【四人用】赤軍編・第二話⇒濁った思い、吐露せし。前半部分【台本 本編】
※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。
録画を残す際も同様にお願いします。
三津学シリーズ 赤の台本 ニ本目です。
【劇タイトル】赤軍編・第二話⇒濁った思い、吐露せし。
(もしくは、赤の2話/前半。または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)
【作者】瀧月 狩織
【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください
赤軍編 第二話⇨濁った思い、吐露せし。 前半部分
前半部分のみ場合/上演時間(目安)⇨30分~40分
比率:男声3:女声0:不問1の四人用 台本
※登場キャラの紹介、あらすじ などは前ページの『登場キャラなど(赤軍編 第二話より)』をご覧ください。
こちらは、前半部分となります。
波月 正也が大暴露する話。後半部分/三人用台本もありますので、合わせて楽しんで頂ければ幸いです。
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M や N がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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☆本編
▼二〇七九年の十月。
ジリジリと肌を焼くような季節は過ぎ去り。
すっかり秋雨前線で空が厚い雲で覆われるような時季。
赤軍校舎の中を走り回る白衣姿の男子学徒が一人居た。
(間)
〜タイトルコール〜
正也「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。
……赤軍編 第二話。
『濁った思い、吐露せし』」
(間)
遊羽「アーキートォォォォ!」
▼廊下を駆け、身軽に階段を段飛ばしで上がる。
身動きをするたびに白衣がバサッ…と広がった。
彼の姿を見かけた学徒は『またかよ。』『相変わらずね。』と口々に日常の一幕だと片づけた。
遊羽「暁冬!ここかっ!!(バァン!と屋上に入る。)」
冴木「…………。(スゥスゥ…と眠っている。)」
遊羽「(溜め息)…やっぱりかよ。
まったくよ、もう日向ぼっこする季節でも天気でもないだろ…。
しかも指定パーカーだし、どこから大きなバスタオルを持って来たんだか……」
(間)
遊羽「うっし、やるか。…おーい、暁冬ー。起きろよー。(暁冬の身体を揺すりながら)」
冴木「んー…。あと、すこし…。(寝返りを打ち、反対側に転がる)」
遊羽「そうだな。オマエが始末書明けで、ねみぃのは分かる。
ちなみに俺も二徹でねみぃ。……だが、起きろ。(ズクシュ!とこめかみを人差し指で突き刺す)」
冴木「!?いったぁっ!!(飛び起きる)」
遊羽「よし、起きたな」
冴木「は、波月くんっ!もうちょっと優しく起こしてくださいよ!!」
遊羽「オマエ、優しくしたとこでちゃんと目覚めないだろ?
いっそ、夏みたいにバケツで水をかけてやろうか。(ニヤリと笑う)」
冴木「い、や、で、す」
遊羽「そんな頭振ると血昇るぞ?…まあ、冗談だ。俺だって、こんな寒い日にやりたかねぇよ」
冴木「(溜め息)…そんなこと言って、波月くんは本当にやりそうで困ります……」
遊羽「お望みならやってやろうか?掃除用のバケツならあるぞ」
冴木「遠慮します。(立ち上がる)よいしょっ…と。
それで?僕を叩き起こしに来たってことは何か用があるんでしょ。緊急の呼び出しですか?
でも、放送なかった気がするんですけど……」
遊羽「呼び出しっちゃ、呼び出しだがな」
冴木「ん?なんですか。その含んだ言い方」
遊羽「オマエ、忘れてんのか?
今日は上層生なら受けなきゃいけない定期検診の日だろうが」
冴木「あ~…そういえば、そうでしたね。んー、あまり見られたくないんですよね」
▼冴木は徐ろに自分の右の脇腹を服越しに押さえた。
その素振りを見て、遊羽は冴木の頭をポンポンと軽く撫でる。
冴木「んん?なんですか」
遊羽「安心しろ。オマエは特別に俺の寮部屋で診察だよ」
冴木「え?それって、キミが僕の担当するってことですか??」
遊羽「そうしてやりたいのは山々だが、俺には資格がないから無理だ。……まあ、行けば分かる。会うのも久しぶりだろ」
冴木M《会う?いったい、誰のことを言ってるんだろ……》
遊羽「よし、バスタオル回収。これ、どこのだ?
…げっ、一班の備品庫のじゃねーか。余計なところから取ってくんなよ」
冴木「(小声)うーん、会うかぁ……誰なんだろ……」
遊羽「話、聞いてねぇし…。おい、暁冬。行くぞ」
冴木「うぅん、思い当たらないです……」
遊羽「(溜め息)おら、行くって言ってんだろ」
冴木「え、あっ、とっと…。もう、波月くん!」
遊羽「さっさと、歩き出さないオマエが悪い。反省も兼ねて、手ぇ繋がれとけ。……小さい頃みたいだろ?」
冴木「もぅ」
冴木M《…耳真っ赤。恥ずかしいのは波月くんでしょうに……》
(間)
▼六角形の外観が特徴的な共同使用棟のはす向かいに。
この五階建ての建物──学園寮は存在する。
西洋風な洒落た大きな両扉を押し開いて、目の前に広がるのは三方向に別れた大階段と、清潔感が溢れるフロアロビーだ。
受付嬢『おかえりなさいませ。』
遊羽「おう。レディ、いつもご苦労さん。
……にしても何度見ても、生きてるみてぇだよな」
冴木「本当に。僕もレディさんがバーチャルなんて信じられません」
遊羽「こういう技術力は開発班に頭下がるよな」
冴木「そうですね。でも、そんな功績も棒に振るくらいには爆発とか、ボヤ騒ぎが多いですけどね……」
遊羽「それは言ってやるな。そのせいで、開発費を削られるんだとさ。……可哀想にな」
冴木「あはは……(苦笑)」
受付嬢『(ピッ…と電子音)寮入室者。…在校生であることを確認。赤軍、冴木暁冬。同じく波月遊羽』
冴木「はい。ただいま、レディさん」
遊羽「レディ。要件済んだら、また出っから」
受付嬢『(ピピッ…と電子音)再入室手続き完了。本日の職務リストを一部修正しました。』
冴木「さすが、お仕事が早い。ありがとうございます」
遊羽「おう、さんきゅ」
▼バーチャル相手にもお礼は忘れない二人。スッ…と受付嬢のレディが音なく姿を消すと、二人は再び歩き出す。
三本あるうちの真ん中の赤色のカーペットが敷かれた大階段登る。階段を登った先もホールになっていて、二階より上の部屋に向かう専用のエレベーターが備えられている。
二人は、手慣れた様子で乗った。
冴木「えっと、五階…でしたね」
遊羽「他の階に降りても部屋ねぇぞ。まあ、三階だったら浅緋たちの部屋あるけどな」
冴木「なんか、慣れなくて…。」
遊羽「オマエ。もう一年経つだろ。」
冴木「なんか、ダメなんですよねぇ…。にしても、なんで窓がガラス張りなんでしょうか」
遊羽「知らねぇ。上の趣味は理解できねぇよ。(欠伸)」
冴木「こういうデザインは各寮で戦闘禁止になっているから使えるんですよね」
遊羽「そうだな。じゃなかったら今頃、ハチの巣だな」
冴木「物騒な話ですけど、そうなりますよね……」
遊羽「寮に居んのに気が休まんねーよな。……マジで、ねみぃ…」
冴木「ふふっ、晴れた日とかは徹夜中の波月くんにはキツイのでは?」
遊羽「あぁ、それな。すっげぇ、目にしみるんだよ」
冴木「吸血鬼体験ですね」
遊羽「したくないけど、仕方ねぇよな。(目を細める)
……天気も微妙だってんのに、よく外で稽古できるよな」
冴木「波月くんは救護班ですからね。あまり、稽古なんてしませんもんね」
遊羽「道場での稽古ならいつでも相手してやるぜ?」
冴木「六月のときみたいになるので、遠慮します……!
……にしても、終業前なのに寮に戻って来るって変な感じですね」
遊羽「そうだな。通常通りならやること済ましてから戻ってくるしな」
冴木「(小声で)まあ…、波月くんはあんまり戻らないでしょうけど」
遊羽「聞こえてんぞ、暁冬。……俺だって、部屋で寝れんなら寝てぇよ……(欠伸)」
冴木「波月くん、班長になってからますます忙しそうですね」
遊羽「そりゃあな。一班や二班で終わらんかった仕事が回ってくるからな」
冴木「すっかり、シワ寄せ班ですね」
遊羽「面倒だが、作業が終わんなくて、ヒィーヒィー言ってる浅緋が面白くってな」
冴木「あんまり後輩をいじめないほうがいいですよ?」
遊羽「仕方ねーだろ。第三は俺と浅緋しか居ないんだ。
つーか、一班や二班のあいつらには、会議のたびに文句言ってんのに聞きやしねぇ。……お、着いたな。降りるぞ。」
冴木「うーん。相変わらず広くて、居慣れないフロアですね」
遊羽「まあな。上層生は言わば、各部隊の代表なわけだ。優遇だってされる」
冴木「まあ、その分。予算とか結構カツカツですよね…。」
遊羽「それ、教官の前で言うなよ。また反省文と始末書で缶詰めになるぞ」
冴木「うっ、気を付けます……。それで、誰が待っているんですか?」
遊羽「ん?まあ、会えばわかる」
冴木「波月くんったら、さっきから誤魔化してばっかり……」
遊羽「うんな不服そうな顔すんなよ。俺が怒られるだろ?」
冴木「波月くんを叱る人なんて、よっぽどなんですね」
遊羽「あー、まあな。《こいつ。ガチでわかってねーな》」
遊羽「おい、着いたぞ」
冴木「うわっと……波月くん、突然止まらないでくださいよ」
遊羽「どこまで行く気だよ。俺の部屋だって言ったろうが。
(三回ノックする)……波月遊羽です。入ります」
冴木「わざわざ、ノックするんですか?」
遊羽「人待たせてるって、言っただろ」
冴木M《敬語の波月くんって聞き慣れませんね。いったい、誰が待っているんでしょうか……》
遊羽「何してんだ暁冬。入れよ」
冴木「あ、はい。し、失礼しまーす……」
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正也「アッ、キッ、トッ!!」
冴木「えっ?!でばぶっ!!」
遊羽「(舌打ち)…あぶねーな……」
▼冴木に覆いかぶさったのは、栗色のさらふわな頭髪で、遊羽に酷似した瞳の男性だった。
正也「久しぶりだね!最愛の弟子よ!!」
冴木「あいたたた…。(目を細めながら)お元気そうですね、正也医師……」
▼飛びついてきたのはニッコニコと笑う男性──(遊羽の)伯父の波月正也。
雰囲気は、とても愛想を良くして、年齢を重ねた遊羽か?といった感じの顔つきをしている。それもそのはず、正也と遊羽の父親が一卵性の双子ということもあり、似ているのだ。
遊羽「あのなぁ、伯父さん。診察しに来た奴が、押し倒したりして怪我させんな」
正也「なんだよ~、港まで迎えに来てくれた時に、遊羽は避けたじゃんか~」
遊羽「アンタの愛情は重いからいらない。……つーか、早くしろって。俺も暁冬も忙しいんだよ」
正也「ちぇ~…、ホントつれない甥っ子くんだよー。
(立ち上がる)……素直じゃないな~。ほら!素直におなりよ!」
遊羽「きっも。ムリ無理、伯父さん相手にベタベタするなんて重症の死にかけでも無理だね」
正也「遊羽ぁ。その言いよう、いくら何でも傷つくなぁ……」
遊羽「マジに捉えんなよ。そういうとこ、アホだよな」
冴木「ふふっ、いやー。お二人の会話は漫才みたいですね。本当に仲が良くて聞いてて楽しいです」
遊羽「漫才なんてしてねーよ」
冴木「そうですか?僕からしたら、すごく楽しいですよ。……よいせっ、と。(立ち上がる)」
正也「いや~、ごめんね暁冬。つい、勢い余ってね」
冴木「いえ、大丈夫です。気にしないでください」
正也「ん?おぉ!暁冬、また身長が伸びたね!私とそんなに変わらないじゃないか~」
冴木「そ、そうですかね?」
正也「うんうん!去年や今年の夏休暇とかにも会えなかったし、嬉しい限りだな~」
冴木「僕も、久しぶりに医師とお会いできて嬉しいです(緩く笑う)」
正也「嬉しいね〜、来たかいがあったよ!ああ、そうだ。また、きみの居合している姿を見せてほしいな」
冴木「あー、はい。最近、やっていないのでお粗末なものになってしまいますが……」
正也「それでもイイんだよ~。私はきみの剣さばきが好きなのだから!」
冴木「ふふっ、医師ったら……」
遊羽「……なあ、はよしろって言ってるよな」
正也「なんだい?私と暁冬が仲良くしてるからヤキモチかいー?」
遊羽「なわけ!ふざけたこと言い続けんなら、ぶっ刺すぞ!」
冴木「波月くん、いくら何でも物騒すぎますよ……」
正也「そうだ、そうだー。暁冬の言う通りだぞー!」
遊羽「あ゛ぁ?(にらみつけ)」
正也「……さて、ふざけるのはこの辺にして。手早く済ませちゃおうね」
冴木「はい。お願いします」
▼成り行きでベッドへと腰掛ける冴木。
遊羽は部屋の隅で、腕を組んで見守る体勢にはいった。
鼻歌交じりに床に置いてある革製のカバンから白衣を取り出した正也。手慣れた様子でバサッ…と袖を通し、襟を整えれば彼の纏うオーラが変わる。
正也「さて。今回、診るべきことは…ふむふむ。心拍確認、尿の採取、問診の三つだね」
冴木M《口調はいつも通りなのに……なんか違う……》
遊羽M《やっぱ、伯父さんはコッチの方があってる》
▼思い思いのことを胸に芽生えさせる二人。バインダーに挟まれている紙を捲りながらやるべき事を確認している正也。
彼の本業は 医療人 だ。
四十路すぎた男性だとは思えない軽い性格をしているが、実のところ『陸海 共同 前線医療軍/外科医 波月大佐』という誰が聞いても、頭を下げるレベルの位持ちだった。それも過去の話だが。
正也「お待たせー。じゃあ、始めよう。
まず、心臓の音を聞いていこっか。上着、脱いじゃおう。」
冴木「あ、はい。………脱げました。」
正也「うん。はい、まず胸の音からねー。
……そのまま、深呼吸してみよう。じゃあ、背中からも聴いてみようか。……うん、大丈夫そうだ。ありがと」
冴木「いえ」
冴木M《正也医師は、この音を聞いたんですよね…。ちょっと、緊張で脈速いかも……》
正也「アーキトっ、どうしたの。通常より速いね。……久しぶりで緊張したかい?」
冴木「え、あ、はい……。前まで、当たり前にしてもらっていたことなのに。期間があいてしまうとダメですね(頬掻く)」
正也「そっかそっか。……まあ、実を言うと私も手汗がヤバいんだ。(軽く告げる)」
冴木「えっ……、そんな風には見えませんでした」
正也「そりゃあ、仕事柄ね。医者が焦ってちゃ、相手にも移してしまうからね。それじゃあ、正しい判断はできない。
(真剣な声音で)……いつなんどきも、冷静な判断を。実戦でも、前線でも同じ事だよ」
冴木「…そうですね……(キュッ…とズボンを握る)」
正也「おっと、ごめんよ。私の悪い癖だね。
あまり深く考えないでね。暁冬は十二分に頑張っているのだから」
冴木「正也医師……(見つめる)」
正也「あ、そういえば。資料に二ヶ月前の骨折の回復状況を確認せよ。って書いてあるんだけど。暁冬、いつやったの」
冴木「あ、そ、それは……」
遊羽「伯父さん。こいつの悪い癖、どうにかしてくれよ」
正也「ん?どうにかって、どういうことだい?」
遊羽「(長い溜め息)…こいつ、目ェ付けられててよ。夏過ぎからやたらめったら巻き込まれてんだわ」
▼冴木は苦笑して、頬をかいた。
遊羽の愚痴の混じった告げ口に真剣な表情で相槌を打つ正也。
正也「それは同じ軍の人にってことかい?……特隊生の暁冬を狙うなんて相当だね」
遊羽「確かに同軍からもとやかく言われってけど、骨折の原因は白の奴でさ。こいつ、武器持ち歩かないだよ」
正也「ほう。白にも好戦的な子がいたもんだ。……暁冬、それは頷けない話だね」
冴木「うぐっ…つい、置き忘れたままにしちゃいまして……」
遊羽「(溜め息)……あの日は俺も交戦中でさ。
庇うに庇えきれなかったし。あの野郎、容赦なしにメイスでひと叩き。ヤッケンの新薬のお陰で、回復促進ができたのが幸いだと思ってる」
正也「薬で身体能力を向上させたり……今やいろいろ出来るけど。私は若いキミたちにはあまり使って欲しくないね。」
遊羽「状況が、状況だったんだよ。
半年間かけて、成績にひびくくらいならちょっと無茶な治し方のほうがいいと思う。……俺の考えだけど」
▼──ヤッケンとは、薬品治療研究部という部長からして変わりものなので、触れぬが仏と言わしめる部門である。
普段、多くを語らない分。理解してくれる相手ならばペラペラと口を開く遊羽であった。
正也「なるほどね。……よし、暁冬。どっちの腕かな?」
冴木「えっ、あっと……左です」
正也「ふむ…。一応、相手も気遣ってくれたのかな?…そんなわけないか。ただの攻撃し間違えってやつだよね。……触るよ。痛かったら、ちゃんと教えてね」
▼遊羽は言いたいことをぶっちゃけたので、口を閉ざした。
正也「……うーん。曲げてみて、違和感とかあるかな?」
冴木「いえ、特にはないです」
正也「本当かい?ちゃんと気がかりは言ってもらわなきゃいけないんだけどな」
冴木「あ、えっと…。こういう天気が良くない日は痛いときがあります……」
冴木M《うぐっ……。医師の眼差しってなんだか怖いんですよね。捕らえて、放さんとする…的な》
遊羽M《やっぱ、伯父さんも触診するときは指先でやるんだな。
まあ、一般的か。たしか、浅緋が第二関節でやってて叱ったことあったな。第二関節……いや、自分の肌でやってもこそばゆいだけだな》
正也「ふむ……。古傷が痛んだりするのは怪我人にはよくあることだし、特に処方薬もないんだよね。
ただ、前にも言ったけど痛みによっては冷やしたり、温めて対処する事だよ」
冴木「はい。この時も、再三。教えてくださいましたもんね。(脇腹をさする。)」
正也「そうだよ。あ、武器はちゃんと持ち歩くこと。
暁冬は何のために短刀と太刀の二種使いをしてるのかな?」
冴木「あ、はははっ……その話も善処します」
遊羽M《暁冬のやつ、伯父さんの言葉に弱いのは変わってねーな》
正也「うん。しっかりしなきゃだぞ。
(小さく笑う)…さて、問診は終わりー。あとは尿を採取して、密閉容器に入れて軍病院の研究部に送るだけだね~」
冴木「あ、医師。僕、来る前に用を足してしまったんですが……」
正也「え、本当かい?!えぇ、どうしようかなぁ!今から、お水とかをがぶ飲みして、出るのを待つとか……?いやぁ、そうすると帰りの船がなぁ……」
冴木「はい。尿検査があるなんて知らなくて…すみません……」
正也「そんなぁ……。もう、遊羽!きみ、救護班なんだから知ってたはずだろ!?」
遊羽「なんで、俺をやり玉にすんだよ。知ってたら、止めてたよ」
正也「あくまで、しらを切るんだね?」
遊羽「マジで、知らなかったんだよ」
正也「…はぁー…わかった。この場で預かって、帰ろうと思ったけど別口にしてもらおうかな」
冴木「医師。お手を煩わせて、すみません……」
正也「いいんだよ、暁冬。私もちゃんと告知していなかったしさ」
遊羽M《そもそも、暁冬に検診する相手が伯父さんだって教えなかったしな。まあ、教えてなかったって知れたら小言を受けっから言わねーけど》
▼この話題に対して、終始、謝り続けた冴木である。
──密閉容器は、遊羽が預かることなって寮の玄関先で別れることになる三人。
冴木「正也医師。今日はありがとうございました」
正也「いいえー。私も、最愛の弟子と甥っ子の顔が見れてよかったよ。
……二人とも。あまり無茶はしないこと。この学園を無事に卒業してもらうことが私の願いだ」
冴木「はい。善処します」
遊羽「言われなくても。伯父さんを卒業するころには抜いてやるよ」
正也「おやおや。とんでもない宣言だね。まあ、強い意思があるのは良いことだ。
……それじゃあ、二人とも。またね」
冴木「はい、また!」
遊羽「じゃあーな」
▼冴木と遊羽は赤軍の校舎へ。
正也はまっすぐ本土行きのフェリーが停まっている港へと向かった。
(間)
正也「おっと、風が強いねぇ…。でも、本土で感じる風より暖かい気がするな。ここが、離島だからかな。
三津ヶ谷……、巨大な鳥籠。この閉鎖的な環境下あっても、あの子たちの居場所……。
すっかり、逞しくなっていたね。成長は嬉しいことだが、複雑だなぁ」
▼正也は、ふっ…と細く微笑む。
このあと、立ち去ろうとする彼の背中に懐かしい声がかけられるとは、露にも思っていなかった。
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