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乱の1 ヒーロー希望

「さて、どうすっかな」

闇がはびこる夜の中、灰色の髪は淡く存在を誇示している。

闇に紛れそうに濃い灰色は、けれど決して消えずに淡くある。

「反乱軍のアジトなんか見つかんねぇしー」

人の多い大通りを避け、灰色の男は薄暗い路地裏を歩いていた。

群青色の服は闇に紛れ、服から出た体だけが淡く闇中に見えている。

(こうゆうところにいる浮浪者にでも聞けば、分かると思ったんだけどなぁ)

男は溜め息をついた。

(誰もいねぇし)

闇に利く目は、気だるそうに細められている。

「あ~あ」と言いながら歩く路地裏には、ごみがちらほらと散乱していて

八つ当たりのようにその一つを蹴飛ばした。

「はっはっはっはー!!!!」

「うおっ、ごみが喋った」

「そこのキミ!!!!困っているようだね」

どうやら声は上の方から聞こえてきているようだ。

声に引かれて見上げてみると、赤マントを羽織り青一色の服を着たいかにも怪しい男が

屋根の上に立っている。

「・・・・・はっ!まさか俺、気づかないうちにアブナイ薬でもやっちゃったのか。

 くっそう健全な生活してきたはずなのにな、こんな幻覚見たくねぇ

どうせ見るなら綺麗な姉ちゃんが良いぜ、って言っても変わらねぇし。アレは何なんだよ」

あああと呻きながら、頭を抱えて一歩下がる。

狭い路地裏の道は、一歩足を引いただけで背中に壁が当たった。

「よっこらせ・・・」

屋根の上から男が降りてくる。

屋根から垂らした縄を伝って降りてくる姿は惨めだ。

灰色の男は声も無く呆れて見守った。

「はっはっはっはっ驚いているね!」

降り立った怪しい男は中年と呼べる年頃のおじさんで、灰色の男は更に言葉を失った。

「そう!私こそ今その名を町中に轟かせる正義のヒーロー!その名も!!!!」

「じゃあなおっさん」

ひらひらと手を振って先を急ぐ。

「あ!こら、待ちたまえ!!!!私は正義のヒーロージャ・・」

「俺忙しいからさ、あっちでやっててよ」

背を向けたままで歩いていく。

髪と同じ灰色の瞳は、先と変わらず気だるげだ。

「んなっ。こら、最後まで聞いていきなさ・・」

「俺は何も見てない見てない見てない」

「待ちたまえ!困っているのだろう。この正義のヒーロージャック様が

特別に相談に乗ってあげようじゃあないか」

自称ヒーローは灰色の男の後に続いて歩く。

だが話しかけても灰色の彼は振り返らず、ジャックの足音を誤魔化すように喋っている。

「あ~はやく帰らなきゃ。旦那と息子がお腹をすかせて待ってるわぁー」

そう言って歩く早さを徐々に上げていくと

背後から聞こえる足音も徐々に早くなっていった。

(なんなんだよ。あのおっさん)

後ろから聞こえる足音を無視して、どんどん早足で進む。

足には自信があるのだが、背後の足音は聞こえ続けていた。

「しつけぇよっ」

追いかけっこの始まりだ。

怪しい男の目的もわからないまま、灰色の彼は走る。

数分後には完全に全力疾走の状態だった。

道に転がるごみを気にしてなどいられずに、踏み潰して走っていく。

「はぁはぁ・・・き、君ぃ。は、話を・・・しよう、じゃ、ないか」

置いていかれるのが寂しいヒーローが叫んでいる。

大分声は遠くなっていた。

「反乱軍の、アジトを、探して、いるの、だろう。私は知っ、ている、ぞぉ~~~!!!!」

ピタリと灰色の男は動きを止めた。

息も絶え絶えに彼が振り向くと、遠く後ろの方で赤いマントがちらついている。

だいぶ引き離していたようである。

「はぁはぁはぁ・・・・ホントに?」

近づいてきた男に訊ねると、

うな垂れながら歩くジャックは何とか答えた。

「はぁはぁはぁはぁ・・・も、もちろんだとも」

「・・・何で、知ってんの。反乱軍の人?」

「はぁはぁ、そう、とも!!私こそは、反乱軍が一人!!!!正義のヒーロ――」

「それはいいから」

灰色の彼はひらひらと手を振る。

「ふぅ・・・で、おっさんが連れてってくれるんだな。助かった~

 だったら早くそう言えばいいのに」

「最終手段はとっておくものだ」

胸を張って大いばりだ。

「でもさ、いいのか?」

若い彼は早くも呼吸が落ち着いている。

「こんな夜中に大声でそんなこと言っちゃって、騒ぎになっちゃうんじゃねぇか」

「はっはっはっ・・・はぁはぁ、心配御無用さ」

ヒーロージャックは、すうと深く深呼吸した。

「このあたりに住む者は皆、国の圧制で行き場を無くした者たちなのだ

国にちくったりするような真似はしないさ!!!」

さらに胸を張って言い募る。

「なによりこの私の人望があるからな!心配には及ばんよ!!!はっはっはっ」

灰色の男は不安を感じたが、言葉にはしないで話を続ける。

「で、どこ?」

ジャックの顔が真面目な表情を作る。

つられて灰色の彼も表情を引き締めた。

「・・・教えない」

「・・・・・・・・・」

キンと剣が抜けた音がする。

「殺す」

灰色の目は据わっている。

「ギャーー待ちたまえ、落ち着いて話せば分かる!!!」

「わかんねぇよ」

本気の目だ。

近頃の若いモンは気が短くて困る、とジャックが考えていると

スラリと動いた剣が目の前に向けて一閃する。

「ひぃ」

恐怖で目を閉じたジャックの体は畏縮して、

灰色の男がにかりと笑った。

「本気にすんなよなぁ」

のんきな声がしてジャックは目を開ける。

切っ先は顔の横で寸止めされていて、ジャックの精神以外は何も斬っていない。

「ただの脅しだって!そんな簡単に斬ったりしないよ。

 もぉ、怖がりなんだからぁ」

はっはと笑って言うけれど、さっきの目は本気にしか見えなくて

ジャックはしばし呆然とする。

「そんな脅えんなって、正義のヒーローなんだろ?」

ヒーローはピクリと反応した。

「そ、そそそ、そうとも私はヒーロー!正義の味方だ!!!!

 この、この程度で脅えなどしない」

声が弱弱しい。

灰色の男は長身ゆえの高い位置から、ジャックの頭を見下ろして。

また真面目な顔をした。

「で、どこ」

「・・・・・・・」

ヒーローの茶色い目が泳いだ。

「・・教えない」

キンという金属音が耳に響いた。

「あわわわわわそれをしまって下さい、これにはふかーい訳がぁー」

今度は目の据わった彼からヒーローが逃げる番だった。

ヒーローは近くのポリバケツの裏に隠れて訴える。

「身元も正体も分からない人に教えるわけにはいかないんです。ハイ」

ならどうして自分から教えてやるかのように現れたのか、

不思議ではあったけれど灰色の男は答えを返す。

「俺はグレン。グレン・セティル、平民だ」

この国アルザートにも他国と同様、国民は貴族と平民にわかれている。

治世のままならない現状では、貴族とそして庇護されている兵士は他の平民から毛嫌いされていた。

貴族だ兵士だと名乗れば、それこそ反乱軍のアジトなど教えてはもらえない。

「ではグレン君、どうして反乱軍を探していたのかね」

と言うヒーローはすっかり立ち直って、グレンを見極めようとしていた。

グレンはにかりと笑う、野心のある目だった。

「この国を乗っ取るためだ」


黒い闇の中の灰色は、光のように見えていた。

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