番外編「美羽の日記」
序章と乱章の間にあったこと
(秘) 異世界探検紀行
見つけた人は右の者にお届け願います→鈴木 美羽
異世界迷い込み一日目(たしか八月十二日)
いつもの神社にて気絶。聖地と勝手に名づけた無人の街に到着。
レオンのお母さんからレオンを預かることになった。食事は果実だけ。
二日目(たぶん八月十三日)
森の外にあるだろう村か町に出発。誰も居なかった。戻ってきて聖地にある神殿らしき建物の中で魔法の杖を手に入れた。…せめて効果音でもつけてくれればいいのに。
森の外にまた行ってシラと会う。空を飛んで移動してみた。とても恥ずかしかった気がする。
三日目(八月十四日)
シラに置いてけぼりをくらった。ひどいっ、私のことは遊びだったのね! なんて冗談を言っている余裕もなかった。とりあえず寒かった。
で、置いてかれたのに追いついたらきっと物凄く驚いた上に、弱みをつかむ事になるなぁ、ふふふふふ、と思って、上空飛行という新術をやってみた。術も作戦(?)も大成功だった。
この日はスイラの王城にて宿泊。
四日目(八月十五日)
国境へ視察に行った。町は壊されていて、可哀そうだった。流れ込んできた感情はつらいものばかりで、同調して気が狂いそうだった。この経験で魔術とは違う力の存在に気がついた。魔術は胸の中心辺りに貯まっているのを感じるが、これは体全体に感じられる。魔術は限りを感じるけれど、この力は制限なく溢れてくる。むしろ溢れさせていないと危険な予感がするくらいだ。
ひとまず死者の感情に圧されて気絶した後、王城の部屋で目が覚めた。
で、シラに襲われて、なんかもう、どうでもいいよって気になった。でも生存本能はあって、溢れ出てくる謎の力を利用した復活劇をしてしまった。
あの力の影響で生命力が高まったのだと思う。あの状態では、普通死ぬって。
それで、シラの近くには居たくないなって思ったら、なんとなく目には見えない道を感じたので、そこに神経を向けたらレオンの近くに行った。
着替えてから、とりあえず遠くに行こうと思い、また気配だけの道に意識を向けて、移動する。辿り着いたのは聖地だった。戻ってきたのだ。
この日は、最初の日と同じように、けれど今度は一人で寝た。
五日目(八月十六日)
再び聖地を出発して森を抜け、前とは違う道へ進むことにした。
レオンもいないので、まぁ問題ないだろうと思っていたら、意外と問題があった。
最初に着いた小さな村では腫れ物あつかいされて、次に行った町ではごろつきって感じの兄ちゃんたちに追い掛け回されて、ああこれが追いはぎかぁ、と感嘆している暇も無く行く手をふさがれ気持ち悪い笑みでじりじり迫られた。
あせったけれども、ちょっと楽しかったよ。
魔法の杖もとい魔術で、近くにあったタルの鉄を増大し、とげとげを突き刺してやったら逃げてった。このころの一番の問題は、寝床が得られないことだ。親切を信じて寝ている間に襲われるのもイヤだし、そもそも、金がない。
金がない。もう、本当にもう、本当にもう、私のバカ。お金は大事だよ、お金は!
ベリアルにでもたかれば貸してくれそうなのにっ。
まぁ、そんなこんなで野宿でした。
六日目(八月十七日)
夜中に目が覚めた。寝床の周りに魔術の細い糸を張り巡らせていたら、見事、誰かがひっかかった。これまた悪そうなあんちゃんらだったので、適当に気絶させてお金もちょっと、ちょっとね、いただきました。奪ったんじゃないからね、これは賠償金。
で、寝床を変えてまた就寝後、魔法の杖を帽子に変えて目深にかぶり、変装の服とグラサンを購入。服はともかく、グラサンが高かった。宿に一日宿泊できる価格。
あとは隣町に移動するので全てだった。この日も野宿だ。
七日目(八月十八日)
町のじいちゃんばあちゃんに聞き込みをしたら、ギルドとか便利な組織があったので入る事にした。
ここで地道に鍛えてきた魔術コントロール力が役立った。戦闘のハンター試験で対戦中、水を氷に変えて四方から挟み込んだ兄さんは身動きとれず、降参。
問答無用で合格。
後で聞いた話では、なんでも戦闘で勝っても対戦相手を大怪我させてしまったり、殺してしまった人は合格できないのだそうだ。降参させるのは一番良い結果らしい。
よかったよかった。
この日は、合格祝いの支援金で宿に宿泊。
久しぶりにまともな生活が出来た。
宿泊とは別の、追加料金で入れるお風呂は格別で、生き返ったようだった。
しあわせを感じた。
この日、本屋さんで白紙の手帳を購入。
日記を書き始める。




