【分割版】黒軍編・第七話の後半部分【台本 本編】
【黒軍編・第七話/分割版/後半部分】
後半部分の上演時間(目安)/約50分
【配役表】
♂ 風神 明(おれ、オマエ)/N弍
♀ 今地 操生(僕、おまえ)/憲兵B/N五
♣️♂國崎 詩暮(わい、おひと)/N肆
♣️♂瀬応 語厘(オレ、あんた)/N参
♀ 瀬応 羽梨(はなし、あなた)/陸士長
♂ 風神 諭(私、貴方(貴官)、貴様)/憲兵A
♀ 花箋 二等陸曹(あたい、きみん)/N壱
▷各話ごとにご用意している『登場キャラなど』や当台本シリーズの『台本利用上のお願い』のページをご一読のうえで、上演をお願いします。
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N五:場所は変わって森林公園の中流部、海沿い側。隊長の風神との通話途中で、何かしら巻き込まれたであろう瀬応の双子は?
語厘「はぁーー……、やべぇ………」
羽梨「にぃ……」
語厘「うん?なんだよ、羽梨。にぃは大丈夫だよ」
羽梨「違う……にぃ、大丈夫じゃない……」
語厘「いや、まあ。大丈夫って言っとかないと気失いそうでさ、ごめんな?」
羽梨「にぃ……羽梨、なにすればいい?人、呼んでくる……?」
語厘「いや。どこにも行かないで、ここに居てな」
N五:この双子の会話だけでは状況が見えてこない。なので、解説するが。
──語厘は、負傷した。
原因は、飛んできた中くらいの石が頭に直撃したからだ。数分前の出来事だが、木々の間で身を潜めながら隊長の風神と通話していた瀬応の双子。しかし、自分たちが居る区画の異変に気づき、通話を切り上げようとしたが間に合わなかったのだ。
羽梨「バンダナ血まみれ……傷のあたり、縛って、血は止めた……けど、動くとダメかも……」
語厘
「そうなんだよなぁ、当たった感じから尖った石っぽいし刺さるだけならまだしも、深く切れてるかもなんだよなぁ
つーか……もっかい、隊長さんと連絡したいとこだけど……」
羽梨「端末、ダメになっちゃった……」
語厘「うーん、落としたときに嫌な音したし。だろうなって感じ」
羽梨「どうしよう……」
語厘「どうすっかなぁ」
花箋「お困りかにゃあ?」
語厘「ッ!?!?」
羽梨「……!!」
N五:驚きすぎて声が出ない双子。
何せ、二人の目と鼻の先にコウモリのように逆さまの姿で『外職』の軍人が現れたからだ。そう、諭に絡んでいた花箋二等陸曹である。
花箋「なになに?なーーーんで、そんなに驚いてんのぉ?」
語厘「(ツバを飲む)あんた、だ、誰??」
花箋「あたい?あたいは花箋だよぉ」
羽梨「……見たことない……(花箋を指差し)」
花箋「ん?なにが?あ、この色の軍服のことかぁ」
語厘「それ、外の人が着てる服だろ?この島の人と区別できるようにって」
花箋「うんうん、そう言うふうに教えられてるんだねぇ」
羽梨「違うの……?」
花箋「それはね〜、あ、まず降りるねぇ」
語厘「あ、はい」
N五:ぴょいっ…と身軽に地面へ着地した花箋。こう並んでみると羽梨(一五〇 糎)と身長がさほど変わらないようだ。
花箋は、迷彩服の上に本土の国防 陸軍人が正装としている上衣を羽織るといった出で立ちだ。明らかに目立つがわざとである。
花箋「でねー。この服の色が濃紺なのは〜
(冷たい眼差しになる)
……仇なすものを容赦なく殺れるように、血の色が目立たないようにする為だよ」
N弍:ゾクッ…、となんとも言えない寒気が双子を襲う。
本能的に逃げ出したくなったのだ。冷たい、突き刺すような眼差し。あのどこ吹く風のような態度が表なのか、裏なのか。分からない。それが、諭が率いる部隊の《厄介者》花箋二等陸曹である。
語厘「へ、へぇー……知らなかったよ。そんな裏話があるなんてさ」
花箋「……おや?あんまし、怖がらないのかー。残念。まあ、嘘なんだけどねぇ」
語厘「嘘かよ」
花箋「にゃはは〜、きみん、純粋だねー。あたい、もっと遊んでほしくなるよぉ」
羽梨「……ダメ……にぃ、ケガしてるから……」
語厘「羽梨……」
花箋「うーん?なに、きみんらはキョウダイなのぉ?ペアルック過激派かと思ったよー」
語厘「なんだそれ、……くっっっそ、面白くない」
羽梨「笑えない話、嫌い……」
花箋「あはっ〜、手厳しい〜。こう見えて、あたいのほうが年上なんだけど敬う気ゼロってやつー?まあ、いいんだけどねぇ〜」
N弍:ため息ついた語厘は、まっすぐ花箋を見つめる。もちろん花箋を警戒してか、傍を離れない羽梨。
語厘「……でさ、『外職』のあんたが何しに来たわけ。見てのとおり、オレは動けないから 」
花箋「うんうん、きみんが被害にあっちゃったのは見てわかるよ〜。あきらかに変な方向に飛んだなーって思ってたんだ〜」
羽梨「……あの、騒ぎは……あなたのせい……?」
花箋「うん、仕事だからねー。この島に入り込んだ輩の駆除が任務でね〜。あ、この話はきみんらも国防官の端くれでしょー?だから、話すんだー」
語厘「で、なんで石なんか武器にしたわけ?」
花箋「だって〜、こんな木とか陰ばっかのところで発砲なんかしたら命中率下がるし、危ないっしょー?だから、地面に落ちてる石を投擲して輩の制圧をね〜」
羽梨「……石も、危ない……」
花箋「うんうん、それに関しては反省の余地ってやつー?まあ、とりあえずは──」
N弍:このままでは話が進まない。そう考えた花箋が背後に向けて手を打つ。すると、ずっと息を潜めて控えていた花箋の部下たちが姿を現した。
語厘「……人、居たのかよ」
花箋「気づかなかったでしょー?」
羽梨:心の声
《……羽梨たち、全然、敵わない。学園にも気配を消すの上手な人もいるけど、それはその人の特技であって、訓練で習うことなんてしてこなかった……》
語厘「それで?その人たちに何させる気だよ、ですか……」
花箋「あっははは……!」
語厘「なっ、なんで笑うんだよ、です!」
花箋「だってぇ、急にですますになるんだもん〜。めちゃくちゃ面白いじゃん〜!無理しなくていいよォ?」
語厘「つ、使い慣れてないんだよっ、」
羽梨「にぃ……無理がある……」
語厘「羽梨ぃ〜、だってさぁ」
羽梨「わかる……出てきた人達、コワイ……」
花箋「怖くて、当たり前だよぉ 恐れてもらわなきゃ憲兵の立場ないし〜」
N五:花箋のゆるすぎる態度のせいで、威厳のイの字も感じられない。しかし、あきらかに逃げるのも不利。抵抗は無駄だと理解した瀬応の双子。
羽梨「……にぃ」
語厘「おう、わかってる」
花箋「なになにー?何の話ぃ?」
語厘「なんでもないっすよ。とにかく、オレたちはこの場から離れるんで」
羽梨「にぃ……肩貸すよ……」
語厘「わりぃな、羽梨」
羽梨「んゆっ……ちょっと、フラフラする……」
語厘「重いよな、ごめん」
羽梨「にぃのせいじゃ、ない……」
N五:木に手をついて、立ち上がる語厘。左側の脇へと羽梨が潜って、半身を支えようとするものの体格差がありすぎる。目を瞬かせた花箋。
花箋「あー、こらこら〜。なーんで、あたいが人を控えさせたと思ってんのー?」
語厘「いや、知らない」
羽梨「……わかんない……」
花箋「ほらさぁ、一応、きみんらは後輩なわけじゃん?」
語厘「この場限りの関わりしかないけどな」
花箋
「あははっ〜、言うねぇ まあ、そうだけど。ケガさせちゃったわけだしさ。ね?」
N弍:ニマッ、と笑えば指を鳴らす花箋。そんな彼女の後ろに控えていた部下たちが動き出した。
語厘「なっちょっ、何なんだよ!?」
羽梨「にぃ!」
語厘「羽梨っ!」
花箋「だいじょーぶい!悪いようにしないよ。ここから安全に連れ出してあげるだけ、だよーん」
語厘「安心なんかできっか!!おろせよっ!!おろせってば!!」
花箋「はいはーい、あんまし暴れっとケガ増えるよーん?」
語厘「ハナシぃぃぃ!!」
N弍:語厘は、クマのような男たちに担ぎ上げられ、森の外へと姿が遠のいて行く。
羽梨「……ひどい……、なんで、にぃと離れ離れにするの……」
花箋「え〜なになに?恨み節ってやつ〜?」
羽梨「真面目に、答えて……」
花箋「あは〜、真面目にって言われてね〜」
羽梨「…… ……」
花箋「あー、はいはい。そんな目ェされちゃったら答えるしかないか〜」
N弍:ニヤけた笑いをしながら後頭部を掻いた花箋。しかし、羽梨のなんとも言えない冷たい視線にため息をついたのだ。
花箋「まあ、年上の!なおかつ、国防官の先輩としてお答えしますよーってね?」
(間)
花箋
「(深呼吸)……『トリ』ってさ、戦場を舐め過ぎなんだよ。
見た感じ、まだ きみんらは、マシな気もしなくもないけど。
いつまでも仲良しこよしで生き抜ける程、甘いもんじゃない。昨日まで背中を預けてた相手が、翌日には後ろから刺してくるし、寝首をかいてくることもある。
同じ釜の飯を食ってたところで、時間を共にしてた間の茶碗を割られちゃあ、意味がない。
……あたいが言いたいのは、重いんだよねぇ
表立っては男のほうが。見えないところでは、一番の依存はどちらかなんて言う必要ないね」
(間)
羽梨「(生唾を飲み込む)……意味、わかからない……」
花箋「……ぷっ、あはははっ……」
羽梨「な、なに……」
花箋
「いやぁ〜、冗談だよ、ジョーダンw まっさか、そんな怯えた顔するとは思わんかったよ〜。驚かせちゃった?ごめんね〜」
羽梨「お、どろいてなんか……」
花箋「にひひ〜、まあ、なに?きみんは、薬とか扱うの得意っしょ?」
羽梨「……ッ、何でわかるの……」
花箋「えー?そんなの、指先の荒れ具合を見ればわかるよーん」
羽梨「……あなた、コワイ……」
花箋「あはは〜、コワがられちゃうなんて花箋ちゃんは悲しいぞ〜」
羽梨「……本当に、よく分かんない……」
花箋「まあ、きみんにだけ残ってもらったのはお手伝いしてほしいからだよん」
羽梨「お手伝い……?」
花箋「そう!お手伝い〜」
羽梨「どんな、こと、させる気……」
花箋「それは移動しながら話すよーん」
N弍:まんまと花箋の空気に飲まれてしまう羽梨。るんるんと歩き出す花箋に着いていくしかない。はたして、無事に双子の片割れの元に戻れるのだろうか。
(間)
國崎「はぁ〜〜〜……やっとこさ、平地に着いたでぇ……」
憲兵A
「おい、まだ気を抜くには早いからな。手伝うって言い出したのはオマエなのだから最後まで頼むぞ?」
國崎「そないこと言われんでも、しかと理解してますさかい〜」
憲兵B「クニサキさん……、ありがとう……。あなたのおかげで、山を、出られた……」
國崎「なんやー、礼を言われると照れくさいです〜」
憲兵A「イノウエ、気を失うなとは言ったが。あまりしゃべると舌を噛むし、貧血になるぞ」
憲兵B「すみません……、そうちょう、ごめーわくを……」
N参:先攻班と共に行動していた國崎は、無事に下山した。森林公園と呼ぶには自然が生い茂りまくっている土地からだ。
残すところの道のりは、二百米。
それさえ歩ければ、憲兵隊が展開している野営テント郡が見えてくるはずである。
憲兵A「……だがまあ。人は見かけによらないな」
國崎「んぇ?なんですぅ、いきなし」
憲兵A
「私の偏見だったということを理解させられた。貴官は、道中 弱音を言わなかったからな。てっきり『トリ』は、軟弱な連中の集まりだと思っていた」
國崎「あ〜、まあ。あながち、間違いでもないですよ。たんに、ワイの所属しとるとこが特殊なだけですさかい」
憲兵B「とくしゅ、ですか……?」
國崎
「そーです。ワイんとこの隊長をしとる高三生のお人が居るんやけど。言ってしまうなら猪突猛進。……まさにイノシシみたいな訓練ばっかさせてくるんですー」
憲兵A「貴官の隊長がイノシシならば、こちらは鬼だな」
國崎「鬼ぃ?なんや、えらい妖しいんやな」
憲兵B「ええ……、キシンとよばれてますから……」
國崎「キシン?」
憲兵A
「鬼と神で、『鬼神様』と呼ばれている。古来より鬼は強く恐れられる存在だった。つまり、それくらいに物事に手は抜かない自身にも他者にも厳しいお方だ」
國崎
「……はぁー、それはそれは。ワイは、関わりになる前にずらかったほうが身の為ちゅーことは分かりましたさかい」
N参:國崎の発言に笑う班員たち。何だかんだと、脅されはしたものの意気投合したようだ。そして、一行は──
憲兵A「お、やっと見えてきたな」
國崎「あ〜、よかったー。めちゃくちゃキッツイ道のりやったわぁ……」
憲兵A「気絶されると力が抜ける分、対象を背負うものが大変な思いをするからな」
國崎「あー、だからイノウエはんに 気を失ったらアカンって言い付けとったんやなー」
憲兵B:心の声
《あれ、クニサキさんに名乗ってなんか居ないはず……あ、もしかして。曹長が呼ぶから覚えた?……だとしたら優れた記憶力だ……》
憲兵A「その通りだ。身にしみて、学べただろ?」
國崎「ええ、それはもう。このお人、いっちゃん急な下り道で気絶したんで散々ですよ〜」
憲兵A「それでも、自身の体力と呼吸法でやりきる姿は関心した」
國崎「あはは〜、えらい褒めてくれますねー」
憲兵A「私は、頑張っているものには無視するより直接、褒めてあげたいからな」
憲兵B「……ときどき、ウラがあるんじゃって疑われて、ッ……ることもありますけど……」
憲兵A「すまん。少し段差があった」
憲兵B「いえ、大丈夫です……」
憲兵A「よし、ラストスパートだ」
N参:あきらかに、わざとつまずいたであろう陸曹長。部下は、責めなかった。
ザッザッザッ…、足並み揃えて進んで行き。テント群から控えの隊員たちが迎え入れてくれる。國崎に対しても、疑ってくるような視線はなく。むしろ、頭を下げてくれる人ばかりだった。
憲兵A「イノウエ、ちゃんと処置してもらえ」
憲兵B「これ……ぬいますよね……」
憲兵A「たぶんな。だが、この島の軍医殿が来てくれている。安心していい」
憲兵B「それは、ありがたいです……。クニサキさん、ありがとう。また会うことがあれば……あらためて礼を……」
國崎「ええんよ。礼なんて。傷を治すことだけを考えてください」
N参:申し訳なさそうに眉を下げるも担架にのせられてイノウエ三等陸曹は、運ばれて行く。
國崎は、その場で大きく伸びをして冷静な眼差しで。
國崎:心の声
《なんや、ワイも偏見があったみたいやな。『外職』だからっておっかない人ばかりやないちゅーことやな……》
憲兵A「クニサキ、ご苦労だった。少し休んでいくといい。貴官も仲間のもとに戻る前にな」
國崎「ええんですの?」
憲兵A「ああ。ちょうど、『鬼神様』はこの場を離れている」
國崎「あ〜、助かりますわー。ワイ、運がめちゃくちゃ悪いんやけど。休めるって聞いて嬉しいわ〜」
憲兵A「では、こっちのテントだ」
N参:てこてこ、陸曹長の後ろを着いていく國崎。だが、案内されている間 呻き声が近づいてくる。
國崎「あの、トヨシマ陸曹長はん」
憲兵A「なんだ」
國崎「このテント一帯って……」
憲兵A「ああ、処置用のテントだ。当初の予想より怪我人が多いみたいで、休憩用のテント付近まで埋まっているようだな」
國崎「それは、えらい大掛かりな作戦やったんやなぁ……」
憲兵A「しかも、まだ目的を果たしきれていない。私は、どうしても人命を優先してしまった。実に不甲斐ない」
國崎「……憲兵のお仕事がどないもんか、ワイにはわからへんけど。命を軽く見てへんし、見捨てへんのも勇気やろ」
憲兵A「……私も歳か。予備兵の学生に労りを受けるとはな」
國崎「余計なことを言ったようで、すんません」
憲兵A「いや、いいさ。悪くない言葉だったぞ」
國崎「それ、褒めてますの〜?」
N参:目を細めて笑う陸曹長に、國崎も気を許しつつあるようだ。すると──
國崎:心の声
《うん?なんや、ここのテントの幕があがって……》
N参:先を歩く陸曹長の背中が離れすぎないタイミングで足を止めた。ちらり、つい気になって薄暗いテント内を覗いてしまう。
國崎「なっ……!せ、瀬応のお兄やん?!!?」
N参:覗いたテントの寝台の上には、語厘が静かに眠っている。あきらかに、怪我をしましたという身なりであり、真新しい包帯でおでこをぐるぐるにされていたのだ。
國崎は、つい大きな声を出してしまったことに我に返り自分の手で口を覆った。
憲兵A「クニサキ、どうした?」
國崎「あ、えっと〜……」
N参:立ち止まってことに気がついた陸曹長がわざわざ戻って来て、國崎の様子を伺い。テントを覗けば、納得したように。
憲兵A
「ああ、貴官の学友か。実は、ちょっとした手違いでこちら側が巻き込んでしまってな。負傷させてしまったのだ。森の中腹を活動していた班のせいでな」
國崎
「あー、そうなんですねー。まあ、巻き込まれちゅうよりは、回避できへんかった あのお人のせい──」
N参:瀬応の兄に責任を擦り付けようとした時だ。背後からとんでもない圧を感じて、振り返ろうとした國崎。だが──
國崎:心の声
《アカーン、これ、あきらかに振り向いたらダメなやつやろ!!》
(間)
N壱:一方、その頃。森の中流部。
風神の長男が部下を引き連れた状態で、鉢合わせしてしまった今地と風神。質疑応答となっていたところだが──
諭「このっ!!痴れ者が!!(殴る)」
明「ぐっ……!!」
操生「アキっ!」
諭「貴様!私の弟を騙るならば、許さんぞ!!」
N壱:殴られた反動で、尻もちをする風神。隠し持っていた刀も服から飛び出て、地面に倒れる。
明「いってて……、なぜだ!諭にぃさん!こんなことで、嘘なんかついて何になると言うんだ!」
操生「そうですよ!諭さん!なにをそんなに怒ることがあるんですか!僕ら、三年ぶりに会うんですよ!?」
陸士長「風神中尉ッ、一旦、落ち着きましょう!」
N壱:陸士長が諭と今地らの間に入ることで、場を治めようとする。
諭「(ため息)……貴様、本当に私の弟か?
それと、そっちの学生は、今地の末っ子なのか?私の記憶している姿と違うではないか」
操生「あ、えっと……この姿に関しては事情がありまして……」
明「そんなに疑うのなら腰のアザでも見るか!?」
操生「こら!アキ、脱がなくていいからっ」
諭「おい、貴様!」
明「なんだ!……って、うおっ」
N壱:風神を引っ張って、傍に寄らせる諭。無言で風神の前髪を撫でつけて、おでこの辺りを凝視すれば何かを確認した。
諭「(舌打ち)……嘘じゃないみたいだな。そうか、貴様。明なのか」
明「だからっ、さっきから弟本人だと言ってあるだろ!」
諭「うるさい。わかったから声を荒らげるな」
明「くぅっ!!」
N壱:風神の胸を押して距離を取り、部下たちの元に戻る諭。終始、考え事の顔をしている。
諭:心の声
《今しがた確認した右のおでこにある古傷。
たしかに、末っ子にあった傷と同じものだ。
あれは、四歳のころに祖父様が保管していた真剣を持ち出して、まだ無理だというのに無茶して振り回した挙句に負った傷。
……思い出しただけでも、実に末っ子らしいアホな話だ。
だが、面影がなさすぎる。いくら三年ぶりだとしても、こんな筋肉ダルマに育つとは思わんだろうが……!》
陸士長:心の声
《……風神中尉、めずらしい顔をされている。花箋さんのこと以外であんな顔をしているのは始めてみるな……》
操生「えっと、諭さん。これで僕らの正体が判明したようですし」
明「あ!そうだった!諭にぃさん!おれたちは、行くところがあるのだ!まだ森の中に、おれの後輩たちが!」
諭「(明に拳骨。)……この愚弟。はい、そうですかと行かせるわけないだろ」
明「ぐっ……だから、な、なぜ殴るっ!」
諭「貴様には聞こえんのか。この爆発やらの騒音が。この先は、貴様のような未熟者が無傷で戻ってこれるような場ではない!」
明「この三年間に、おれだって成長した!諭にぃさんの記憶している頃のおれとは違う!」
諭「クチではなんとでも言える!」
明「クチでわかって貰えんなら、傍で見てくれればいいだろっ!!」
諭
「寝言は寝てるときで結構だ。私とて、暇ではない。貴様らの撤退さえ見守れば完全にこの場を封鎖する」
明「だ、だが!まだ、おれの後輩 以外にも居るはずなんだ!」
諭「貴様ァ、どこまで食い下がる気──」
陸士長「あのっ!中尉殿!」
諭「なんだっ」
陸士長「お話中に失礼します。花箋二曹から伝言を預っておりますっ」
諭「……読んでみろ」
陸士長「はっ!読みあげます!」
(花箋 演じる人が読んでください↓↓)
花箋
『ヒトニー サンロク。
まなぶん〜、今からホンホシ狩りに出るから暫く戻らないよーん。あ、そうそう。森の中に居た『トリ』は回収したし、手を貸してくれそうな子がいたから協力してもらうことしたから〜
追伸ー、怪我させちゃった『トリ』がいるから教官さんたちへの謝罪よろしく〜☆』
陸士長「……とのことであります(逸らし目)」
明「なかなかに、ユニークな部下さんがいるようだっ!」
操生「……カナブンみたいな呼び名だったね」
明「しかし!なんか、いろいろツッコミたい話題があったな!」
操生「うん、そうだね。とりあえず、わかったことは僕たちが追ってた盗難犯の人たちは回収されたってこと」
明「あとは、誰かが怪我をして。誰かが『外職』と共に行動することになったということだな!」
諭「…… ……」
明「諭にぃさん?」
操生「ま、諭さん?」
陸士長:心の声
《やばい、ヤバい。めちゃくちゃ怒ってらっしゃるっ!!花箋さんの馬鹿っ!!なんで、こんな伝言を頼んでくるのさ!自分にどうしろと!?》
諭「……サクマ陸士長」
陸士長「はっ!なんでありましょう!」
諭「貴官に、私の弟とその友人を任せる。必ず連れてこの場を離れろ」
陸士長「り、了解です!あの、中尉殿は……」
諭「愚問だな。私は、あのバカを止めに行く」
N壱:諭の表情は一切、動いていない。だが、瞳の内側には灯る怒りの感情。それを見て、逃げ出して泣きたくなる陸士長。
明「ま、待ってくれ にぃさん!行くなら、おれたちも!」
諭「風神学生!!」
明「いッ?!」
N壱:兄に申し入れしようと肩に手を置いた風神。しかし、素早い動きで弾かれて睨まれた。
諭「何度も言わせるな。これは、遊びじゃない。
私は、仕事だ。貴様のように、本土の時勢を知らんガキが首を突っ込む問題じゃない。これ以上の狼藉、我が隊の名誉にかけて償わせるぞ」
明「だがっ!」
操生「アキ!もういい!」
明「今地!なんでだ!」
操生
「これ以上、本職の人の足でまといはダメだ!だから!僕はおまえを連れて下山する!これは、特隊生としての権限を行使する!」
N壱:振りかざすことが滅多にない権限を主張し、風神と下山することを決めた今地。もの凄く何か言いたげな風神だったが、言葉にならないようだ。
操生
「諭さん。……いいえ、風神中尉。お務めの邪魔して申し訳ありません。指示に従い下山 致します」
明「……今地」
諭「頭をあげろ、今地学生」
操生「はい」
諭「貴官の進言を受け入れ、罰は与えんことにする。陸士長たちと共に下山せよ」
操生「はい。ありがとうございます」
陸士長「では、こちらから戻れますので」
N壱:陸士長が先導し、その後ろをついていく今地。風神は、後ろ髪ひかれる思いで兄の背中を一瞥するも、そのまま下山の列に加わり歩き出した。
諭「……行くか」
N壱:諭は、迷彩帽を被り直して一〇年ぶりの森林公園を駆け出す。
(間)
──その頃、外職の野営テント郡。
N五:幕が上がっていたテントの中が気になり、覗いたのが運の尽き。
國崎は、背後にもの凄い圧を感じて振り向けずにいた。
語厘「よぉ、國崎ぃ」
國崎「あは〜、瀬応の兄やん、ボロボロやなぁ〜?どなんしたんやー」
語厘「おう、お陰様でな」
國崎「あはは〜、ほーか。せやったら、ワイの肩に爪を食い込ませるんはやめてほしいんやけどー?」
語厘「ははっ、お礼参りだよ。快く受け取れや」
國崎:心の声
《めっさ!怒っとるやんかー!!なんや?ワイか?ワイのせいなんか?!いや、せやけど。その頭のケガはワイのせいとは関係ない気が……》
憲兵A「クニサキ、その学友の名は?」
國崎「あ、えっと、こんお人は……」
語厘「ちっす。どうも、瀬応 語厘っす」
國崎「そうそう、語厘はん 言います〜。
語厘はん、こちらのお人はトヨシマ陸曹長はん、なんや悪い人やあらへんで」
語厘「陸曹長?……じゃあ、さっきの女より上だよな」
憲兵A「女?……たしか、貴官は現場の中流部から戻ってきたのだったか」
語厘「うっす。なんか、オレをケガさせた詫びとか言って下山させられたんすけど。そのかわりに、どういうわけかオレの妹が連れてかれてるんすわ。どうにかしてくだせぇ」
憲兵A「そうか、貴官の妹が連れ回されているのか……よりによって、花箋二曹に」
國崎「カセン?」
憲兵A「ああ、我が隊の<厄介者>とされている。実力こそあるが、いろいろ問題のある国防官でな」
國崎「はー、それはエラいこっちゃあ」
語厘「他人事な態度、とってんじゃねーよ」
國崎「いや、なんでキレとんねん。ワイにキレることかぁ?」
語厘「國崎、オマエはこれがどんだけ重大なのか理解しろよ。羽梨がオレと離れることなんて滅多にない」
國崎「せやかて。お兄やん、妹はん も高二生やで?大丈夫やろ」
語厘「……オマエに何がわかるってんだ。オレと羽梨は離れちゃいけないんだよ」
國崎「いやいや、どんだけ過保護なんや〜」
語厘「笑い事じゃないんだよ!!」
國崎「ぅぐっ!」
N五:國崎の胸ぐらを掴んで、睨む語厘。その様子をギョッと驚いた顔をするものの殴り合いにはなっていない分、考える陸曹長。
語厘
「いいか、國崎!記憶力に自信あんなら覚えとけ!羽梨とオレが一緒にいる理由は、互いにストッパーだからで!オレは、怪我なんかで離れることになった自分がめちゃくちゃ悔しいんだよ!!」
國崎「だっ、だからってワイにどうしろと……」
憲兵A「クニサキ」
國崎「な、なんですの?」
憲兵A「私で良ければ、セノウの妹を連れ戻しに行ける。だから、貴官がむやみに現場に立ち入る必要は──」
語厘「それじゃあ、ダメなんすよ!!」
憲兵A「……理由はわからないが、そこまで取り乱す必要はあるのか?」
語厘「オレが!オレが行ってあげなきゃ!羽梨はっ!」
憲兵A「私には理解できん事情があるようだな」
國崎「……語厘はん……」
N五:胸ぐらから手が離れ息苦しさから解放される國崎。
しかし、憐れなくらいに大きな背中が丸まり震えている。その姿を見て、なんと声を掛けるのが正解なのか。経験がない分、まったく思いつかない。
(間)
N参:上官を煽るだけ煽る伝言を寄越して、瀬応の妹を連れて単独行動を始めた花箋だったわけだが──。
花箋「この先にさ〜、何があるってんだろうね〜」
羽梨「……この、先は……祷りの地……」
花箋「祷り?教会とかそういうのがあるのん?」
羽梨「……教会というより、懺悔する小屋があるって聞くけど、使わないから……知らない……」
花箋「へー、一応 宗教とかあんのね〜」
羽梨「ある……。というより、この先にあるのは墓地……」
花箋「墓地ぃ?」
羽梨「そう……、この島にしか眠れない子たちのお墓……」
花箋「ふ〜ん、なるほどねぇ。いい趣味してんじゃん」
N参:いったい、どういう意味でいい趣味と言ったのか。羽梨にはわかりっこない。たしかに、眺めとしては最高の立地である。島の建物が一望できる高さであり、墓地の敷地の端っこは崖で海に面しているからだ。
花箋「きみんは、どこまで知ってる〜?」
羽梨「……何を……?」
花箋「この島についてだよ〜。まあ、知ってのとおり〜あたいはこの島に来たのは初めてだし〜」
羽梨「それにしては、慣れてるように見える……」
花箋「そりゃあ〜、鍛えてる年数が違うからね〜ん」
羽梨「……きたえてる、年数……」
N参:花箋の言葉をオウム返しにする羽梨。今ところ、花箋からの危害はないが気の抜ける状況ではない。
二人は、茂みを踏みただしながら上へと登っていく。
花箋「でさぁ、きみんはこの学園でどうなりたいの〜?」
羽梨「急に、なに……」
花箋
「いやぁ、だってさ〜
一応は予備兵を育成する学園なんでしょ?ここって。
まあ、島の敷地にお墓があるのはビックリだけど本土で聞く話が本当ならオカシイ事でもないし〜」
羽梨「……羽梨は、にぃのためにある。だから、にぃが決めたことに着いていく……」
花箋「ありゃま、本当に?」
羽梨「ほんとうに」
花箋「そう。まあ、きみんが悔いのない選択ができるならイイけどね〜ん」
N参:手をヒラヒラとさせつつ、笑い飛ばす花箋。
羽梨は、その背中をジッ……と見つめて言葉を読み込んだ。
そして、しばらく登り続けた先に──
花箋「お、ここが懺悔の小屋かなーん?」
羽梨「……かな、たぶん」
花箋「ふむ、でも小屋って呼ぶにはしっかりした建物だね〜 元々は牧師さんとか居たのかなー?」
羽梨「……知らない。けど、そういう人は島の中では見かけない……」
花箋「そう。まあ、ここにあたいの目的達成が待ってるかもだし」
羽梨「……なに、する気なの……」
花箋「いっちょ!乗り込んでみますかねー!」
羽梨「わっわっ……あーーー!!」
N参:急に羽梨の手首を掴んで、建物の裏手へと走り出す花箋。引きづられるような状態で抵抗もできなかった羽梨。心の叫びは音にならなかった。
羽梨:心の声
《ヤダっ、この人、恐い。か、語厘っ……早く、早く迎えに来てっ……》
(間)
國崎「ん?なあ、語厘はん」
語厘「んだよ……今、オメェと話する気分じゃないんだよ……」
國崎「いや、そないこと言わんであっち見てみぃ」
語厘「たくっ、なんだって言うんだよ……」
N壱:野営テント群に居座っている語厘と國崎なわけだが。
妹を連れ去られて気分が下がりまくっている語厘は、國崎の指さす方向をめんどくさいと言わんばかりに顔で見やる。その先には──
操生「あ!語厘くん!國崎!」
國崎「お〜!今地はん〜!やっぱり、当たっとたわ〜 えらい久しぶりに感じるな〜」
語厘「うっす、今地の特隊生さん……」
操生「どうも、語厘くん。ケガしたんだってね。お大事にね。
ーーで!なんだよ、國崎!きみ、無事だったんじゃないか!」
國崎「あ、嫌やわー 今地はん、ワイにも深い理由があんねん」
語厘「こいつ、外職の人とノンキに下山してきたぜ」
國崎「ノンキちゃうわ、アホたれ。ワイもえらいめにあったんやぞ!」
語厘「オメェが迷子になってなきゃ、俺と羽梨が別々にされることもなかったんだよ!」
國崎「なんや、お人!まだ、その話を引きづっとるんか!重い男やな!」
語厘「國崎っ、オメェのこと!俺は許してねーからな!?」
國崎「何やそれ!ワイが全面的に悪いみたいな言い方は癪に障るわ!」
操生「こらっ、二人とも落ち着けっ
で、何がなんだって?」
國崎「えっと、それがぁ」
N壱:以下 割愛。
國崎からの状況説明を聞いた今地の表情が曇ったり焦ったりするものの。最後は、ため息だった。
操生「そう。……たしかに、羽梨ちゃんが連れてかれちゃったのは語厘くんからしても悔しいと思う。けど、正直いって、今、森林の中に戻るのはおすすめしない」
語厘「特待生さんも、そんなこと言うのかよっ!
くそったれ……!なんで、こんな時ばっかり俺は役立たずなんだよっ」
國崎「しゃーないやろ。もう、今 こん時から森林公園は本職のお人ら領分や。妹はんが無事に下りてくるんのを待つしかあらへん」
語厘「國崎。そうやって、オメェがわかったような口効くところ。俺は、嫌いだ」
國崎「……ほーか。嫌いでもなんでもええわ。元より好かれようとは思っとらん」
語厘「(舌打ち)」
操生「ちょっ、二人とも そんなふうに言わなくたって」
國崎「で、今地はんが居るってことは風神はんも下りてきたんやろ?」
操生「え、うん。そう。あそこで、外職の人と話してるよ」
N壱:今地の指さした方には、國崎と下山してきた陸曹長と風神、今地らを先導してくれた陸士長が風神と仲良さげに話している。
──陸曹長は、風神の肩をポンポンとした。
憲兵A「久しいな、明くん」
明「ホント、トヨシマさん!お久しぶりですっ」
陸士長「陸曹長、風神学生と面識が?」
憲兵A「ああ、私はあの駐屯地には出戻りでな。一回目の転属のときだから……一〇年前からの付き合いだな」
陸士長「なかなかのご縁でありますね」
憲兵A「そうだな。……にしても、本当にでっかくなったなぁ 中尉より大きいんじゃないのか?」
明「はい、お陰様で男らしいカラダにはなれました。まあ、どういうわけか諭にぃさんは気づいてくれませんでしたが……」
憲兵A「そのぐらい立派になったということさ。気落ちするな」
明「だと。いいのですが」
N壱:苦笑いをする風神。
その表情を見て、陸士長は妙な感覚を覚えた。
陸士長:心の声
《あんまり、似てないな……って思ってましたけど。こういう困った顔をしてるときは、少しだけ似てる気がしますね。やっぱり、兄弟なんですかね……》
憲兵A「ああ、それはそうと。明くん、貴官はクニサキの先輩なのか」
明「そうです!えっと、國崎が何かメーワクをかけましたか?」
憲兵A「いいや、むしろ助かったくらいだ。少し不審ではあったが、怪我の応急処置の手際。あれは、見事だった」
明「國崎が手当てを?」
憲兵A「そうだ。貴官は、優秀な後輩をもったな」
明「……ありがとうございます。本人にも伝えておきますっ」
憲兵A「ああ、ちゃんと労ってやれ」
陸士長「時間ですね。……陸曹長。そろそろ、行きましょう」
憲兵A「そうだな。すまんな、明くん。話しの続きは、この作戦が終わって時間あるときにでも」
明「はい、トヨシマさん。ご武運を」
N壱:陸曹長と陸士長が、別の作戦を決行すべく風神から離れていった。
その後ろ姿を見やって、掌の肉に爪を立てた風神。
明「……無力だな。おれは、また何も出来ないのか……」
語厘「隊長さんっ!」
操生「おーい、アキー!」
國崎「風神はーん!」
明「……ああ!今、行く!」
N壱:こうして、國崎・瀬応の兄・今地・風神の四人が森林公園を脱して、下山したわけだが。
連れ回されている瀬応の妹・羽梨は、無事に戻って来るのだろうか。
──ここで、引き下がるような下山組ではない気もするが。はたして、どうなる事やら。
黒軍編・第七話⇒繋げ、団結中編。
▶▶▶後編に続く。
(まだ執筆 途中でーす。)