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【自己解釈 学生戦争】三津ヶ谷学園物語。【声劇台本】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ メイン軸の台本
32/37

【分割版】白軍編・第四話 /前半部分【台本 本編】


白軍編の第四話/前半部分

前半部分のみ場合/上演時間(目安)⇨ 40分~45分


【演者サマ 各位】

・台本内に出てくる表記について

キャラ名の手前に M や N がでてきます。

Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。

Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。


・ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。

場合によっては、振り直していないこともあります。

(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)


それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ


───────────

─────────

───────


◇玄武港


▼荒波が堤防を打ちつける中、玄武港(げんぶこう)の広場。

その広場には来島管理棟がある。そんな棟の手前で見慣れた青年軍人が見知らぬ人と向かい合っていた。


小埜路「五峰少佐(いつみねしょうさ)、遠方からようこそいらっしゃいました。自分は、総司令長の補佐役を務めています小埜路(おのみち)であります」


五峰「ええ、存じておりますとも小埜路補佐官。

本土でもお話しはかねがね。是非(ぜひ)とも、親交を深めたいと思っていたのです」


小埜路「こちらこそ、よろしくお願い致します」


▼握手する二人。

人当たりの良い笑み。というのは、彼──五峰(いつみね)大成(たいせい)少佐が浮かべる表情のことを言うのだろう。

大抵の人は、この笑みの下で何を考えているのかなんて無粋な探りをする前に笑みに(ほだ)されるものだ。しかし、そうならないのが小埜路(おのみち)禅治(ぜんじ)の立場からくる責任感だ。


五峰「ああ、そうだった。お互いに同階級なのですし、気軽に呼んでくださいな」


小埜路「では、五峰殿(いつみねどの)とお呼びします」


五峰「(微笑む)……小埜路(おのみち)くんは、とても剣の扱いに優れてらっしゃるとか」


小埜路「ええ、まあ。……お言葉ですが、自分は優れているとは思っておりません。いくつになろうと、望み高かく。日々、精進はかかせないものであります」


五峰「それは……、凄いですね。日程の隙間があれば、貴官(きかん)の剣術を見せて頂きたいものです」


小埜路「《私を、くん付けするというのは、年下だと舐められているのか……》……でしたら自分は、五峰殿の話術を学びたく存じます」


五峰「わたしのですか?」


小埜路「ええ。五峰殿の話術は、第五にある大隊の中でも随一と聞きますゆえ。若輩の自分にも、得られる能力ならばと思いまして」


五峰「なるほど、なるほど。伝授までとは行きませんが、コツくらいならいくらでもお教えしましょう。……何はともあれ、互いに話のとおりは上々のようですね」


▼人は、この状況を腹の探り合い。または、値踏みと言う。

静かな火花が散っているようにも思えるが、ただ世間話をこんこんとしているようにも見える。だが、長引かせるわけにも行かない。どうすれば、切り上げられるかを小埜路(おのみち)が考えた頃合いだった。

車の用意ができたと下士官(かしかん)が告げに駈けてくる。


小埜路「とのことです。我々の挨拶はこのへんに致しまして、参りましょう。五峰殿には、予定どおりに総司令長サマとのご対面を」


五峰「ええ、第五を代表として頑張らせていただきますね」


小埜路M《何を考えているのか、わからん人だ。五峰(いつみね)大成(たいせい)……、総司令長サマと対立する思想家が師団長を務めている第五師団 所属の少佐。私も同階級いえど、なった経緯を考えると(あなど)れない…。あきらかに軍人としての経験差や大きなバックがあるのは五峰のほうだ。……こんな相手を招いて、総司令長サマは何をお考えなのか……》


▼小埜路は、無意識に服の上から胃のあたりをさすった。


(間)


〜タイトルコール〜



甘草「自己解釈(じこかいしゃく) 学生戦争(がくせいせんそう) 三津(みつ)(がや)学園物語」


那都「白軍(しろぐん)編・第四話の『揺らぐ想い、震える声』の前半部分だ」


甘草「して、おぬしはちゃんと気持ちを言葉にできるかのぅ?」



(間)


▼二〇八〇年六月中頃に差し掛かった白軍(しろぐん)の学び()。梅雨のせいか、どこかジメジメとした空気がありつつも、稽古に(いそ)しむ部隊や備蓄(びちく)を温存する部隊。

一〇三もある部隊が各々のことで、日課業をこなしている。



◇八畳ほどの部隊室。


那都M《この戦略だと、被害数が少ないな……六年前か……、ということは同時の参謀長だった学徒は……》


古戸嶋「(めぐる)くん〜」


悠崎「えっ、わっ、わっ…!古戸嶋(ことしま)、近いってば…!」


古戸嶋「わたし、ちょっぴり寒いんですっ」


悠崎「いや、だからって…オレに近寄ってこなくても…。あ、いや、自分の上着でも羽織りなよ……」


古戸嶋「そんな寂しいこと言わないでください!ほら、お互いに寄り添ったほうが(あたた)かいでしょ?」


悠崎「うわっ、ちょっ…本読めないよっ…」


古戸嶋「じゃあ、こうします!」


悠崎「うぐっ…!か、勘弁してくれよォ〜……

《なんか、もう!いろいろ当たってるんだよなぁ!!》」


▼二人掛けのソファーで仲良さげに(男子のほうは、やたら迷惑そうな)カラダを寄せ合う男女の学徒。相手の態度なんて、お構いなしに距離を縮めて相手を抱きしめる女子学徒。

男子学徒のほうは、なぜか室内なのにパーカーのフードを被って顔があまり見えないようにしている。


那都「悠崎(ゆうざき)古戸嶋(ことしま)。……二人とも、じゃれ合うのは結構だがケガするなよ」


悠崎「那都(なつ)先輩っ…!じゃ、じゃれ合うっていうか…これは……!」


古戸嶋「はぁ〜い!気をつけます☆」


▼女子学徒、古戸嶋(ことしま) 冴紅(さく)のはじけた返事が室内に響く。フードを被っている男子学徒、悠崎(ゆうざき) (めぐる)からは困惑しているのが見受けられる。

過去の戦略が記録された資料から目を離さず、少し的外れな指摘をした新・甘草(あまくさ)進撃(しんげき)の隊長、那都(なつ) 无代(なしろ)

那都は、参謀部隊(さんぼうぶたい)学徒(がくと)と並ぶほどに戦略などの知識に(ひい)でているものの……

恋のイロハ、他人からの好意などにはめっぽう(うと)いのがキズである。


那都「……そう言えば、アイツはどこ行ったんだ?」


古戸嶋「えー?誰のことですか〜」


悠崎「あ、えっと…甘草(あまくさ)先輩、ですか…?」


那都「ああ、そうだ。こんな天気だ。ほっつき歩いたとしても、相手してくれる人もいないだろ」


甘草「(小声)ワシは、ここじゃよ〜…」


古戸嶋「んー?无代(なしろ)先輩!何か、言いましたー?」


那都「いや、何も言ってない。」


古戸嶋「あれー?気のせいかな。でも!ほんとっ、雨ばっかでまいっちゃいます!」


悠崎「今は梅雨だし、仕方ないよ……」


甘草「(小声)……あれ、無視かの?誰も気づいとらんのか…?」


古戸嶋「ふふ!だからこそ、わたしは(めぐる)くんのお傍に入れて幸せですよ☆」


悠崎「ああ、そう…。オレは、胃が痛いよ……」


古戸嶋「わたしが、痛いところを撫でてあげます!」


悠崎「大丈夫っ…!お気持ちだけで、結構ですっ…!」


悠崎M《なんか、いろいろ言いたいけど言葉にできないのが、オレのダメなとこ過ぎないかな!?というか、古戸嶋が抱きついたままだよね?那都(なつ)先輩には、期待してないけど、この状況にツッコミがないのが辛い!!誰か、ツッコミを……!》


▼再び、静まり返る室内。

とても突き放せるような距離ではない古戸嶋(ことしま)に対して悠崎(ゆうざき)の胃がギリギリと痛む。彼女から、苦にならない甘い香りがするし、何せ温かい。

他部隊の男子が見たら、(うらや)ま…けしからん…な状況だが。悠崎からしたら、(持病の)ストレス性の胃痛の原因でもあるので、距離感を考えてほしいと思っている。

そもそも読書しようと手にしている文庫本の内容なんて頭に入ってこない。


悠崎M《ああっ……、このさい甘草(あまくさ)先輩でもイイから助けてくんないかなぁ……!なんで普段こそ、からかってくるのにコウイウ時に居ないのかなぁ……!》


古戸嶋「ねっ、(めぐる)くん!无代(なしろ)先輩も、書類とにらめっこですし!わたしたちは、構内をお散歩しませんか?」


悠崎「んぇっ…、あ、いや。オレは、本が読みたいし、古戸嶋だけ行ってきなよ……」


(こそこそと、縦長のロッカーから出てくる甘草。)


古戸嶋「もぅ、つれないですね!」


甘草「少しくらい、付き合ってやったらどうじゃ?許嫁(いいなずけ)なんじゃろ」


古戸嶋「えっ……、キャアッ!!」


悠崎「どわぁっ…!!(転げ落ちる)……いっつぅ…」


古戸嶋「お、お、隠岐(おき)さんっ!いつの間に、後ろにいたんですか!?というか、気配を消してまで立たないでくださいよ〜!心臓に悪いですぅ!」


甘草「ほっほっほ〜、すまんのぅ?しっかし、なかなかの驚きっぷりじゃったな。今日イチの収穫じゃよ〜」


那都「……甘草(あまくさ)。アンタ、ロッカーから出てこなかったか?」


甘草「うむ!そうじゃ!ワシは、朝からロッカーの中で待機しておったぞ!」


那都「めちゃくちゃ、くっだらねぇ」


甘草「本当は、誰かがロッカーを開けてくれるのを待っておったんじゃがなぁ」


那都「期待はずれだったな。雨の降ってる日は、掃除しないって話になっただろう」


甘草「まあ、良い良い。正直、気づくこともあったからのぅ!」


那都「気づくこと?」


古戸嶋「(めぐる)くん、大丈夫ですか〜」


悠崎「くぅ……、腰ぶつけた……。

(タメ息からのボソボソ)……ああ、情けない。避けることも出来ずに、落ちるなんて最悪すぎる…。マジで、オレはタッパがあるだけのグズだ…ノロマ…ああ、ただの岩になりたい…」


甘草「あー、ほれほれ。驚かしたことについては謝る。そう暗くなるな。雨じゃから、余計にジメジメするじゃろ?」


悠崎「ジメジメ…、ああ、やっぱオレは……(ブツブツ)」


那都「逆効果じゃないか。このバカ」


甘草「すまん。無理じゃったわ☆ウィンク


那都「うぜぇ……」


甘草「して、ぬしらは今日イチ日を部室で過ごすのかのぅ?」


那都「そういうアンタは、何してたんだ。もう、昼だぞ」


甘草「ワシか?ワシは、情報収集しとったんじゃよ」


那都「情報収集?どうせ、ロクでもないんだろ」


甘草「ほほぅ?そのようなことを言うって良いのかのぅ?」


那都「じゃあ、なんだ。もったいぶらずに話せよ」


甘草「ふむ、良かろう。まずもって現時刻から森林公園は入園の規制がかかったのじゃよ」


那都「なんだ。どっかの部隊が試薬の検査でもしてるのか」


甘草「それくらいの規模なら、良かったんじゃがなぁ?どういうわけか、外職(げしょく)が動いとるそうじゃ」


那都「外職(げしょく)が?」


甘草「ああ、そうじゃよ」


那都「どこ情報だ」


甘草「ワシに、ご馳走してくれる司令部の駆け足ちゃんじゃよ」


那都「司令部の駆け足組か……、まあ、信ぴょう性ありか」


甘草「そうじゃろ、そうじゃろ。ワシの人脈もなかなかじゃろ!」


那都「どうせ、その顔の良さで(たぶら)かしたんだろ」


甘草「(たぶら)かすとは人聞きが悪いのぅ?ワシは、単に仲良くしておくれと言い回っとるだけじゃよ」


那都「物は言いようだな」


古戸嶋「あの〜、ゲショクってなんの事ですかー?」


甘草「うむ?冴紅(さく)ちゃん、意味を知らんのかぇ」


古戸嶋「え、知らなきゃダメな用語でした??」


那都「まあ、隠語(いんご)だな」


甘草「知らんなら、知らんままでも問題ないぞ〜」


古戸嶋「えー!()け者なんて、嫌です!教えてください〜!」


悠崎「……古戸嶋、駄々っ子はやめとけって…(ソファーに座り直す)」


古戸嶋「じゃあ、(めぐる)くんが教えてください!」


悠崎「えっ、いや、オレはその……(先輩ズを見て)」


▼助け舟を求める後輩の視線は、片や笑みで黙殺され、片やファイルの(たば)へ視線を逸らすという態度でスルーされたのである。


古戸嶋「で、何なんですか!ゲショクって!」


悠崎「《助けてくれない……!?》

……ああ…、えっと…、ゲショクってのは外の職っていう字を書くんだよ……。それと、この場合の『外職(げしょく)』ってのは本土の軍人のことをさす言葉であって……または、本土の軍警察のことをさすこともあるんだよ…。(顔を俯かせて)…ああ、やばい…どうしよ…あってるか自信ない……」


甘草「うむうむ、良いぞ〜。問題ナシじゃ」


那都「正解だ。つまり、小埜路(おのみち)補佐官(ほさかん)や、教練でお世話になる人たちは特務師団とされている妖島(ヨウジマ)で働いてるから含まれない。……悠崎(ゆうざき)は、よく学べている。自信もて」


悠崎「あ、あ、ありがとうございます……。《褒められた…!めちゃくちゃ嬉しい…!!》」


古戸嶋「なるほど〜!それで、その外職(げしょく)が動いてるとダメなんですか?」


甘草「まあ、ダメかどうかは動いとる作戦内容によるのぅ」


那都「場合によっては、俺たち『軍人のタマゴ』とされてる在校生が巻き込まれる可能性もあるということだ」


古戸嶋「ええ!それって、めちゃくちゃ危ないですよ〜!」


甘草「だからこそ、森林公園が入園規制になったんじゃよ」


古戸嶋「あっ、そっか〜。ごめんなさい。やっと理解しました」


悠崎「……外職(げしょく)か……」


甘草「うむ?猫背の子よ、何か心当たりでもあるのかのぅ」


悠崎「えっ、いえッ……なにも、ありません……!」


甘草「そうかぁ〜?」


那都「とりあえずだ。

甘草(あまくさ)の持ってきた情報が信ぴょう性ありと判断した。なので、身を危険に晒す必要なし。よって、入園規制が解除されるまで森林公園には近づかないように」


甘草M《ナッツくんは日に日に、禅治(ぜんじ)ちゃんと言葉の言い回しが似てきたのぅ……面白いが困ったもんじゃなぁ……》


悠崎「かしこまりました……」


古戸嶋「はーい、了解です〜」


甘草「うむうむ、良き返事じゃな」


那都「……にしても、今月のアタマに艦艇(かんてい)が停まった日からきな臭いな」


甘草「禅治(ぜんじ)ちゃんも、忙しいのか構ってくれんのじゃよ〜」


那都「そうか。……つーか、小埜路補佐官は元より暇な人ではない。あんたが邪魔しに行ってんだろ」


甘草「邪魔ではなく、刺激じゃよ。似たような日課の片付けでは感覚が(なま)ってしまうからのぅ」


那都「物は言いようだな(書類に視線を戻す)」


甘草「ナッツくん、つれんのぅ?……たはー、無視かぁ」


悠崎「(立ち上がる)あの、すみません……、ちょっと、共同棟の書庫室に行って来てもいいですか……?」


那都「ああ、いいぞ」


悠崎「ありがとうございます…」


那都「あ、それとだ。ついでで悪いがこのファイルは返却。それと、このリストの資料ファイルがあったら貸出してきてほしい」


悠崎「(紙を受け取る)は、はい。わかりました……」


古戸嶋「(めぐる)くん!わたしも、ご一緒したいです!」


悠崎「えっ、いや、オレだけでじゅうぶーー」


甘草「行ってくると良いぞ〜。少しでも仲を深めるが良い〜」


古戸嶋「ほら!隠岐(おき)さんもこう言ってますし!行きましょ〜」


悠崎「あ、ちょっと、待ってよ…!古戸嶋ー!」


▼ウキウキな古戸嶋(ことしま)に腕を掴まれて、よろけつつも退室する悠崎(ゆうざき)。ニコニコと後輩ズを見送る甘草(あまくさ)だったが、すぐに表情を引っ込めれば戸を閉める。ファイルとにらめっこする那都(なつ)の視線の先に手を置いた。


那都「なんだ?邪魔するな」


甘草「して、ワシはナッツくんだけに教えたいことがあるんじゃよ」


那都「は?なんだ。嫌な予感しかしないが」


甘草「まあ、ちくっと耳だけを貸してくれれば良いのじゃよ」


▼話に集中してほしいのか、ファイルを勝手に閉じる甘草。

その何とも言えない相手の態度に、那都は息を飲んだ。


(間)


▼憧れの存在である隊長の那都(なつ)に頼まれ事をされた悠崎(ゆうざき)は、古戸嶋(ことしま)に絡まれながらも目的地の共同使用棟/四階 書庫室にやって来た。


古戸嶋「わ〜!書庫室ってこんな感じなんですね〜」


悠崎「あんまり…、騒ぐと怒られるよ…」


古戸嶋「えー、誰もいませんよ?(悠崎に流し目)……貸切ですね!」


悠崎「いや…、隠れてるだけなんだよ…。ここ、見てのとおり本がいっぱいあるし…棚も多いし…」


古戸嶋「誰が、隠れてるんです?」


悠崎「ここの主がね……」


古戸嶋「え〜、(めぐる)くん脅かそうとしてます〜?」


悠崎「してないよ……、本当のことだから……」


古戸嶋「そっかー、書庫のヌシか〜。……巡くんが言うんだから本当ですね!」


▼花がほころぶような笑み。

古戸嶋は、本当に無邪気に笑う。

その笑みに、悠崎が真正面から受け入れることはない。視線を逸らして、顔を(うつむ)かせるからだ。


悠崎M《……オレの言葉を鵜呑(うの)みにする。昔からそうだ。今だって、疑いやしなかった。オレは、いつまで古戸嶋のことを……》


古戸嶋「あ、この本は知ってます!前に、巡くんが読んでたやつですよね!」


悠崎M《めぐるくん、めぐるくんって呼んでくれるけど……。それはいつまで続くんだろう……。オレは、許嫁(いいなずけ)なんて言われることに胃が痛くて堪らないのに……》


古戸嶋「……巡くん?どうしたんですか」


悠崎「え、あっ、いや……何でもないよ……」


古戸嶋「そうですか?」


悠崎「うん、何でもない……。とりあえず、那都(なつ)先輩に頼まれた資料を探そっか……」


古戸嶋「じゃあ、わたしはこの返却って言われた資料をあそこの受付?みたいなカウンターに置いてきますね!」


悠崎「うん、よろしく……。ここの主さんが、返却に気づいたら棚に戻してくれるから……」


古戸嶋「了解です〜」


▼書庫室は、一万五千冊の文庫本、海外本および専門書籍が所狭しと棚に並べられている。部屋の一部分を区切って(そな)えられた資料室もある。

もちろん、三部軍(さんぶぐん)の各校舎にも図書室/資料室などの部屋が用意されているし、ほとんどの書籍が電子化されてモバイル閲覧が可能だ。その為、この書庫室には必要としている人だけが足を運び、貸出の手続きをして持ち出す。所謂(いわゆる)、紙書籍を好んでいる人の為の部屋である。


悠崎「えっと……、那都先輩が読みたい資料は……」


▼資料室は、学園史が(おも)たる陳列となっている。

その中には、歴代の卒業アルバムもある。


古戸嶋「(めぐる)くん〜、返却してきましたよ〜」


悠崎「うん、ありがと…。というか、よく分かったね……」


古戸嶋「え?何がですか」


悠崎「いや、オレの居場所だよ……。ここ、広いし棚多いし……」


古戸嶋「分かりますよ〜。わたしには、巡くんの居るところはお見通しですから!かくれんぼでも、巡くんを見つけるのは一番だったでしょ?」


悠崎「あー、まあ、確かに……?《本当に、慣れっこなんだろうな……》」


古戸嶋「それより、見つかりましたか?无代(なしろ)先輩に頼まれた資料!」


悠崎「いや、それが見当たらないんだよね……。オカシイな、他に借りてる人がいるのかな……」


古戸嶋「どんな資料ですかー?」


悠崎「これ、今から一〇年前の活動記録ファイルなんだけど……」


古戸嶋「なるほど〜、この名前の資料を探せばいいんですね!」


悠崎「うん、そう。見つかったら、持って来てほしいかな……」


古戸嶋「了解です〜。わたし、右側の奥の棚を見てきますね。もしかしたら、戻す場所が間違ってるかもなんで!」


悠崎「うん、よろしく……」


▼軽い足取りで、陳列の奥へ姿を消す古戸嶋。

悠崎は、その後ろ姿を見送ったあとに長いタメ息を吐いた。


悠崎M《……二〇七〇年…、一〇年前の活動記録……。なんで、那都先輩は、この年代の資料を見たがったんだろう……》


▼メモ紙にシワがよる。

悠崎の問いは、音にされず胸にしまい込まれたのだった。


(間)


──場所は戻って、新 甘草進撃小部隊の部隊室。


甘草「まあ、ちくっと耳だけ貸してくれれば良いのじゃよ」


▼にこやかに笑う甘草(あまくさ)に対して、怪訝(けげん)な表情を返す那都(なつ)。相変わらず歩み寄りが足らない二人であるが、これでも隊長と副隊長である。

那都は、ファイルの上に置かれた甘草の手を払い除けてから不機嫌に言葉を返した。


那都「で、何を話したいんだ」


甘草「うむ。先日、書庫室に行ったときに面白い内容を目にしてのぅ」


那都「そうか。その面白さが今のとこ、伝わってこないがな」


甘草「これこれ、そう急かすでないぞ。……ワシが面白いと思ったのは、二〇七〇年というネームシールが貼られたファイルのことじゃよ」


那都「おい。それ、俺が読みたくて悠崎にお使いを頼んだ資料だぞ?」


甘草「んん?そうじゃったんか。それなら、ここにあるぞい」


▼ロッカーから二冊のファイルを取り出す甘草。

なんの悪びれもない。持っていて当然と言わんばかりだ。


那都「オマエ、後輩に取り越し苦労させんなよ」


甘草「なんじゃ、ワシのせいか?」


那都「(タメ息)……とりあえず、悠崎(ゆうざき)にメッセージをーー」


甘草「ああ、それなんじゃが。猫背の子は端末を置いていっておるぞ?」


那都「何っ…?じゃあ、古戸嶋(ことしま)にーー」


甘草「冴紅(さく)ちゃんの端末は、あそこで充電中じゃな」


那都「………ッ!」


▼言葉にならない苦悩。

那都は、頭を片手で押さえて無言で顔を俯かせる。


甘草「ほっほっほ〜、ワシは面白くて好きじゃぞ〜?」


那都「何のための、端末だ……!」


甘草「なーに、見つからんと分かれば戻ってくるじゃろ。ほれ、ナッツくん。読みたかったんじゃろ?」


那都「ああ、どうも。でも、アンタがこの手のファイルを読むとはな」


甘草「何となくじゃよ。何となく」


那都「……掘り下げたところで、理解できるわけないか」


甘草「うむ、そうじゃよ。それが得策じゃ」


那都「で、何が面白かったのか教えてくれんだろ?」


甘草「ああ、そうじゃったな。おぬし、ユウザキ スグルを知っておるか?」


那都「ユウザキ、スグル?いや、知らないな」


甘草「あま、そうじゃろうな。ワシも、このファイルを読むまで知らんかった人物じゃ」


▼甘草は、勝手だ。手近に転がっているボールペンと紙切れに、さらさらと書く。人の名前だ。漢字三文字で済む──『悠崎(ゆうざき) (すぐる)』という人の名前。


那都「……同じだな。悠崎と」


甘草「そうじゃな。同じ家名というだけで、何も接点のない人かと思ったのじゃが……」


那都「だが?」


甘草「この資料のこのページにな。ほれ、ここじゃよ」


那都「集合写真か。当時、存在していた部隊の」


甘草「二〇七一年に廃部となったと書いてあるのぅ」


那都「それで、この集合写真がどうしたんだ?」


甘草「ちょいと資料に使われている写真だと、見づらいじゃろ。ので、こっちで拡大して見ると()いぞ〜」


▼甘草は、タブレットを渡す。那都が受け取って、表示されている画像を拡大して一人ずつ顔を見る。

目を見開いた。何かに気づいたのか、自身の端末を操作して見比べるように視線を動かす。


甘草「気づいたかのぅ?」


那都「……ああ、アンタが何を言いたいのか分かった」


甘草「ワシも、目を疑った。しかし、まともに見たことのない分、他人の空似かと思ったもんじゃが」


那都「これは、他人の空似とかじゃないだろ。ほぼ双子のレベルだ」


甘草「この当時の隊長と肩を並べている学徒は、間違いなく猫背の子の親戚か、血縁じゃろうて」


那都「だから、外職(げしょく)に反応していたのか」


甘草「じゃがなぁ?ワシが聞いた話じゃと、本土から来たのは外職と第五師団のものと聞いたぞ」


那都「そうか、なら来島した人とは関係ないのか」


甘草「とりあえずは、戻ってきしだいに(たず)ねてみるとするかの。……ほっほっ、楽しいのぅ」


那都「……嫌なやつだな。というか、アンタには兄弟とかいるのか?」


甘草「ん?居らんぞ。ワシは、ひとりじゃ」


那都「そうか、そうだよな。どう見ても、ひとりっ子気質だもんな。アンタに兄弟とか想像つかない」


甘草「んんー、そういうことではなかったのじゃが。まあ、良かろう」


那都「なんか、間違ったか?」


甘草「なんでもないぞ〜、気にするな〜」


那都「そうか。……おい。ニヤつくなよ、気持ち悪い」


甘草「すまん、すまん。顔が緩んでしまったわい」


▼那都の洞察力は、戦闘時や作戦考案している場合にしか働かない残念な仕組みとなっている。その為、たびたび会話が噛み合わない。その結果、甘草(あまくさ)を楽しませる要因となっているとは微塵(みじん)も思っていない。


──再び場所は戻って、書庫室の一年ズ。


悠崎(ゆうざき)は、頭をガシガシと強めに()く、ぶつくさと独り言が漏れている。


悠崎「……なんで、見つからないんだ……。こんなオツカイも果たせないなんて、那都(なつ)先輩に()きられちゃうじゃないか……

……いや、こんなに探してないんだ……、貸し出されてるかもだよな。うん、そうだ。那都先輩 以外にも読む人がいたんだよ、そうだよな。あ、そうと分かれば。メッセージを送って、貸し出されてることを伝えれば……(ポケットを探る)」


▼かれこれオツカイを頼まれて書庫室にやって来てから三十分は経っている。そこで、やっと諦めがついて連絡するという行動に行き着いた。


悠崎「あ、あれ……ない?ウソだろ、オレ、なくした……??」


古戸嶋「(めぐる)くーん?」


悠崎「あ、こ、古戸嶋(ことしま)……」


古戸嶋「巡くん?大丈夫ですか」


悠崎「えっ、な、なにが……?」


古戸嶋「書庫室(ココ)に来てから、顔色が優れないようですけど」


悠崎「うっ、うぇあっ……」


古戸嶋「あ、ごめんなさいっ」


悠崎「い、いや、オレのほうこそ、ごめん……」


古戸嶋(ことしま)が心配そうに伸ばした指先が悠崎(ゆうざき)の頬から首筋を撫でた。その皮フの上を撫でられた感覚に妙な声が漏れてしまう。

羞恥(しゅうち)で、とっさに口を押える悠崎。手をひっこめ、古戸嶋の頬がカッ…と熱をもって朱色に変わった。

なんとも言えない空気が流れるものの──、


悠崎「…… ……」


古戸嶋「…… ……」


悠崎「……あ、あのさ」


古戸嶋「えっ、あ、はい。なんです?」


悠崎「さ、探したんだけど……頼まれた資料が見つからないんだ……」


古戸嶋「巡くんのほうも、見つからなかったんですねー。わたしが見に行ったほうにもなかったんです」


悠崎「うん、だから……もう、那都先輩に連絡して、謝ろうかと思って……」


古戸嶋「じゃあ、さっそく連絡しましょう!」


悠崎「うん、でさ」


古戸嶋「はいっ」


悠崎「オレの、端末を見なかったかな……もしかしたら、落としたかもしれなくて……(小声)……本当に、どんくさい……マヌケすぎる……」


古戸嶋「あー、大丈夫ですよ!巡くんの、端末なら部隊室のソファーに置いてありましたから!」


悠崎「えっ、オレが身につけてないのこと、気づいてたの……?」


古戸嶋「はい!巡くんが、ソファーに座ったり、立ったりするときにおしりのポケットから落ちたのを見てたので!」


悠崎「(頭抱え)……それ、自信満々に言わないでほしかった……」


古戸嶋「あ、わざとではなかったんですか?」


悠崎「……うん、わざとじゃないよ……。でも、まあ、なくしたわけじゃないなら良いのかなぁ……」


古戸嶋「そうですよ!なくしたら、管理部に申請しなきゃいけませんし」


悠崎「うん、でさ。オレの端末は部隊室なわけだし……古戸嶋が代わりに連絡を……」


古戸嶋「ごめんなさ〜い、わたしも部隊室で(端末を)充電してあります〜☆」


悠崎「……懊悩(おうのう)……(額を押える)」


古戸嶋「でもでも!わたし、いいもの見つけたんです!」


悠崎「いいもの……?」


古戸嶋「はい!これですっ」


悠崎「卒業アルバム……?しかも、二〇七〇年版の……」


古戸嶋「はいっ!実はこのアルバムに〜、ほら、ここです!」


悠崎「ッ!?」


▼満面の笑みで、アルバムを見開きにする古戸嶋。

開かれたページを見た途端に悠崎の呼吸が止まる。唇を噛みしめ、瞳孔(どうこう)がキュウッ…と収縮した。


古戸嶋「ほら、(めぐる)くん!ここに、(すぐる)にぃさま(うつ)ってますよ!」


悠崎「うん、うん……そうだね……(逸らし目)」


古戸嶋「なんだが、こうやって形として残ってると実感しますね〜。優にぃさまも三津学の人だったんだなって〜」


悠崎「そ、そうだね……(すぐる)にーさんは優秀な人だから……」


古戸嶋「ちょっと、復帰が遅くて留年したとは聞いてましたけど。それでも、この特隊生のページに載ってるってことは凄いことですもんね〜」


悠崎「う、うん……」


古戸嶋「『真突(しんとつ)射手(いて)』なんて異名を、よく考えつきますよね〜」


悠崎「……うん……」


悠崎M《ああ、どうしよう。喉が締めつけられる。

ああ、どうしよう、どうしたら。

やっぱり、古戸嶋は(すぐる)にーさんを思ってるんだ…。

いや、どうだろう。ただの懐かしさ?

いやいや、でも、オレが出る幕なんてハナからなかったんじゃんか。小さい頃から古戸嶋と優にーさんは一緒だった。元々、家同士というか、親公認の許嫁関係は古戸嶋と優にーさんとの間で交わされた事だ。

でも、そんな優にーさんが出兵先で未帰還になってしまったことで、ウヤムヤになってた。それがオレに回ってきただけ。

だって、オレはどうせ、今だって『替わり』でしかない……》


古戸嶋「ふふっ、やっぱり兄弟揃って美形です!

ちょっと、学生さんの頃の優にぃさまは、巡くんと顔つきが似てるんですよね〜。あ、でもでも、もちろん大本命なのは巡くんですからね!(小声)きゃっ、言っちゃった〜……」


悠崎「(小声)……そんなの無理だ……」


古戸嶋「巡くん?」


▼ガンッ!!と(にぶ)い音が資料室にこだまする。

悠崎の頭が本棚へとめり込んだのだ。つい、精神的に耐えられなかったのだろう。


古戸嶋「めっ、巡くん!!どうしたんですか!?オデコ、血が出ちゃってますよ!?」


悠崎「はははっ……もう、なんか、どうでもよく思えてきたよ……」


古戸嶋「どうでもよくならないでっ!まず止血しましょうよ!」


悠崎「平気、平気……オレみたいなやつはこんくらいの傷を負っていても気にする人いないから……」


古戸嶋「わたしが気にしてますから!ほら、こっち向いて!」


悠崎「んがっ……古戸嶋、首、痛いよ……」


古戸嶋「少しガマンです。……もうっ、急に頭ぶつけるなんてどうしちゃったんです?」


悠崎「なんか、いろいろ……」


古戸嶋「いろいろですか?はい、ハンカチで押さえててください。あとで、救護室に行きましょうね」


悠崎「いや、帰るよ……部隊室に……」


古戸嶋「隠岐(おき)さんに根掘り葉掘り聞かれますよー?」


悠崎「救護室に……、行っても聞かれる気がするけど……」


古戸嶋「巡くんに傷あとが残るなんて、わたしは嫌ですっ」


悠崎「……オレ、男なのに……?」


古戸嶋「男だからなんですか」


悠崎「いや、なんでもないです……」


▼古戸嶋は、有無を言わさない。

悶々と考えていたせいで、古戸嶋の本命であるという発言も聞いていなかった悠崎。しかも、許嫁(いいなずけ)であることを口では否定しつつも、何だかんだと相手の尻に敷かれていることに気づいていない。


(間)


──同時刻、部隊室で一年の戻りを待っている那都と甘草は?


甘草「……ふむ、この茶葉は悪くないのぅ」


那都「また、誰かに(みつ)がせたのか」


甘草「プレゼントじゃよ。そうやって、ワシが人をいいように囲っているような発言は気に(さわ)るぞ〜」


那都「実際、貢がしてるようにしか思えない」


甘草「何じゃあ、ヤキモチかー?」


那都「うんなわけ」


▼ソファーで肩を並べて座っているものの、ジクジクと塩を塗りこめるような会話している那都(なつ)甘草(あまくさ)

険悪なのはいつもの事だが、こんな状態で『実戦』になった場合、息は合うのだろうか。


那都「……遅いな、さすがに」


甘草「猫背の子と、冴紅(さく)ちゃんか〜?」


那都「ああ、かれこれ一時間だ。見つからないなら、戻って来ると思っていた」


甘草「探しに行くのかぁ?」


那都「どうするかを考えている。行って、居なかったら無駄足だからな」


甘草「それもそうじゃが」


那都「だが、もし外職(げしょく)に絡まれていたらーー」


甘草「外職が学生に絡むとも思えんが、絡まれとったら誰かしら助けているかもしれんぞ」


那都「(考えて、立ち上がる)……行ってくる」


甘草「そうか、ならワシも行くかの」


那都「なんだ、着いてくるのか」


甘草「面白そうじゃからな」


那都「そういうところが、()かない」


甘草「褒め言葉として受け取っておくぞ〜、ほっほっほ〜」


▼優雅な動きで、シャララン……と開かれる鉄扇(てっせん)

涼しさを求めるには不向きだが、口角のあがった甘草の口元を隠すには充分であった。




〜〜前半部分 終了〜〜


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台本掲載日/2021年3月23日(火)




【作者から】

こちら前半部分です。

次のページにて、今作の台本は 終 となります。後半部分もよろしくお願いします。


規約『台本利用上のお願い』をよく読んだうえで、楽しい上演時間を過ごしていただきたいです。


登場キャラの紹介、あらすじ、配役表などは『登場キャラなど(白軍編・第四話より)』をご覧になってくださいませ。

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