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【自己解釈 学生戦争】三津ヶ谷学園物語。【声劇台本】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ メイン軸の台本
35/37

【七人用】黒軍編・第七話⇒繋げ、団結(きずな)。中編【声劇 台本】




こちらのページは!


黒の七話/繋げ、団結きずな。中編

▶全通し版のページとなっておます。



全体の上演時間(目安)▶95~100分



当台本は、比率・男声4人:女声3人の7人用です。


※作者オススメの配役表/登場キャラクターの紹介などは前ページの『登場キャラなど』をご覧ください。


────────────

【注意事項 ※再度、載せます。】


▷当台本の自作発言❌、転載❌、登場キャラの性転換❌


▷不特定多数が聞くライブ配信・録音の全体公開などのキャプション、説明欄、固定コメントを使って『台本タイトル』『作者名』『上演つかうページのリンク』の掲載をお願いします。


──その他、詳細なお願いもございます。【台本利用上のお願い】に目を通してくださいませ。



▷ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。


場合によっては、振り直していないこともあります。


(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)


それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ



────────────

─────────



語厘「三津学みつがく黒軍くろぐんで、二〇八〇年の五月が始まってからのあらすじ〜」

「えっと……(カンペ見つつ)

東乱第一とうらんだいいちに配属されてから一ヶ月するかしないかくらいで、海遊び中に國崎くにさき詩暮しぐれは私物を盗難されてしまう。」


操生

「(カンペ)そこから、中等部のおさがり制服での生活が余儀なくされる國崎。

同時期に。黒の在校生 以外にも盗難の被害が出ていることが判明。特隊生の大汐おおしお今地いまじが率いる盗難犯 捕縛作戦のグループへと加入することになった東乱第一とうらんだいいち

そこから関わりの輪が広がっていく。」


「(カンペ)活動開始となるや否や。

悪天候が原因で島に国防海軍が一時的に停泊、上陸した。今地の長男が乗っているふねであった。

今地の長男は、何やら意味ありげに本土の情報を風神かぜかみめい今地いまじ操生みさおに与える。」


國崎

「(カンペ)そんな来島者と三年生らの会話など知らずにパソコンで盗難犯たちの情報を探っていた瀬応せのうの双子と國崎。ネットの海から怪しげな内容を見つけ出し、それを例の作戦グループへと提供。後日、捕縛作戦が決行される。」


語厘「……羽梨ー、出番だけど読めそう?」


羽梨「……カンペの内容、長いと、息続かない……」


語厘「じゃあ、はしょっちゃって〜」


羽梨「うん、そうする……えっと、つまり、今作は作戦が大詰めってところで……いろいろ起こるよって話……」


語厘「そういうことー」


國崎「急に手ぇ抜くなや!」


明「尺の問題だな!」


國崎「せやから!メタいんやって!!」


操生「まあ、始めよっか(苦笑)」



(間)


〜タイトルコール〜


諭「自己解釈じこかいしゃく学生戦争がくせいせんそう三津ヶみつがや学園物語。」


花箋「黒軍編くろぐんへんの、第七話ぁ〜」


諭「……『繋げ、団結きずな』の中編だ」


花箋「キズナって、もろいし頼りなさげな感覚だよねぇ まあ、協力して解決すれば万々歳だけど〜」



(間)


【序】


N肆:森林公園の下流部。

既に妖島ようじまの内部へと行軍し、作戦行動を開始している本土の憲兵こと『外職げしょく』の隊員たち。

そんな隊員を率いるのは、風神かぜかみ めいの長兄である風神かぜかみ まなぶだ。

──隊列を組む部下たちの前に立って、声を張るまなぶの姿があった。



「ヒトヒト ヒトゴー、これより第二作戦を開始する。すでに二班と三班が行動開始しているが、貴官きかんらには中流部の警備にあたってもらう。

……本作戦でホシの存在を必ず捕らえ、下っ端の存在には吐かせるだけ、ネタを吐かす。そして、命を持ってつぐなってもらう」



N肆:なんとも物騒な発言がなされたわけだが、そんな彼の前に一歩出た女性隊員が声を張る。



花箋

「海軍および この島の特務 師団にもご助力 頂いた作戦だ!失敗は許されん!!こころしてかかれ!

──総員!行動 開始!!」



N肆:見事に揃う敬礼と返事の声。

敬礼ひとつにしても、島の在校生なんかとは比にならない。

これが『外職げしょく』である。行動を開始するとともに、立ち去っていく隊員たち。



諭「……無事に、終わってくれればいいのだが……」


花箋「なぁに、ボヤいてんの〜」


諭「なんだ。居たのか」


花箋「うわぁ……あたいに号令、言わせたくせに白々しい〜」



N肆:尚、先程の女性隊員と同じ人物である。

ニマニマと顔を緩ませながらまなぶに絡む。しかし、ため息をこぼして告げる諭。



諭「貴官きかんも、立場あるものだろ。日頃の行いをチャラにできる機会だ。さっさと行動を開始しろ」


花箋「はいはーい。まなぶ中尉ちゅういの言うとおりに〜」


諭「……しゃんとしろ。その口、縫いつけるぞ」


花箋「あっはは〜、怖〜。まあ、ちょっくら行ってきますよーだっ」



N肆:まなぶの鬼のような睨みに怯むことなく。むしろ、ケラケラと愉快だと笑う下士官かしかん花箋かせん二等陸曹にとうりくそう

彼女は、所謂いわゆるお調子者というやつなのだ。上官をからかうも『あたい達も、行くよーん』と自分の部下を引き連れ、立ち去る。

諭は、彼女の後ろ姿にため息をついて作戦・通信室として使う野営テントへと入っていった。



(間)


【弐】



明・語り

「急げ、急げと気持ちが早る。

何も悪いことはしていない。憲兵に世話になるようなことなど。しかし、あの兄が率いる部隊となれば話は別だ。とにかく兄より先に後輩たちを見つけ、撤退しなきゃいけない。東乱とうらんの名に属する後輩くらいは守りたい。その一心で山道を駆ける。」



N壱:先頭を突っ走る風神かぜかみめいの後方で、息を切らすセーラー服にスラックス姿の学徒──今地いまじ操生みさおは絶え絶えの息のあいだで風神かぜかみの愛称を呼ぶ。



操生「あ、アキっ!ちょっと待てっ、」



明・語り

「背後から今地いまじの声がする。けれど、こんなとこで足を止めて時間をロスするわけには行かない。

もっと、速く。後輩たちの居場所をつきとめなければ。」



N壱:今地の声を無視して、尚、加速しようと踏み込むめい。それに対して、操生みさおは──



操生「こっのっ、いのししがぁ!!」


明「うおっ!!……ぐはっ、うぅ〜〜〜……」


操生「ばかアキ!おまえの、悪いところはそういうとこだ!!」


明「い、今地いまじっ!何なんだ!急に蹴ったりして!!」


操生「蹴りたくもなるだろ!!おまえ、走り出してから僕のこと気にする素振そぶりさえも ないのは何なんだ!そんなに役立たずか!?」


明「や、役立たずなんて言っとらんだろ!」


操生「おまえ、変なんだよ!『外職げしょく』を目撃してから!相談もナシに一人で走り出して!

突っ走ることしか脳のないおまえに、まなぶさんが相手にするとでも?!」


明「まなぶにぃさんのことを話題にだすのはずるいだろっ!」


操生「ずるくて結構!それで、おまえが僕を頼る気になるのならな!」


明「ッ、違う!頼るとか頼らないとかじゃなくてな!おれが受け持っている隊の後輩なんだ!オマエに迷惑がかからんように、おれ一人で済ませれば問題ないと思ったのだ!だから──」


操生「そういうところが大嫌いなんだよ!!」


明「ぐッ!!」



N壱:拳骨げんこつが落ちた。地面に尻もちを着いたまま、戸惑った顔で見上げることしかできないめい

声を荒らげたことで昂った気を少しでも落ち着けようと息を吸って吐いて、不意に苦笑いした操生みさおは──




操生「まったく変わってなくて笑えてくるよ。おまえは、何でもひとりで背負い込んで。そうやっていつも僕を遠ざける……」


明「ッ、……今地いまじ……」



(間)



操生・語り

「ふと、思い出す。五年前のこと。

アキのお兄さんこと、長男のまなぶさんと大喧嘩した日。


十二歳だった。

風神かぜかみの家に遊びに行っていた僕は、進路のことでアキと話していた。


海に出るなら、とか。

陸にも良いとこはある、とか。


すると、どこからともなく急に話に割り込んできたまなぶさん。

彼は、軍に関わるのは許さないと、反対してきた。

アキに対して強く叱責しっせきしたのだ。


五人兄弟の長男。

僕たちより十年、長く生きている諭さん。だからこそ、思うところがあったから反対したんだろうというのは今更になって思う。


でも、僕もアキも末っ子というのもあって家族に甘やかされて育った分、頭ごなしの反対はキツい発言だった。


普段、現職の軍人でもあるから忙しい諭さんからの、急な反対にキレるアキ。

けど、年の差。経験の差。言葉で勝てるわけもない。

淡々と言い返してくる諭さんを、怒鳴りつけて走り出したアキ。


利かん坊のアキの後ろを必死こいて追いかける僕。何度も戻ろうって、謝りに帰ろうって呼びかける声なんて聞きやしなかった。


そのあと、僕は『偶然にも巻き込まれた』。

風神の家を恨んでる人による誘拐事件の被害に『巻き込まれた』のだ。


どこで情報が入れ違ったのか。

それとも、間違いなのではなくて。

国防海軍でも名のある<今地いまじ>なら両家とも動くだろうと考えての事件だったのか。


今となってはわからない。

分からないけれど、まだ幼い僕たちには互いの心が崩れに充分すぎる事件だった。

──誘拐 事件後。暗闇がダメになった僕の姿を見て、アキは、おのれの弱さをくっつけて悔やんで。


僕は、考えた。

女だから狙われた。

女だから弱いと思われた。

ならば、男として過ごせば。男ならば舐められない。少しでも強く生きていられる。だから──


僕は<今地いまじ 操生みさお>になった。


暗闇に恐怖をするようでは艦艇ふな乗りなんかになれない。

僕が海に出られなくなった過去という事実に、アキは負い目を感じている。」



(間)



N壱:めいは、顔を俯かせた。そして、肩を震わせながら声を漏らす。



明「……じゃあ、どうすればいいのだ。どうすれば、上手くいくんだ?」


操生「だから、さっきから言ってる。頼ってくれよ。特攻ばっかじゃ上手くいかない。頭脳面でなら力になれる。僕を頼ってくれよ」


明「……頭脳面で……、そうか、わかった。熱くなって、すまんかった」


操生「お、おう。わかってくれたなら、良いんだよ。……ほら、立てよ。僕も蹴り飛ばして悪かった」


明「ああ、」


操生「よっと!!うはっ、おまえ重いなぁ」


明「なっ、そんなことないだろっ」


操生「あるよ。おまえ、自分がどんだけゴリラか分かってないだろ。……中等部のころは可愛かったのに」


明「その話は持ち出さんでいいっ、黒歴史だっ」


操生「ごめんって、ねるなよ」



N壱:拗ねた顔する明を見て、吹き出し笑いをした操生。内心、こうやって再び親しくできる日を強く望んでいたこと。その望んだ状況になれた現実を噛みしめた。



明「それで、どうする?」


操生「うーん、やみくもに走ったところで僕たち、方向音痴だろ?」



明:心の声

《そんなに方向音痴じゃない!と言い返したいが……実際、後輩たちを見つけられていないから間違いではないか……》



操生「やっぱ、別行動することになった場所から探すべきだとは思う。アキの後輩くんたちと別れたのは中流部だったよな?」


明「おう、そうだ」


操生「このまま、舗装ほそうされてる道から登ってって外職げしょくには見つからないように後輩くんたちと合流しようか」


明「りょーかいした」


操生「あ、そのまえに。おまえは刀は隠しておけよ?背中とかにでもいいから」


明「なぜだ?」


操生「あのなぁ、今回の行動では、実戦的な道具の所持は禁止って話だったはずだ。もし、外職の人たちに所持がバレたら、のちのち面倒になるかもだろ?教官には叱られるだろうけど。

……な・の・に、おまえが木刀入れに真剣なんて入れてくるから──」


明「わかった!わかったから、小言はしてくれ!」



N壱:脇差わきざしをワイシャツの内側に隠す風神。だいぶ、何かを入れてます感があるものの。背筋を伸ばすための道具だと誤魔化せば……、いや、無理がある。



操生

「(ため息)……さて、今の時刻はヒトヒト ニーロクか。目標は正午まで。それまでに見つからなかったら他の作戦で行こう」


明「了解だっ」



N壱:意気揚々と目的の場へと歩き出す。



(間)


【参】


──森林公園の中流部。


語厘「おーい、クニサキっ!國崎くにさき 詩暮しぐれー!」



N弍:風神の後輩にあたる黒軍くろぐん二年生・瀬応せのう語厘かたりは頭を掻いてため息をついた。すると、傍の低木が揺れて一人の女子学徒が姿を現した。



羽梨「……にぃ、こっちにもシグくん、いない」


語厘「えー、マジかよー。羽梨はなしぃ、お兄ちゃんは疲れましたー」


羽梨「うゆっ……、にぃ、ぎゅうされると苦しい……」



N弍:髪の毛に葉っぱが絡まった状態で長身の語厘かたりに抱きつかれた女子学徒は、彼の双子の妹・瀬応せのう羽梨はなしである。

今は、別行動した同期の國崎くにさきと合流しようと本人を探していたようだが……



語厘

「たくよぉ、どこに行ったんだよ。

この辺りで見つけたヤツを縛りあげるように言って合ったはずなのによー」


羽梨「……まさか……、また刺されてたり……?」


語厘「はははっ、まさかぁ?いくら編入してきてから怪我ばっかしてるからって」


羽梨「シグくんの、噂は独り歩きがすごいから……もしかしたら、倒れてるかも……」


語厘「あのー、羽梨はなしさん、不安になるようなこと言わないでくれる?」


羽梨「かもしれないって……話だよ……?」


語厘「……だぁーーー!めんどうくせぇ!はぐれたりすんなよ!歩きなれてないクセに!」


羽梨「心配……見つけてあげなきゃ……」


語厘「(ため息)……羽梨に心配させるとか最低じゃん。つーか、無事だったら食堂で一週間は昼メシ奢ってもらお」


羽梨「カスタードプリン、食べたいな……」


語厘「それも國崎におごらせようぜー」


羽梨「うん……」


語厘「つーことで、再開すっかー」



N弍:語厘に背中を押され、頷く羽梨。

何だかんだ文句を言いつつも探すくらいには信用しているようだ。



(間)


【四】



──またまた森林公園の別の場所。


國崎「……はぁーっ、はぁーっ……な、何が起こっとるんやぁ……」



N参:太い幹に背中を預け、しゃがみ込む。

さて、ここは森林公園の茂みの奥の奥。むしろ、上流部の区画で。通常、潜伏訓練にしか使用されないような茂みに國崎くにさき詩暮しぐれは迷い込んでいた。



國崎:心の声

《アカーン、完全に迷ってしもうたぁ……ここどこやねん!けど、あんましウロウロしとると面倒なことになるかもしれへんし……!》



N参:周囲に気を張る國崎。最初こそ瀬応せのうの双子と手分けしての捕縛作業だったにも関わらず。奥の方へと駆けていく人の気配を追った結果が今である。



國崎「……はぁ〜、ふぅー……」



國崎:心の声

《深呼吸して、気持ちを整えたろ。

うん、大丈夫。……さて、監督の教官かと思って後を追ってみれば人違いで……バレる前に逃げてきたわけやけど。

さっき、見かけたお人らはこの島では見ない顔やったな。軍服の色も、島のお人らとは違う。

ちゅうことや、あのお人らは本土の軍人なわけで。ワイのことを悪くするような存在やないのかもしれへん……》



國崎「(小声)……うーん、逃げてきた手前……どないしよ……」



N参:地面に胡座あぐらをかいて、脳内で考えや行動を捏ねくり回す國崎。そして──



國崎「(小声)んにゃ、まずは風神かぜかみはんと、瀬応せのうのにぃやんに連絡や。

んで、場所伝えて、合流できそうならしてもろて……ん?えぇっ……う、嘘やろぉ……」



N参:端末の充電はほぼ満タン。しかし、電波状況を現すマークにバッテンマークがついており、ついには圏外という表示に切り替わった。



國崎「け、圏外やと……??」



N参:わなわなと唇を震わせる。しかし、諦めきれない國崎は。



國崎「せ、せや!振ってみたらエエやん!んで、高い所に置いてみたりして……んんっ、戻らんかぁ……!」



N参:木に登ってまで、電波を取り戻そうとしたもののダメだったようだ。

肩を落として、悶々と思考する國崎。すると、茂みを揺らす音。複数人いるであろう気配を察知した。



國崎:心の声

《おっとぉ、今度こそ本土の軍人さんらか?堂々と降りるべきか、否か……》



N参:保護とまで行かないが、帰る道くらいは教えて貰えるかもしれない。そう、考えたものの。とりあえずは、降りても大丈夫な相手かを探ることにした。



憲兵A「まったく、とんでもない作戦だな」


憲兵B「そうですね。まさか、ホシの存在が潜伏していそうなところを集中的に襲撃することに話が落ち着くなんて」



國崎:心の声

《はーん、襲撃ね。なーんも武装しとらんワイとか在校生のことはなんも考えとらんやんけ。いや、そもそもの話。何で本土の軍人がるんや?》



憲兵A「まあ、その替わり。自分たちは、こうやって上流部に逃げたであろうホシの確保で済むわけだしな」


憲兵B「でも、油断は禁物。この視界不良で奇襲を受けたら士気が狂います」


憲兵A「もちろん。気を引き締めちゃいるさ」



國崎:心の声

《なるほどなぁ……、つまりは、この島ン中に本土のお人らが追っとる存在がおるわけやな。で、ここは上流部と。ワイも厄介なところに迷い込んでしもたなぁ……》



憲兵B「ですが。ひとつ懸念けねんが」


憲兵A「なんだ」


憲兵B「先程から気絶はしていますが『トリ』の姿を目撃します。もし、封鎖が完全でない場合……」


憲兵A「まあ。そうだな。巻き込まれるだろうな」


國崎:心の声セリフ

《ははぁーん?巻き込まれる前提の話かいな。そこは、上手い具合に避難誘導とか……無理やな。よりによって公園の中に残っとるのは黒の在校生なわけやし……教官だって手をくんやし、素直に言うこと聞くわけないわ……》


憲兵B「……この島って、予備兵の育成校ですよね?」


憲兵A「一応な。けど、やってる事は自分たち本土のヤツらよりヤベぇ事だって聞くぜ」


憲兵B「どれほど、ヤバいのでしょうか」


憲兵A「何せ、我らの小隊長が卒業した学園だしな、いろいろぶっ飛んでる側面はあるだろよ」


憲兵B「それって──」


憲兵A「静かに。……誰かいるのか」


N参:上官から伸ばされた腕によって、言葉を遮られる部下。

國崎も異変に気づき、目を凝らせるだけ凝らした。


國崎:心の声セリフ

《なんや、あっちの岩場に人でも居るんか?でも、こっちのお人らとは雰囲気がえらいちゃう気がするんのはワイだけか?》


憲兵A「!?、総員っ、伏せろっ!!」


N参:上官の警告する声。炸裂した爆破音。聴こえていた話し声までもが巻き込まれた。悲鳴、呻き声に混じってバチバチ、バチッバチッ…、燃える草木。辺り一帯に煙が充満し出した。


國崎「っ……、煙で、目がっ、しみるっ……」


憲兵A「ぶはっ!!……イノウエ!生きているか!!」


憲兵B「ゲホッゴホッ、……りく、そうちょ……」


憲兵A「イノウエ!無理に喋るな!

《これ以上の、作戦継続は無理だな……》

……総員に告ぐ!動けるものは、足下に注意し!退避たいひせよ!!」


國崎:心の声セリフ

《な、何が起こったんや……。突然、爆発したように見えたけど……いや、もしかしたら仕掛けられてた罠ってやつなんか?この茂みやし、あり得ん話でもあらへんけど……》


N参:部下を抱え上げた陸曹長りくそうちょうは、耳につけている通信機で現状を報告し始めた。


憲兵A

「こちら、先攻班、作戦室きこえるか。……ヒトヒトサンナナ、目的地付近にて爆発、負傷者多数、退避行動の許可を。おくれ」


憲兵B「そぅ、ちょ……ほかの、たいいんは……」


憲兵A「おまえが、最優先だ。意識だけは飛ばすな。……先攻班、了解。撤退します」


國崎:心の声セリフ

《自力で動ける人が、いち、にー、さん……あー、動けへん人が居るんか。

これ、ワイが手伝うってうたら一緒に下山できへんかなぁ?このままっても戻れへんし、提案してみようかー》


N参:身軽に木から飛び降りる國崎。着地した衝撃で、茂みが揺れる。

警戒する先攻班の外職たち。國崎は、両手を挙げながら声を発した。


國崎「あのー、ちょっとエエですかぁ」


憲兵A「!?……おまえは、『トリ』か?なぜ、ここに居るんだ」


國崎

「あー、事情はいろいろあるんですけど。

正直な話。ワイ、迷子になってしまって困っとるんです。そちらさんも、大変やろ?ワイで良ければ一人くらい運びますんで一緒に下山を──」


憲兵A「おまえを信じろと?あきらかに、隠れていただろ。この爆発もおまえが仕掛けたのか」


國崎

「いやいや!ちゃいますよ!ほら、見て!ワイ、縄とハサミ、ガムテープしか持ってへん!……あ、だいぶ不審やな、これ……」


N参:信用してもらおうと、所持品を見せたが分が悪い。爆発のあとで人を拘束できそうな道具しか持っていない國崎の信用度は地の底からスタートである。


憲兵A

「そもそもだ。おまえ、なぜ退避していないんだ。この森林にいた『トリ』に指示は出したはずだぞ」


國崎

「えっと、指示って何のことです?ワイ、このとおり端末が電波なくて使えへんのです」


憲兵A「……ますます怪しいな」


國崎「いやいや!マジもんに迷子なんですって!」


憲兵B「そうちょ……ダメです、トリにてだし、しては……」


憲兵A「わかっている!」


國崎「あ、じゃあ止血作業だけはさせてください。ここが上流なら、下山するまでに三〇分は必要なはずやし……どうです?」


憲兵A「少しでも、不審な動きをしてみろ。鉛玉なまりだまを撃ち込むからな」


國崎「あはは……、」


N参:緊張しながら震える指先で負傷した『外職』たちの傷を縛って、止血していく。腹から血が出ている人の場合は、ガムテープでグルグルにした。


國崎「ちょい、ぎゅってしますわ」


憲兵B「なれてます、ね……」


國崎

「そうですかぁ?でも、医療部の学徒さんに比べたらワイの出来ることなんて素人ですし〜」


憲兵B:心の声セリフ

《血におびえる様子もない……。やっぱり、この島にいる『トリ』って本土の自分たちより……》


憲兵A

「……おまえの手際の良さからして、害はないように見える。だが!まだ信用するには値しない。……『トリ』、名前と所属は?」


國崎

「ふぅ……、え?ああ、ワイは國崎くにさきいいます。ここの在校生……えっと、黒軍くろぐんの高二生なんやけど、まだ島に来たばかりで知らんことが多いんよ」


憲兵A「それが、さっきの言い訳に使っていた事情というやつか」


國崎「そうです」


憲兵A「わかった。クニサキか、覚えた。自分は、トヨシマ陸曹長りくそうちょう。この班の班長を任されている」


國崎「トヨシマ陸曹長はん、把握ですー」


憲兵A「よし、互いに名乗ったな。これで、裏切りでもしたら容赦しないからな」


國崎「あはは……、(小声)おっかないお人やなぁ……」


憲兵A「クニサキ、おまえはあっちの班員を頼むぞ」


國崎「はーい、りょうかいですぅ」


N参:言いたいことは山のようにある。

そんなオーラを出しながらも陸曹長の結論は、一旦、國崎を信用するというものだった。

國崎は、自分と体格が同じくらいの外職に手を貸すことで撤退行動に加わることに成功した。



(間)


───その頃。


N壱:ここは、外職たちの野営テント。

通信部の連絡を受け、すぐに先攻班に撤退することを指示したまなぶだったわけだが、かなり難しい表情していた。


諭:心の声セリフ

《まさか、爆発物まで使ってくるとは……。まだ、鉛玉とかなら在校生から奪ってということも考えられるが、爆薬のたぐいは私の在校時代から変わっていなければ、地下の備品庫のはずだ。

あそこは在校証明のカードキーか、この島の師団在籍者が持っているモノしか開けられないはず……》


諭「この島の所属に……、内部犯でも居るのか?」


N壱:自分が発した予測に嫌気が差して、眉間にシワが寄った。

ぎっ……とパイプ椅子の背もたれにもたれ掛かって、ため息をつく。そんな諭の近くを通る陸士りくしが居た。


諭「サクマ陸士長、貴官はどう思う」


陸士長「はっ!はいっ、何でありましょう」


「今しがた先攻班が倒れた。そして、現時刻をもって替わりとしてカセン二曹の率いる班に向かわせている。貴官なら、この状態をどう判断する?」


陸士長「えっと……自分ならば、錯乱させる為の陽動と捉えますっ」


諭「陽動と?」


陸士長

「はいっ、自分が逃げる側ならば追手を巻くために攻撃をしながら追う人員を減らし、他の作戦域の人員を動かさせるかと!」


諭「……そうか。陽動な」


N壱:ふむ、と考え込んでしまう諭。呼びかけられた陸士長は、終わり?立ち去ってもいい?と戸惑った。そして、立ち去ろうとする陸士長に対して──


諭「サクマ陸士長、現場に向かうぞ」


陸士長「え?」


諭「貴官と、他 数名の陸士を同行させる。貴官は、私の補佐役だ」


陸士長「えっ……!?」


諭「なんだ、異論でもあるのか」


陸士長「いっ、いえ!なんでもありません!支度いたします!」


陸士長:心の声

《逆らえるわけない!けれど、自分は通信専売で実戦 向きなんかじゃないのにー!》


N壱:慌てた様子で背中を向けて立ち去った陸士長。

諭は、その姿にため息を吐く。立ち上がり、腰に愛刀を差して。迷彩帽を目深く被った。


(間)


國崎:心の声

《人をおぶって山道は案外、堪えるもんやなぁ……。一人で歩くんとは大違いやわ》


N壱:人を背負って修練することは何度かあれど。

それは、同期とギャーギャー騒ぎながらのことであってお遊びみたいな面があった。國崎は背負い方、呼吸の仕方を工夫しながら疲れないように意識する。視線をあげる。


憲兵B「……ぐっ……うぅ……」


憲兵A「イノウエ、すまん。足場が悪くてな。だが、体勢は崩さん。大丈夫だ」


憲兵B「あの、あしが……」


憲兵A「痛いのか。だが我慢だ。あの『トリ』がしっかり縛ってくれたから血は止まっている」


憲兵B「それは、はい……見てたので……あの、そぅちょう、具合は……」


憲兵A「私は問題ない。貴官がかばってくれたからな」


憲兵B「そぅ、ですか……」


國崎:心の声

《こまめに声をかけとる。なーんか、意味があるんやろうか。意識確認?ワイもやったほうがええんかな》


憲兵A「動けるものは、周囲に警戒して進んでくれ!」


國崎:心の声

《よし、考えるよりやってみろ、やで》


國崎「なあ、お人はあの陸曹長はんについて長いんか?」


N壱:國崎は、任された班員に声をかけてみる。しかし、呼吸音が返ってくるばかりだ。班員の人数は、十五人。負傷者を背負う隊員の列は、陸曹長を先頭に六列。左右、前後に銃を構えて軽傷の隊員が指示通りに警戒している。


國崎:心の声

《……このお人。しゃべる気力はあらへんのか、残念やな。あー、茂みの青臭さ、熱風で意識も遠のきそうやし……空の青さばっかりや……》


國崎「なあ、お人。大丈夫かぁ?傷の調子は……うぉっ、な、なんや!?」


N壱:へこたれずに声をかけてみる。だが、急に背中の圧が変わって驚く國崎。聞こえるのは、ヒューッ、ヒューッ……という呼吸。


國崎:心の声

《これ、気絶しよったやつや!!めっさ、重い!!》


N壱:國崎は、歯を食いしばり、背負い方を整えた。気絶しているということは、筋肉の重さばかりがのしかかる。それでも、足を進める。少しでも早く下山することを優先したい一心であった。



(間)



──一方のその頃、今地たちは


明「……ダメだな」


操生「うん、全然だね」


明「今地、いまは何時だ?」


操生「えっと、ヒトヒト ゴーロク……目的の時間まで四分だ」


明「で、おれたちがいる場所って?」


操生「……たぶん、中流部の辺りだとは思うんだけど……」


明「おれの後輩たちは?」


操生「見つかってないね」


明「ダメじゃないか!!」


操生「だから困ってるんだろ!?」


明「どうするんだ!!」


操生「もういっそ、電話でもかけてみなよ!!」


明「この電波が弱いところでか!?」


操生「一か八かって言うだろ!!」


明「それもそうだな!わかった!!」


N肆:今地の提案に言葉のアヤくらいの勢いで頷いた風神は、めずらしく持ち歩いていた学園支給の端末を取り出す。画面にはヒビがはいっている。


明「で!どうかければいいんだ!」


操生「くっ……そうなると思ったよ!ほら、貸してっ」


明「うむ!頼んだ!」


操生「えっとー、名前はなんて登録してる?」


「たしか、語厘かたりだったか?いや、瀬応せのうの兄だったはずだ!」


操生

「わかった。か行……には、登録してないか。じゃあ、さ行で……あった。じゃあ、かけてみるから」


明「うむ!」


Nシ:今地が替わりにかけるが、やはり瀬応である。すぐに応答するわけがない。呼び出しのコールが五周した頃で……


語厘

『もしもーし、隊長さんー?』


羽梨

『隊長さん……無事……?』


明「おお!よかった!ちゃんと応答したな!」


操生「うるさっ、僕の耳元で声を張るなよっ」


語厘

『あー、やっぱり今地の特隊生とくたいせいさんと一緒か〜』


羽梨

『隊長さん……機械オンチ……』


操生「ほら、アキ。端末返すから自分で話しなよ」


N肆:嫌な顔をしつつ端末を風神に渡す今地。端末を受け取るも気分が高まったままで電話越しに問いかけた風神。


明「語厘っ!羽梨!無事か?今、どこにいる!?」


語厘

『うーん、俺らは無事だよ。たぶん、中流部の奥側じゃないかな。海の音が近いし』


明「そうか!」


語厘

『でもね』


羽梨

『……シグくん、はぐれちゃった……』


語厘

『っていうことー。かれこれ一時間はさっきから探してるんだけど、合流できなくてさ』


明「なにっ!?國崎が??」


操生「え、どうしたの」


明「……瀬応の双子と、國崎は別行動をしてるようだ」


操生「うわぁ、じゃあ國崎を先に見つけるべき?」


語厘

『たぶん、見つけらんないと思うよ』


明「なぜだ?」


羽梨

『……羽梨たちの近く、人の気配がするの……』


語厘

『そう、そういうこと。まだ國崎が森林公園に居るなら、早々に人の気配がするほうに行くはずだし、場合よっては一緒に行動してるかもね』


明「つまり、合流する頃には『外職げしょく』の世話になっているかもしれんというのだな?」


語厘

『そういうことー。まあ、悪いけどさ』


明「なんだ?」


語厘

『また、会うときはケガないようにってことだけで──』


N肆:語厘かたりの言葉が、風神に届くか届かないかの瞬間。ガチャンッッ、衝撃の音が重なり、ザザザザッ……という雑音ののち、通話は切断された。


明「語厘?!おい、もしもし!どうして、切れたんだ!」


操生「あきらかに、何かに巻き込まれたって感じだったけど……」


明「行くぞ!今地!」


操生「なっ、待てって!そうやって当てずっぽうで向かったところで迷子になるだけだろ?!」


明「じゃあ、どうしろというのだ!!」


操生「も、もう『外職』に任せて、僕らは撤退するしか……」


明 「ならん!!それは、絶対にダメだ!!」


操生「じゃあ、どうするっていう──」



諭「考えナシの行動は身を滅ぼす」



操生「えっ……」


明「なっ!?」



諭「作戦行動の基本のキだ。なぜ、その学年になってまで理解していない?『トリ』のレベルは落ちるとこまで落ちたということか」



N肆:いつのまにやって来たのだろうか。

言い合いをする今地と風神に淡々と言葉を投げつけるのは、風神家の長男・まなぶだった。もちろん、一人ではなく背後に部下を数名連れ立っての登場である。


明:心の声セリフ

《よりによって、諭にぃさんと鉢合うとは!?》


「それで?なぜ、ここに『トリ』が居る。

先程からコソコソと動き回っているものがいると報告は受けていた。……しかし、この地区で動いていた『トリ』には退避命令を既に下したはずだ。なのに、まだ残っている貴官らは──」


(間)


諭「我々の指示に従わなかったという判断で間違いないな」


(間)


N肆:まなぶの鋭い眼光と、淡々とした物言いに息を呑む風神と今地の二人。

不穏すぎる通話の終わりを後輩と迎えてしまった分、早く立ち去りたいのもやまやまだが。あきらかに逃げられそうにない。

風神かぜかみの五人兄弟のうち、三年間も仲違いしていた長男と末っ子の再会。

しかし、最悪のパターンである。

なにせ、まなぶが目の前の二人の正体に気づいていない。


操生「あ、あの!失礼ながら僕らは、何も聞いておりません!」


諭「ほう?では、その手に握っている端末には何も届いていないと?」


操生「はいっ、お疑いになられるのでしたら確認してくださって構いません!」


諭「そうか。サクマ陸士長、代わりに確認を」


陸士長「はいっ、……お二方、端末 確認させて頂きます」


N肆:部下(陸士長)に指示を出し、端末を受け取らせてメールの受信ボックスを改めさせた。警戒を解く様子もない諭。


諭「では、貴官らにはいくつか聴取を」


明「ちょ、聴取??なんでだ!おれたちの何が疑わしいのだ!」


「……貴官は、仮にも予備兵とは思えん言葉遣いだな。私や、待機している部下たちは正規の国防官だということを忘れるな」


明「し、しかし……」


操生「アキ、落ち着け。それと、ちょいこっち」


明「な、なんだ?」


N肆:目の前でコソコソと耳打ちをしだす今地と風神。諭は、ただ無表情に待ってくれている。


操生「(耳打ち)……まなぶさん、気づいてなくない?」


明「(耳打ち)……うむ、気づいてないようだ」


操生「(耳打ち)……どうするよ。このまま、疑われたまんまでいるのは分が悪いと思うけど?」


明「(耳打ち)……そうだな。早めに名乗って、正体をバラして解放してもらおう」


操生「(耳打ち)……だな。それには賛成」



諭「情報の照らし合わせは済んだか?」



操生「はい、もう大丈夫です」


明「先程は、失礼しました。おれらは、偽りなくお答えします」


N肆:正面に向き直って、真っ向勝負にでることした二人。

ちょうど、端末の内容を改めていた陸士長りくしちょうが操生たちに端末を返した。


陸士長「報告します。内容を改めたところ、該当のメールやメッセージは見当たりませんでした」


諭「そうか。サクマ陸士長、ご苦労。

……貴官らの言うとおり、退避の指示は手違いで届いていなかったようだな。まあいい。聴取を始めさせてもらう」


N肆:どんな質疑応答になるのか。喉を鳴らす今地と風神であった。



(間)



N五:場所は変わって森林公園の中流部、海沿い側。隊長の風神との通話途中で、何かしら巻き込まれたであろう瀬応せのうの双子は?


語厘「はぁーー……、やべぇ………」


羽梨「にぃ……」


語厘「うん?なんだよ、羽梨。にぃは大丈夫だよ」


羽梨「違う……にぃ、大丈夫じゃない……」


語厘「いや、まあ。大丈夫って言っとかないと気失いそうでさ、ごめんな?」


羽梨「にぃ……羽梨、なにすればいい?人、呼んでくる……?」


語厘「いや。どこにも行かないで、ここに居てな」


N五:この双子の会話だけでは状況が見えてこない。なので、解説するが。

──語厘は、負傷した。

原因は、飛んできた中くらいの石が頭に直撃したからだ。数分前の出来事だが、木々の間で身を潜めながら隊長の風神と通話していた瀬応の双子。しかし、自分たちが居る区画の異変に気づき、通話を切り上げようとしたが間に合わなかったのだ。


羽梨「バンダナ血まみれ……傷のあたり、縛って、血は止めた……けど、動くとダメかも……」


語厘

「そうなんだよなぁ、当たった感じから尖った石っぽいし刺さるだけならまだしも、深く切れてるかもなんだよなぁ

つーか……もっかい、隊長さんと連絡したいとこだけど……」


羽梨「端末、ダメになっちゃった……」


語厘「うーん、落としたときに嫌な音したし。だろうなって感じ」


羽梨「どうしよう……」


語厘「どうすっかなぁ」


花箋「お困りかにゃあ?」


語厘「ッ!?!?」


羽梨「……!!」


N五:驚きすぎて声が出ない双子。

何せ、二人の目と鼻の先にコウモリのように逆さまの姿で『外職げしょく』の軍人が現れたからだ。そう、まなぶに絡んでいた花箋かせん二等陸曹にとうりくそうである。


花箋「なになに?なーーーんで、そんなに驚いてんのぉ?」


語厘「(ツバを飲む)あんた、だ、誰??」


花箋「あたい?あたいは花箋かせんだよぉ」


羽梨「……見たことない……(花箋を指差し)」


花箋「ん?なにが?あ、この色の軍服のことかぁ」


語厘「それ、外の人が着てる服だろ?この島の人と区別できるようにって」


花箋「うんうん、そう言うふうに教えられてるんだねぇ」


羽梨「違うの……?」


花箋「それはね〜、あ、まず降りるねぇ」


語厘「あ、はい」


N五:ぴょいっ…と身軽に地面へ着地した花箋。こう並んでみると羽梨(一五〇 (センチメートル))と身長がさほど変わらないようだ。

花箋は、迷彩服の上に本土の国防 陸軍人が正装としている上衣じょういを羽織るといった出で立ちだ。明らかに目立つがわざとである。


花箋「でねー。この服の色が濃紺なのは〜

(冷たい眼差しになる)

……あだなすものを容赦なくれるように、血の色が目立たないようにする為だよ」


N弍:ゾクッ…、となんとも言えない寒気が双子を襲う。

本能的に逃げ出したくなったのだ。冷たい、突き刺すような眼差し。あのどこ吹く風のような態度が表なのか、裏なのか。分からない。それが、まなぶが率いる部隊の《厄介者》花箋かせん二等陸曹である。


語厘「へ、へぇー……知らなかったよ。そんな裏話があるなんてさ」


花箋「……おや?あんまし、怖がらないのかー。残念。まあ、嘘なんだけどねぇ」


語厘「嘘かよ」


花箋「にゃはは〜、きみん、純粋だねー。あたい、もっと遊んでほしくなるよぉ」


羽梨「……ダメ……にぃ、ケガしてるから……」


語厘「羽梨はなし……」


花箋「うーん?なに、きみんらはキョウダイなのぉ?ペアルック過激派かと思ったよー」


語厘「なんだそれ、……くっっっそ、面白くない」


羽梨「笑えない話、嫌い……」


花箋「あはっ〜、手厳しい〜。こう見えて、あたいのほうが年上なんだけど敬う気ゼロってやつー?まあ、いいんだけどねぇ〜」


N弍:ため息ついた語厘は、まっすぐ花箋を見つめる。もちろん花箋を警戒してか、傍を離れない羽梨。


語厘「……でさ、『外職』のあんたが何しに来たわけ。見てのとおり、オレは動けないから 」


花箋「うんうん、きみんが被害にあっちゃったのは見てわかるよ〜。あきらかに変な方向に飛んだなーって思ってたんだ〜」


羽梨「……あの、騒ぎは……あなたのせい……?」


花箋「うん、仕事だからねー。この島に入り込んだやからの駆除が任務でね〜。あ、この話はきみんらも国防官の端くれでしょー?だから、話すんだー」


語厘「で、なんで石なんか武器にしたわけ?」


花箋「だって〜、こんな木とか陰ばっかのところで発砲なんかしたら命中率下がるし、危ないっしょー?だから、地面に落ちてる石を投擲とうてきしてやからの制圧をね〜」


羽梨「……石も、危ない……」


花箋「うんうん、それに関しては反省の余地ってやつー?まあ、とりあえずは──」


N弍:このままでは話が進まない。そう考えた花箋が背後に向けて手を打つ。すると、ずっと息を潜めて控えていた花箋の部下たちが姿を現した。


語厘「……人、居たのかよ」


花箋「気づかなかったでしょー?」


羽梨:心の声

《……羽梨たち、全然、敵わない。学園にも気配を消すの上手な人もいるけど、それはその人の特技であって、訓練で習うことなんてしてこなかった……》


語厘「それで?その人たちに何させる気だよ、ですか……」


花箋「あっははは……!」


語厘「なっ、なんで笑うんだよ、です!」


花箋「だってぇ、急にですますになるんだもん〜。めちゃくちゃ面白いじゃん〜!無理しなくていいよォ?」


語厘「つ、使い慣れてないんだよっ、」


羽梨「にぃ……無理がある……」


語厘「羽梨ぃ〜、だってさぁ」


羽梨「わかる……出てきた人達、コワイ……」


花箋「怖くて、当たり前だよぉ 恐れてもらわなきゃ憲兵の立場ないし〜」


N五:花箋かせんのゆるすぎる態度のせいで、威厳のイの字も感じられない。しかし、あきらかに逃げるのも不利。抵抗は無駄だと理解した瀬応せのうの双子。


羽梨「……にぃ」


語厘「おう、わかってる」


花箋「なになにー?何の話ぃ?」


語厘「なんでもないっすよ。とにかく、オレたちはこの場から離れるんで」


羽梨「にぃ……肩貸すよ……」


語厘「わりぃな、羽梨」


羽梨「んゆっ……ちょっと、フラフラする……」


語厘「重いよな、ごめん」


羽梨「にぃのせいじゃ、ない……」


N五:木に手をついて、立ち上がる語厘かたり。左側の脇へと羽梨はなしが潜って、半身を支えようとするものの体格差がありすぎる。目を瞬かせた花箋。


花箋「あー、こらこら〜。なーんで、あたいが人を控えさせたと思ってんのー?」


語厘「いや、知らない」


羽梨「……わかんない……」


花箋「ほらさぁ、一応、きみんらは後輩なわけじゃん?」


語厘「この場限りの関わりしかないけどな」


花箋

「あははっ〜、言うねぇ まあ、そうだけど。ケガさせちゃったわけだしさ。ね?」


N弍:ニマッ、と笑えば指を鳴らす花箋。そんな彼女の後ろに控えていた部下たちが動き出した。


語厘「なっちょっ、何なんだよ!?」


羽梨「にぃ!」


語厘「羽梨っ!」


花箋「だいじょーぶい!悪いようにしないよ。ここから安全に連れ出してあげるだけ、だよーん」


語厘「安心なんかできっか!!おろせよっ!!おろせってば!!」


花箋「はいはーい、あんまし暴れっとケガ増えるよーん?」


語厘「ハナシぃぃぃ!!」



N弍:語厘は、クマのような男たちに担ぎ上げられ、森の外へと姿が遠のいて行く。



羽梨「……ひどい……、なんで、にぃと離れ離れにするの……」


花箋「え〜なになに?恨み節ってやつ〜?」


羽梨「真面目に、答えて……」


花箋「あは〜、真面目にって言われてね〜」


羽梨「…… ……」


花箋「あー、はいはい。そんな目ェされちゃったら答えるしかないか〜」


N弍:ニヤけた笑いをしながら後頭部を掻いた花箋。しかし、羽梨のなんとも言えない冷たい視線にため息をついたのだ。


花箋「まあ、年上の!なおかつ、国防官の先輩としてお答えしますよーってね?」


(間)


花箋

「(深呼吸)……『トリ』ってさ、戦場を舐め過ぎなんだよ。

見た感じ、まだ きみんらは、マシな気もしなくもないけど。

いつまでも仲良しこよしで生き抜ける程、甘いもんじゃない。昨日まで背中を預けてた相手が、翌日には後ろから刺してくるし、寝首をかいてくることもある。

同じ釜の飯を食ってたところで、時間を共にしてた間の茶碗を割られちゃあ、意味がない。

……あたいが言いたいのは、重いんだよねぇ

表立っては男のほうが。見えないところでは、一番の依存はどちらかなんて言う必要ないね」


(間)


羽梨「(生唾を飲み込む)……意味、わかからない……」


花箋「……ぷっ、あはははっ……」


羽梨「な、なに……」


花箋

「いやぁ〜、冗談だよ、ジョーダンw まっさか、そんな怯えた顔するとは思わんかったよ〜。驚かせちゃった?ごめんね〜」


羽梨「お、どろいてなんか……」


花箋「にひひ〜、まあ、なに?きみんは、薬とか扱うの得意っしょ?」


羽梨「……ッ、何でわかるの……」


花箋「えー?そんなの、指先の荒れ具合を見ればわかるよーん」


羽梨「……あなた、コワイ……」


花箋「あはは〜、コワがられちゃうなんて花箋かせんちゃんは悲しいぞ〜」


羽梨「……本当に、よく分かんない……」


花箋「まあ、きみんにだけ残ってもらったのはお手伝いしてほしいからだよん」


羽梨「お手伝い……?」


花箋「そう!お手伝い〜」


羽梨「どんな、こと、させる気……」


花箋「それは移動しながら話すよーん」


N弍:まんまと花箋の空気に飲まれてしまう羽梨。るんるんと歩き出す花箋に着いていくしかない。はたして、無事に双子の片割れの元に戻れるのだろうか。



(間)



國崎「はぁ〜〜〜……やっとこさ、平地に着いたでぇ……」


憲兵A

「おい、まだ気を抜くには早いからな。手伝うって言い出したのはオマエなのだから最後まで頼むぞ?」


國崎「そないこと言われんでも、しかと理解してますさかい〜」


憲兵B「クニサキさん……、ありがとう……。あなたのおかげで、山を、出られた……」


國崎「なんやー、礼を言われると照れくさいです〜」


憲兵A「イノウエ、気を失うなとは言ったが。あまりしゃべると舌を噛むし、貧血になるぞ」


憲兵B「すみません……、そうちょう、ごめーわくを……」


N参:先攻班と共に行動していた國崎は、無事に下山した。森林公園と呼ぶには自然が生い茂りまくっている土地からだ。

残すところの道のりは、二百米(にひゃくメートル)

それさえ歩ければ、憲兵隊が展開している野営テント郡が見えてくるはずである。


憲兵A「……だがまあ。人は見かけによらないな」


國崎「んぇ?なんですぅ、いきなし」


憲兵A

「私の偏見だったということを理解させられた。貴官は、道中 弱音を言わなかったからな。てっきり『トリ』は、軟弱な連中の集まりだと思っていた」


國崎「あ〜、まあ。あながち、間違いでもないですよ。たんに、ワイの所属しとるとこが特殊なだけですさかい」


憲兵B「とくしゅ、ですか……?」


國崎

「そーです。ワイんとこの隊長をしとる高三生のお人がるんやけど。言ってしまうなら猪突ちょとつ猛進もうしん。……まさにイノシシみたいな訓練ばっかさせてくるんですー」


憲兵A「貴官の隊長がイノシシならば、こちらは鬼だな」


國崎「鬼ぃ?なんや、えらい妖しいんやな」


憲兵B「ええ……、キシンとよばれてますから……」


國崎「キシン?」


憲兵A

「鬼と神で、『鬼神様きしんさま』と呼ばれている。古来より鬼は強く恐れられる存在だった。つまり、それくらいに物事に手は抜かない自身にも他者にも厳しいお方だ」


國崎

「……はぁー、それはそれは。ワイは、関わりになる前にずらかったほうが身の為ちゅーことは分かりましたさかい」


N参:國崎の発言に笑う班員たち。何だかんだと、脅されはしたものの意気投合したようだ。そして、一行は──


憲兵A「お、やっと見えてきたな」


國崎「あ〜、よかったー。めちゃくちゃキッツイ道のりやったわぁ……」


憲兵A「気絶されると力が抜ける分、対象を背負うものが大変な思いをするからな」


國崎「あー、だからイノウエはんに 気を失ったらアカンって言い付けとったんやなー」


憲兵B:心の声

《あれ、クニサキさんに名乗ってなんか居ないはず……あ、もしかして。曹長が呼ぶから覚えた?……だとしたら優れた記憶力だ……》


憲兵A「その通りだ。身にしみて、学べただろ?」


國崎「ええ、それはもう。このお人、いっちゃん急な下り道で気絶したんで散々ですよ〜」


憲兵A「それでも、自身の体力と呼吸法でやりきる姿は関心した」


國崎「あはは〜、えらい褒めてくれますねー」


憲兵A「私は、頑張っているものには無視するより直接、褒めてあげたいからな」


憲兵B「……ときどき、ウラがあるんじゃって疑われて、ッ……ることもありますけど……」


憲兵A「すまん。少し段差があった」


憲兵B「いえ、大丈夫です……」


憲兵A「よし、ラストスパートだ」


N参:あきらかに、わざとつまずいたであろう陸曹長。部下は、責めなかった。

ザッザッザッ…、足並み揃えて進んで行き。テント群から控えの隊員たちが迎え入れてくれる。國崎に対しても、疑ってくるような視線はなく。むしろ、頭を下げてくれる人ばかりだった。


憲兵A「イノウエ、ちゃんと処置してもらえ」


憲兵B「これ……ぬいますよね……」


憲兵A「たぶんな。だが、この島の軍医殿が来てくれている。安心していい」


憲兵B「それは、ありがたいです……。クニサキさん、ありがとう。また会うことがあれば……あらためて礼を……」


國崎「ええんよ。礼なんて。傷を治すことだけを考えてください」


N参:申し訳なさそうに眉を下げるも担架にのせられてイノウエ三等陸曹は、運ばれて行く。

國崎は、その場で大きく伸びをして冷静な眼差しで。


國崎:心の声

《なんや、ワイも偏見があったみたいやな。『外職げしょく』だからっておっかない人ばかりやないちゅーことやな……》


憲兵A「クニサキ、ご苦労だった。少し休んでいくといい。貴官も仲間のもとに戻る前にな」


國崎「ええんですの?」


憲兵A「ああ。ちょうど、『鬼神様』はこの場を離れている」


國崎「あ〜、助かりますわー。ワイ、運がめちゃくちゃ悪いんやけど。休めるって聞いて嬉しいわ〜」


憲兵A「では、こっちのテントだ」


N参:てこてこ、陸曹長の後ろを着いていく國崎。だが、案内されている間 うめき声が近づいてくる。


國崎「あの、トヨシマ陸曹長はん」


憲兵A「なんだ」


國崎「このテント一帯って……」


憲兵A「ああ、処置用のテントだ。当初の予想より怪我人が多いみたいで、休憩用のテント付近まで埋まっているようだな」


國崎「それは、えらい大掛かりな作戦やったんやなぁ……」


憲兵A「しかも、まだ目的を果たしきれていない。私は、どうしても人命を優先してしまった。実に不甲斐ない」


國崎「……憲兵のお仕事がどないもんか、ワイにはわからへんけど。命を軽く見てへんし、見捨てへんのも勇気やろ」


憲兵A「……私も歳か。予備兵の学生にいたわりを受けるとはな」


國崎「余計なことを言ったようで、すんません」


憲兵A「いや、いいさ。悪くない言葉だったぞ」


國崎「それ、褒めてますの〜?」


N参:目を細めて笑う陸曹長に、國崎も気を許しつつあるようだ。すると──


國崎:心の声

《うん?なんや、ここのテントの幕があがって……》


N参:先を歩く陸曹長の背中が離れすぎないタイミングで足を止めた。ちらり、つい気になって薄暗いテント内を覗いてしまう。


國崎「なっ……!せ、瀬応せのうのおにぃやん?!!?」


N参:覗いたテントの寝台の上には、語厘が静かに眠っている。あきらかに、怪我をしましたという身なりであり、真新しい包帯でおでこをぐるぐるにされていたのだ。

國崎は、つい大きな声を出してしまったことに我に返り自分の手で口を覆った。


憲兵A「クニサキ、どうした?」


國崎「あ、えっと〜……」


N参:立ち止まってことに気がついた陸曹長がわざわざ戻って来て、國崎の様子を伺い。テントを覗けば、納得したように。


憲兵A

「ああ、貴官の学友か。実は、ちょっとした手違いでこちら側が巻き込んでしまってな。負傷させてしまったのだ。森の中腹を活動していた班のせいでな」


國崎

「あー、そうなんですねー。まあ、巻き込まれちゅうよりは、回避できへんかった あのお人のせい──」


N参:瀬応の兄に責任を擦り付けようとした時だ。背後からとんでもない圧を感じて、振り返ろうとした國崎。だが──


國崎:心の声

《アカーン、これ、あきらかに振り向いたらダメなやつやろ!!》


(間)


N壱:一方、その頃。森の中流部。

風神の長男が部下を引き連れた状態で、鉢合わせしてしまった今地いまじ風神かぜかみ。質疑応答となっていたところだが──


諭「このっ!!れ者が!!(殴る)」


明「ぐっ……!!」


操生「アキっ!」


諭「貴様!私の弟をかたるならば、許さんぞ!!」


N壱:殴られた反動で、尻もちをする風神。隠し持っていた刀も服から飛び出て、地面に倒れる。


明「いってて……、なぜだ!まなぶにぃさん!こんなことで、嘘なんかついて何になると言うんだ!」


操生「そうですよ!まなぶさん!なにをそんなに怒ることがあるんですか!僕ら、三年ぶりに会うんですよ!?」


陸士長「風神かぜかみ中尉ちゅういッ、一旦、落ち着きましょう!」


N壱:陸士長がまなぶと今地らの間に入ることで、場をおさめようとする。


諭「(ため息)……貴様、本当に私の弟か?

それと、そっちの学生は、今地いまじの末っ子なのか?私の記憶している姿と違うではないか」


操生「あ、えっと……この姿に関しては事情がありまして……」


明「そんなに疑うのなら腰のアザでも見るか!?」


操生「こら!アキ、脱がなくていいからっ」


諭「おい、貴様!」


明「なんだ!……って、うおっ」


N壱:風神を引っ張って、傍に寄らせるまなぶ。無言で風神の前髪を撫でつけて、おでこの辺りを凝視すれば何かを確認した。


諭「(舌打ち)……嘘じゃないみたいだな。そうか、貴様。めいなのか」


明「だからっ、さっきから弟本人だと言ってあるだろ!」


諭「うるさい。わかったから声を荒らげるな」


明「くぅっ!!」


N壱:風神の胸を押して距離を取り、部下たちの元に戻る諭。終始、考え事の顔をしている。



諭:心の声

《今しがた確認した右のおでこにある古傷。

たしかに、末っ子にあった傷と同じものだ。

あれは、四歳のころに祖父様じいさまが保管していた真剣を持ち出して、まだ無理だというのに無茶して振り回した挙句に負った傷。

……思い出しただけでも、実に末っ子らしいアホな話だ。

だが、面影がなさすぎる。いくら三年ぶりだとしても、こんな筋肉ダルマに育つとは思わんだろうが……!》



陸士長:心の声

《……風神中尉かぜかみちゅうい、めずらしい顔をされている。花箋かせんさんのこと以外であんな顔をしているのは始めてみるな……》



操生「えっと、諭さん。これで僕らの正体が判明したようですし」


明「あ!そうだった!諭にぃさん!おれたちは、行くところがあるのだ!まだ森の中に、おれの後輩たちが!」


諭「(明に拳骨。)……この愚弟。はい、そうですかと行かせるわけないだろ」


明「ぐっ……だから、な、なぜ殴るっ!」


諭「貴様には聞こえんのか。この爆発やらの騒音が。この先は、貴様のような未熟者が無傷で戻ってこれるような場ではない!」


明「この三年間に、おれだって成長した!まなぶにぃさんの記憶している頃のおれとは違う!」


諭「クチではなんとでも言える!」


明「クチでわかって貰えんなら、傍で見てくれればいいだろっ!!」


「寝言は寝てるときで結構だ。私とて、暇ではない。貴様らの撤退てったいさえ見守れば完全にこの場を封鎖する」


明「だ、だが!まだ、おれの後輩 以外にも居るはずなんだ!」


諭「貴様ァ、どこまで食い下がる気──」


陸士長「あのっ!中尉殿ちゅういどの!」


諭「なんだっ」


陸士長「お話中に失礼します。花箋かせん二曹にそうから伝言を預っておりますっ」


諭「……読んでみろ」


陸士長「はっ!読みあげます!」



(花箋 演じる人が読んでください↓↓)

花箋

『ヒトニー サンロク。

まなぶん〜、今からホンホシ狩りに出るから暫く戻らないよーん。あ、そうそう。森の中に居た『トリ』は回収したし、手を貸してくれそうな子がいたから協力してもらうことしたから〜

追伸ー、怪我させちゃった『トリ』がいるから教官さんたちへの謝罪よろしく〜☆』




陸士長「……とのことであります(逸らし目)」


明「なかなかに、ユニークな部下さんがいるようだっ!」


操生「……カナブンみたいな呼び名だったね」


明「しかし!なんか、いろいろツッコミたい話題があったな!」


操生「うん、そうだね。とりあえず、わかったことは僕たちが追ってた盗難犯の人たちは回収されたってこと」


明「あとは、誰かが怪我をして。誰かが『外職げしょく』と共に行動することになったということだな!」


諭「…… ……」


明「まなぶにぃさん?」


操生「ま、まなぶさん?」


陸士長:心の声

《やばい、ヤバい。めちゃくちゃ怒ってらっしゃるっ!!花箋かせんさんの馬鹿っ!!なんで、こんな伝言を頼んでくるのさ!自分にどうしろと!?》


諭「……サクマ陸士長」


陸士長「はっ!なんでありましょう!」


諭「貴官きかんに、私の弟とその友人を任せる。必ず連れてこの場を離れろ」


陸士長「り、了解です!あの、中尉殿ちゅういどのは……」


諭「愚問だな。私は、あのバカを止めに行く」


N壱:まなぶの表情は一切、動いていない。だが、瞳の内側には灯る怒りの感情。それを見て、逃げ出して泣きたくなる陸士長。


明「ま、待ってくれ にぃさん!行くなら、おれたちも!」


諭「風神学生!!」


明「いッ?!」


N壱:兄に申し入れしようと肩に手を置いた風神。しかし、素早い動きで弾かれて睨まれた。


諭「何度も言わせるな。これは、遊びじゃない。

私は、仕事だ。貴様のように、本土の時勢を知らんガキが首を突っ込む問題じゃない。これ以上の狼藉ろうぜき、我が隊の名誉にかけてつぐなわせるぞ」


明「だがっ!」


操生「アキ!もういい!」


明「今地!なんでだ!」


操生

「これ以上、本職の人の足でまといはダメだ!だから!僕はおまえを連れて下山する!これは、特隊生とくたいせいとしての権限を行使こうしする!」


N壱:振りかざすことが滅多にない権限を主張し、風神と下山することを決めた今地。もの凄く何か言いたげな風神だったが、言葉にならないようだ。


操生

「諭さん。……いいえ、風神かぜかみ中尉ちゅうい。お務めの邪魔して申し訳ありません。指示に従い下山 致します」


明「……今地いまじ


諭「頭をあげろ、今地学生」


操生「はい」


諭「貴官の進言を受け入れ、罰は与えんことにする。陸士長たちと共に下山せよ」


操生「はい。ありがとうございます」


陸士長「では、こちらから戻れますので」


N壱:陸士長が先導し、その後ろをついていく今地。風神は、後ろ髪ひかれる思いで兄の背中を一瞥いちべつするも、そのまま下山の列にくわわり歩き出した。


諭「……行くか」


N壱:諭は、迷彩帽を被り直して一〇年ぶりの森林公園を駆け出す。



(間)



──その頃、外職の野営テント郡。


N五:幕が上がっていたテントの中が気になり、覗いたのが運の尽き。

國崎は、背後にもの凄い圧を感じて振り向けずにいた。


語厘「よぉ、國崎ぃ」


國崎「あは〜、瀬応せのうにぃやん、ボロボロやなぁ〜?どなんしたんやー」


語厘「おう、お陰様でな」


國崎「あはは〜、ほーか。せやったら、ワイの肩に爪を食い込ませるんはやめてほしいんやけどー?」


語厘「ははっ、お礼参りだよ。こころよく受け取れや」


國崎:心の声

《めっさ!怒っとるやんかー!!なんや?ワイか?ワイのせいなんか?!いや、せやけど。その頭のケガはワイのせいとは関係ない気が……》


憲兵A「クニサキ、その学友の名は?」


國崎「あ、えっと、こんお人は……」


語厘「ちっす。どうも、瀬応せのう 語厘かたりっす」


國崎「そうそう、語厘はん 言います〜。

語厘はん、こちらのお人はトヨシマ陸曹長りくそうちょうはん、なんや悪い人やあらへんで」


語厘「陸曹長りくそうちょう?……じゃあ、さっきの女より上だよな」


憲兵A「女?……たしか、貴官は現場の中流部から戻ってきたのだったか」


語厘「うっす。なんか、オレをケガさせたびとか言って下山させられたんすけど。そのかわりに、どういうわけかオレの妹が連れてかれてるんすわ。どうにかしてくだせぇ」


憲兵A「そうか、貴官の妹が連れ回されているのか……よりによって、花箋かせん二曹にそうに」


國崎「カセン?」


憲兵A「ああ、我が隊の<厄介者>とされている。実力こそあるが、いろいろ問題のある国防官でな」


國崎「はー、それはエラいこっちゃあ」


語厘「他人事な態度、とってんじゃねーよ」


國崎「いや、なんでキレとんねん。ワイにキレることかぁ?」


語厘「國崎、オマエはこれがどんだけ重大なのか理解しろよ。羽梨がオレと離れることなんて滅多にない」


國崎「せやかて。おにぃやん、妹はん も高二生やで?大丈夫やろ」


語厘「……オマエに何がわかるってんだ。オレと羽梨は離れちゃいけないんだよ」


國崎「いやいや、どんだけ過保護なんや〜」


語厘「笑い事じゃないんだよ!!」


國崎「ぅぐっ!」


N五:國崎の胸ぐらを掴んで、睨む語厘。その様子をギョッと驚いた顔をするものの殴り合いにはなっていない分、考える陸曹長。


語厘

「いいか、國崎!記憶力に自信あんなら覚えとけ!羽梨とオレが一緒にいる理由は、互いにストッパーだからで!オレは、怪我なんかで離れることになった自分がめちゃくちゃ悔しいんだよ!!」


國崎「だっ、だからってワイにどうしろと……」


憲兵A「クニサキ」


國崎「な、なんですの?」


憲兵A「私で良ければ、セノウの妹を連れ戻しに行ける。だから、貴官がむやみに現場に立ち入る必要は──」


語厘「それじゃあ、ダメなんすよ!!」


憲兵A「……理由はわからないが、そこまで取り乱す必要はあるのか?」


語厘「オレが!オレが行ってあげなきゃ!羽梨はっ!」


憲兵A「私には理解できん事情があるようだな」


國崎「……語厘はん……」


N五:胸ぐらから手が離れ息苦しさから解放される國崎。

しかし、あわれなくらいに大きな背中が丸まり震えている。その姿を見て、なんと声を掛けるのが正解なのか。経験がない分、まったく思いつかない。



(間)



N参:上官を煽るだけ煽る伝言を寄越して、瀬応せのうの妹を連れて単独行動を始めた花箋かせんだったわけだが──。


花箋「この先にさ〜、何があるってんだろうね〜」


羽梨「……この、先は……いのりの地……」


花箋「いのり?教会とかそういうのがあるのん?」


羽梨「……教会というより、懺悔ざんげする小屋があるって聞くけど、使わないから……知らない……」


花箋「へー、一応 宗教とかあんのね〜」


羽梨「ある……。というより、この先にあるのは墓地……」


花箋「墓地ぃ?」


羽梨「そう……、この島にしか眠れない子たちのお墓……」


花箋「ふ〜ん、なるほどねぇ。いい趣味してんじゃん」


N参:いったい、どういう意味でいい趣味と言ったのか。羽梨にはわかりっこない。たしかに、眺めとしては最高の立地である。島の建物が一望できる高さであり、墓地の敷地の端っこはがけで海に面しているからだ。


花箋「きみんは、どこまで知ってる〜?」


羽梨「……何を……?」


花箋「この島についてだよ〜。まあ、知ってのとおり〜あたいはこの島に来たのは初めてだし〜」


羽梨「それにしては、慣れてるように見える……」


花箋「そりゃあ〜、鍛えてる年数が違うからね〜ん」


羽梨「……きたえてる、年数……」


N参:花箋の言葉をオウム返しにする羽梨。今ところ、花箋からの危害はないが気の抜ける状況ではない。

二人は、茂みを踏みただしながら上へと登っていく。


花箋「でさぁ、きみんはこの学園でどうなりたいの〜?」


羽梨「急に、なに……」


花箋

「いやぁ、だってさ〜

一応は予備兵を育成する学園なんでしょ?ここって。

まあ、島の敷地にお墓があるのはビックリだけど本土で聞く話が本当ならオカシイ事でもないし〜」


羽梨「……羽梨は、にぃのためにある。だから、にぃが決めたことに着いていく……」


花箋「ありゃま、本当に?」


羽梨「ほんとうに」


花箋「そう。まあ、きみんが悔いのない選択ができるならイイけどね〜ん」


N参:手をヒラヒラとさせつつ、笑い飛ばす花箋。

羽梨は、その背中をジッ……と見つめて言葉を読み込んだ。

そして、しばらく登り続けた先に──


花箋「お、ここが懺悔ざんげの小屋かなーん?」


羽梨「……かな、たぶん」


花箋「ふむ、でも小屋って呼ぶにはしっかりした建物だね〜 元々は牧師さんとか居たのかなー?」


羽梨「……知らない。けど、そういう人は島の中では見かけない……」


花箋「そう。まあ、ここにあたいの目的達成が待ってるかもだし」


羽梨「……なに、する気なの……」


花箋「いっちょ!乗り込んでみますかねー!」


羽梨「わっわっ……あーーー!!」


N参:急に羽梨の手首を掴んで、建物の裏手へと走り出す花箋。引きづられるような状態で抵抗もできなかった羽梨。心の叫びは音にならなかった。


羽梨:心の声

《ヤダっ、この人、恐い。か、語厘かたりっ……早く、早く迎えに来てっ……》



(間)



國崎「ん?なあ、語厘はん」


語厘「んだよ……今、オメェと話する気分じゃないんだよ……」


國崎「いや、そないこと言わんであっち見てみぃ」


語厘「たくっ、なんだって言うんだよ……」


N壱:野営テント群に居座っている語厘と國崎なわけだが。

妹を連れ去られて気分が下がりまくっている語厘は、國崎の指さす方向をめんどくさいと言わんばかりに顔で見やる。その先には──


操生「あ!語厘かたりくん!國崎くにさき!」


國崎「お〜!今地はん〜!やっぱり、当たっとたわ〜 えらい久しぶりに感じるな〜」


語厘「うっす、今地いまじ特隊生とくたいせいさん……」


操生「どうも、語厘くん。ケガしたんだってね。お大事にね。

ーーで!なんだよ、國崎!きみ、無事だったんじゃないか!」


國崎「あ、嫌やわー 今地はん、ワイにも深い理由わけがあんねん」


語厘「こいつ、外職げしょくの人とノンキに下山してきたぜ」


國崎「ノンキちゃうわ、アホたれ。ワイもえらいめにあったんやぞ!」


語厘「オメェが迷子になってなきゃ、俺と羽梨はなしが別々にされることもなかったんだよ!」


國崎「なんや、お人!まだ、その話を引きづっとるんか!重い男やな!」


語厘「國崎っ、オメェのこと!俺は許してねーからな!?」


國崎「何やそれ!ワイが全面的に悪いみたいな言い方はしゃくに障るわ!」


操生「こらっ、二人とも落ち着けっ

で、何がなんだって?」


國崎「えっと、それがぁ」


N壱:以下 割愛。

國崎からの状況説明を聞いた今地の表情が曇ったり焦ったりするものの。最後は、ため息だった。


操生「そう。……たしかに、羽梨ちゃんが連れてかれちゃったのは語厘くんからしても悔しいと思う。けど、正直いって、今、森林の中に戻るのはおすすめしない」


語厘「特待生さんも、そんなこと言うのかよっ!

くそったれ……!なんで、こんな時ばっかり俺は役立たずなんだよっ」


國崎「しゃーないやろ。もう、今 こん時から森林公園は本職のお人ら領分や。妹はんが無事にりてくるんのを待つしかあらへん」


語厘「國崎。そうやって、オメェがわかったような口効くところ。俺は、嫌いだ」


國崎「……ほーか。嫌いでもなんでもええわ。元より好かれようとは思っとらん」


語厘「(舌打ち)」


操生「ちょっ、二人とも そんなふうに言わなくたって」


國崎「で、今地はんが居るってことは風神はんもりてきたんやろ?」


操生「え、うん。そう。あそこで、外職の人と話してるよ」


N壱:今地の指さした方には、國崎と下山してきた陸曹長と風神、今地らを先導してくれた陸士長が風神と仲良さげに話している。

──陸曹長は、風神の肩をポンポンとした。



憲兵A「久しいな、めいくん」


明「ホント、トヨシマさん!お久しぶりですっ」


陸士長「陸曹長りくそうちょう、風神学生と面識が?」


憲兵A「ああ、私はあの駐屯地には出戻りでな。一回目の転属のときだから……一〇年前からの付き合いだな」


陸士長「なかなかのご縁でありますね」


憲兵A「そうだな。……にしても、本当にでっかくなったなぁ 中尉ちゅういより大きいんじゃないのか?」


明「はい、お陰様で男らしいカラダにはなれました。まあ、どういうわけかまなぶにぃさんは気づいてくれませんでしたが……」


憲兵A「そのぐらい立派になったということさ。気落ちするな」


明「だと。いいのですが」


N壱:苦笑いをする風神。

その表情を見て、陸士長は妙な感覚を覚えた。


陸士長:心の声

《あんまり、似てないな……って思ってましたけど。こういう困った顔をしてるときは、少しだけ似てる気がしますね。やっぱり、兄弟なんですかね……》


憲兵A「ああ、それはそうと。明くん、貴官はクニサキの先輩なのか」


明「そうです!えっと、國崎が何かメーワクをかけましたか?」


憲兵A「いいや、むしろ助かったくらいだ。少し不審ではあったが、怪我の応急処置の手際。あれは、見事だった」


明「國崎が手当てを?」


憲兵A「そうだ。貴官は、優秀な後輩をもったな」


明「……ありがとうございます。本人にも伝えておきますっ」


憲兵A「ああ、ちゃんとねぎらってやれ」


陸士長「時間ですね。……陸曹長。そろそろ、行きましょう」


憲兵A「そうだな。すまんな、明くん。話しの続きは、この作戦が終わって時間あるときにでも」


明「はい、トヨシマさん。ご武運を」


N壱:陸曹長と陸士長が、別の作戦を決行すべく風神から離れていった。

その後ろ姿を見やって、てのひらの肉に爪を立てた風神。



明「……無力だな。おれは、また何も出来ないのか……」



語厘「隊長さんっ!」


操生「おーい、アキー!」


國崎「風神はーん!」



明「……ああ!今、行く!」



N壱:こうして、國崎・瀬応せのうの兄・今地・風神の四人が森林公園を脱して、下山したわけだが。

連れ回されている瀬応の妹・羽梨はなしは、無事に戻って来るのだろうか。

──ここで、引き下がるような下山組ではない気もするが。はたして、どうなる事やら。



黒軍編・第七話⇒繋げ、団結きずな中編。



▶▶▶後編に続く。

(まだ執筆 途中でーす。)



【配信用テンプレ】


題名▶三津学・黒の七話

作者▶瀧月 狩織

台本ページ▶(※上演に使用されるページのリンクをコピーして貼り付けしてください)


【配役表】

♂ 國崎/兼役 N肆

♣️♂ 語厘/兼役 N参

♂ 明/兼役 N弍

♀ 操生/兼役 N五&憲兵B

♂ 諭/兼役 憲兵A

♀ 羽梨/兼役 陸士長

♀ 花箋/兼役 N壱



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