【分割版】黒軍編・第七話の前半部分【台本 本編】
【黒軍編・第七話/分割版/前半部分】
前半部分の上演時間(目安)/約45分
【配役表】
♂ 風神 明(おれ、オマエ)/N弍
♀ 今地 操生(僕、おまえ)/憲兵B/N五
♣️♂國崎 詩暮(わい、おひと)/N肆
♣️♂瀬応 語厘(オレ、あんた)/N参
♀ 瀬応 羽梨(はなし、あなた)/陸士長
♂風神 諭(私、貴方(貴官)、貴様)/憲兵A
♀ 花箋 二等陸曹(あたい、きみん)/N壱
▷各話ごとにご用意している『登場キャラなど』や当台本シリーズの『台本利用上のお願い』のページをご一読のうえで、上演をお願いします。
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語厘「三津学の黒軍で二〇八〇年の五月が始まってからのあらすじ〜」
「えっと……(カンペ見つつ)
東乱第一に配属されてから一ヶ月するかしないかくらいで、海遊び中に國崎詩暮は私物を盗難されてしまう。」
操生
「(カンペ)そこから、中等部のおさがり制服での生活が余儀なくされる國崎。
同時期に。黒の在校生 以外にも盗難の被害が出ていることが判明。特隊生の大汐と今地が率いる盗難犯 捕縛作戦のグループへと加入することになった東乱第一。
そこから関わりの輪が広がっていく。」
明
「(カンペ)活動開始となるや否や。
悪天候が原因で島に国防海軍が一時的に停泊、上陸した。今地の長男が乗っている艦であった。
今地の長男は、何やら意味ありげに本土の情報を風神明と今地操生に与える。」
國崎
「(カンペ)そんな来島者と三年生らの会話など知らずにパソコンで盗難犯たちの情報を探っていた瀬応の双子と國崎。ネットの海から怪しげな内容を見つけ出し、それを例の作戦グループへと提供。後日、捕縛作戦が決行される。」
語厘「……羽梨ー、出番だけど読めそう?」
羽梨「……カンペの内容、長いと、息続かない……」
語厘「じゃあ、はしょっちゃって〜」
羽梨「うん、そうする……えっと、つまり、今作は作戦が大詰めってところで……いろいろ起こるよって話……」
語厘「そういうことー」
國崎「急に手ぇ抜くなや!」
明「尺の問題だな!」
國崎「せやから!メタいんやって!!」
操生「まあ、始めよっか(苦笑)」
(間)
〜タイトルコール〜
諭「自己解釈学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
花箋「黒軍編の、第七話〜!」
諭「……『繋げ、団結』の中編だ」
花箋「キズナって、もろいし頼りなさげな感覚だよねぇ まあ、協力して解決すれば万々歳だけど〜」
(間)
N肆:森林公園の下流部。
既に妖島の内部へと行軍し、作戦行動を開始している本土の憲兵こと『外職』の隊員たち。
そんな隊員を率いるのは、風神 明の長兄である風神 諭だ。
──隊列を組む部下たちの前に立って、声を張る諭の姿があった。
諭
「ヒトヒト ヒトゴー、これより第二作戦を開始する。すでに二班と三班が行動開始しているが、貴官らには中流部の警備にあたってもらう。
……本作戦でホシの存在を必ず捕らえ、下っ端の存在には吐かせるだけ、ネタを吐かす。そして、命を持って償ってもらう」
N肆:なんとも物騒な発言がなされたわけだが、そんな彼の前に一歩出た女性隊員が声を張る。
花箋
「海軍および この島の特務 師団にもご助力 頂いた作戦だ!失敗は許されん!!こころしてかかれ!
──総員!行動 開始!!」
(間)
N肆:見事までに揃う敬礼と返事の声。
敬礼ひとつにしても、島の在校生なんかとは比にならない。
これが『外職』である。行動を開始するとともに、立ち去っていく隊員たち。
諭「……無事に、終わってくれればいいのだが……」
花箋「なぁに、ボヤいてんの〜」
諭「なんだ。居たのか」
花箋「うわぁ……あたいに号令、言わせたくせに白々しい〜」
N肆:尚、先程の女性隊員と同じ人物である。
ニマニマと顔を緩ませながら諭に絡む。しかし、ため息をこぼして告げる諭。
諭「貴官も、立場あるものだろ。日頃の行いをチャラにできる機会だ。さっさと行動を開始しろ」
花箋「はいはーい。まなぶ中尉の言うとおりに〜」
諭「……しゃんとしろ。その口、縫いつけるぞ」
花箋「あっはは〜、怖〜。まあ、ちょっくら行ってきますよーだっ」
N肆:諭の鬼のような睨みに怯むことなく。むしろ、ケラケラと愉快だと笑う下士官の花箋二等陸曹。
彼女は、所謂お調子者というやつなのだ。上官をからかうも『あたい達も、行くよーん』と自分の部下を引き連れ、立ち去る。
諭は、彼女の後ろ姿にため息をついて作戦・通信室として使う野営テントへと入っていった。
(間)
明・語り
「急げ、急げと気持ちが早る。
何も悪いことはしていない。憲兵に世話になるようなことなど。しかし、あの兄が率いる部隊となれば話は別だ。とにかく兄より先に後輩たちを見つけ、撤退しなきゃいけない。東乱の名に属する後輩くらいは守りたい。その一心で山道を駆ける。」
N壱:先頭を突っ走る風神明の後方で、息を切らすセーラー服にスラックス姿の学徒──今地操生は絶え絶えの息の間で風神の愛称を呼ぶ。
操生「あ、アキっ!ちょっと待てっ、」
明・語り
「背後から今地の声がする。けれど、こんなとこで足を止めて時間をロスするわけには行かない。
もっと、速く。後輩たちの居場所をつきとめなければ。」
N壱:今地の声を無視して、尚、加速しようと踏み込む風神。それに対して、今地は──
操生「こっのっ、いのししがぁ!!」
明「うおっ!!……ぐはっ、うぅ〜〜〜……」
操生「ばかアキ!おまえの、悪いところはそういうとこだ!!」
明「い、今地っ!何なんだ!急に蹴ったりして!!」
操生「蹴りたくもなるだろ!!おまえ、走り出してから僕のこと気にする素振りもないのは何なんだ!そんなに役立たずか!?」
明「や、役立たずなんて言っとらんだろ!」
操生
「おまえ、変なんだよ!憲兵隊を目撃してから!相談もナシに一人で走り出して!突っ込むことしか脳のないおまえに、諭さんが相手にするとでも?!」
明「諭にぃさんのことを話題にだすのはずるいだろっ!」
操生「ずるくて結構!それで、おまえが僕を頼る気になるのならな!」
明
「ッ、違う!頼るとか頼らないとかじゃなくてな!おれが受け持っている隊の後輩なんだ!オマエに迷惑がかからんようにおれ一人で済ませれば問題ないと思ったのだ!だから──」
操生「そういうところが大嫌いなんだよ!!」
明「ぐッ!!」
N壱:拳骨が落ちた。地面に尻もちを着いたまま、戸惑った顔で見上げることしかできない風神。
声を荒らげてしまい。少しでも冷静になろうと前髪を撫でつけて、苦笑いした今地は──
操生
「まったく変わってなくて笑えてくるよ。おまえは、何でもひとりで背負い込んで。そうやっていつも僕を遠ざける……」
(間)
操生・語り
「ふと、思い出す。五年前のこと。
アキのお兄さんこと、長男の諭さんと大喧嘩した日。
十二歳という年。
風神の家に遊びに行っていた僕は、進路のことでアキと話していた。
海に出るなら、とか。
陸にも良いとこはある、とか。
すると、どこからともなく急に話に割り込んできた諭さん。
彼は、軍に関わるのは許さないと、反対してきた。
五人兄弟の長男。十年分、長く生きている諭さん。だからこそ、思うところがあったから反対したんだろうというのは今更になって思う。
でも、僕もアキも末っ子というのもあって家族に甘やかされて育った分、頭ごなしの反対はキツい発言だった。
普段、関わりを持ってこないのに急な反対にキレるアキ。
けど、年の差。経験の差。言葉で勝てるわけもない。
諭さんを怒鳴りつけて走り出したアキ。
利かん坊のアキの後ろを必死こいて追いかける僕。
何度も戻ろうって、謝りに帰ろうって呼びかける声なんて聞きやしなかった。
そのあと、僕は"偶然にも巻き込まれた"。
風神の家を恨んでる人による誘拐事件の被害に"巻き込まれた"のだ。
どこで情報が入れ違ったのか。
それとも、間違いなのではなくて。
国防海軍でも名のある<今地>なら両家とも動くだろうと考えての事件だったのか。
今となってはわからない。
分からないけれど、まだ心が成長しきれていないアキには十分過ぎる出来事。
事件後、暗闇がダメになった僕の姿を見て、アキは、己の弱さをくっつけて悔やんで。
女だから狙われた。
女だから弱いと思われた。
ならば、男として過ごせば。男ならば舐められない。少しでも強く生きていられる。だから──
僕は<今地 操生>になった。
暗闇に恐怖をするようでは艦隊乗りなんかになれない。
僕が海に出られなくなった過去という事実に、アキは負い目を感じている。」
(間)
N壱:風神は、顔を俯かせた。そして、肩を震わせながら声を漏らす。
明「……じゃあ、どうすればいいのだ。どうすれば、上手くいくんだ?」
操生
「だから、さっきから言ってる。頼ってくれよ。特攻ばっかじゃ上手くいかない。頭脳面でなら力になれる。僕を頼ってくれよ」
明「……頭脳面で……、そうか、わかった。熱くなって、すまんかった」
操生
「お、おう。わかってくれたなら、良いんだよ。……ほら、立てよ。僕も蹴り飛ばして悪かった」
明「ああ、」
操生「よっと!!うはっ、おまえ重いなぁ」
明「なっ、そんなことないだろっ」
操生
「あるよ。おまえ、自分がどんだけゴリラか分かってないだろ。……中等部のころは可愛かったのに」
明「その話は持ち出さんでいいっ、黒歴史だっ」
操生「ごめんって、拗ねるなよ」
N壱:拗ねた顔する風神を見て、吹き出し笑いをした今地。内心、こうやって再び親しくできる日を強く望んでいたこと。その望んだ状況になれた現実を噛みしめた。
明「それで、どうする?」
操生「うーん、やみくもに走ったところで僕たち、方向音痴だろ?」
明:心の声セリフ
《そんなに方向音痴じゃない!と言い返したいが……実際、後輩たちを見つけられていないから間違いではないか……》
操生
「やっぱ、別行動することになった場所から探すべきだとは思う。アキの後輩くんたちと別れたのは中流部だったよな?」
明「おう、そうだ」
操生「このまま、舗装されてる道から登ってって外職には見つからないように後輩くんたちと合流しようか」
明「りょーかいした」
操生「あ、そのまえに。おまえは刀は隠しておけよ?背中とかにでもいいから」
明「なぜだ?」
操生
「あのなぁ、今回の行動では、実戦的な道具の所持は禁止って話だったはずだ。もし、外職の人たちに所持がバレたら、のちのち面倒になるかもだろ?教官には叱られるだろうけど。
……な・の・に、おまえが木刀入れに真剣なんて入れてくるから──」
明「わかった!わかったから、小言は止してくれ!」
N壱:脇差をワイシャツの内側に隠す風神。だいぶ、何かを入れてます感があるものの。背筋を伸ばすための道具だと誤魔化せば……、いや、無理がある。
操生
「(ため息)……さて、今の時刻はヒトヒト ニーロクか。目標は正午まで。それまでに見つからなかったら他の作戦で行こう」
明「了解だっ」
N壱:意気揚々と目的の場へと歩き出す。
(間)
──森林公園の中流部。
語厘「おーい、クニサキっ!國崎 詩暮ー!」
N弍:風神の後輩にあたる黒軍二年生・瀬応語厘は頭を掻いてため息をついた。すると、傍の低木が揺れて一人の女子学徒が姿を現した。
羽梨「……にぃ、こっちにもシグくん、いない」
語厘「えー、マジかよー。羽梨ぃ、お兄ちゃんは疲れましたー」
羽梨「うゆっ……、にぃ、ぎゅうされると苦しい……」
N弍:髪の毛に葉っぱが絡まった状態で長身の語厘に抱きつかれた女子学徒は、彼の双子の妹・瀬応羽梨である。
今は、別行動した同期の國崎と合流しようと本人を探していたようだが……
語厘
「たくよぉ、どこに行ったんだよ。
この辺りで見つけたヤツを縛りあげるように言って合ったはずなのによー」
羽梨「……まさか……、また刺されてたり……?」
語厘「はははっ、まさかぁ?いくら編入してきてから怪我ばっかしてるからって」
羽梨「シグくんの、噂は独り歩きがすごいから……もしかしたら、倒れてるかも……」
語厘「あのー、羽梨さん、不安になるようなこと言わないでくれる?」
羽梨「かもしれないって……話だよ……?」
語厘「……だぁーーー!めんどうくせぇ!はぐれたりすんなよ!歩きなれてないクセに!」
羽梨「心配……見つけてあげなきゃ……」
語厘「(ため息)……羽梨に心配させるとか最低じゃん。つーか、無事だったら食堂で一週間は昼メシ奢ってもらお」
羽梨「カスタードプリン、食べたいな……」
語厘「それも國崎に奢らせようぜー」
羽梨「うん……」
語厘「つーことで、再開すっかー」
N弍:語厘に背中を押され、頷く羽梨。
何だかんだ文句を言いつつも探すくらいには信用しているようだ。
(間)
──またまた森林公園の別の場所。
國崎「……はぁーっ、はぁーっ……な、何が起こっとるんやぁ……」
N参:太い幹に背中を預け、しゃがみ込む。
さて、ここは森林公園の茂みの奥の奥。
むしろ、上流部の区画で。通常、潜伏訓練にしか使用されないような茂みに國崎詩暮は迷い込んでいた。
國崎:心の声セリフ
《アカーン、完全に迷ってしもうたぁ……ここどこやねん!けど、あんましウロウロしとると面倒なことになるかもしれへんし……!》
N参:周囲に気を張る國崎。最初こそ瀬応の双子と手分けしての捕縛作業だったにも関わらず。奥の方へと駆けていく人の気配を追った結果が今である。
國崎「……はぁ〜、ふぅー……」
國崎:心の声セリフ
《深呼吸して、気持ちを整えたろ。
うん、大丈夫。……さて、監督の教官かと思って後を追ってみれば人違いで……バレる前に逃げてきたわけやけど。
さっき、見かけたお人らはこの島では見ない顔やったな。軍服の色も、島のお人らとは違う。
ちゅうことや、あのお人らは本土の軍人なわけで。ワイのことを悪くするような存在やないのかもしれへん……》
國崎「(小声)……うーん、逃げてきた手前……どないしよ……」
N参:地面に胡座をかいて、脳内で考えや行動を捏ねくり回す國崎。そして──
國崎「(小声)んにゃ、まずは風神はんと、瀬応のにぃやんに連絡や。
んで、場所伝えて、合流できそうならしてもろて……ん?えぇっ……う、嘘やろぉ……」
N参:端末の充電はほぼ満タン。しかし、電波状況を現すマークにバッテンマークがついており、ついには圏外という表示に切り替わった。
國崎「け、圏外やと……??」
N参:わなわなと唇を震わせる。しかし、諦めきれない國崎は。
國崎「せ、せや!振ってみたらエエやん!んで、高い所に置いてみたりして……んんっ、戻らんかぁ……!」
N参:木に登ってまで、電波を取り戻そうとしたもののダメだったようだ。
肩を落として、悶々と思考する國崎。すると、茂みを揺らす音。複数人いるであろう気配を察知した。
國崎:心の声セリフ
《おっとぉ、今度こそ本土の軍人さんらか?堂々と降りるべきか、否か……》
N参:保護とまで行かないが、帰る道くらいは教えて貰えるかもしれない。そう、考えたものの。とりあえずは、降りても大丈夫な相手かを探ることにした。
憲兵A「まったく、とんでもない作戦だな」
憲兵B「そうですね。まさか、ホシの存在が潜伏していそうなところを集中的に襲撃することに話が落ち着くなんて」
國崎:心の声セリフ
《はーん、襲撃ね。なーんも武装しとらんワイとか在校生のことはなんも考えとらんやんけ。いや、そもそもの話。何で本土の軍人が居るんや?》
憲兵A「まあ、その替わり。自分たちは、こうやって上流部に逃げたであろうホシの確保で済むわけだしな」
憲兵B「でも、油断は禁物。この視界不良で奇襲を受けたら士気が狂います」
憲兵A「もちろん。気を引き締めちゃいるさ」
國崎:心の声セリフ
《なるほどなぁ……、つまりは、この島ン中に本土のお人らが追っとる存在がおるわけやな。で、ここは上流部と。ワイも厄介なところに迷い込んでしもたなぁ……》
憲兵B「ですが。ひとつ懸念が」
憲兵A「なんだ」
憲兵B「先程から気絶はしていますが『トリ』の姿を目撃します。もし、封鎖が完全でない場合……」
憲兵A「まあ。そうだな。巻き込まれるだろうな」
國崎:心の声セリフ
《ははぁーん?巻き込まれる前提の話かいな。そこは、上手い具合に避難誘導とか……無理やな。よりによって公園の中に残っとるのは黒の在校生なわけやし……教官だって手を妬くんやし、素直に言うこと聞くわけないわ……》
憲兵B「……この島って、予備兵の育成校ですよね?」
憲兵A「一応な。けど、やってる事は自分たち本土のヤツらよりヤベぇ事だって聞くぜ」
憲兵B「どれほど、ヤバいのでしょうか」
憲兵A「何せ、我らの小隊長が卒業した学園だしな、いろいろぶっ飛んでる側面はあるだろよ」
憲兵B「それって──」
憲兵A「静かに。……誰かいるのか」
N参:上官から伸ばされた腕によって、言葉を遮られる部下。
國崎も異変に気づき、目を凝らせるだけ凝らした。
國崎:心の声セリフ
《なんや、あっちの岩場に人でも居るんか?でも、こっちのお人らとは雰囲気がえらいちゃう気がするんのはワイだけか?》
憲兵A「!?、総員っ、伏せろっ!!」
N参:上官の警告する声。炸裂した爆破音。聴こえていた話し声までもが巻き込まれた。悲鳴、呻き声に混じってバチバチ、バチッバチッ…、燃える草木。辺り一帯に煙が充満し出した。
國崎「っ……、煙で、目がっ、しみるっ……」
憲兵A「ぶはっ!!……イノウエ!生きているか!!」
憲兵B「ゲホッゴホッ、……りく、そうちょ……」
憲兵A「イノウエ!無理に喋るな!
《これ以上の、作戦継続は無理だな……》
……総員に告ぐ!動けるものは、足下に注意し!退避せよ!!」
國崎:心の声セリフ
《な、何が起こったんや……。突然、爆発したように見えたけど……いや、もしかしたら仕掛けられてた罠ってやつなんか?この茂みやし、あり得ん話でもあらへんけど……》
N参:部下を抱え上げた陸曹長は、耳につけている通信機で現状を報告し始めた。
憲兵A
「こちら、先攻班、作戦室きこえるか。……ヒトヒトサンナナ、目的地付近にて爆発、負傷者多数、退避行動の許可を。おくれ」
憲兵B「そぅ、ちょ……ほかの、たいいんは……」
憲兵A「おまえが、最優先だ。意識だけは飛ばすな。……先攻班、了解。撤退します」
國崎:心の声セリフ
《自力で動ける人が、いち、にー、さん……あー、動けへん人が居るんか。
これ、ワイが手伝うって言うたら一緒に下山できへんかなぁ?このまま居っても戻れへんし、提案してみようかー》
N参:身軽に木から飛び降りる國崎。着地した衝撃で、茂みが揺れる。
警戒する先攻班の外職たち。國崎は、両手を挙げながら声を発した。
國崎「あのー、ちょっとエエですかぁ」
憲兵A「!?……おまえは、『トリ』か?なぜ、ここに居るんだ」
國崎
「あー、事情はいろいろあるんですけど。
正直な話。ワイ、迷子になってしまって困っとるんです。そちらさんも、大変やろ?ワイで良ければ一人くらい運びますんで一緒に下山を──」
憲兵A「おまえを信じろと?あきらかに、隠れていただろ。この爆発もおまえが仕掛けたのか」
國崎
「いやいや!ちゃいますよ!ほら、見て!ワイ、縄とハサミ、ガムテープしか持ってへん!……あ、だいぶ不審やな、これ……」
N参:信用してもらおうと、所持品を見せたが分が悪い。爆発のあとで人を拘束できそうな道具しか持っていない國崎の信用度は地の底からスタートである。
憲兵A
「そもそもだ。おまえ、なぜ退避していないんだ。この森林にいた『トリ』に指示は出したはずだぞ」
國崎
「えっと、指示って何のことです?ワイ、このとおり端末が電波なくて使えへんのです」
憲兵A「……ますます怪しいな」
國崎「いやいや!マジもんに迷子なんですって!」
憲兵B「そうちょ……ダメです、トリにてだし、しては……」
憲兵A「わかっている!」
國崎「あ、じゃあ止血作業だけはさせてください。ここが上流なら、下山するまでに三〇分は必要なはずやし……どうです?」
憲兵A「少しでも、不審な動きをしてみろ。鉛玉を撃ち込むからな」
國崎「あはは……、」
N参:緊張しながら震える指先で負傷した『外職』たちの傷を縛って、止血していく。腹から血が出ている人の場合は、ガムテープでグルグルにした。
國崎「ちょい、ぎゅってしますわ」
憲兵B「なれてます、ね……」
國崎
「そうですかぁ?でも、医療部の学徒さんに比べたらワイの出来ることなんて素人ですし〜」
憲兵B:心の声セリフ
《血に怯える様子もない……。やっぱり、この島にいる『トリ』って本土の自分たちより……》
憲兵A
「……おまえの手際の良さからして、害はないように見える。だが!まだ信用するには値しない。……『トリ』、名前と所属は?」
國崎
「ふぅ……、え?ああ、ワイは國崎いいます。ここの在校生……えっと、黒軍の高二生なんやけど、まだ島に来たばかりで知らんことが多いんよ」
憲兵A「それが、さっきの言い訳に使っていた事情というやつか」
國崎「そうです」
憲兵A「わかった。クニサキか、覚えた。自分は、トヨシマ陸曹長。この班の班長を任されている」
國崎「トヨシマ陸曹長はん、把握ですー」
憲兵A「よし、互いに名乗ったな。これで、裏切りでもしたら容赦しないからな」
國崎「あはは……、(小声)おっかないお人やなぁ……」
憲兵A「クニサキ、おまえはあっちの班員を頼むぞ」
國崎「はーい、りょうかいですぅ」
N参:言いたいことは山のようにある。
そんなオーラを出しながらも陸曹長の結論は、一旦、國崎を信用するというものだった。
國崎は、自分と体格が同じくらいの外職に手を貸すことで撤退行動に加わることに成功した。
(間)
───その頃。
N壱:ここは、外職たちの野営テント。
通信部の連絡を受け、すぐに先攻班に撤退することを指示した諭だったわけだが、かなり難しい表情していた。
諭:心の声セリフ
《まさか、爆発物まで使ってくるとは……。まだ、鉛玉とかなら在校生から奪ってということも考えられるが、爆薬の類いは私の在校時代から変わっていなければ、地下の備品庫のはずだ。
あそこは在校証明のカードキーか、この島の師団在籍者が持っているモノしか開けられないはず……》
諭「この島の所属に……、内部犯でも居るのか?」
N壱:自分が発した予測に嫌気が差して、眉間にシワが寄った。
ぎっ……とパイプ椅子の背もたれにもたれ掛かって、ため息をつく。そんな諭の近くを通る陸士が居た。
諭「サクマ陸士長、貴官はどう思う」
陸士長「はっ!はいっ、何でありましょう」
諭
「今しがた先攻班が倒れた。そして、現時刻をもって替わりとしてカセン二曹の率いる班に向かわせている。貴官なら、この状態をどう判断する?」
陸士長「えっと……自分ならば、錯乱させる為の陽動と捉えますっ」
諭「陽動と?」
陸士長
「はいっ、自分が逃げる側ならば追手を巻くために攻撃をしながら追う人員を減らし、他の作戦域の人員を動かさせるかと!」
諭「……そうか。陽動な」
N壱:ふむ、と考え込んでしまう諭。呼びかけられた陸士長は、終わり?立ち去ってもいい?と戸惑った。そして、立ち去ろうとする陸士長に対して──
諭「サクマ陸士長、現場に向かうぞ」
陸士長「え?」
諭「貴官と、他 数名の陸士を同行させる。貴官は、私の補佐役だ」
陸士長「えっ……!?」
諭「なんだ、異論でもあるのか」
陸士長「いっ、いえ!なんでもありません!支度いたします!」
陸士長:心の声
《逆らえるわけない!けれど、自分は通信専売で実戦 向きなんかじゃないのにー!》
N壱:慌てた様子で背中を向けて立ち去った陸士長。
諭は、その姿にため息を吐く。立ち上がり、腰に愛刀を差して。迷彩帽を目深く被った。
(間)
國崎:心の声
《人をおぶって山道は案外、堪えるもんやなぁ……。一人で歩くんとは大違いやわ》
N壱:人を背負って修練することは何度かあれど。
それは、同期とギャーギャー騒ぎながらのことであってお遊びみたいな面があった。國崎は背負い方、呼吸の仕方を工夫しながら疲れないように意識する。視線をあげる。
憲兵B「……ぐっ……うぅ……」
憲兵A「イノウエ、すまん。足場が悪くてな。だが、体勢は崩さん。大丈夫だ」
憲兵B「あの、あしが……」
憲兵A「痛いのか。だが我慢だ。あの『トリ』がしっかり縛ってくれたから血は止まっている」
憲兵B「それは、はい……見てたので……あの、そぅちょう、具合は……」
憲兵A「私は問題ない。貴官が庇ってくれたからな」
憲兵B「そぅ、ですか……」
國崎:心の声
《こまめに声をかけとる。なーんか、意味があるんやろうか。意識確認?ワイもやったほうがええんかな》
憲兵A「動けるものは、周囲に警戒して進んでくれ!」
國崎:心の声
《よし、考えるよりやってみろ、やで》
國崎「なあ、お人はあの陸曹長はんについて長いんか?」
N壱:國崎は、任された班員に声をかけてみる。しかし、呼吸音が返ってくるばかりだ。班員の人数は、十五人。負傷者を背負う隊員の列は、陸曹長を先頭に六列。左右、前後に銃を構えて軽傷の隊員が指示通りに警戒している。
國崎:心の声
《……このお人。しゃべる気力はあらへんのか、残念やな。あー、茂みの青臭さ、熱風で意識も遠のきそうやし……空の青さばっかりや……》
國崎「なあ、お人。大丈夫かぁ?傷の調子は……うぉっ、な、なんや!?」
N壱:へこたれずに声をかけてみる。だが、急に背中の圧が変わって驚く國崎。聞こえるのは、ヒューッ、ヒューッ……という呼吸。
國崎:心の声
《これ、気絶しよったやつや!!めっさ、重い!!》
N壱:國崎は、歯を食いしばり、背負い方を整えた。気絶しているということは、筋肉の重さばかりがのしかかる。それでも、足を進める。少しでも早く下山することを優先したい一心であった。
(間)
──一方のその頃、今地たちは
明「……ダメだな」
操生「うん、全然だね」
明「今地、いまは何時だ?」
操生「えっと、ヒトヒト ゴーロク……目的の時間まで四分だ」
明「で、おれたちがいる場所って?」
操生「……たぶん、中流部の辺りだとは思うんだけど……」
明「おれの後輩たちは?」
操生「見つかってないね」
明「ダメじゃないか!!」
操生「だから困ってるんだろ!?」
明「どうするんだ!!」
操生「もういっそ、電話でもかけてみなよ!!」
明「この電波が弱いところでか!?」
操生「一か八かって言うだろ!!」
明「それもそうだな!わかった!!」
N肆:今地の提案に言葉のアヤくらいの勢いで頷いた風神は、めずらしく持ち歩いていた学園支給の端末を取り出す。画面にはヒビがはいっている。
明「で!どうかければいいんだ!」
操生「くっ……そうなると思ったよ!ほら、貸してっ」
明「うむ!頼んだ!」
操生「えっとー、名前はなんて登録してる?」
明
「たしか、語厘だったか?いや、瀬応の兄だったはずだ!」
操生
「わかった。か行……には、登録してないか。じゃあ、さ行で……あった。じゃあ、かけてみるから」
明「うむ!」
Nシ:今地が替わりにかけるが、やはり瀬応である。すぐに応答するわけがない。呼び出しのコールが五周した頃で……
語厘
『もしもーし、隊長さんー?』
羽梨
『隊長さん……無事……?』
明「おお!よかった!ちゃんと応答したな!」
操生「うるさっ、僕の耳元で声を張るなよっ」
語厘
『あー、やっぱり今地の特隊生さんと一緒か〜』
羽梨
『隊長さん……機械オンチ……』
操生「ほら、アキ。端末返すから自分で話しなよ」
N肆:嫌な顔をしつつ端末を風神に渡す今地。端末を受け取るも気分が高まったままで電話越しに問いかけた風神。
明「語厘っ!羽梨!無事か?今、どこにいる!?」
語厘
『うーん、俺らは無事だよ。たぶん、中流部の奥側じゃないかな。海の音が近いし』
明「そうか!」
語厘
『でもね』
羽梨
『……シグくん、はぐれちゃった……』
語厘
『っていうことー。かれこれ一時間はさっきから探してるんだけど、合流できなくてさ』
明「なにっ!?國崎が??」
操生「え、どうしたの」
明「……瀬応の双子と、國崎は別行動をしてるようだ」
操生「うわぁ、じゃあ國崎を先に見つけるべき?」
語厘
『たぶん、見つけらんないと思うよ』
明「なぜだ?」
羽梨
『……羽梨たちの近く、人の気配がするの……』
語厘
『そう、そういうこと。まだ國崎が森林公園に居るなら、早々に人の気配がするほうに行くはずだし、場合よっては一緒に行動してるかもね』
明「つまり、合流する頃には『外職』の世話になっているかもしれんというのだな?」
語厘
『そういうことー。まあ、悪いけどさ』
明「なんだ?」
語厘
『また、会うときはケガないようにってことだけで──』
N肆:語厘の言葉が、風神に届くか届かないかの瞬間。ガチャンッッ、衝撃の音が重なり、ザザザザッ……という雑音ののち、通話は切断された。
明「語厘?!おい、もしもし!どうして、切れたんだ!」
操生「あきらかに、何かに巻き込まれたって感じだったけど……」
明「行くぞ!今地!」
操生「なっ、待てって!そうやって当てずっぽうで向かったところで迷子になるだけだろ?!」
明「じゃあ、どうしろというのだ!!」
操生「も、もう『外職』に任せて、僕らは撤退するしか……」
明 「ならん!!それは、絶対にダメだ!!」
操生「じゃあ、どうするっていう──」
諭「考えナシの行動は身を滅ぼす」
操生「えっ……」
明「なっ!?」
諭「作戦行動の基本のキだ。なぜ、その学年になってまで理解していない?『トリ』のレベルは落ちるとこまで落ちたということか」
N肆:いつのまにやって来たのだろうか。
言い合いをする今地と風神に淡々と言葉を投げつけるのは、風神家の長男・諭だった。もちろん、一人ではなく背後に部下を数名連れ立っての登場である。
明:心の声セリフ
《よりによって、諭にぃさんと鉢合うとは!?》
諭
「それで?なぜ、ここに『トリ』が居る。
先程からコソコソと動き回っているものがいると報告は受けていた。……しかし、この地区で動いていた『トリ』には退避命令を既に下したはずだ。なのに、まだ残っている貴官らは──」
(間)
諭「我々の指示に従わなかったという判断で間違いないな」
(間)
N肆:諭の鋭い眼光と、淡々とした物言いに息を呑む風神と今地の二人。
不穏すぎる通話の終わりを後輩と迎えてしまった分、早く立ち去りたいのもやまやまだが。あきらかに逃げられそうにない。
風神の五人兄弟のうち、三年間も仲違いしていた長男と末っ子の再会。
しかし、最悪のパターンである。
なにせ、諭が目の前の二人の正体に気づいていない。
操生「あ、あの!失礼ながら僕らは、何も聞いておりません!」
諭「ほう?では、その手に握っている端末には何も届いていないと?」
操生「はいっ、お疑いになられるのでしたら確認してくださって構いません!」
諭「そうか。サクマ陸士長、代わりに確認を」
陸士長「はいっ、……お二方、端末 確認させて頂きます」
N肆:部下(陸士長)に指示を出し、端末を受け取らせてメールの受信ボックスを改めさせた。警戒を解く様子もない諭。
諭「では、貴官らにはいくつか聴取を」
明「ちょ、聴取??なんでだ!おれたちの何が疑わしいのだ!」
諭
「……貴官は、仮にも予備兵とは思えん言葉遣いだな。私や、待機している部下たちは正規の国防官だということを忘れるな」
明「し、しかし……」
操生「アキ、落ち着け。それと、ちょいこっち」
明「な、なんだ?」
N肆:目の前でコソコソと耳打ちをしだす今地と風神。諭は、ただ無表情に待ってくれている。
操生「(耳打ち)……諭さん、気づいてなくない?」
明「(耳打ち)……うむ、気づいてないようだ」
操生「(耳打ち)……どうするよ。このまま、疑われたまんまでいるのは分が悪いと思うけど?」
明「(耳打ち)……そうだな。早めに名乗って、正体をバラして解放してもらおう」
操生「(耳打ち)……だな。それには賛成」
諭「情報の照らし合わせは済んだか?」
操生「はい、もう大丈夫です」
明「先程は、失礼しました。おれらは、偽りなくお答えします」
N肆:正面に向き直って、真っ向勝負にでることした二人。
ちょうど、端末の内容を改めていた陸士長が操生たちに端末を返した。
陸士長「報告します。内容を改めたところ、該当のメールやメッセージは見当たりませんでした」
諭「そうか。サクマ陸士長、ご苦労。
……貴官らの言うとおり、退避の指示は手違いで届いていなかったようだな。まあいい。聴取を始めさせてもらう」
N肆:どんな質疑応答になるのか。喉を鳴らす今地と風神であった。
前半部分 おしまい。
話は続きますので、よろしければ。
後半部分も、よろしくお願いします。
2022年12月30日(金) 掲載日