【分割版】黒軍編・第六話/後半部分【台本 本編】
黒の六話/分割版 後半部分です
後半部分のみ場合/上演時間(目安)⇨40分程
※お時間ありましたら分割版の前半部分と合わせて、お楽しみください。
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M や N がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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◆◆分割版 後半部分◆◆
〜タイトルコール〜
澪留「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。
この劇は、黒軍編第六話の後半部分だよー。
さて、本土から隔絶された孤島での生活、沖を浮かぶ鉄の城での生活。どちらも同じ閉鎖空間であっても、貴官なら、どちらのほうが好ましいのかな?」
(間)
▼翌日の早朝。
すっかり晴れ渡った空の下、玄武港に停泊していた艦艇は、妖島を離れて行ったのであった。妖島に風が吹き抜ける。
◇港が一望できる丘
風神「帰られたな。」
操生「ああ、そうだね。」
風神「師匠は、どうしてあんな話をしたのだろうな?」
操生「さぁね。ついぞ、兄さんの考えは俺にはわからないよ。」
風神「そうか。まあ、おれも同じだがな。」
操生「ははっ、まあ、そうなるよね。」
▼朝方の、爽やかな風が二人の間を駆け抜け、黒い髪が風に躍る。
操生「……なあ、風神。」
風神「うむ?どうした。」
操生「……本当は、全部。分かってるって言ったらどうする?」
風神「改まって、なんの話だ?」
操生「いや、とぼけるってんなら追求しない。けど、おれが欲しい答え、オマエならわかるだろ?……アキ。」
風神「待て待てッ、その呼び名は卑怯だろうッ」
操生「ハハハッ…、そう怒るなよ。」
▼丘の下に広がる崖に強く波が打ち付け、ザザァァァ…とひいていく。
風神「今地!オマエ、おれから何を聞き出したいんだ!全部、わかってるって何なんだ!何をわかったつもりで__」
操生「だってさ、アキ。アキはこの協力体制が続いてる間じゃないと、こうやって面と向かって話もしてくれないじゃん?俺のこと、避けてるしさ。」
風神「仕方ないだろ!それは、おれが『風神』だからで!」
操生「うん、でも。けっこう、寂しいんだ。」
風神「それは……。」
操生「あの時のことは、謝らない。オマエが、受かるはずだった特隊生の試験を蹴ったこと。……そのあとに、上級生を負かして東乱第一の隊長になったこと祝うべきだったんだろうけど、どうしても許せなくて怒鳴りつけてさ。……それでいて、寂しいって思ってんのは俺だけ何だろうなって。」
風神「……今地…。」
操生「隊長に決まってからのオマエってば。やりたい放題じゃん?中等部と関わりを持つし、伝統や継承ってのを重要視してる部隊のやつらを敵に回すし。……破天荒なのに。なんか、楽しそうでさ。俺なんかいなくても大丈夫なんだなって。」
風神「…ちが…」
操生「……なに?」
風神「それは、違う!!断じて、違うと否定する!!」
▼目を見開き、鬼気迫る表情で操生の言葉に弁解する風神。早朝の、嵐が過ぎ去って晴れ渡った空の下では、不釣り合いすぎる修羅場である。
──実はこの修羅場を慌てて木々の陰に隠れ見守る者がいた。
國崎「アカンって、これ聞いちゃアカン…!」
語厘「いやぁ、まさか言い合いが始まったのは想定外。」
羽梨「……にぃ、羽梨の眠気がどっか行っちゃった…。」
語厘「あー、ごめんなー。隊長さんの怒鳴りって、めちゃくちゃビックリするよなぁ」
國崎「ワイは、単に停まっとった艦艇が離れるって情報を貰ったから早起きしただけやねん…!」
語厘「うんうん、それなー。まあ、俺は國崎の反応をみんのが楽しかったから着いてきただけなんだけどなー。」
羽梨「うぅ…、なんか変な気分…。」
語厘「でも、まあ。これで、調べても出てこなかった隊長さんと今地の特隊生さんの関係がわかるわけだー。」
國崎「ひぃぃ…、修羅場やぁ…!」
語厘「おい、國崎。耳塞いでっと、聞き逃すぜ?」
國崎「うぇん…、罪悪感がひどい…。」
羽梨「…あ、とても辛そう。あんな隊長さんの顔は初めて…。」
▼そう、ご存知の通り。東乱第一の二年生トリオである。
彼らは、停泊していた艦艇が早朝には島を離れるという情報を知って、わざわざ見に来たのだ。そして、離れて行く艦を見送って満足して校舎のある敷地へ戻ろうとした道中。聞き慣れた声が聞こえては、立ち去ることも出来ずに隠れる行動に、至ったのである。
太い幹から顔や視線を送るトリオは、日差しの下で言い合う三年生を見やるのだ。
風神「傍に居られんこと!おれだって、寂しいと感じたさ!でも、おまえは全うするだろう!挫折を嫌うじゃないか!」
操生「仕方ないじゃないか!兄さんたちや、父さんに顔向けするには実績を残さなきゃ!」
風神「ああ、そうだ!おれも同じ立場だから気にしないように過ごしてきた!でもなっ、おれは、ずっと悔やんでいた!悔やんで、悔やんで!おまえが、大丈夫。謝らないで、と言う日を思い出す度にどれ程、胸が痛かったことか!」
操生「ちょっと!それと、これは関係ないよ!」
風神「いいや、関係ある!!
おまえの、心や!ましてや海で過ごすはずだった未来を奪い!師匠たちに気遣わせて、改名させた!おまえが、その名になる前の過去を奪ったのは、おれ…いいや、この『風神』だ!!」
操生「バカ!何言ってんだよ!俺は、奪われたなんて思ってない!ちゃんと、納得した上で受け入れたんだ!!」
風神「では、いまだに狭く暗い所が無理なのはなぜだ!受け入れきれていたら、恐怖なんて感じないはずだろ!」
操生「それは…!アキの気にするところじゃない…!」
▼声を荒らげ合う二人。ゼェッ、ゼェッ…と呼吸を乱して、強く睨む風神。操生の表情が曇り、俯く。
隠れている二年生トリオが、その会話を理解しようと声を潜めて言葉を交わす。何だかんだと、聞き耳を立てていた。
語厘「……えっとー、何がなんだって?」
國崎「うーん、せやなぁ。察するに風神はんと今地はんは幼なじみちゅう、関係みたいやな。」
羽梨「幼なじみ…。でも、仲悪い…?」
國崎「ワイの、考察があっとるんなら。何かが原因で仲違いをしとるちゅう、考えのほうがええかもしれへんな。」
羽梨「仲違い…、仲直りできるかな…。」
國崎「んー?本人たち次第やろな。」
語厘「おまえ、こういう手の話には洞察力あるよなー。」
國崎「まあ、知らんけど。」
語厘「知らないのかよ。」
國崎「あってるとは言うとやらんやろ?」
語厘「それもそうか。で?」
國崎「ん?」
語厘「なんか、二人がごちゃごちゃ話してたけど。オマエの、気になったポイントを聞きたいかなー。」
國崎「せやな。まずもって、あのお人らが港が見下ろせるこの丘におる時点でさっきまで停まってた艦に知り合い…いや、身内がおるんやろ。」
語厘「なるほど、そりゃあ調べても特隊生さんの身内が過去録に出てこないわけだ。」
羽梨「これなら、隊長さんの…海での未来も納得かも…?」
語厘「だな。他は?」
國崎「せやなぁ、なんか改名とか言うとったから今地はんには元々の名前があるんやろな。せやから、忘れきれへん思いから軍規とはちゃう格好をしとる…とか。」
羽梨「元の名前…。」
語厘「ほほう、だからセーラー服とスラックスなわけだ。てっきり、趣味かと思ったわ。」
國崎「まあ、趣味っていう方向も考えられるで。」
語厘「あとは、何が気になったんだー?」
國崎「うーん、まあ。あとは、今地はんってけっこう完璧超人みたいな雰囲気あるやろ。けど、実は恐怖症もちって言うんは意外やな。」
羽梨「…暗くて、狭いところって言ってる…。」
語厘「俺たちは、好きだよな。暗くて狭いところ。」
羽梨「うん、落ち着く…。にぃの、体温が近くで感じられるから…。」
國崎「あー、二人で居ることが前提なんやな。」
語厘「は?」
國崎「え?」
語厘「当たり前だろ。」
國崎「おぉん、わかった。わかった。そない顔で見んといて…。」
▼語厘の妙なキメ顔に苦笑いをして、視線から逃れる國崎。羽梨に関しては、棒付きキャンディーを舐めている。──いまだに、三年生の二人が気まずい空気だ。だが、この修羅場を切り上げる瞬間がやってきた。この場にいる五人の端末がけたたましく着信音を響かせたからだ。
國崎「どわっぷっ…!ビックリしたでっ…」
語厘「なんか、めちゃくちゃ通知来たわー。」
羽梨「…羽梨のも、鳴った…。」
國崎「はぁー…、心臓に悪すぎ。何やねん。」
語厘「國崎、代表で確認よろー。」
國崎「はぁ〜?他力本願すぎとちゃいますの?」
語厘「どうせ、同じ通知の内容だろー?」
國崎「そうかもしれへんけど……、(端末の通知確認)えぇっ!?」
羽梨「シグくん…?」
國崎「これはっ、大ニュースや!お人らも確認し!」
語厘「お、おう?」
▼國崎が瀬応の双子に端末を押し付けた。
茂みのほうへ風神が一瞥し、めずらしく持ち歩いていた端末をポケットから取り出してから操生を見やった。
風神「他に人がいたみたいだな。」
操生「ごめん。こんな話、外ですることじゃなかったね…。」
風神「いや、おれも怒鳴ったりしてすまなかった。」
操生「いいや、話を振ったのは俺だから。アキ、この話はわすれ」
風神「また、時間を持って話そう。」
操生「え?」
風神「おれたちは、お互いに隠した気持ちが多すぎる。だから、絶対に時間を合わせよう。」
操生「あ、ああ…。《なんで、そんな本気な顔してんだよ…。バカ、アキのばか…。》」
風神「(深呼吸し、両頬を自打)よしッ……さて!何が送られてきたんだろうな!」
操生「ああ、たぶん俺が設定してる着信音からして、大汐からだよ。」
風神「なるほど!理文からか!」
操生「確認してみよう。風神、ひらける?」
風神「(端末とにらめっこ)……すまん。代わりにひらいてくれ。」
操生「ハハッ、本当に機械オンチだな。(自分の端末を出す)」
風神「なにぃ!笑うな〜!」
操生「ごめんって…(笑)えっと、通知の内容は……」
風神「見してくれ。(端末を覗き込む)こ、これはっ!!」
大汐─メッセージ
[[このメッセージは捜索班に、一斉送信している。
おはよう。班長の大汐だ。
今月から活動が活発化した我ら捜索班だが、やっとだ。
やっと、やっこさんのしっぽを掴むことに成功した。
昨晩、わざわざ情報を与えてくれた東乱第一の二年生 諸君に感謝の意を評するとともに。
これは、國崎くんが教えてくれた手法と送ってくれたデータから割り出した内容だ。
(画像送信)
(画像送信)
上記の。
國崎くんが送ってくれたデータに違和感を覚えたので、潜入係に周囲を探索してもらった。結果、人の出入りを確認。
もしかしなくとも、その場所こそ容疑者グループの巣穴かと思われる。國崎くんの私物が盗られたさいに、追跡センサーで追った場所が空振りに終わってしまった二週間前の悔しさ。
今回こそ、当たりであって欲しく思う。
このメッセージを受けたものから、捜索班の部屋に来てほしい。そして、計画を話し合おう。 以上。]]
操生「なるほど…。…風神、俺らが兄さんと遊んでるうちに、かなり進展したみたいだね。」
風神「ああ、しかも進展の一手を後輩に取られたようだしな!」
操生「にしても、大汐は國崎びいきだな。」
風神「気に入ってくれるのはありがたいが、あくまで東乱の部隊員だってことを忘れてもらっちゃ困るな!」
操生「困るか。そりゃそうだね。(端末をしまう)……とりあえず、捜索班の部屋に向かおう。」
風神「そうだな!ひとっ走りと行くか!」
操生「ああ、行こう。」
▼風神の誘いで、操生が駆け出す。
軽い足取りで走り抜ける操生の後ろを、風神が全体に重量感あるものの、速度のある走りでついて行くのだった。
(間)
▼さて、置き手紙を残して無言で立ち去った今地 澪留。
末っ子の操生と居合道場で師弟関係だった風神に『あの人、何しに来たんだ?』な気分にさせて艦艇へ戻ったわけだが…。
彼は、妖島を離れてニホン国の領海を航行している艦艇内の執務室で書類仕事をしていた。
澪留「〜〜♪(なんかの鼻歌)」
水兵「……あの、失礼ながら今地中尉。何やらご機嫌でありますね。」
澪留「ん?ああ、そうだね。まあ、妖島への上陸は勉強になったからね。」
水兵「勉強で、ありますか。」
澪留「そうさ。貴官は、何も思わなかったかい。」
水兵「(書類の端を揃えつつ)……ワタクシは、あの閉鎖的な島の中で陸地を護る若者を育てているのは不思議な感覚でありました。」
澪留「ふむ。ワタシたちは、本土で生まれ育ち。そして、海で過ごすことを決めた。閉鎖的な空間は似たようなものだね。」
水兵「して、今地中尉が勉強になったこととは…なんでありますか?」
澪留「そうだね。……閉鎖的ではあったが、人を育むという環境で言えば本土の軍学校より整っているように見えた。」
水兵「つまり?」
澪留「人というのは、常に『死』を意識し、『死』と隣り合わせであるからこそ、育っていくものがある。」
水兵「……少々、ワタクシには分かり兼ねる内容であります。」
澪留「ははっ、難しかったか。まあ、島への上陸は正解だったようだ。艦内を見ていて分かるが、船員の息抜きになったようだしね。」
水兵「ええ、島の中にあった銭湯施設は気持ちよかったです。」
澪留「ワタシも、入りに行ったがなかなかだったね。」
水兵「ええ、本当に。今度は、任務の一環ではなく降り立ってみたいものです。」
澪留「そうだね。……さてっ、残りの書類を片付けて。会議に向かおうかね。」
水兵「はい、お手伝い致します。」
▼ニホン自衛海軍は、今日も静かに領海内を護る存在であり続ける。時に、命を賭して闘うことがあろう日に備えて。
(間)
▼自衛海軍が妖島を離れて、大汐からの一斉送信のメッセージが送られてきてから三日後。
週が変わり六月の中頃。
森林公園および黒軍の倉庫郡の一帯は騒がしさで満ちている。
◇森林公園 中流
國崎「おにぃやん!そっち、行ったで!」
語厘「わかってらァ」
國崎「お人!ワイに後ろ取らせたのが負けやで!でりゃっ!」
語厘「はい、俺も二人撃破!!……羽梨!そっち行ったわ!」
羽梨「…もう、めんどう…、これで、眠ってて……」
語厘「(妹の行動に)げっ、」
國崎「うわっ、ケムリっ〜?」
語厘「バカ崎っ!呼吸とめろ、動けなくなるぞ!」
國崎「ぅんぐむっ…」
▼もくもくと周囲・二米をケムリ──いや、シビレと催眠作用のあるガス──が漂う。ドサッ、ガサバサッ…と所から倒れて行く音がする。
風が吹き抜けて徐々にケムリは薄まり、視野が晴れたのを確認してから口と鼻を塞いでいた語厘の手が離れ、國崎が深呼吸した。
國崎「ヒューッ…うぇっ!…ケホッ…、ゴホッ…」
語厘「國崎ぃー、オマエ軟弱だなー。耐性なさすぎだろー。」
國崎「(涙目)アホか!突然、口とか鼻とか塞がれたら呼吸できへんやろ!」
語厘「別に一分や二分の無呼吸で人は死なないー、死なない〜」
國崎「はぁ!そんな暴論が通るわけあらへんやろ!つーか、ワイの脳細胞が死ぬるわ!」
羽梨「(木から降りてくる)……にぃ、シグくん…。」
語厘「お!羽梨〜!薬品の投下、ナイスタイミングだったぜ〜!(抱きしめ)」
羽梨「うゆっ…、それは、よかった…。」
國崎「はぁー…、なんかやりずらくてアカンわ…。」
語厘「はぁ?何がだしー。」
國崎「何がって、いろいろや!いろいろ!」
語厘「あっそう。」
國崎「あーはいはい、興味あらへんのやな。」
羽梨「にぃ、そんなに抱きつかないで…、もしかして、つかれた…?」
語厘「うーん?疲れたよー。だって、三日目ってなると残党探しみたいなところあるじゃん?なんか、メンドーでさ。」
羽梨「うん、そうだね…。羽梨も、疲れた…。」
語厘「ああ、でもさ。大汐の特隊生さんが、最初の巣穴を特定して扉をぶち破るところはカッコ良かったよなー。」
國崎「せやな。警務班との呼吸もバッチリやったなー。あれは、憧れるわ。」
語厘「……オマエは元気そうだなー。」
國崎「うん?ワイのことか?」
語厘「そう、國崎にふってんの。」
國崎「そらぁ、元気でいるしかあらへんやろ!初日と二日にだいぶ盗品の回収もできたみたいやし、やっとワイの私物が戻ってくると思ったらな〜」
語厘「あれ、そういえば國崎の制服って」
羽梨「にぃ、それは言っちゃダメな話…。」
語厘「あー、なるほど。まっ、襟首の線の数が違うだけだし。変わんないかー。」
羽梨「あと…、腕章もないからセーフ…。」
國崎「え?お人ら、なんの話ししとんの?」
▼特隊生の大汐から私物盗難事件の潜伏先を突き止めた…というメッセージを送られてから東乱第一のメンバーは、捜索班と協力して容疑者の身柄拘束および突入作戦を決行した。
そして、三日目の現在。作戦も終盤に差し掛かっている。
一部地域を閉鎖しての追跡調査、捜索班から要請された参謀部の警務班が潜伏先と思われる場所への突入などをしている。
かく言う二年生トリオは、森林公園に潜伏していた容疑者を追い詰める作戦に参加していた。
羽梨「……シグくん、ほっぺたにすり傷あるよ…。」
國崎「え?あ、そうなん?血ィ出てへんから気づかんかったわ。」
語厘「まあ、オマエ。動くときは、お面してるもんな。なんで?」
國崎「なんで?えっとー、まあ、せやな。顔を汚さんようにする意味もあんねん。」
羽梨「やっぱり…、そういう理由なんだね…。」
語厘「前に話した通りだったなー。」
羽梨「…うん、予想どおり…。」
▼何やら納得し合う瀬応の双子。
國崎は、諦めのため息をついた。この盗難事件が起こって以来、何だかんだとメンバーとして受け入れらている気もしなくもない…と絆されつつあるのだった。
すると、港が一望できる丘に続く舗装道から二年生トリオを呼ぶ声が聞こえる。声の主は、あの三年生たちだ。
風神「おーい!!くにさきー!かたりー!はなしー!」
操生「風神、あんまり端っこを歩くと草の中に落ちるよっ」
風神「おお、すまん!それもそうだな!」
國崎「ん?風神はんと今地はんの声やな。」
語厘「だな。國崎、返事してやれよ。」
國崎「なんで?お人らでもええやろ?」
羽梨「…羽梨は、大きい声出すの苦手…。」
語厘「いいからー。」
國崎「(舌打ち)意味わからんわ。まあ、ええ。……おーい!風神はん!今地はん!」
風神「お!あっちから声がしたな!」
操生「ああ、行ってみるか。」
國崎「って、あれぇ?足音、遠ざかって…??」
語厘「やっぱな。」
國崎「どうゆう事なん?」
語厘「あの二人、方向音痴なんだよ。」
國崎「えっ!『剣技の才』やら『猛進の一刀』とか呼ばれとるお人らが??」
羽梨「……戦闘中は、別の感覚が働いてるタイプ…。」
語厘「だから、今みたいに視認できない場所から声かけても気づいて貰えないってわけ。」
國崎「それ、遭難とかしたら死ぬやつやん…。」
語厘「まあ、そうな。……(伸びをする)さーて。気絶したヤツらを拘束しようぜ。」
羽梨「縛り終わったら…、隊長さんたちと合流する…。」
語厘「んで、大汐の特隊生さんにも報告して容疑者を回収してもらうっていうながれでヨロー。」
國崎「拘束するんは、腕だけでエエか?」
語厘「あー、どうすっかな。まあ、足首と手首をガムテでグルグルにしとけばいいんじゃね?」
羽梨「本当なら…、傷つけて動けなくするのが合理的…。」
國崎「げっ、妹はん。けっこう容赦ないこと言うんやな。」
羽梨「ん?そうでもないよ…。生きる残るための手段…。」
語厘「まあ、今回の作戦さ。参加者の武器が模擬戦用の木製武器なのはあやまって殺さないようにする為らしいし。血で汚れずに済んでラッキーじゃん?」
國崎「ははっ、まあ……せやな。《ワイより、このお人らを死神って呼ぶべきやろ!!》」
▼まさかの國崎が反応に困ることになるとは、これが黒軍ならではの『生死観』である。
黒軍の学徒の割合としては、衰退した街や貧困街などで子どもだけで生きてきたものが多い。生きる為に『罪を冒す』というのは意識せずとも身に付いている処世術の一種と考えるのが最善なのだ。
語厘「ってことで、國崎はあっちの奴らを拘束よろ〜。」
羽梨「はい…、シグくんの分…。上手く使ってね…。」
國崎「ああ、りょーかいやで。」
▼こうして、二年生トリオの別行動が始まった。
(間)
▼その頃、國崎の声に反応して舗装された側の道を歩いていた風神と操生は──
風神「おかしい!いっこうに、会えんぞ!」
操生「でも、こっちから聞こえたことは確かだったよ。」
風神「だが、作戦を開始した拠点についてしまったし!間違いだったのではないか?」
操生「うーん、着信して音を便りに探すべきかな。」
風神「おお!そうしよう!さっ、鳴らしてくれ!」
操生「風神、おまえのは?」
風神「持ってきていないぞ!」
操生「……それ、自信満々に言うことじゃないから。」
風神「壊すよりマシだろう!」
操生「破壊魔の異名は伊達じゃないって?……その自信満々な顔、ムカつくなぁ……まあ、いいや。えっと、瀬応のどっちかにかければ応答してくれるよね。」
風神「大丈夫だろう!あの三人は一緒にいるだろうからな!」
操生「それじゃあ、着信して…」
風神「!?ッ、今地!こっちだ!!」
操生「はぁッ!?なっ、なぁぁぁぁぁ!!」
▼野生的な勘なのか。
何かを察知して、端末を耳に当てていた操生を茂みに引っ張りこんだ風神。そのまま、操生に覆い被さるようにカラダを縮め、操生の口を手で押さえつつ息を潜めた。
操生M《近いっ、近い…!つーか、何なんだよ…!アキのばか、あぁ!静まれっ、俺の心臓っ…!》
風神「(小声)……憲兵だ。」
操生M《今、なんて言った?憲兵って言ったか??いや、憲兵って、軍人を取り締まる警察組織の?》
▼隠れた茂みの木々の隙間から、さっきまで立っていた場所を見ることが出来た。目を凝らす操生、同時に目を見張る。
そこには光沢のある黒文字で『MP』という腕章をつけた軍人が八名。ゾロゾロと道を登っていく光景が見える。そして、話し声も聞こえてきた。
憲兵A「この上に、本当にホシが居るのかねぇ?」
憲兵B「居るからこそ、わざわざ出向いるのですよ。」
憲兵C「だからって、こんな面倒な手順を踏まないでも…」
憲兵A「バカ言え。権力があっても、この孤島だけは別モンさ。」
憲兵B「あの『鬼神さま』が。この作戦の為だけに海軍と学園の関係者に頭を下げたらしいですよ?」
憲兵C「へぇー…、あの『鬼神さま』がね。相当、本気なわけだ。」
憲兵A「あたりまえだろ?本土から逃げられてた時点で『鬼神さま』の信用問題なわけだしな。」
憲兵C「信用問題って言ったてさ。あの役に立たない中佐の尻拭いでの挙兵だろ?ご苦労なもんだよなぁ。」
憲兵A「役にたたなくても、指揮官は指揮官さ。」
憲兵B「というか、キツイなぁ…。こんな坂道があるなんて説明は受けてないんですけど??」
憲兵A「諦めろ。『鬼神さま』は、卒業生だから島のことを熟知してる。自分たちは、その指示に従うだけ。熟知してるこの島にホシが逃げ込んだと聞いて作戦を決行したんだろ。」
憲兵C「まあ、やみくもにホシを捜しまわるより楽でイイな。逃げられても周囲は海だろ?」
憲兵B「ちょいちょい、安心すんのまだ早いですよ?本隊と、合流してからが本戦ですし。」
憲兵A「それもそうだが。さっきから、ちらほら『トリ』がうろついてるみたいだな。完全な閉鎖とは行かなかったみたいだ。」
憲兵C「せいぜい、流れ弾には当たってほしくないねぇ」
憲兵A「まあ。間違って撃ってしまっても……、何とかなんだろ。」
憲兵B「証言はいくらでも用意できますよ。」
憲兵C「ハハハッ、そうだよ。自分らは『憲兵隊』だ。」
▼笑い合う憲兵の下士官たち。
実に、無粋な話である。
操生は、今にも談笑していた兵士を殴りに行きたくなる怒りの感情が芽生える。けれども、背後の風神がさせてくれない。というより、背後の風神のほうが言葉では言い表せない怒気のオーラが漏れている。風神の手が、操生の口から離れた。
操生「か、風神…。」
風神「行くぞ、今地。(立ち上がる)」
操生「で、でも!あの人たちの話が本当なら!」
風神「ああ、話にあがってた『鬼神さま』ってのは諭にぃさんだ。にぃさんが島に来ている。にぃさんは、邪魔だと判断したものに躊躇なんてしない。」
操生「だ、だったら今すぐに電話して、瀬応の双子や國崎を退避させたほうが…」
風神「いいやッ、それでは遅い!この森林公園に安定した電波なんてない!アイツらが、応答するとは限らん!」
操生「だ、だからって…!本土の軍警察を相手どらなくても!」
風神「では、オマエはここに居ろ!おれだけで行く!(走り出す)」
操生「ま、待ってよ…!おい、アキ…!!」
▼模擬戦用の木刀を草むらに投げ捨て、隠し持っていた脇差に差し替えた風神。そして、駆け出した。
すぐに見えなくなってしまった風神の後ろ姿の残像に、悔しさから奥歯を噛みしめる操生。だが、すぐに顔をあげた。
操生「テメェの都合で、俺を置いて行こうなんてすんじゃねぇ!ばかアキ!」
▼操生も、走り出す。
その目には『諦めない』という強い意志を宿して。
(間)
※演じなくても大丈夫な、次回予告です。
〜おまけ、2年生トリオの茶番〜
語厘「ジ、カ、イ!」
羽梨「予告、なの……」
國崎「え、お人らなんなん!?」
語厘「いやぁ、ほとんど見せ場なかった回だったわ〜」
羽梨「羽梨…、隊長さんたちの関係が気になるの……」
國崎「まあ、たしかにウヤムヤにはなったけんど。そろそろ、ワイの私物が返ってきて欲しいで?」
語厘「訓練生の夏服って、高等部の夏服とあんまり違いないから問題ないっしょ」
國崎「なんの話しや?」
羽梨「にぃ……それは言っちゃダメ……」
語厘「おーっと!つーことで!次回!」
羽梨『繋げ、団結。後編。』
語厘「東乱第一の前に現れたのは、風神家の長男!そして!國崎、またもや入院!?」
羽梨「で、お送りするかもしれません……?」
國崎「いやいや。勝手に入院させんでええわ!」
羽梨「でも……、ほんとうに絶体絶命ともいう……」
國崎「ひぃーん!ワイ、もう怪我したくないわ!勘弁してぇな!!」
羽梨「不幸体質……?」
語厘「よっ!凶運に好かれた男!!」
國崎「アホっ!やかましいわ!」
語厘「そんなこんなで、次回に続きます!」
羽梨「次回も、よろしく、お願いします…」
國崎「はぁ…、ほんなら、次回もよろしゅう頼んますぅ……!」
〜〜黒の六話『分割版』後半部分 終了~~
黒軍編・第六話⇒繋げ、団結。中編
〜おしまい〜




