番外編6「ベリアルの日記 2」
日記
著 ベリアル・セイレン
春の節 五十五日
女神の企みは、命知らずな暴挙だった。
私だけでなく騎士と、馬まで土の魔術で動きを封じた。馬にいたっては、周囲に土の壁を作って誰も馬に触れることもできなくなった。万に一つも彼女が盗賊に負ければ、術は停止したまましばらく残るから、馬は餓死し、自分達は殺されただろう。
結果は勝利だったのだから、良いじゃないか気にするな、と女神は笑って言うが、少しは身の安全を考えて欲しいものだ。護衛としては気が気でない。
それから「護衛」という仕事を奪わないで欲しい。
女神は盗賊に連行されていた女性から、銀の鈴を三つほど貰っていた。
救ってくれた礼と言うが、女神が人から進呈されたものを受け取ったのは初めての事だ。無償で得るのが苦手と見えるが、確証は無いのでここに記すのみとする。
辿り着いた崖には、やはり何も無かった。ぽつりと寂しげな石碑が風に当たっているだけだ。それなのに女神は土の壁を作って人目をふさぎ、丸半日も中に居た。
考古学に興味があるのだろうか。
半日もその中に居て、出てきた女神はとても充実した顔をしていた。
願っていた収穫があったのだろう。
帰り道は安全な道を行く事を許可してくださった。
結局、騎士たちも私も、武技を披露する事無く城に着いた。
女神はレオン坊の元へ行き、後から訪ねると、もぬけの殻だった。
ジェームズ閣下の小言を聞く羽目になった。
閣下のところから出てきたとき、フリアが再び待ち構えていたが、いつになく楽しげな顔で「良かったわね」と言われたが、皆目何が良かったのか見当が付かない。ともかくも、明日は再び女神の動向を探るよう、閣下に申し付けられた。
近頃、血塗れる仕事をしていない。
終了




