【分割版】黒軍編・第六話/前半部分【台本 本編】
黒の六話/分割版 前半部分です。
前半部分のみ場合/上演時間(目安)⇨50分程
※後半部分もお時間ありましたら、合わせてお楽しみくださいませね。
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M や N がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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★★分割版 前半部分★★
前作と今作のアラスジ。
(演者さんのあいだでの把握をお願いします)
二〇八〇年の四月に第二〇期生が進級や進学を済ませた離島に存在する学園・三津ヶ谷。
そんな学園内で、在校生の私物が盗難される事件の件数が増えだし被害が目立つようになってから二週間(盗難事件の初犯は、五月アタマに二件だけだった)。
黒軍では、色んな意味で名の知れている『東乱第一遊撃部隊』から被害が出たことをカワキリに──特隊生である今地操生、大汐理文がリーダー格を務めている──盗難事件の捜索班と東乱第一は協力体制が整いだしていた。
何せ、その被害の一人に黒の中で話題として続いている『一月の騒動』で学園に残った西からの編入生・國崎詩暮。
彼が、被害を受けたと分かれば公に動きやすいという利点もあり。捜索班のリーダー格・大汐から協力をもちかけたのだった。
だが、同じリーダー格の今地が東乱第一の隊長・風神 明と因縁があるようで、國崎は二人の関係が大いに気になっている。そんな國崎を他所に相変わらず瀬応の双子が捜索へ意欲が気ままである。……果たして、この協力体制で、事件は解決に向かうのであろうか──
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─タイトルコール─
澪留「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
國崎「黒軍編の第六話やで」
澪留「『繋げ、団結。中編』
……おや。ワタシが、何しに来たか気になるって?それは、ワタシの末っ子と弟子をからかいに…(ゴホン、ゲフン…)ではなくて、まあ、おいおいわかるさ」
國崎「…おっとー、ワイが好きになれへんお人やなぁ……あ、始まるでー」
(間)
▼さて、現在は二○八○年の六月始まりの週。
学園を有する妖島含む海域が梅雨入り、海の動きが荒れだした。
曇り空の下、島の港に自衛海軍の護衛艦が停泊した。
元より他所からの来島が多くないこともあってか、話を聞きつけた学徒が灯台のある丘へ集まり出した。
ザワついている現場に、東乱第一の國崎詩暮、瀬応語厘、語厘の妹である羽梨の二年生メンバーが揃っている。
國崎「はぁ〜、えらい大きいんやなぁ!あんなんが、海の上を動いとるんか〜!」
語厘「そんなに、珍しいかよ。よく見んじゃん」
羽梨「シグくん…、初めて見た…?嬉しい…?」
國崎「せやで!ワイ、西で暮らしとったけど海の近くには住んだことがあらへんねん!えらいもんやなぁ!カガクのチカラ!」
語厘「…國崎、マジでガキみてぇにテンション、上がってんな」
羽梨「ほんと…、シグくん、幼く見える…」
國崎「なっ、なっ!お人ら、あれは自衛海軍が管理しとる艦なんやろ?なんか、名前とかあるんかな!」
語厘「いや、悪いけど、そういう知識ないから」
羽梨「……にぃと同じく…。でも、あーいうのは護衛艦って呼ばれてたと思う…」
國崎「ほーか!んでも、どうやってえらい大きなもんから乗り降りするんやろか。有識者とか居らんかなー?
(手近の学徒に話しかけ)……なあ、お人!あの艦のこと知っとる?」
語厘「……あのー、羽梨さん。今日、俺は目がおかしいらしい。なんか、ムカつく國崎を思っいきり撫でたくなるー」
羽梨「…にぃ、それは羽梨も共感するところ……」
▼父性なのか、母性なのか。
瀬応の双子は、ワクワクとした様子の國崎を見ていると胸の内に構いたくなる感情が強くでた。
この灯台のある丘は、飛び降り防止の背の高いフェンス越しに島の中で一番大きい港が一望できるわけだが。この景色を國崎と同じテンションで見下ろしそうな男──隊長である風神 明はいない。
國崎「はぁ〜、えらいもん見たわ〜。……ん?そう言えば、風神はんはどこに行ったん?」
羽梨「隊長さん…、操生センパイと一緒だと思う……」
語厘「今地の特隊生さんから隊長さんにな。あの艦が、港に到着してからすぐに連絡が入ったんだよ」
羽梨「なんだか、嬉しそうだった……」
語厘「久しぶりにお会い出来るー、とか何とか?」
國崎「へぇー、会うってことはあの艦に知り合いでもおるんかなー?」
語厘「まあ、そうじゃねーの。隊長さん、家柄だけはそこそこ良いからな」
國崎「そうなん?ワイ、学徒情報はだいたい覚えとるけど。家柄までは知らへんなー」
羽梨「操生センパイも、同じくらいスゴイお家の人……らしい……」
國崎「へー、そうなんかー。調べたら何か分かるかー?」
語厘「学園が許可してるネットワークの範疇なら少しくらいわかるんじゃねーの?」
羽梨「過去の卒業生に、隊長さんの兄弟が載ってるって……」
國崎「ほにほに!おっしゃー、ほんなら調べたろ〜(端末ポチポチ)」
羽梨「……やっぱり、シグくん、今日はヤケに幼く見える……」
語厘「うんな、やたらワクワクしてるよなー」
國崎「なんやー?お人ら、なんか言うたかー?」
語厘「うんにゃ、べっつにー。つーか、艦を見終わったろー。部隊室に戻ろうぜ。海が荒れてるし、風が強すぎるわ」
羽梨「うん、羽梨も戻る……」
國崎「そんなら、ワイも戻ろうかなー。部屋の中のほうが電波あるやろ〜」
語厘「……よし、走るか」
羽梨「うん、勝った人がジュースおごり……」
國崎「えっ!唐突に何なん!?」
羽梨「…訓練、今日はしてないから少しだけ走りたい気分……」
語厘「はい、どーん!(→スタートダッシュする奴ぅ)」
國崎「うぇっ!?お人ら、ズルいで!」
語厘「走り出したもん勝ちだからなー!」
羽梨「シグくん、おごり確定…」
國崎「いやいや!待ってぇな!!ホンマに、カラダ準備しとらんって!」
▼思いつきで走る羽目になるのが東乱第一ならではの自由さ。
國崎は、大いに出遅れることになるものの、余裕を見せる語厘の態度に煽られ、負けず嫌いに火がついたのか全力疾走する。羽梨も、なかなかに足が速いというオマケ付きであった。
(間)
◇軍部関係者 来島用 港場『玄武港』
▼さて、妖島で一番大きい港である玄武港に一隻の護衛艦 停泊中。
水兵「失礼します。今地中尉殿、お伝えしたいことがあります」
澪留「どうぞー、入ってー」
水兵「入ります。(入室し→)あの、艦艇の外に中尉と面会を希望するものが居られますが。どうされますか」
澪留「ワタシに面会?えっとー、今ってどこに停まってましたっけー」
水兵「はいっ、現在 同艦は、ヒトフタ:マルマルに悪天候により妖島に一時 停泊要請を行い、ヒトフタ:ヒトマルに要請受理され、下船状況は希望者のみ…となっております」
澪留「ようじまぁ?……んー、……ああ、妖島か!(立ち上がる)」
水兵「(ビクッ…)どうされますか、身元の確認を行いますか」
澪留「いや、いいよ。妖島なら、身内がいる。面会希望してるのは、その子だろう。まあ、一応 容姿だけ教えてよ」
水兵「はいっ、二名が面会希望しており、この島で見かける男子用の黒の学生服を着用しています」
澪留「ふむ、やはり身内だね。伝言ありがとう。いいよ、下がって」
水兵「はいっ、失礼します……!(→退室する)」
澪留「……そうかー、妖島に停まったのか。そりゃあ、会いに来るよね」
▼眺めていた書類を机の隅に片して服装を正し、執務室から出ていく青年軍人。彼は、今地 澪留。自衛海軍に所属する操生の実兄である。
◇玄武港 入港管理棟 付近
操生「いや、えっとですから俺は!」
風神「今地、おれが替わろうか?」
操生「いいや!頑張って、覚えたんだ!アキは、黙っててくれ」
風神「おお、そうか!……がんばれ!」
風神M《アキか…、アキって呼んでくれたってことは無意識だな。真剣な顔でワードンとにらめっこしてるのを眺めていたいが…相手に言葉が伝わってるようには見えんぞ……》
▼ワードンというのは、在校生の使用している端末にインストールされているモバイル対話辞書のことである。
──身内が乗っている艦艇だと知り得て、入港管理棟の手前で、目的の人物を待っている今地操生と風神明だったが。
護衛艦から降りてきた乗組員に異国の言葉で声を掛けられ、対話に挑戦しようと操生が率先と調べ学んだ言葉を発するものの、相手の首が傾げるばかりで気まずい空気が流れていた。
操生「オカシイっ、俺の発音は間違っているのか??」
風神「うーん、どうだろうな!とりあえず、相手はなんと言っているのだ?」
操生「内容としては、この島に観光や娯楽はあるのか、という話らしい」
風神「ああ、だったら…すまん、ちょい辞書ちかづけてくれ!」
操生「こうか?」
風神「うん、おっけーだ!そうだなー…えっと、〚この島には、大きな温泉宿があります。船旅でお疲れでしょう。行ってみることをオススメします。車は、そこの施設で手続きされたら借りられます。〛……って感じか?」
操生「おお、なんか俺より発音がいいのが腹立つな……」
▼辞書に表示されてる例文を使って、話す。相手が嬉しそうに頷いているので、風神の言葉が通じたようだ。
実は操生が聞き逃しているだけで、ナンパ目的で声を掛けてきた乗組員。しかし、さり気なく風神が操生と距離を縮め、(腰に手を回して)牽制する態度をとったお陰で、諦めがついた乗組員がニホン語で『ありがとう』と言い残して立ち去って行った。
操生「……行ったな」
風神「うむ!言葉が通じたようで、何よりだ!」
操生「見直したよ、風神。おまえ、フランリー国の言葉なんて発音できたんだな」
風神「うむ?いや、できないぞ。単に、今地の発音を真似ただけだ!」
操生「真似であの発音か……、(小声で)…聞いて覚え、見て盗めが身についてるよなぁ……」
風神「ん?どうした!」
操生「なんでも!……でさ、おまえはいつまで俺の腰に手を回してるんだよ!」
風神「ん?え、あっ、す、すまん!!(慌てて離れる)」
操生「……(視線を逸し)、…はぁー、無意識かよ、質悪い……《ドキドキして、心臓、痛い…》……にしても兄さん遅いな」
風神「ああ、本当に遅いな!師匠!…じゃなかった…、澪留さんは本当にこの艦なのか?」
操生「うん、合ってるよ。何せ、四月にオルハ兄さんが手紙をくれてるからね」
風神「ほう!オルハくんは、相変わらずマメだな!」
澪留「あー、なるほどね。だから、面会希望なんて来たのかー。ワタシ、航行中の艦を教えた覚えないものね」
風神「うおっ!?」
操生「あ、兄さん」
澪留「やあ、待たせたね」
風神「(お辞儀す)ご無沙汰しております!師匠!」
澪留「おや、風神の。また会わないうちに大きくなったね」
風神「はい!叔父さんの葬儀のとき以来です!」
澪留「ああ、二年前か。……風神の。もしかしなくても、身長は長兄くん……、えっと、風神中尉と変わらないくらいか?」
風神「どうでしょう!おれも諭にいさんと、会っておりませんから分かりません!ですが、背丈は同じくらいかと!」
澪留「うんうん、なるほどね。きみのとこも、変わらずのようだ。で、居葉がミオに知らせていたんだね」
操生「オルハ兄さんは、進級とともに手紙をくれたよ。……筆不精の兄さんとは違ってね」
澪留「ほら、ワタシは配属先で規制されてるから」
操生「言い訳にならないよ。艦の名前を書かなくても、元気してるーとか、休暇で本土にいるよーとか送ってくれればいいんだよ」
澪留「うーん、それだけで筆を執るのはつまらなくて。書くなら、たくさん書きたいからね」
操生「そんなだから、筆不精って言うしかないでしょ?」
澪留「ははっ、手厳しいなー。で、この島ってカフェとかないかい?ワタシも、久しぶりの陸だからさー」
風神「それでしたら、学園の食堂なんてどうでしょう!」
澪留「ん?ワタシは卒業生とか関係者じゃないけど入れるのかい?」
操生「俺の身内だって分かれば、手続きは簡単に済ませられるよ」
澪留「なるほどね。優秀なキョウダイがいると助かるなー」
操生「ちょっ、ちょっと!なんで抱きしめるのさ!カタイ!カタイから、兄さん!」
澪留「ワタシ、胸筋だけなら風神の、と競えるよー」
風神「でしたら!一服のあとに、手合わせでも!」
澪留「うんうん、気が向いたらねー」
風神「ぜひ!お願いしますっ!」
操生「兄さんも、風神も程々にな」
▼ワイワイと、島の中へ進んで行く風神たち。
普段こそ、隊長や特隊生という肩書きの重責を負うしかないが、この時だけは年相応の素直な態度をとれるのだった。
(間)
▼場所は変わって、黒軍第二校舎 東乱第一遊撃部隊の部隊室。
語厘「どうー?なんか、わかったかー」
羽梨「シグくん…、戻って来てから端末とにらめっこしてるの……」
語厘「かれこれ、一時間近くは黙々とにらめっこだなー」
羽梨「うん…、疲れちゃう……」
語厘「まあ、結局。追いかけっこは俺たちの勝ちだったしなー」
羽梨「うん、勝った…。シグくんが、おごってくれたヒマワリのお茶おいしい……(缶を掌で包む)」
語厘「変わり種かと思いきや、おいしいのなー」
羽梨「うん、おいしい…。ところで、にぃも、なにか見つけた……?」
語厘「うーん、俺の下級ランクで見れる過去の記録を漁ったら『風神』っていう名前はチラホラ出てくるなー。つーか、取材って題して広報部がめちゃ頑張ってる感じ?」
羽梨「そう…、羽梨も同じ……」
語厘「やっぱ、兄弟がどんな人柄だったとかは分かんねーな。あー、やめやめ。飽きたー(机に突っ伏し)」
羽梨「にぃ、おつかれさま…。(兄を撫でる)」
語厘「はぁ〜…、羽梨の手はあったかいなー」
▼使い古されている備品の机を六つ並べて、広く使えるようにしている。風神と今地がどんな家柄なのか、家族構成なのかを部隊室に戻って来てから調べていた二年生トリオ。
あまり、電子機器を使っての情報収集が得意じゃない瀬応の双子は飽き始めている。
逆探知は得意分野。けどネットサーフィンを疲れるから苦手、という理由で。妹である羽梨は長くパソコンをいじることはしない。
國崎「……ほーん、ほほう…、ふむふむ……」
語厘「おーい、國崎ー?なんか、わかったのかよー」
羽梨「なんか、楽しそう…?羽梨、気になる……」
國崎「ん?まあ、なかなかの情報やで」
語厘「んじゃあ、隊長さんたちの家柄とかわかった感じかー?」
國崎「いや、それとは違うんよ。とりあえず見て判断してーな。ほい、共有したでー」
語厘「お、なんか届いた(タブレットを操作)」
羽梨「……これ、圧縮ファイル……?」
語厘「うわっ、長いっ重いっ」
羽梨「…うぅ、端末、動きがかたまっちゃった……」
語厘「おいおい、嫌がらせかー?こんな重いサイトをよく見せようと思ったなー」
國崎「なんや、お人ら。開けへんの?」
語厘「開けてたら、文句言わねぇー」
國崎「貸してみぃ、ほら、ここをこうやって、ひと手間をくわえるとやで」
羽梨「……わぁ、すごい…。すぐ開けた…」
語厘「はーん、手慣れてんな。オマエがやたら記憶力がいい理由がわかった気がするー」
國崎「なんでやねん!電子機器の扱いと、記憶力は対比じゃあらへんわっ」
語厘「ははっ、でさ。このサイトがなんなの?」
國崎「ああ、せやった。おにぃやんが学園の許可してるネットワークなら…って言っとったやろ?」
語厘「あー、言ったな。それが?」
國崎「学徒の身辺に関する内容を調べようとしても……、残念やけど、上手い具合にハジかれて見れへんのや」
語厘「あー、やっぱなー。でさ、このサイト?というか学園の掲示板だな。これが唯一、開けたってことかー?」
國崎「せやで。んで、何がオモロいかと言うとや。一番下まで、スクロールしたって」
語厘「えー、シャーーーって?」
國崎「せやで」
羽梨「……しゃーー…、これ、楽しい……」
語厘「最後のページまで行けたぜ」
國崎「んで。最近のスレを見て欲しいんよ」
羽梨「これ、黒の中で伝わってる七不思議だよ…、怪談話が表示されてる……」
語厘「あー、この話なー。深夜の武器庫から聞こえるすすり泣く声ね。あるあるな七不思議だよな」
國崎「いや、注目してほしいんとこやないわ、それ」
語厘「んん?何が言いたいんだよ」
國崎「ええか、今から最新スレを送信した人を特定する。……ワイの、私物が戻ってくるかもしれへんからな」
語厘「おいおい。じゃあ、なにか?この掲示板が例の盗難グループと繋がってるみたいな言い方じゃんよ」
國崎「このスレは、スレ主がエースやろ。んで、スレに参加しとる人達に番号が振られとる。この、最新スレを送信したお人の番号に心当たりがあんねん。」
語厘「どういうことだ?」
羽梨「……んと、つまり…この掲示板でのアイディーは、学徒のランク制度のやつと同じ……」
語厘「なっ!?えっ!羽梨、今ので理解したのか!?」
羽梨「うん…、見覚えがあるなって思って…」
語厘「えー、まじぃ?(画面を見つめて)……そっかぁ、ランク制度のか。それは考えてなかった。というか、気にしたこともなかったわ」
國崎「妹はん、ご明察や。つまり、このアイディーは学徒ランク制度の最上であるエスから始まるやつが元になっとるはずや。ちなみに、ワイがなんで自信ありげに話しとるかと言うと……」
▼國崎は、机の中からノートパソコンを取り出した。
慣れた手つきで操作していく。私物のように扱っているが、盗難グループ捜索班のリーダー格を務めている特隊生・大汐理文──大汐は、國崎を人格・実力など認めた上で個人的に気に入っている。──から借りたものだ。
國崎「この最新スレを残しとる人のアイディーを使うで。んで、半分の画面にこのサイトを開く」
語厘「学徒登録簿じゃんか」
國崎「ええか、ただ頭文字のアルファベットとスレ送信者の数字を入力しても……『該当する学徒はいません』って出るんや」
羽梨「ほんとだ…、これじゃあ、特定できない……」
國崎「まあ、そうやな。普通は特定できへん。そこで、ワイが記憶しとる情報が役に立つはずなんや。ちょい画面を見とってな」
▼そう断ってから、カタカタとキーボードを弾く國崎。頭文字のアルファベットを始めとし、数字を入力していく。
國崎「ほーら、該当する情報があったで」
語厘「おお、マジだ!えっ、つまりさ。これ、実際の学生証の数字を並べ替えたやつってことになるのか?!」
羽梨「しかも…、この学徒さん…、盗難グループの容疑者リストに載ってた人だ……」
語厘「へー、コイツがねぇ?羽梨がそういうなら、載ってたかもな」
國崎「なっ?ワイには、自信があるって言うたとおりやろ」
語厘「おう。國崎、すげぇな。なんか、見直した!」
羽梨「シグくんって…、実はけっこう隠した才能がある……?」
國崎「んー、どうやろな。手の内を見せすぎても面白くあらへんしなぁ」
語厘「うわぁ、もったいぶるやつぅー。……じゃあ、なんで手の内ってのを俺らに見せたわけ?」
國崎「そうやなー。お人ら、現場検証と人への聞き込みだけじゃ飽きてきた頃合いやろ?」
語厘「まあ、たしかに飽きてるって言ったら、隊長さんに怒られそうだけどな」
羽梨「……隠れるのうまい、全然、わかんないの……」
國崎「そこでや!……理由をズバリ言うなら、お人らに手伝って欲しいんよ。今見せた手順で掲示板から犯人の足取り掴みして行こうかと思ってんねん」
語厘「(小声)……いいんじゃんよ」
國崎「ん?おにぃやん、どなんし」
語厘「面白そうだ。やらせてくれよっ!」
羽梨「羽梨も…、手伝う……」
語厘「探偵みたいだ!がんばろうぜ、羽梨!」
羽梨「うん、にぃ…、がんばろう……」
國崎M《反応は、上々やな…。実演してみて、正解やったわ》
▼國崎が見せた掲示板に、容疑者リストに該当する学徒を発見。これによって、二年生トリオの協力捜査が開始。
少しは盗難グループのシッポは掴めたのではないかと思う進展であった。
(間)
◇共同使用棟 三階 カフェフロア
▼ここは、カフェフロア。
フロアの窓際のテーブル席で、風神たちは積もる話で盛り上がりつつ、お茶をしていた。
仲がいいという話を聞かない意外なメンツであるし、自衛海軍の制服を着ている澪留に興味津々な視線が集まる。
だが、わざわざ声をかけてくるものは居ない。
澪留「にしても、この学園。なかなか、美味しいものが揃っているねー」
操生「そりゃあ、それなりに人数いるからね」
澪留「学園の敷地に入るまでに、見れるとこを見たけど。農産物も頑張っているようだし。電気も自家発電で半分くらい賄っているようだね」
操生「はははっ…、本当によく見てるね。普通の人なら、気づかないよ」
澪留「よく言われる。ワタシは、普通とは違うからねー。……じゃなきゃ、海軍なんてやってないさ。ところで、今の全校生徒は何人いるのかな?」
風神「今期で、教官を合わせて一万人をこえたと何かの伝達メールで見ました!」
澪留「へー、一万人か。地方都市の住民数と同じくらいかー」
操生「まあ、兄さんが訊いたとおり。風神が言ってるのは学園に在籍してる人数だけだからね。島全体の住民を数えると、もっと住んでると思うよ」
澪留「なるほどねー。……で、さっき小耳に挟んだけども」
操生「どうしたの、兄さん」
澪留「今、この学園の一部で新しい勢力が出来上がったそうじゃないか」
操生「ど、どこでその話を?」
澪留「いいや、単に小耳に挟んだと言っただけじゃないか。ああ、でも。ミオの反応を見る限り、事実なんだね」
操生「ぐぅっ……、カマかけかよ……」
風神「師匠っ、新しい勢力と言っても!ただの盗難グループです!なので、こちらとしては存在を認めていないのだ!」
操生「バカっ、風神っ、余計なことを!」
風神「えっ、あっ、まずかったか??」
操生「かなりマズイよ!」
澪留「へー、ふーん?新勢力が、盗難グループねぇー?ちょっと、詳しく聞かせてくれないかな。」
風神「(圧に負けて)はっ、はいっ!!」
操生「わ、わかったよ兄さん。だから、そんな笑みで凄むのはやめて。(呆れ顔)」
澪留「うんうん、素直な子は大好きだよ。」
▼風神の一言により、澪留の表情がとても断れる雰囲気ではないものに変わる。一応、微笑んではいるのだが。そして、風神と操生からカクカクしかじかと事の経緯をあらいざらい話させるのであった。
操生「……てきな状況だよ。」
澪留「なるほど、なるほど。」
操生「一応、容疑者として新勢力のメンバーをリスト化することは出来てる。でも、なかなか足取りが掴めなくて…」
澪留「まあ、そう簡単に終わる事件じゃないからねぇ?」
風神「師匠っ、それはどういうことです!(机をバンッ)」
澪留「こらこら、行儀悪いよ?机を叩かないの。」
風神「す、すみません。(椅子に座る)……それで、何かご存知なのですかっ」
澪留「うーん?そうだねぇ」
▼操生は、ジッ…と澪留を見やる。顔色から心理を把握しようと試みるが、伺えない。つくづく感情を隠すのが上手い。
澪留は、優雅な動作でティーカップの中身を飲んだ。
澪留「……ここだけの話。本土でも、似たような勢力が動き出しているのさ。でも、軍の上層としては『宗教団体』として認識し、扱っている。」
操生「えっと、どういうこと?」
澪留「風神の、今一度、この学園での新勢力の方針や筆頭みたいなのを教えて。」
風神「はいッ、えっと。学園で目立っている勢力は、特隊生の候補者だった学徒を筆頭に『過去の栄光を敬い、それら栄光に倣った怠惰のない活動を』…です。」
澪留「なるほどね。では今、本土で動き出している『宗教団体』の『方針』を教えよう。……『過去の凄惨に倣い、清算する』というものさ。」
操生「……たしかに、似ているけど。でも、言葉の選び方の問題じゃないのかな。」
澪留「ミオの言いたいことはわかるさ。けどね、例の宗教団体は『救済』と称して貧困街で過ごしている孤児を連れ去っているようだ。」
風神「連れ去り!?……見過ごせぬ話であります!調査のほどは!」
澪留「もちろん、軍の上層部もちゃんと調査はしているさ。でも、上手い具合にカモフラージュというか。証拠がつかめなくてね。難航していると聞く。」
風神「とても、善人のすることではない…!」
澪留「でもねぇ、風神の。よくよく考えてほしいんだ。今のニホン国での身寄りのない未成年者が成人する確率は?」
風神「えっと、五年前の記録だと六割です。」
操生M《兄さんが何を言いたいのかは凡そ、理解できるな。……身元がない幼い子どもたちが、今のニホン国を成人するまで生き残るのは統計からして低いと言われているし…。》
澪留「つまり、そこから分かることは何かな。」
風神「連れ去りとは言っていますが、……所詮は誘拐。立派な犯罪ではありますが、身元のわからない孤児たちからしたら『救済』で間違いないのかも知れません。」
澪留「そういう事だね。ワタシやミオ、風神の、のように全てが揃った環境で過ごせている国民のほうが少ないさ。でも、ワタシが指摘したいのはそこじゃない。」
操生「と、言うと?」
澪留「(笑顔をやめる)……ここ一ヶ月で、例の宗教団体が協力関係を結んでいる。とされている孤児院や施設があると調べがついた。」
風神M《背後に、協力者がいたとは…。いなければ、貧困街から連れられた子たちが生活する環境がないものな…。》
操生「(生唾を飲み込む)……それで、その施設や孤児院の名前や所有者というのは?」
澪留「ああ、特に大きな支援や助成をしているのが『シゲル孤児院』だったかな。」
風神「シゲル孤児院ッ…!?」
澪留「ん?風神の、何か心当たりでも?」
操生「(小声)……待てって、余計なことは言うなっ…」
風神「あー、いえっ…!なんでもないです!」
澪留「そうかい。(紅茶を飲む)……さて、そんな協力関係の施設や孤児院から『国の兵力となるべく教育する機関』に13~17歳までの未成年が一定数、送り込まれているって言ったら、どうする?」
風神「なぬっ…!?」
操生「そ、それはっ…?!」
▼澪留から告げられた言葉に、操生と風神の肝が冷える。
反応のとしては、驚き過ぎな気もしなくもない。何せ、孤児院の出身者なんて在校生の四割を占めている。だが、二人には心当たりがあるからだ。シゲル孤児院という名に。
風神は、モヤモヤと胸のうちが煙る。カップに残っている飲み物を一気に飲み干した。そして。
風神「……し、師匠も!飲み物がからっぽですね!新しいのを持ってきましょう!今地、選びに行こう!」
操生「ああ、そうだね!兄さん。ちょっと、席を立ってもいいかな?」
澪留「ああ、良いとも。ワタシは、ミルクティーが飲みたいね。」
風神「わかりました!お持ちしますぞ!」
▼にこやかに見送ってくる澪留。
そそくさと注文カウンターへ向かう操生と風神。席から離れていくにつれ、徐々に二人から鬼気迫るオーラが漏れ出し、カウンター付近をたむろしていた学徒が道を譲る。
厨房の人「いらっしゃい、ご注文は。」
風神「おれは、メロンソーダを!今地はどうする?」
操生「えっと、俺はオレンジジュースを。あと、ミルク多めの、ミルクティーもお願いします。」
厨房の人「うけたまわりました。そちらの受け取りカウンターでお待ちを。」
操生「(小声)……風神…、兄さんの話をどう捉えた?」
風神「(小声)どう捉えたと言われてもだな…。」
操生「(小声)…俺は、兄さんが言ってることがハッタリには聞こえないんだよ…。」
風神「(小声)同感だ…。だが、おれは部隊員を疑いたくない…。ましてや、アイツは盗難の被害者だ…。扱いにくいやつとは思っているが、悪いやつじゃないからな…。」
操生「(小声)そりゃあ、俺だって…。アイツ、運が悪いだけでアイツ自身に他人を欺き通すなんてこと……」
風神「だからさ!」
操生「ッ!?な、なんだよ。」
風神「師匠には、刀の教えを受けている間に散々、からかわれたからな!」
操生「つまり?」
風神「師匠の話は、真実だと思う。……けどな。おれらは、本土から離れて四年半だ。『鳥籠』の人間らしくやってみようじゃないか。」
操生「……籠には、籠の生き物としての流儀ってやつか。」
風神「そういうことさ。師匠は、島で過ごした間に培った知識!そう言った、おれたちの度量を計っておられるのかもしれん!だからこそ、おれらはおれらの方法で必ずや犯人を捕まえよう!」
操生「ああ、そうだな。《……やっぱり、アキはアキだ。太陽みたいな明るい…アキ、オマエってやつは…。》」
▼風神の激励と笑顔。
操生は、胸がひどくザワついた。さざ波が押し寄せ、心の容積をまんまと超えていこうとする想いという水量。
言葉にできない想いを胸にフタをし、押し込めたのだった。
(間)
▼ところで、部隊室で電子機器を使った容疑者リストをあらっている二年生トリオは──?
國崎「さて、だいぶメンツが割れたんやない?」
羽梨「……うん、順調…。」
國崎「今地はんが用意してくれとるリストと合わせてみて、わかることはー?」
羽梨「……掲示板の、スレ主は別の人…。」
國崎「せやな。容疑者リストとは関係ないお人が、スレ主みたいやな。」
語厘「だなー。つーかさ、この掲示板。なんで、黒軍での怪談話をネタにしてると思う?」
國崎「ただ単に、可視化できるように怪談話を書き起こしとるだけやない?」
語厘「あー、おっけー。こういう時ばっかり、ズレた回答すんのね。オマエ。」
羽梨「……にぃ、言わなきゃ伝わらない…。」
國崎「はぁ〜?何やねん。ワイは思ったことを言うただけやろ。」
語厘「國崎!いいか!聞いて驚け!(バンッと机を叩く)」
國崎「お、おう?(圧され気味)」
語厘「俺の予想があってりゃ、話題を振ってんのが六割強、容疑者リストのメンバーなんだよ!」
國崎「……うん?それって??」
羽梨「……にぃが言いたいのは、この話と、この話…、あとこれも…何かの、意図があるかもってこと……。」
國崎「え?いやいや、ちょい待ってーな。ということは…」
語厘「そう!これは、大汐の特隊生に報告すべき話ってことだよ!」
▼國崎は、驚きのあまりに語厘の発言に目を白黒させた。何せ、羽梨が指さした怪談話の舞台になっている場所が『逢魔が時の室内稽古場』『深夜のB1倉庫』『丑三つ時の森林公園』という三つの話。
端的に解説するならば、〈人が隠れるには好都合な場所〉ということである。
國崎「えっ!あーー!!そういう事か!!」
語厘「うるせぇ!耳元でデケェ声出すな!(殴り)」
國崎「いったぁ…!?お、おにぃやん!暴力反対やで!」
語厘「だから、うっせぇの!」
羽梨「今、大汐さんにメッセージ送った…。」
語厘「おう!羽梨、ナイスだぜ!」
國崎「はぁー…、ホンマに痛いわ…。」
語厘「うるせぇのが悪いんだよ。」
國崎「殴るほうも殴るほうやと思ういますぅー」
語厘「(全力でシカト)」
國崎「あー、はい。おにぃやんは、飽きるの早いなぁ?」
▼ワイワイと楽しそうな会話風景。
何だかんだと、部隊の編成初期に比べれば険悪な雰囲気がなくなったと言えるようだ。
(間)
▼場所は戻り、共同使用棟にあるカフェフロア。
気持ちを押し込めた操生は、やたらと胸の奥がむずがゆくなる感覚を覚えた。だが、それさえも持ち前の理性でフタした。
それから、注文した飲み物を受け取って席に戻る風神と操生。だが、澪留が待っているはずのテーブル席の机上はキレイに片付けられていた。
操生「あれ。もしかして、いない?」
風神「うむ?いないのか。師匠は、お手洗いかもな。」
操生「いや、兄さんが何も言わずに立ち去るなんてこと…」
▼飲み物が乗っているトレーを机上に置く風神。
すると、下級生が慌てた様子で声をかけてくる。
下級生「あの!すみません!」
風神「うむ?どうした。」
下級生「これ!風神三年生と、今地特隊生に!通路ですれ違った自衛海軍の人から渡してほしいと!」
風神「なんだそれ、茶封筒か。……他にも、自衛海軍の人が遊びに来ているのだな。というか師匠は、どこに??」
操生「いや、わざわざ学園の敷地に入る人はそうそう居ないでしょ。あー、きみ、悪かったね。戻っていいよ、ありがとう。」
下級生「いえ!失礼しますっ!!」
操生「まったく、なんなんだか…(茶封筒を受け取り、裏面を見て察する)あ、兄さんのやつ、逃げたな。」
風神「なにぃ!?おれ、手合わせをしてもらってないぞ!!」
操生「風神、手合わせは諦めたほうがいい。茶封筒の裏面に『黒の常駐軍医どのに、挨拶してから艦艇に戻ります。また、いずれ』……だってさ。」
風神「ま、また騙されたぁ……!!」
操生「お、おい。ここでうずくまるなよ。オマエ、図体デカいんだから目立つよ。」
風神「うぅ、悔しいぞぉ…。おれは、何度…師匠に騙されれば…。」
操生「(小声)……ホント、兄さん絡みだと間抜けだなぁ…。」
風神「うん?なんか、言ったかぁ…?」
操生「何もないよ。」
風神「そうかぁ?(立ち上がる)」
操生「そうだよ。……さて、兄さんも帰ちゃったしなー。」
風神「この飲み物はどうする?」
操生「悪いけど、持ち出し用の容器に移して後輩くんたちに持って行ってあげな。」
風神「うむ?今地は、どこに行くのだ。」
操生「このあとは、いろいろ考えたい。だから、単独行動ってことで。」
風神「おう、それもそうだな。またな、今地。」
操生「うん。またね。」
操生M《今日は、あの頃みたいに長く傍に居られたな…。アキも、よそよそしくなかったし…。……にしても、筆不精の兄さんが置き手紙か…。》
▼操生は、風神と別れて長兄の澪留が置いていった茶封筒に肩を竦めた。いったい、何が書かれているのだろうか。
操生「まあ、あとで読もうかな…。とりあえず、俺も捜索班と合流しなきゃな。」
▼手紙は、その日に読まれることはなかった。そして、日が暮れる頃にはあやしかった雲行きが活発化し、終業時刻が二時間ほど繰り上がるくらいの、暴風雨となった。
黒の六話『分割版』 前半部分 おしまい
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