凝縮されていく土の塊は、どんどん小さくなった果てには子供の体よりも小さくなった。

 最後には力尽きてぼろぼろと草の上に崩れ落ちる。あたりには草と木と暗闇ばかりがあり、天上から入り込む光はそこに子供の人影を造り出さない。

 術師は穏やかに苦笑して肩をすくめた。


「血気盛んそうに見えたのになぁ。逃げるとはね。なるほど、兵士が束になっても捕まえられないわけだ」


 崩れ去った土の中から、ころんと白い石がこぼれおちた。術師は拾って、手の中でころころ、もてあそぶ。

 こめられていた魔力は使いきってしまったのか、石は透明なガラス玉に戻りかけていた。


「魔石を使った遠隔操作、か。また高度な技を使うね」


 魔石を懐に入れる。

 この魔力に似た魔力を追えば見つけられるだろう。きっと魔力を隠して移動しているだろうから時間はかかるだろうが。時間の問題しかない。

 口元にしわが深く刻まれた。


「いいよ。居るのは確認できた。じっくり探そう」


 紙を取り出し「スゥへ」と書き出す。最後の文を書いているとき、強い魔力が近づいてくるのを感じて顔をあげた。


「やぁゲライ、遅かったね」


「遅かっただ? これでも急いで……ってやっぱり敵がいねぇ! 気のせいじゃなかったのか!」


 おおげさにゲライはなげいた。おおお、と呻きながら頭を抱える姿は喜劇演者にしか見えない。本人は本気で嘆いているんだろうけれど、見ている方はつい。


「はははは」


「はははじゃねぇ! くそっ、スゥに連絡だ!」


「もうお願いしたよ。見つかるまで他の反乱軍でも捕らえに行こうか」


「かぁあ! なんでお前は余裕しゃくしゃくなんだよ! 今逃げられたら二度と機会は来ないぞ」


「そうだね。こんな初歩的な間違いを、何度もしてくれるわけないね」


 ローブについた汚れを払い、術師はくるりと反転した。




 暗闇に慣れてきたのか、戦いが息を吹き返してきた。

 ぎんと鈍い音が鼓膜をふるわせる場所で、クローは今までイタズラと魔術にばかり使用してきた頭脳をひねってひねって見落としていた何かをしぼりだそうとしていた。黒いローブは足元の闇に溶け込んでいる。


 胸の鼓動が早くなっていた。――おおおおお――近くの窓から叫び声が聞こえてくる。

 敵と仲間が戦う音が今までになく身近に聞こえた。その声に、いつになく心がざわつく。


 ――おかしい。転移の術が使えない。


 ついさっき移動して城に来たというのに、なぜ今は使えない。

 魔力は十二分にあるのに。そもそも少ない魔力でも転移できてこその転移の術なのだ。神経がすりへって疲れるという難点はあっても、術師の能力の他には制約がないからこそ重宝される術。今の状況で使えないなどあるはずがないんだ。


 竜巻の中から転移することができなかったのは、竜巻をつくっていたからかと思った。だがどうだ、竜巻を魔石で動かしても、その術さえ破壊されて無くなっても、転移の術が使えない。先ほども、しぶしぶ転移の術は諦めて、土の中を通らばなかった。同じように城から逃げようにも、土の中まで魔防壁があって通れない。今のままでは逃げようがない。


 土の壁の影響だろうか。そんなはずはないけれど、まさかということもある。多量の魔力を壁に残してあるから、もうクローとはほとんど関わりがないのだが。


 クローは、ローブを広げて顔も覆い隠すと、指先に意識を集中させた。

 指先から伸びる縁の糸が、ちゃんと見えている。

 さらにそこへ魔力を注いでいく。意識が糸の中に入って行った。真っ暗な闇の中を無数の糸がめぐっている。その中の一本の、自分が入り込んでいる糸の中へ慎重に、そっと、細々とした魔力を流し込んでいく。そしてつながっている相手が見えたら、糸の中に体をも流し込めば移動できるはずなのだが、駄目だ。また、魔力が入った縁の糸はぶるぶると震えはじめた。魔力が安定しない。


 精神が疲れているせいでしょうか。いや、疲れていてもこのくらいはできます。僕なら余裕なはずなんだ。

 クローの胸にじわりと焦りが広がった。胸から全身へ侵食して、焦りが恐さになってくる。だんだんと危機感にまで変わっていっているのが分かってますます焦った。

 糸は心細げに震え続けている。


 信じろ。


 まだだ。


 まだ、できる。


 すぅとクローの息が浅くなる。

 意識から、焦りの感覚さえ取り除かれ、糸の震えが小刻みな震えに変わる。徐々に、落ち着いていく。糸がピンとまっすぐに張った。


 いけるか。


 思った瞬間、また暴れた。大きくうねって、意識を放り出されそうになりながら、それでもなんとか意識をつなぎとめて糸を手繰っていくと、魔石を埋めてある森の土がかすかに見えたところで糸が擦り切れたようにぷつんと切れた。 闇の中を交錯する糸の群れの中にあった目が、息がこもってむっとするローブの中に戻った。


「……こんなの初めてだ」


 ローブから顔を出して、くずれ落ちるように地面へ倒れ込んだ。

 いったいどうしたというのか。使えるようになったときだって、ここまで苦労はしなかった。


 今まで感じたことのない扱いづらさ。はじめての感覚だ。

 自分の知らない何かが働いての影響に思える。それ以外にありえない。何か、自分の知らない何かがあるんだ。


(まさかあの魔防壁、魔術防止になっている……なんてことないですよね、竜巻作れましたし)


 内心で首をひねって、その場を離れた。

 転移出来なくとも、まだ魔力は多量にある。いくら隠していても同じ場所にいれば滲み出る魔力で気付かれるだろう。


 窓の下をこそこそと身をかがめて通った。

 どうすればいいか分からないが、とりあえず人の気配のない方へと、逃走本能のままに進んだ。どこかに逃げ道はないだろうか。諦めて戦いに参加するのも、まぁいいけれど、クローより強い術師はいないのだ、こんな状態で下手うって暴走したら誰にも止められない。

 王たちが死ぬは良いけれど、仲間も死ぬのは好ましくない。


 気付くと周りには、人ばかりか窓もなかった。

 戦場との間にいくつも壁をへだてたような、戦いの音が少し遠くに聞こえる場所に来ていた。

 城を取り囲ませた土の壁が目の前にある。

 窓のない城壁の中は、調理場とか道具置き場だろうか。そこに背を預けた。少し休もう。


 だが、ほっと息をついたのもつかの間。土壁の影に隠れながら人がやってきた。

 うろうろと一人で、白と茶色の衣を着た貴族風の男が土壁を調べ歩いて来る。乱で逃げ場をなくした官吏や従者だろうか。


 まったく。落ち着く島もない。

 早くどこかへ行ってくれませんかね。

 心でつぶやくと、聞こえでもしたのか男は土壁から離れて、きょろきょろとあたりを見ながら光が差し込む場所に移動した。

 淡い金の髪が光をやさしく反射し、きらきらと光を楽しむかのようだ。一足早く秋が訪れて黄に染まる紅葉のようにも見えた。髪の下にある顔は、髪の美しさに負けず整った造形をしている。戦場に似つかわしくない美しさだった。


 だがクローは、別のことに目を奪われた。

 クローのローブに隠れた瞳は、金色の紅葉にまじったわずか異質な赤い紅葉を見つめる。

 胸にあった焦りが一挙に晴れて、喜色が全身に満ちてくるのを感じる。口角が上がっていた。


(あれは予言師ですよね)


 光の中を歩く人は、まるで先ほどまでの自分を見ているような動きをしていた。周囲を警戒し、脅えながら、何かを探す。もしかしたら出口かもしれない。彼は、反乱軍の味方だったはずだ。


 少年は、闇にまぎれていた体をすっくと立たせた。


 意外と鋭く気がついた紅葉の人がこちらを見る。そういえば、予言師でなければ騎士にもなれた剣の腕前だとカイムが言っていたのを思い出す。同時に、何を考えているんだか分からない人だという印象も思い出した。意思の弱い人なんだろうなとクローは思っていた。


 しかし目があった瞳は、想像していたよりも強い光を持っていた。何かをやりとげようとする、決心した人のそれに見える。

 紅葉の人はしばらくこちらを睨みつけながら押し黙って、ゆっくり口を開いた。


「君は……アルザートの魔術師ではないですね。何者かうかがったら、答えていただけますか」


 クローは答えようとして、しかしなぜか声が詰まった。

 そうだ、もし彼が敵に寝返っていたらどうする……?

 どうも……しない。困りはしない。今それを見極めて、敵に知らされる前に止めればいい。恐れる必要は何もない。自分は強いのだから。

 腹に力を込め、クローは光に近づいていく。今度はすんなり声が出た。


「僕は反乱軍の魔術師です。あなたは予言師ですね」


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