突然ですが番外編だよ1「遠い過去にいた男の最後」
あるべきものが無い、そんな感覚だ。
死というものをこんなにも早く感じるとは
長生きが夢だと言っていた頃の俺は、欠片も思っていなかったろう。
せめてこの謎を解いてからなら、死のうと腐ろうとかまわないというのに。
『あなた、まだ逝かないでくださいよ。
私を置いていかないでくださいよ・・・・・・あなた・・・』
神、と名付けられた特異な存在たちは、どうしてここからいなくなったのか。
迫害があったのか、それとも力の足りない我々を見限ったのか、
いったい何がこの世から大いなる力を失わせたのだ。
神族・・・・・彼らはいったい今どこにいるのだ。
『お父さん。目を開けてよ。お父さんっ』
『お義父さん・・・・・・・・・・・・・まだ56なのに、こんな・・・』
彼らが暮らしていたと推測される場所には、どういうわけか石碑しか残っていなかった。
石碑に書かれている言葉は、そのどれもが抽象的で何が言いたいのか分かりやしない。
唯一わかり易いものといえば、
ここで始まりここで終わる、美しき都よ永遠なれ
これくらいか。
それでも、まだまだ何が言いたいのかわかりやしない。
まるでこの場に都があるような言葉だが、この石碑を見つけた場所は
アルザート国内の、深い意外に取柄のない森の中だ。
おそらくは、永遠に保ち続けることのできなかった都をしのんでの記念碑だろう。
だが各地の石碑を記録して回っていると、深い意味のありそうな共通の言葉が見つかった。
戦争・崩壊・創世・神族
と、この言葉だけで想像するなら、戦の後に神族が生まれた。とも
戦を神族が終わらせた。とも考えられる。
何にしろ、神族とやらについて調べる必要がありそうだ。
『オヤジ!聞こえてるんなら返事くらいしろよっまだ生きてんだろう!?』
まだまだ分からないことは山積みだが、見つけたこれらの言葉は
過去の歴史に繋がる重要なものだといえまいか。
まだ死ぬわけにはいかないんだ。まだ俺にはやりたいことがある。
やり終えていないことがある。
だが・・・もう俺の体が限界だということは、俺だって理解しているつもりだ。
体に与える影響に気づいていながら、それでも知りたかった歴史は
結局知ることもできずに俺は死ぬのか。
今更ながら、陛下の助力の申し出を、意地を張らずに受け入れていればよかった
なんて思っちまう。
ハハ・・・死が近づくと昔の記憶が蘇るというが
俺の頭には、今も昔も歴史調査しかなかったのか。
それだけでも満足、かも知れんな。
孫の顔も見れた。思い残すことは、まだ山ほどあるが
俺なりに楽しんだ、充実した人生だったと思う。
『ヴィダーク、また何か考えているのか?』
この、声は
「へい、か・・・・・?」
陛下まで来ているのか?・・・・
『ああその通りだ。なんだ、やはりまだ生きているではないか。
奥方くらいには別れの挨拶を告げたらどうだ』
まったく陛下は、いつもながら思考の邪魔をするのがお上手だ。
「おれの・・・・・・」
話をするのも苦労する。
普段、喉をろくに使っていなかったせいか?
「おれの嫁は・・・・・・ことばなど、使わなくとも・・・・わかってくれる」
『それは羨ましいことだな。だが長年ずっと添い遂げてきた旦那には
最後の別れくらい言われたいものだろう?どうだ、ルヴィ殿』
『あなた・・・・・』
ったく、仕方ねぇ
「・・・苦労を、かけたな・・・・・」
『それだけなのか?冷たい旦那なのだな』
相っ変わらず、腹のたつお方だなぁ!
ふんっ、言えば良いんだろう。言えば。
「・・・・・・・・・ルヴィ、かんしゃ・・・している」
『あ、あなた・・・重度のものぐさなのに・・・・・・・あぁ』
ものぐさって言うなと、何度言えばわかるんだ。
俺はものぐさなんかじゃねぇ。
『くく、また俺は腹を立たせてしまったかな。ヴィダーク、顔が渋いぞ』
含み笑う陛下の声は、いつもの如く腹が立った。
なぜ友として、長々と付き合ってこられたのか不思議なものだ。
腐れ縁というやつか。
「ふん、あなたは、相も変わらず・・邪魔ばかりなさる」
はん、何が皇帝だ。
いつも俺に恥ずかしいことをさせる奴は、邪魔って言葉がお似合いだ。
『邪魔か、それは悪い奴だ。後で私が捕らえておこう』
「あなただと、言って、るん・・・・・だ・・・」
ああ、眠い・・・・
『ヴィダーク?』
ああ、眠い・・・・ねむい
『お父さん?』
ああ・・・俺も、ついに臨終か。
歴史の真相は、後の世代の奴らが暴くのを待つことにしよう。
手がかりは、あの言葉だ。
他は自分達で探せ。俺の苦労を身をもって知ることだな!
はんっ、俺はひねくれているものでなぁ。
『お義父さん・・・』
ああ、もう耳が遠くなってきた。
『おやじ・・・・・』
音が遠い。
『あなた・・・・・』
ルヴィ、ルヴィの声だ。
遠くにだが、それでもはっきり、聞こえている。
『・・・っありがとう』
馬鹿者が、そんなことを言われたら、残して逝けなくなるだろう。
ルヴィ、本当に、本当に感謝しているんだ。お前と共にあれた事を幸せに思う。
「ル、ヴィ・・・・・」
愛しているなんて、口が裂けても言えねぇよ。
ヴィダークが死去し、幾年月が流れる。
彼を見送った者達もその子孫を残し後を追っていったさらに後の時代。
人が一人迷い込み、歴史は大きな節目を迎えようとしていた。




