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【自己解釈 学生戦争】三津ヶ谷学園物語。【声劇台本】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ メイン軸の台本
7/37

【五人用】黒軍編・第一話⇒出迎えの言葉。【台本 本編】


※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要に。録画を残す際も同様にお願いします。

一般の人が、わかるようにお載せください。



三津学シリーズ 黒の一本目

【劇タイトル】黒軍編・第一話⇨出迎えの言葉。

(もしくは、三津学 黒の一話 や 三津学 劇る などでもOK)

【台本】※小説家になろうのリンクを載せてください

【作者】タキツキ カオリ(瀧月 狩織)


この部分の更新日 2021年3月22日(月)


黒軍くろぐん編・第一話⇨出迎えの言葉。


比率:男声3:女声1:不問1の五人用 台本です。

※登場キャラの紹介などは、前ページ『登場キャラなど』をご覧ください。


────────────────


【演者サマ 各位】

・台本内に出てくる表記について

キャラ名の手前に M や N がでてきます。

Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。

Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。


・ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。

場合によっては、振り直していないこともあります。

(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)



それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ



─────────────

──────────

──────



☆本編


▼波が押し寄せてはひいていく。

海はとても穏やかだ。

船の乗り場である堤防には黒、赤、白。それぞれ所属している軍の指定服装に身を包んだ学徒が集まっていた。

空はカモメが飛んで、鳴き声を響かせる。


(間)


〜タイトルコール〜


補佐官「自己解釈(じこかいしゃく) 学生戦争(がくせいせんそう) 三津(みつ)(がや)学園物語」


狐男「黒軍(くろぐん)編・第一話やで〜」


語厘「『出迎えの言葉』……やっぱ、帰る場所があるってイイよな」



(間)



▼見た目からも知的なオーラをまとったスラリと長身な成人が整列している学徒たちの前に立つ。



教官A「選抜(せんばつ)(つなし)の皆さん、任務ご苦労様でした。本日より、一般課程へと戻っていただきます。

このあとは、学園の寮に直帰するなり自由に……」



▼知的な成人は白軍しろぐんの教官だが、今回は遠征任務の引率を担当していたようだ。うんたらかんたら、とよくある(ねぎら)いの言葉と遠征任務を振り返えっての話をする。

最初は、背筋をしっかりと伸ばしていた学徒たちだったが。

ジリジリと()す日光に、意識が()がれて徐々に()き始め、姿勢が崩れていく。

知的な成人がメガネを押し上げ、目敏(めざと)く指摘する。



教官A「……まったく。黒の学徒は()きるのが早いですね」


黒学徒A「はぁっ!?なんで、こっちなんだよ!!」


黒学徒B「そうよ!白や赤だって、だらけてるでしょ!」



▼長い話の途中で、教官が指摘した。

名指しで指摘された黒軍(くろぐん)の学徒の数名が不服の声をあげる。それに対抗するのが、白の学徒な訳だが。

赤の学徒に関しては他人行儀で無視を決め込んだ。

今にも、武器を構え、殴り合いそうな一触即発な状況になりかける。だが──



教官A「(軽く咳払い)お静かに。……そこ、武器をしまいなさい。まあ、長く話しても船での長旅。疲れもでます。

……全員、再び整列っ、ワダツミの(やしろ)に敬礼!」



▼凛とした声音(こわね)で号令すれば、身体に叩きこまれた癖でざわめいていた学徒が静かになり。

一斉に揃った敬礼の姿になった。

波の音に混じって、カメラのシャッター音がした。



教官A「……以上。今回の選抜(せんばつ)(つなし)、解散とします」



▼悪い方向に煽ったのは、この知的な成人こと教官だったが。自分の仕事が終われば、さっさと学徒たちの前から退散していってしまう。



(間)



▼各々(おのおの)、行動していく中。船の貨物から荷物を下おろす作業をしている黒軍くろぐんの男女が居た。



語厘「羽梨(はなし)ー、これオマエの」


羽梨「…うん、にぃ…ありがと……」


語厘「重いのは、にぃが持って行ってやるからな」


羽梨「うん…わかった…お願い……」



▼その男女は髪色や瞳の色は同じだが、似ても似つかない容姿は双子の兄妹(きょうだい)には見えない。協調性が強めなペアルックとも見てとれる。

そこに、とても目をひく白色のブレザーを着た白軍(しろぐん)の学徒が近づいた。



白学徒「退()いてくんない?」


語厘「あ?見てわかんないの。今、(おろ)してる途中なんだけど」


白学徒「ボクの手荷物の方が手前にあるんだ。さっさと退()けよ」


語厘「………。(ガン無視)」


白学徒「おい!無視すんな!」


語厘「羽梨(はなし)、これだけは自分で持っていけよ」


羽梨「うん。にぃ…ありがと……」


白学徒「(小声)……黒のやつは、どいつもこいつも……

退()けって言ってんだよ!!」


(羽梨のカバンを奪って、地面に投げつけた)


語厘「あ゛ぁ……?オマエ。何やってんの。何で、投げた?

──謝れよ。(スッと薄紫色の瞳が吊り上がる。)」


白学徒「なっ!あんたが退()けって言ってんのに、ゆずらないからだろうが!」


語厘「あー、そう。謝る気ないんだ。……だったら!」


白学徒「はぁっ!?あんた、なにして!!やめろっ!!」



▼謝れば、許していたのだろうか。

その真意は解りかねる。

双子の兄である瀬応(せのう)語厘(かたり)は、白の学徒の荷物であろうキャリーバックを持ち上げる。

そして、やられたら倍返しの精神で停泊している堤防の反対側へと投げ入れる暴挙(ぼうきょ)に出た。



白学徒「あ、あぁ………っ!(悲痛な表情で沈む荷物を見つめる。)」



語厘「ふぅー……まあまあ、すっきりした」


羽梨「にぃ…、なんで投げたの……?カワイソウ……」


語厘「なんだよ。別にいいだろ?」


羽梨「……やりすぎ、めっ…」


語厘「ははっ、ダメだったか?でもよ、カバンであってもオマエのだしな」


羽梨「…それでも、やり過ぎはダメ…。取ってきて、あげて……」


語厘「えー?結構、重かったんだけど。つーか、思ったより流されてらぁ」


羽梨「重かったの……?なのに、あそこまで、流されちゃうのはオカシイ……」


語厘「つまり?」


羽梨「なにか、海の生きものがイタズラしてるかも……」



白学徒「えっ?!そ、そんな……!困るよ……!」



語厘「えー、めんどくさーい」


羽梨「……後始末できない子は、悪い子なの……(ジィーと見つめる。)」


語厘「(頭を搔く)……おーけー。わかった、わかった、取ってくる。いや、奪い返してくるかな?」



▼妹からのダメ出しに渋々と応じることにした。

学ランを地面へ投げ、裸足になる。スラックスのすそを膝まで託し上げて、バンダナをきつく締め直す。



語厘「さぁて、行くか。……羽梨(はなし)さんの、(おお)せのままに!」


白学徒「……ボクの、ボクの荷物……」



▼戦意喪失、意気消沈。

白の学徒は呆然(ぼうぜん)と海面を見つめていた。

語厘(かたり)はそんな白の学徒の肩を軽く叩いてから、深呼吸して海へと飛び込んだ。

──ザバンっ!と水飛沫(みずしぶき)が上がる。

白の学徒は驚いて、目を大きく見開いた。



羽梨「…だいじょうぶ…?(しゃがみ込んで、伺い見る。)」


白学徒「あ、えっと、はい…。その、荷物、投げたりして。ごめんなさい…」


羽梨「…うん、だいじょうぶ。疲れたらイライラしちゃうよね……、きみの、荷物、にぃが取ってきてくれるから……」


白学徒「うん……」



▼三十秒くらい経っただろうか。

羽梨が頃合いを示すように右の人差し指と親指を唇に当て、ピィーー…と鳴らした。隣にいる白学徒でさへ、聞き逃しそうな(かす)かな指笛の音。



白学徒「い、今のは?」


羽梨「合図、なの……」



▼ポコッポコッ…呼吸の泡が上がりだす。

二人が居る──飛び込んだ場所より少し離れた場所に、ヌッ…と水をまとった腕が堤防のアスファルトを掴んだ。



語厘「……ブハァァァァ!」



▼盛大に息を吐きだす声が堤防周辺に響いた。

ずぶ濡れな語厘かたりは波の動きに身を任せて、浮く。羽梨が語厘の方へと駆け寄る。白の学徒も後を追う。



羽梨「にぃ…、あがれる…?」


語厘「おう。平気。……これだよな、オマエの荷物」



白学徒「あぁ…!はいっ!ありがとうございます…!」



語厘「いいよ、別に。俺もやり過ぎたし」



▼キャリーバックの手持ち部分を掴みながら、素潜りから戻ってきたようだ。

それにはワカメやら海藻がへばりついていた。ザバッ!と両腕でしっかり支えて、キャリーバックを白学徒へと渡す。



白学徒「ありがとうございました!」



▼白の学徒の威圧的な態度は完全になりを潜めた。

もし。この状況で、態度を変えないものは よっぽど揺らがない心の持ち主くらいだろう。

白の学徒は、ペコペコと頭を下げて、ずぶ濡れのキャリーバックを転がしながら二人の前から立ち去った。



語厘「よっこら、しょっ…!(海から上がる)……あーあー。髪のセット崩れちゃったわ……」


羽梨「…にぃ、子どものときみたい。かわいい、よ…」


語厘「何だそれ、嬉しくないわー。(思い出したように)……あ、謝ってもらってねぇや」


羽梨「ううん…。だいじょうぶ。…羽梨(はなし)に言ってくれたから……」


語厘「ああ、そう。オマエに言ったならいいや。見逃してやるかー」


羽梨「あの子…、たぶん泳げない……」


語厘「まあ、そうだろうな。泳げてたら自分から取りに行くだろし」


羽梨「にぃ、泳げてよかったね……」


語厘「そりゃ、死に物狂いで覚えたしな。…はぁー、このまま戻ろうかな……」


羽梨「…にぃ、拭くべき……」


語厘「えー、いいよ。こんなカンカン照りなら歩いてる間に乾くって」


羽梨「…それでも、ズボンは絞ったほうがいい……。とても、ビチャビチャ……寮の管理人さんに、怒られる……」


語厘「(わざとらしく)…はいはい。羽梨さんの(おお)せのままにー」



▼どちらが上でも下でも、この兄弟は問題なさそうだ。妹である羽梨(はなし)以外、人の目がないことを確認した上で語厘(かたり)が脱ぎだす。

羽梨は顔色を変えない。見慣れているせいもあってか、逆に語厘のさらされていく肌を見つめる。



語厘「あのー、羽梨さん」


羽梨「…なに…?」


語厘「観察は後にしない?いくら何でも、着替えしづらいわ」


羽梨「わかった…。目、つぶる……」


語厘「おう。そうしてて」



羽梨(はなし)がキュッと目を閉じる。そのことを確認してから語厘は下穿きに手をかけた。すると、学園の校舎に行ける通路(ゆるやかな長い坂)から笑い声が聞こえる。

語厘(かたり)はピタッと着替えの手を止めて、声のした方へと顔を向ける。羽梨も向く。



語厘M《ちょい待て、この声は……》


羽梨「…隊長さん…」



▼語厘の心の声に答えるように羽梨が言葉にした。

隊長さん。その呼びが示す相手は──



風神「うぉーい!瀬応(せのう)ー!!瀬応の兄妹~!!」


語厘「やっぱりか…!ホント、タイミングが悪い人だな!」


羽梨「…別の意味で…ナイスタイミングなの……」



▼ズカズカ、がに股で兄妹へと近づいてくるガッシリとした体格の学徒。彼こそ、語厘と羽梨が所属する東乱第一遊撃部隊(とうらんだいいちゆうげきぶたい)の隊長・風神(かぜかみ) (めい)であった。



(間)

──一方、場所 変わって──。



狐男「あー、ええなぁ。日射しもキツくないし、ちょうどええ風もある。うん、ここまで来たら、誰の目もあらへんな。よしよし、(伸び)……んーーー、はぁ……慣れへん船旅でエライ疲れたなー……一休みするかぁ……」



▼森林公園のどこかの木の傍ら。

地面にフード付きのパーカーを広げ、そこにゴロン…と寝転がる人物。

そよそよと穏やかな風が吹くなか、思いに耽ける。



狐男M

《……おんなし船の中に黒とか白とかあったようやけど、ワイはどこに入ることになるんかなぁ……

パッと見て服装が自由そうなのは赤やけど、船に乗る前に読んだ学園案内の資料からしたら、ワイは黒かもしれへんなぁ……黒かぁ……まあ、何とかなるやろ……》



狐男「(アクビ)……うぅん、眠くなってきた……」



▼狐のお面で、顔を覆い隠す。

深呼吸をひとつすれば、脱力し、そのままスヨスヨ……このうたた寝が、何とも言えない(えにし)となるとは。この時は、思っていなかった。



(間)



語厘(かたり)はうげぇ…と露骨に嫌そうな表情をする。駆けてきた風神(かぜかみ)が何かに、気づいたのか話し出す。



風神「お~!公開プレイか?上級者だな~!やはり、おまえ達は兄妹以上の関係だったか!」


語厘「(肩を落とす)なんで、そうなんだよ。ホント、あんた嫌い……」


風神「お?ナハハハッ!そう、嫌うな!年頃の男子というのはこういうものだろう!」


語厘「ちげぇよ。年頃つければ、許されると思うなよ」


羽梨「…隊長さん…。なんで、来たの……?」



▼二人の茶番を聞いても動じない羽梨はなし。少し突き離すような言葉を吐く。



風神「なんでって、そんなの。大切な後輩たちを迎えに来たのさ!」


語厘「別に要らねぇよ。はぁー…、どうせ明日からほぼ見る顔だってのに……」


風神「なんだ!なんだ!ツンデレというやつか~?ほれ、ほれ。(語厘の肩に腕を回す)」


語厘「そんなんじゃねぇ!てか、濡れるぞ」


風神「おお?なんで、ずぶ濡れなんだ?」


語厘「別に、なんでもいいだろ」


風神「ふむ、まあ、いろいろあるよな!すまんな!(離れる)」


羽梨「…にぃ。…お(やしろ)の陰、そこで着替えるべき……」


語厘「あー、うん。そうする」



語厘(かたり)は遠征で持ち歩いた中身の膨れたエナメルを肩に掛け、停泊している朱雀港(すざくこう)(まつ)られているワダツミの社へ向かう。

風神(かぜかみ)は、離れていく語厘(かたり)の後ろ姿を見つつ、感慨深(かんがいぶか)いと言わんばかりに言葉を漏らす。



風神「あいつ、泳げたのだな」


羽梨「…にぃ、だいたい何でもできる……やる気を出さないだけ……」


風神「ここ来る途中。わざわざ、白軍(しろぐん)の子が謝りに来たぞ。その子の荷物は濡れていた。……いったい、何があったのだ?」


羽梨「…あの子、悪くない……投げれ入れた にぃ が悪いの……おいたが過ぎた……」


風神「そうか。ちなに、投げられたカバンには何が入っているのだ?」


羽梨「…見る?(カバンを開ける)…これ、一式……」


風神「むっ!?おおっ、なんと!火薬に、色付きの液体がひぃ、ふぅ、みぃ……?うむむ!危険物じゃないか!」


羽梨「…危険物、だけど…。羽梨(はなし)の武器……」


風神「うむ、そうだったな。ちなに。この中で一番、危ないのはどれなのだ?」


羽梨「うんと…。これ、なの……」


風神「ほほう!意外だな。こういう、あからさまな見た目のではないのか!」


羽梨「うん、そうなの……。あと、こっちのは灯油……」


風神「なるほどな。たしかに、扱いを慎重にせねばならんな。下手したらドカーン!だろ?」


羽梨「うん……吹き飛んじゃう……」



▼とても、無気力な口調で言うことではない。

だが、このカバン。見た目によらず、最新鋭の技術で製造された一級品。さまざまな種類の耐久性に優れており。特に衝撃耐久に関しては、製造側が行った数々の実験を得たうえで中身に異常なし…という結果が出ている。なので、カバンは見た目以上の性能なのだ。

──そんなこんなで、話し込んでいる二人に影がかかった。



語厘「おい。こんなとこで、広げんなって」


羽梨「…にぃ、戻った……」


風神「おう。戻ったか」


語厘「(不機嫌そうに)……ほら、羽梨(はなし)。片せよ」


羽梨「今、片すよ……」


風神「語厘(かたり)。そう、冷たくするな。おれが頼んだのだ」


語厘「そうだとしても。どこで、誰が見てるか分かんない場所だろ」


羽梨「……片付けたよ」


語厘「そうかよ」


羽梨「……ねぇ、どうして、にぃ…怒ってるの……」


語厘「別に。怒ってない」



▼ふいっ…と視線を逸らして、海に視線を投げる語厘(かたり)。うっとうしい、と言わんばかりに頭を搔く。

羽梨(はなし)は目を見開いて下唇を噛み、顔を俯かせた。



羽梨「……怒ってる」


語厘「怒ってないって」


羽梨「…にぃ、怒ってるもん…!怒ってるから、羽梨(はなし)のこと見ないんでしょ…!(珍しく声を張る)《なんで?なんで、語厘(かたり)おこってるの…。語厘が怒るなんて……》」


語厘「ブチッ…と何かが切れる)

うんなこと言うな。怒ってないって言ってんだから!!信じろよ!!」


羽梨「ビクッ…)……っ…!…にぃのばかっ!!(手荷物を置き去りにして、走り出す)」


風神「あ、おい。羽梨ぃ!……いいのか?」


語厘「……ほっとく。今、追いかけても余計に泣かせるし」


風神「そうか。なら、ゆっくり追いかけるとするか」



風神(かぜかみ)は頷く、地面に放置されている荷物を持ち上げる。語厘(かたり)も自分のエナメルと学ランを肩に掛けた。

二人は、静かに歩き出す。二歩、三歩ときょりがあきだし、だんだんと後ろから鼻のすする音が微かに聞こえた。



風神M

《大人びて見えるが、まだまだ幼いな。まあ、喧嘩する程に仲がイイというしな……》



▼二人の上空をカモメが鳴きながら飛んだ。誰かの感情の代弁したかのように。



(間)



羽梨「(泣きながら)……にぃのばか…。怒りんぼう…、わからずや……」


▼グスグス…と涙を(こぼ)す。

島の中に存在する整地された区域とそうじゃない区域がある森林公園という名称の場所を歩いていた。しかも、あまり整備されていない区域──野外演習場を。



羽梨「……あ、わわっ!!(転ぶ)……う、うぅ……!」


狐男「ゴハッ……」



▼顔を俯かせて、歩いていた為。

つまずく。そのまま、前のめりに転んでドスッ!と何かに倒れ込んだ。うめく声のするものに。

羽梨(はなし)は慌てて、カラダを起こす。



羽梨「……!?!?《誰??誰か、寝てたの??どうしよう。誰なの??》」


狐男「いったぁ……、誰やねん。ワイの上に乗りよったお人は……」


羽梨「ひゅっ…)……お、おば、おばっ…!」


狐男「叔母ぁ?ワイは叔母さんやないで。なんや、セーラー服やん。お人、黒の子か〜」


羽梨「お、お、お、おばけぇぇぇぇ…!(涙声で絶叫)」


狐男「やかましっ……!ちょい、お人!静かにし!」


羽梨「むぐっ……(口を手で塞がれる)」



羽梨(はなし)が倒れ込んだ相手は、顔を狐のお面で覆った私服の男子だった。感傷から恐怖へと変わって、叫ぶ。その結果、驚いた鳥たちが一斉に飛び上がる。



狐男「もう叫ばんか?」


羽梨「(コクコク…と頷く)」


狐男「よし。(手を離す)……それで、お人。なんで、こけたんや。足元、見てへんかった?」


羽梨「…ごめんなさい……。にぃと喧嘩して、考えてたから……」


狐男「にぃ、ね?お兄やんと、喧嘩中なんか。

せやったら、しゃーないな。お人は女の子やさかい。……怪我、しとらんか」


羽梨「…だいじょうぶ、です…。あのっ……」


狐男「ん?なんや」


羽梨「…きみ、あまり聞いたことない声してる…。本当にお化けじゃない……?」



狐面(きつねめん)の男子は羽梨(はなし)の突飛な。それでいて、純粋な質問に吹き出して笑う。



狐男「ぶっ!…あははは……!なんや、それ!聞いたこと、あらへんくて……ハハハッ!傑作(けっさく)や!」


羽梨「そ、そんなに…笑うことなの……?」


狐男「いや、もう。アカン。(ひぃひぃと悲鳴にも似た引き笑いを繰り返す)」


羽梨「むぅ……。きみ、よくわかんない……」



▼笑い転げる狐面(きつねめん)の男子に苦言を示す羽梨(はなし)。スカートにシワができるくらいに掴んで、頬を膨らませた。



狐男「ゲホッゴホッ…)…あー、久方ぶりに笑ったで……。(笑いすぎて、声が掠れている)」


羽梨「…あの、きみこそ…。ケガ、してない……?」


狐男「ああ、平気やで。人が倒れてきたくらいじゃ、怪我なんてせーへんよ」


羽梨「…本当に…、お化けじゃ、ない…?」


狐男「なんや、お人。疑い深いな?せやったら、触れてみればエエやろ」


羽梨「いいの……?」


狐男「エエよ。ほら、好きなところ触って確かめてみ」



狐面(きつねめん)の男子は両腕を広げる。

まるで敵意がないことを示す様に。自分に触らせることで、生者であることを証明する気である。羽梨の小さな(てのひら)が、伸びてきた。



風神「おーい!羽梨ー!どこ行ったのだー!」



▼伸びていた(てのひら)(くう)をかいた。

声のした方向へ羽梨(はなし)の視線が向く。呼びかけてくる声の主は隊長の風神(かぜかみ)だ。



羽梨「…隊長さん、だ……」


狐男「残念。ここまでやな。

……ほな、さいなら。黒のお嬢はん。(傍らの木へと跳び上がる)」


羽梨「あっ…!…行っちゃった……」



▼残念がる声をもらした羽梨は、狐面(きつねめん)の男子が登って行った木をただ見つめた。ガサッガササッ…と羽梨の背後にある背の高い草が掻き分けられる。



風神「おお、羽梨(はなし)。ここに()ったか!」


羽梨「…隊長さん……(くりくりとした丸い目が風神を見つめる)」


語厘「羽梨(はなし)


羽梨「…にぃ……。《語厘(かたり)、怖い空気じゃない…。機嫌なおったみたい…?》」



▼兄妹はお揃いの紫の瞳で見つめ合う。



語厘「あの、あのさ」


羽梨「…にぃ、ごめんなさい…。心配。してくれたんでしょ……?」


語厘「え、いや…。うん、それもある。けど、俺のほうこそ。ごめん……」



▼言葉に詰まったのか、顔を俯かせて、眉間(みけん)を押さえて何やら考える語厘(かたり)。ポンッ……背中から軽く衝撃を受けた。



語厘「(視線をさまよわせ)兄らしくないし、情けないだろうけど…。隊長さんと、仲良さげで……ぶっちゃけ、八つ当たり……」


羽梨「(トテテ…と歩み寄り)

……そうだろうなって思ってた、にぃ……。にぃ、悪くない……、わかるよ、双子だから……(抱きつく)」


語厘「っ…羽梨(はなし)ぃ~…!」


羽梨「…うっ、…!く、苦しいよ……」



▼兄妹の抱きしめ合いを静かに頷きながら見守る隊長の風神(かぜかみ)。双子の喧嘩はこれにて、一件落着。

──それから、森林公園を抜けた三人は。



風神「そういえば、あれを言っていなかった!」


語厘「あれ?あー、あれね」


羽梨「隊長さんと言えば、アレなの……」



▼足を止め、風神(かぜかみ)は笑みを浮かべて、大きく深呼吸。



風神「よーし、言うぞ!(深呼吸をする)

……語厘(かたり)羽梨(はなし)!よく、帰ってきた!おかえり!」



羽梨「…ただいま…。隊長さん……(ふわっと笑う)」


語厘「うん、ただいま」



風神(かぜかみ)は、満足そうにニィッ…と笑う。瀬応(せのう)の双子もつられて、笑った。それから遠征で経験した話をたわいなく話しながら歩く。ふと、(おもむ)ろに羽梨(はなし)語厘(かたり)を指摘する。



羽梨「…にぃ、海のにおい……(しお)くさい……」


語厘「あー、まじぃ?生乾きだからなおさらかも?

(ひらめく)……お!じゃあさ、隊長さん持ちで銭湯に行かね?」


羽梨「久しぶりの船旅……疲れには、入浴……」


語厘「だな。羽梨もその気だし。頼みましたよ、隊長さん。(肩をポンとする)」


風神「何ぃ!?待て待て!今、持ち金多くないんだぞ!」


語厘「えー?昼飯とか(おご)れってわけじゃないんだし、ケチくさいこと言わないでさ」


羽梨「…隊長さん…。お願い。(身長差から自然と上目遣い)」


風神「うぬ~~~~!し、仕方あるまい!!今日だけだぞ!」


語厘「おー!さっすが、隊長さん」


羽梨「…うれしい。ありがと、隊長さん……」



▼このあと、湯上りのコーヒー牛乳などを追加で奢るはめになるとは知らぬ風神。それはまた別の話。

──素直になれず、ぶつかり合うこともしばしば。

まだ学生として無邪気な。それでいて、平穏な一幕が過ぎる。これが、黒の中でもたびたび、"噂の"ネタにされる東乱第一(とうらんだいいち)遊撃部隊(ゆうげきぶたい)の再集合の瞬間だった。



(間)



▼一方、あの不可思議な狐面(きつねめん)の男子は…。

停泊している堤防で、潮風に当たっていた。



狐男「いやー…。おもろいことが持ってそうな気ぃするわー」


補佐官「ここにいたかっ!見つけたぞ!國崎くにさき 詩暮(しぐれ)!!」


狐男「んお?ありゃ、補佐官様やないですかー。どないしたん?」


補佐官「どうしたじゃない!貴官(きかん)は約束も守れんのか!」


狐男「約束ぅー?ああー、もう時間過ぎてはりましたかー。それはえろう済んませんー」


補佐官「(舌打ち)誠意のない謝罪など無意味。

勝手な行動はつつしめ。貴官は、まだ情報も非公開なのだからな」


狐男「あー、そうでしたわ。夏明けてからでしたねぇ」


補佐官「ああ、そうだ。……行くぞ。総司令長さまがお待ちだ」


狐男「はいはーい。案内頼んます~」



狐面(きつねめん)をずらして、藍色(あいいろ)の瞳が細められる。その瞳に宿る感情は期待なのか、それとも彼の飄々とした性格ゆえか、冷淡な軍人の怒鳴りにも のらりくらりとした態度で流した。

狐面(きつねめん)の男子の名は、國崎(くにさき) 詩暮(しぐれ)

彼が学園に編入してから数週間で、とある騒動の主犯格になる話は、また別の機会に……。






黒軍(くろぐん)編・第一話⇒出迎えの言葉。  おしまい。





台本 最終編集日 ⇨ 2021/03/23(火)


(2022年12月7日(水) 一部 修正・追加)



演じてくださった方、もしくは閲覧してくださった方!感謝です!

どうもー、無計画実行委員会・委員長(作者)の瀧月です~


はい。亀更新という宣言通りに前話から間が空きました…。

この話で各軍の第一話が公開となります!(拍手)

台本確認などで、ご協力くださった方。ありがとうございました。


さて、今回はなんちゃって方言キャラ(たぶん関西弁)が出しましたー。

関東民の瀧月が生んだキャラなので、ぶっちゃけ方言は何が正解なのか分かりません!(おいおい…。)

なのに、メインキャラ枠ってどうなんだよ…。


実はね。この話を書く予定ではありませんでした!!

でも。なんとなーく。

東乱第一遊撃部隊の初接点はこの話なんですよwなので、即興で書きましたw

裏設定を語ると東乱第一は学園設立当初から存在する部隊なんです。

し・か・も。歴代隊長には風神ーカゼカミーの親族がちらほら名前が残ってたり…。


まあ、そんなこんなで!お付き合い、感謝です!

また。次の話でお見掛けしましたら、よろしくお願いします~

では!またいずれ~。


公開日・2018年6月29日



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