【七人用】黒軍編・第六話⇒繋げ、団結(きずな)。前編【台本 本編】
※この部分をコピペして、配信される枠のコメントや概要に載せてください。
録画を残す際も同様にお願いします。
【台本タイトル】三津ヶ谷学園物語
黒軍編・第六話⇒繋げ、団結。前編
(もしくは、三津学 黒の六話 でもOK)
【作者】瀧月 狩織
【台本リンク】※このページのなろうリンクを貼ってください。
黒の六話/繋げ、団結。前編
▶全通しバージョンです。
比率・男声4人:女声2人:不問1人
※作者オススメの配役表/登場キャラクターの紹介などは前ページの『登場キャラなど』をご覧ください。
全通しの上演時間(目安)→80分~90分間
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M や N がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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☆本編
★★前半(50分程)★★
前作と今作のアラスジ。
(演者さんのあいだで把握のほどをお願いします)
二〇八〇年の四月に第二〇期生が進級や進学を済ませた離島に存在する学園・三津ヶ谷。
そんな学園内で、在校生の私物が盗難される事件の件数が増えだし被害が目立つようになってから二週間(盗難事件の初犯は、五月アタマに二件だけだった)。
黒軍では、色んな意味で名の知れている『東乱第一遊撃部隊』から被害が出たことをカワキリに──特隊生である今地操生、大汐理文がリーダー格を務めている──盗難事件の捜索班と東乱第一は協力体制が整いだしていた。
何せ、その被害の一人に黒の中で話題として続いている『一月の騒動』で学園に残った西からの編入生・國崎詩暮。
彼が、被害を受けたと分かれば公に動きやすいという利点もあり。捜索班のリーダー格・大汐から協力をもちかけたのだった。
だが、同じリーダー格の今地が東乱第一の隊長・風神 明と因縁があるようで、國崎は二人の関係が大いに気になっている。そんな國崎を他所に相変わらず瀬応の双子が捜索へ意欲が気ままである。……果たして、この協力体制で、事件は解決に向かうのであろうか──
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─タイトルコール─
澪留「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
國崎「黒軍編の第六話やで。」
澪留「『繋げ、団結。前編』
……おや。ワタシが、何しに来たか気になるって?それは、ワタシの末っ子と弟子をからかいに…(ゴホン、ゲフン…)ではなくて、まあ、おいおいわかるさ。」
國崎「…おっとー、ワイが好きになれへんお人やなぁ…。
あ、始まるでー。」
(間)
▼さて、現在は二○八○年の六月始まりの週。
学園を有する妖島含む海域が梅雨入り、海の動きが荒れだした。
曇り空の下、島の港に国防海軍の護衛艦が停泊した。
元より他所からの来島が多くないこともあってか、話を聞きつけた学徒が灯台のある丘へ集まり出した。
ザワついている現場に、東乱第一の二年生トリオも居た。
國崎「はぁ〜、えらい大きいんやなぁ!あんなんが、海の上を動いとるんか〜!」
語厘「そんなに、珍しいかよ。よく見んじゃん。」
羽梨「シグくん…、初めて見た…?嬉しい…?」
國崎「せやで!ワイ、西で暮らしとったけど海の近くには住んだことがあらへんねん!えらいもんやなぁ!カガクのチカラ!」
語厘「…國崎、マジでガキみてぇにテンション、上がってんな。」
羽梨「ほんと…、シグくん、幼く見える…。」
國崎「なっ、なっ!お人ら、あれは国防海軍が管理しとる艦なんやろ?なんか、名前とかあるんかな!」
語厘「いや、悪いけど、そういう知識ないから。」
羽梨「……にぃと同じく…。でも、あーいうのは護衛艦って呼ばれてたと思う…。」
國崎「ほーか!んでも、どうやってえらい大きなもんから乗り降りするんやろか。有識者とか居らんかなー?
(手近の学徒に話しかけ)……なあ、お人!あの艦のこと知っとる?」
語厘「……あのー、羽梨さん。今日、俺は目がおかしいらしい。なんか、ムカつく國崎を思っいきり撫でたくなるー。」
羽梨「…にぃ、それは羽梨も共感するところ…。」
▼父性なのか、母性なのか。
瀬応の双子は、ワクワクとした様子の國崎を見ていると胸の内に構いたくなる感情が強くでた。
この灯台のある丘は、飛び降り防止の背の高いフェンス越しに島の中で一番大きい港が一望できるわけだが。この景色を國崎と同じテンションで見下ろしそうな男──隊長である風神 明はいない。
國崎「はぁ〜、えらいもん見たわ〜。……ん?そう言えば、風神はんはどこに行ったん?」
羽梨「隊長さん…、操生センパイと一緒だと思う…。」
語厘「今地の特隊生さんから隊長さんにな。あの艦が、港に到着してからすぐに連絡が入ったんだよ。」
羽梨「なんだか、嬉しそうだった…。」
語厘「久しぶりにお会い出来るー、とか何とか?」
國崎「へぇー、会うってことはあの艦に知り合いでもおるんかなー?」
語厘「まあ、そうじゃねーの。隊長さん、家柄だけはそこそこ良いからな。」
國崎「そうなん?ワイ、学徒情報はだいたい覚えとるけど。家柄までは知らへんなー。」
羽梨「操生センパイも、同じくらいスゴイお家の人…。」
國崎「へー、そうなんかー。調べたら何か分かるかー?」
語厘「学園が許可してるネットワークの範疇なら少しくらいわかるんじゃねーの?」
羽梨「過去の卒業生に、隊長さんの兄弟が載ってるって…。」
國崎「ほにほに!おっしゃー、ほんなら調べたろ〜(端末ポチポチ)」
羽梨「……やっぱり、シグくん、今日はヤケに幼く見える…。」
語厘「うんな、やたらワクワクしてるよなー。」
國崎「なんやー?お人ら、なんか言うたかー?」
語厘「うんにゃ、べっつにー。つーか、艦を見終わったろー。部隊室に戻ろうぜ。海が荒れてるし、風が強すぎるわ。」
羽梨「うん、羽梨も戻る…。」
國崎「そんなら、ワイも戻ろうかなー。部屋の中のほうが電波あるやろ〜。」
語厘「……よし、走るか。」
羽梨「うん、勝った人がジュースおごり…。」
國崎「えっ!唐突に何なん!?」
羽梨「…訓練、今日はしてないから少しだけ走りたい気分…。」
語厘「はい、どーん!(→スタートダッシュする奴ぅ)」
國崎「うぇっ!?お人ら、ズルいで!」
語厘「走り出したもん勝ちだからなー!」
羽梨「シグくん、おごり確定…。」
國崎「いやいや!待ってぇな!!ホンマに、カラダ準備しとらんって!」
▼思いつきで走る羽目になるのが東乱第一ならではの自由さ。
國崎は、大いに出遅れることになるものの、余裕を見せる語厘の態度に煽られ、負けず嫌いに火がついたのか全力疾走する。羽梨も、なかなかに足が速いというオマケ付きであった。
(間)
◇軍部関係者 来島用 港場『玄武港』
▼さて、妖島で一番大きい港である玄武港に一隻の護衛艦 停泊中。
水兵「失礼します。今地中尉殿、お伝えしたいことがあります。」
澪留「どうぞー、入ってー。」
水兵「入ります。
(入室し→)あの、艦艇の外に中尉と面会を希望するものが居られますが。どうされますか」
澪留「ワタシに面会?えっとー、今ってどこに停まってましたっけー。」
水兵「はいっ、現在 同艦は、ヒトフタ:マルマルに悪天候により妖島に一時 停泊要請を行い、ヒトフタ:ヒトマルに要請受理され、下船状況は希望者のみ…となっております」
澪留「ようじまぁ?……んー、……ああ、妖島か!(立ち上がる)」
水兵「(ビクッ…)どうされますか、身元の確認を行いますか。」
澪留「いや、いいよ。妖島なら、身内がいる。面会希望してるのは、その子だろう。まあ、一応 容姿だけ教えてよ。」
水兵「はいっ、二名 面会希望しており、この島で見かける男子用の黒の学生服を着用しています。」
澪留「ふむ、やはり身内だね。伝言ありがとう。いいよ、下がって。」
水兵「はいっ、失礼します…!(→退室する)」
澪留「……そうかー、妖島に停まったのか。そりゃあ、会いに来るよね。」
▼眺めていた書類を机の隅に片して服装を正し、執務室から出ていく青年軍人。彼は、今地 澪留。国防海軍に所属する操生の実兄である。
◇玄武港 入港管理棟 付近
操生「いや、えっとですから僕は!」
風神「今地、おれが替わろうか?」
操生「いいや!頑張って、覚えたんだ!アキは、黙っててくれ。」
風神「ああ、そうか!……がんばれ!」
風神M
《アキか…、アキって呼んでくれたってことは無意識だな。真剣な顔でワードンとにらめっこしてるのを眺めていたいが…相手に言葉が伝わってるようには見えんぞ…。》
▼身内が乗っている艦艇だと知り得て、入港管理棟の手前で、目的の人物を待っている今地操生と風神明だったが。
護衛艦から降りてきた乗員に異国の言葉で声を掛けられ、対話に挑戦しようと操生が率先と調べ学んだ言葉を発するものの、相手の首が傾げるばかりで気まずい空気が流れていた。
操生「オカシイっ、僕の発音は間違っているのか??」
風神「うーん、どうだろうな!とりあえず、相手はなんと言っているのだ?」
操生「内容としては、この島に観光や娯楽はあるのか、という話らしい。」
風神「ああ、だったら…すまん、ちょい辞書ちかづけてくれ!」
操生「こうか?」
風神「うん、おっけーだ!そうだなー…えっと、〚この島には、大きな温泉宿があります。船旅でお疲れでしょう。行ってみることをオススメします。車は、そこの施設で手続きされたら借りられます。〛……って感じか?」
操生「おお、なんか僕より発音がいいのが腹立つな…。」
▼辞書に表示されてる例文を使って、話す。相手が嬉しそうに頷いているので、風神の言葉が通じたようだ。
実は操生が聞き逃しているだけで、ナンパ目的で声を掛けてきた乗員。
しかし、さり気なく風神が操生と距離を縮め、(腰に手を回す)牽制する。
操生「ありがとう、か。……行ったな。」
風神「うむ!言葉が通じたようで、何よりだ!」
操生「見直したよ、風神。おまえ、中龍・華国の言葉なんて発音できたんだな。」
風神「うむ?いや、できないぞ。単に、今地の発音を真似ただけだ!」
操生「真似であの発音か…、(小声で)…聞いて覚え、見て盗めが身についてるよなぁ…。」
風神「ん?どうした!」
操生「なんでも!……でさ、おまえはいつまで僕の腰に手を回してるんだよ!」
風神「ん?え、あっ、す、すまん!!(慌てて離れる)」
操生「……(視線を逸し)、…はぁー、無意識かよ、質悪い……
(咳払い)……にしても兄さん遅いな。」
風神「ああ、本当に遅いな!師匠!…じゃなかった…、澪留さんは本当にこの艦なのか?」
操生「うん、合ってるよ。何せ、四月にオルハ兄さんが手紙をくれてるからね。」
風神「ほう!オルハくんは、相変わらずマメだな!」
澪留「あー、なるほどね。だから、面会希望なんて来たのかー。ワタシ、航行中の艦を教えた覚えないものね。」
風神「うおっ!?」
操生「あ、兄さん。」
澪留「やあ、待たせたね。」
風神「(お辞儀す)ご無沙汰しております!師匠!」
澪留「おや、風神の。また会わないうちに大きくなったね。」
風神「はい!叔父さんの葬儀のとき以来です!」
澪留「ああ、二年前か。……風神の。もしかしなくても、身長は長兄くん……、えっと、諭くんと変わらないくらいか?」
風神「どうでしょう!おれも諭にいさんと、会っておりませんから分かりません!ですが、背丈は同じくらいかと!」
澪留「うんうん、なるほどね。きみのとこも、変わらずのようだ。で、居葉がミオに知らせていたんだね。」
操生「オルハ兄さんは、進級とともに手紙をくれたよ。……筆不精の兄さんとは違ってね。」
澪留「ほら、ワタシは配属先で規制されてるから。」
操生「言い訳にならないよ。艦の名前を書かなくても、元気してるとか、休暇で本土にいるよーとか送ってくれればいいんだよ。」
澪留「うーん、それだけで筆を執るのはつまらなくて。書くなら、たくさん書きたいからね。」
操生「そんなだから、筆不精って言うしかないでしょ?」
澪留「ははっ、手厳しいなー。で、この島ってカフェとかないかい?ワタシも、久しぶりの陸だからさー。」
風神「それでしたら、学園の食堂なんてどうでしょう!」
澪留「ん?ワタシは卒業生とか関係者じゃないけど入れるのかい?」
操生「僕の身内だって分かれば、手続きは簡単に済ませられるよ。」
澪留「なるほどね。優秀なキョウダイがいると助かるなー。」
操生「ちょっ、ちょっと!なんで抱きしめるのさ!カタイ!カタイから、兄さん!」
澪留「ワタシ、胸筋だけなら風神の、と競えるよー。」
風神「でしたら!一服のあとに、手合わせでも!」
澪留「うんうん、気が向いたらねー。」
風神「ぜひ!お願いしますっ!」
操生「兄さんも、風神も程々にな。」
▼ワイワイと、島の中へ進んで行く風神たち。
普段こそ、隊長や特隊生という肩書きの重責を負うしかないが、この時だけは年相応の素直な態度をとれるのだった。
(間)
▼場所は変わって、黒軍第二校舎 東乱第一遊撃部隊の部隊室。
語厘「どうー?なんか、わかったかー。」
羽梨「シグくん…、戻って来てから端末とにらめっこしてるの…。」
語厘「かれこれ、一時間近くは黙々とにらめっこだなー。」
羽梨「うん…、疲れちゃう…。」
語厘「まあ、結局。追いかけっこは俺たちの勝ちだったしなー。」
羽梨「うん、勝った…。シグくんが、おごってくれたヒマワリのお茶おいしい…。(缶を掌で包む)」
語厘「変わり種かと思いきや、おいしいのなー。」
羽梨「うん、おいしい…。ところで、にぃも、なにか見つけた…?」
語厘「うーん、(下級ランクの学徒でも見られる範囲の)過去の記録を漁ったら『風神』っていう名前はチラホラ出てくるなー。つーか、取材って題して広報部がめちゃ頑張ってる感じ?」
羽梨「そう…、羽梨も同じ…。」
語厘「やっぱ、兄弟がどんな人柄だったとかは分かんねーな。あー、やめやめ。飽きたー。(机に突っ伏し)」
羽梨「にぃ、おつかれさま…。(兄を撫でる)」
語厘「はぁ〜…、羽梨の手はあったかいなー。」
▼使い古されている備品の机を六つ並べて、広く使えるようにしている。風神と今地がどんな家柄なのか、家族構成なのかを部隊室に戻って来てから調べていた二年生トリオ。
あまり、電子機器を使っての情報収集が得意じゃない瀬応の双子は飽き始めている。
羽梨M
《……ネットサーフィンは目が疲れる……、何か、探したりして目的が絞れてる、逆探知は得意なんだけどね……》
國崎「……ほーん、ほほう…、ふむふむ…。」
語厘「おーい、國崎ー?なんか、わかったのかよー。」
羽梨「なんか、楽しそう…?羽梨、気になる…。」
國崎「ん?まあ、なかなかの情報やで。」
語厘「んじゃあ、隊長さんたちの家柄とかわかった感じかー?」
國崎「いや、それとは違うんよ。とりあえず見て判断してーな。ほい、共有したでー。」
語厘「お、なんか届いた。(タブレットを操作)」
羽梨「……これ、圧縮ファイル…?」
語厘「うわっ、長いっ重いっ」
羽梨「…うぅ、端末、動きがかたまっちゃった…。」
語厘「おいおい、嫌がらせかー?こんな重いサイトをよく見せようと思ったなー。」
國崎「なんや、お人ら。開けへんの?」
語厘「開けてたら、文句言わねぇー。」
國崎「貸してみぃ、ほら、ここをこうやって、ひと手間をくわえるとやで。」
羽梨「……わぁ、すごい…。すぐ開けた…。」
語厘「はーん、手慣れてんな。オマエがやたら記憶力がいい理由がわかった気がするー。」
國崎「なんでやねん!電子機器の扱いと、記憶力は対比じゃあらへんわっ」
語厘「ははっ、でさ。このサイトがなんなの?」
國崎「ああ、せやった。おにぃやんが学園の許可してるネットワークなら…って言っとったやろ?」
語厘「あー、言ったな。それが?」
國崎「学徒の身辺に関する内容を調べようとしても……、残念やけど、上手い具合にハジかれて見れへんのや。」
語厘「あー、やっぱなー。でさ、このサイト?というか学園の掲示板だな。これが唯一、開けたってことかー?」
國崎「せやで。んで、何がオモロいかと言うとや。一番下まで、スクロールしたって。」
語厘「えー、シャーーーって?」
國崎「せやで。」
羽梨「……しゃーー…、これ、楽しい…。」
語厘「最後のページまで行けたぜ。」
國崎「んで。最近のスレを見て欲しいんよ。」
羽梨「これ、黒の中で伝わってる七不思議だよ…、怪談話が表示されてる…。」
語厘「あー、この話なー。深夜の武器庫から聞こえるすすり泣く声ね。あるあるな七不思議だな。」
國崎「いや、注目してほしいんとこやないわ、それ。」
語厘「何が言いたいんだよ。」
國崎「ええか、今から最新スレを送信した人を特定する。……ワイの、私物が戻ってくるかもしれへんからな。」
語厘「おいおい。じゃあ、なにか?この掲示板が例の盗難グループと繋がってるみたいな言い方じゃんよ。」
國崎「このスレは、スレ主がエースやろ。んで、スレに参加しとる人達に番号が振られとる。この、最新スレを送信したお人の番号に心当たりがあんねん。」
語厘「どういうことだ?」
羽梨「……んと、つまり…この掲示板でのアイディーは、学徒のランク制度のやつと同じ…。」
語厘「なっ!?えっ!羽梨、理解したのか!?」
羽梨「うん…、見覚えがあるなって思って…。」
語厘「えー、まじぃ?(画面を見つめて)……そっかぁ、ランク制度のか。それは考えてなかった。というか、気にしたこともなかったわ。」
國崎「妹はん、ご明察や。つまり、このアイディーは学徒ランク制度の最上であるエスから始まるやつが元になっとるはずや。
ちなみに、ワイがなんで自信ありげに話しとるかと言うと……」
▼國崎は、机の中からノートパソコンを取り出した。
慣れた手つきで操作していく。私物のように扱っているが、盗難グループ捜索班のリーダー格を務めている特隊生・大汐理文──大汐は、國崎を人格・実力など認めた上で個人的に気に入っている。──から借りたものだ。
國崎「この最新スレを残しとる人のアイディーを使うで。んで、半分の画面にこのサイトを開く。」
語厘「学徒登録簿じゃんか。」
國崎「ええか、ただ頭文字のアルファベットとスレ送信者の数字を入力しても……『該当する学徒はいません』って出るんや。」
羽梨「ほんとだ…、これじゃあ、特定できない…」
國崎「まあ、そうやな。普通は特定できへん。そこで、ワイが記憶しとる情報が役に立つはずなんや。ちょい画面を見とってな。」
▼そう断ってから、カタカタとキーボードを弾く國崎。
頭文字のアルファベットを始めとし、数字を入力していく。
國崎「ほーら、該当する情報があったで。」
語厘「おお、マジだ!えっ、つまりさ。これ、実際の学生証の数字を並べ替えたやつってことになるのか?!」
羽梨「しかも…、この学徒さん…、盗難グループの容疑者リストに載ってた人だ…。」
語厘「へー、コイツがねぇ?羽梨がそういうなら、載ってたかもな。」
國崎「なっ?ワイには、自信があるって言うたとおりやろ。」
語厘「おう。國崎、すげぇな。なんか、見直したぜ!」
羽梨「シグくんって…、実はけっこう隠した才能がある…?」
國崎「んー、どうやろな。手の内を見せすぎても面白くあらへんしなぁ。」
語厘「そういうもんかー?てかさ、なんで手の内ってのを俺らに見せたわけ?」
國崎「そうやなー。お人ら、現場検証と人への聞き込みだけじゃ飽きてきた頃合いやろ?」
語厘「まあ、たしかに飽きてるって言ったら、隊長さんに怒られそうだけどな。」
羽梨「……隠れるのうまい、全然、わかんないの…。」
國崎「そこでや!……理由をズバリ言うなら、お人らに手伝って欲しいんよ。今見せた手順で掲示板から犯人の足取り掴みして行こうかと思ってんねん。」
語厘「(小声)……いいんじゃんよ。」
國崎「ん?おにぃやん、どなんし」
語厘「面白そうだ!やらせてくれよ!」
羽梨「羽梨も…、手伝う…。」
語厘「探偵みたいだ!がんばろうぜ、羽梨!」
羽梨「うん、にぃ…、がんばろう…。」
國崎M《反応は、上々やな…。実演してみて、正解やったわ。》
▼國崎が見せた掲示板に、容疑者リストに該当する学徒を発見。これによって、二年生トリオの協力捜査が開始。
少しは盗難グループのシッポは掴めたのではないかと思う進展であった。
(間)
◇共同使用棟 三階 カフェフロア
▼ここは、カフェフロア。
フロアの窓際のテーブル席で、風神たちは積もる話で盛り上がりつつ、お茶をしていた。
親しい仲という話は聞かない意外なメンツであるし、海軍の制服を着ている澪留に興味津々な視線が集まる。
だが、わざわざ声をかけてくるものは居ない。
澪留「にしても、この学園。なかなか、美味しいものが揃っているねー。」
操生「そりゃあ、それなりに人数いるからね。」
澪留「学園の敷地に入るまでに、見れるとこを見たけど。農産物も頑張っているようだし。電気も自家発電で半分くらい賄っているようだね。」
操生「はははっ…、本当によく見てるね。普通の人なら、気づかないよ。」
澪留「よく言われる。ワタシは、普通とは違うからねー。……じゃなきゃ、海軍なんてやってないさ。ところで、今の全校生徒は何人いるのかな?」
風神「今期で、教官を合わせて一万人をこえたと何かの伝達メールで見ました!」
澪留「へー、一万人か。地方都市の住民数と同じくらいかー。」
操生「まあ、兄さんが訊いたとおり。風神が言ってるのは学園に在籍してる人数だけだからね。島全体の住民を数えると、もっと住んでると思うよ。」
澪留「なるほどねー。……で、さっき小耳に挟んだけども。」
操生「どうしたの、兄さん。」
澪留「今、この学園の一部で新しい勢力が出来上がったそうじゃないか。」
操生「ど、どこでその話を?」
澪留「いいや、単に小耳に挟んだと言っただけじゃないか。ああ、でも。ミオの反応を見る限り、事実なんだね。」
操生「ぐぅっ……、カマかけかよ…。」
風神「師匠っ、新しい勢力と言っても!ただの盗難グループです!なので、こちらとしては存在を認めていないのだ!」
操生「バカっ、風神っ、余計なことを!」
風神「えっ、あっ、まずかったか??」
操生「かなりマズイよ!」
澪留「へー、ふーん?新勢力が、盗難グループねぇー?ちょっと、詳しく聞かせてくれないかな。」
風神「(圧に負けて)はっ、はいっ!!」
操生「わ、わかったよ兄さん。だから、そんな笑みで凄むのはやめて。(呆れ顔)」
澪留「うんうん、素直な子は大好きだよ。」
▼風神の一言により、澪留の表情がとても断れる雰囲気ではないものに変わる。
一応、微笑んではいる。
そして、風神と操生からカクカクしかじかと事の経緯をあらいざらい話させるのであった。
操生「……てきな状況だよ。」
澪留「なるほど、なるほど。」
操生「一応、容疑者として新勢力のメンバーをリスト化することは出来てる。でも、なかなか足取りが掴めなくて…」
澪留「まあ、そう簡単に終わる事件じゃないからねぇ?」
風神「師匠っ、それはどういうことです!(机をバンッ)」
澪留「こらこら、行儀悪いよ?机を叩かないの。」
風神「す、すみません。(椅子に座る)……それで、何かご存知なのですかっ」
澪留「うーん?そうだねぇ」
▼操生は、ジッ…と澪留を見やる。顔色から心理を把握しようと試みるが、伺えない。つくづく感情を隠すのが上手い。
澪留は、優雅な動作でティーカップの中身を飲んだ。
澪留「……ここだけの話。本土でも、似たような勢力が動き出しているのさ。でも、軍の上層としては『宗教団体』として認識し、扱っている。」
操生「えっと、どういうこと?」
澪留「風神の、今一度、この学園での新勢力の方針や筆頭みたいなのを教えて。」
風神「はいッ、えっと。
学園で目立っている勢力は、特隊生の候補者だった学徒を筆頭に『過去の栄光を敬い、それら栄光に倣った怠惰のない活動を』…です。」
澪留「なるほどね。では今、本土で動き出している『宗教団体』の『方針』を教えよう。……『過去の凄惨に倣い、清算する』というものさ。」
操生「……たしかに、似ているけど。でも、言葉の選び方の問題じゃないのかな。」
澪留「ミオの言いたいことはわかるさ。けどね、例の宗教団体は『救済』と称して貧困街で過ごしている孤児を連れ去っているようだ。」
風神「連れ去り!?……見過ごせぬ話であります!調査のほどは!」
澪留「もちろん、軍の上層部もちゃんと調査はしているさ。でも、上手い具合にカモフラージュというか。証拠がつかめなくてね。難航していると聞く。」
風神「とても、善人のすることではない…!」
澪留「でもねぇ、風神の。よくよく考えてほしいんだ。今のニホン国での身寄りのない未成年者が成人する確率は?」
風神「えっと、五年前の記録だと七割です。」
操生M
《兄さんが何を言いたいのかは凡そ、理解できるな。……身元がない幼い子どもたちが、今のニホン国を成人するまで生き残るのは統計からして低いと言われているし…。》
澪留「つまり、そこから分かることは何かな。」
風神「連れ去りとは言っていますが、……立派な犯罪ではあります。ですが、身寄りのない孤児たちからしたら『救済』で間違いないのかも知れません。」
澪留「そういう事だね。ワタシやミオ、風神の、のように全てが揃った環境で過ごせている国民のほうが少ないさ。でも、ワタシが指摘したいのはそこじゃない。」
操生「と、言うと?」
澪留「(笑顔をやめる)……ここ一ヶ月で、例の宗教団体が協力関係を結んでいる。とされている孤児院や施設があると調べがついた。」
風神M《背後に、協力者がいたとは…。いなければ、貧困街から連れられた子たちが生活する環境がないものな…。》
操生「(生唾を飲み込む)……それで、その施設や孤児院の名前や所有者というのは?」
澪留「ああ、特に大きな支援や助成をしているのが『シゲル孤児院』だったかな。」
風神「シゲル孤児院ッ…!?」
澪留「ん?風神の、何か心当たりでも?」
操生「(小声)……待てって、余計なことは言うなっ…」
風神「あー、いえっ…!なんでもないです!」
澪留「そうかい。(紅茶を飲む)
……さて、そんな協力関係の施設や孤児院から『国の兵力となるべく教育する機関』に13~17歳までの未成年が一定数、送り込まれているって言ったら、どうする?」
風神「なぬっ…!?」
操生「そ、それはっ…?!」
▼澪留から告げられた言葉に、操生と風神の肝が冷える。
反応のとしては、驚き過ぎな気もしなくもない。
何せ、孤児院の出身者なんて在校生の四割を占めている。だが、二人には心当たりがあるからだ。
シゲル孤児院という名に。
風神は、モヤモヤと胸のうちが煙る。カップに残っている飲み物を一気に飲み干した。そして──、
風神「……師匠も!飲み物がからっぽですね!新しいのを持ってきましょう!今地、選びに行こう!」
操生「ああ、そうだね!兄さん。ちょっと、席を立ってもいいかな?」
澪留「ああ、良いとも。ワタシは、ミルクティーが飲みたいね。」
風神「わかりました!お持ちしますぞ!」
▼にこやかに見送ってくる澪留。
そそくさと注文カウンターへ向かう操生と風神。席から離れていくにつれ、徐々に二人から鬼気迫るオーラが漏れ出し、カウンター付近をたむろしていた学徒が道を譲る。
厨房の人「いらっしゃい、ご注文は。」
風神「おれは、メロンソーダを!今地はどうする?」
操生「えっと、僕はオレンジジュースを。あと、ミルク多めの、ミルクティーもお願いします。」
厨房の人「うけたまわりました。そちらの受け取りカウンターでお待ちを。」
操生「(小声)……風神…、兄さんの話をどう捉えた?」
風神「(小声)どう捉えたと言われてもだな…。」
操生「(小声)……僕は、兄さんが言ってることがハッタリには聞こえないんだよ…。」
風神「(小声)同感だ…。だが、おれは部隊員を疑いたくない…。ましてや、アイツは盗難の被害者だ…。扱いにくいやつとは思っているが、悪いやつじゃないからな…。」
操生「(小声)そりゃあ、僕だって…。アイツ、運が悪いだけでアイツ自身に他人を欺き通すなんてこと……」
風神「だからさ!」
操生「ッ!?な、なんだよ。」
風神「師匠には、刀の教えを受けている間に散々、からかわれたからな!」
操生「つまり?」
風神「師匠の話は、真実だと思う。……けどな。おれらは、本土から離れて四年半だ。『鳥籠』の人間らしくやってみようじゃないか。」
操生「……籠には、籠の生き物としての流儀ってやつか。」
風神「そういうことさ。
師匠は、島で過ごした間に培った知識!そう言った、おれたちの度量を計っておられるのかもしれん!だからこそ、おれらは、おれらの方法で必ずや犯人を捕まえよう!」
操生「ああ、そうだな。《……やっぱり、アキはアキだ。太陽みたいな明るい…アキ、オマエってやつは…。》」
▼風神の激励と笑顔。
操生は、胸がひどくザワついた。さざ波が押し寄せ、心の容積をまんまと超えていこうとする想いという水量。
言葉にできない想いを胸にフタをし、押し込めたのだった。
(間)
▼ところで、部隊室で電子機器を使った容疑者リストをあらっている二年生トリオは──?
國崎「さて、だいぶメンツが割れたんやない?」
羽梨「……うん、順調…。」
國崎「今地はんが用意してくれとるリストと合わせてみて、わかることはー?」
羽梨「……掲示板の、スレ主は別の人…。」
國崎「せやな。容疑者リストとは関係ないお人が、スレ主みたいやな。」
語厘「だなー。つーかさ、この掲示板。なんで、黒軍での怪談話をネタにしてると思う?」
國崎「ただ単に、可視化できるように怪談話を書き起こしとるだけやない?」
語厘「あー、おっけー。こういう時ばっかり、ズレた回答すんのね。オマエ。」
羽梨「……にぃ、言わなきゃ伝わらない…。」
國崎「はぁ〜?何やねん。ワイは思ったことを言うただけやろ。」
語厘「國崎!いいか!聞いて驚け!(バンッと机を叩く)」
國崎「お、おう?(圧され気味)」
語厘「俺の予想があってりゃ、話題を振ってんのが六割強、容疑者リストのメンバーなんだよ!」
國崎「……うん?それって??」
羽梨「……にぃが言いたいのは、この話と、この話…、あとこれも…何かの、意図があるかもってこと……。」
國崎「え?いやいや、ちょい待ってーな。ということは…」
語厘「そう!これは、大汐の特隊生に報告すべき話ってことだよ!」
▼國崎は、驚きのあまりに語厘の発言に目を白黒させた。
何せ、羽梨が指さした怪談話の舞台になっている場所が『逢魔が時の室内稽古場』『深夜のB1倉庫』『丑三つ時の森林公園』という三つの話。
端的に解説するならば、〈人が隠れるには好都合な場所〉ということである。
國崎「えっ!あーー!!そういう事か!!」
語厘「うるせぇ!耳元でデケェ声出すな!(殴り)」
國崎「いったぁ…!?お、おにぃやん!暴力反対やで!」
語厘「だから、うっせぇの!」
羽梨「今、大汐さんにメッセージ送った…。」
語厘「おう!羽梨、ナイスだぜ!」
國崎「はぁー…、ホンマに痛いわ…。」
語厘「うるせぇのが悪いんだよ。」
國崎「殴るほうも殴るほうやと思ういますぅー」
語厘「(全力でシカト)」
國崎「あー、はい。おにぃやんは、飽きるの早いなぁ?」
▼ワイワイと楽しそうな会話風景。
何だかんだと、部隊の編成初期に比べれば険悪な雰囲気がなくなったと言えるようだ。
(間)
▼場所は戻り、共同使用棟にあるカフェフロア。
注文した飲み物を受け取って席に戻る風神と操生。だが、澪留が待っているはずのテーブル席の机上はキレイに片付けられていた。
操生「あれ。もしかして、いない?」
風神「うむ?いないのか。師匠は、お手洗いかもな。」
操生「いや、兄さんが何も言わずに立ち去るなんてこと…」
▼飲み物が乗っているトレーを机上に置く風神。
すると、下級生が慌てた様子で声をかけてくる。
下級生「あの!すみません!」
風神「うむ?どうした。」
下級生「これ!風神三年生と、今地特隊生に!通路ですれ違った国防海軍の人から渡してほしいと!」
風神「なんだそれ、茶封筒か。……他にも、国防海軍の人が遊びに来ているのだな。というか師匠は、どこに??」
操生「いや、わざわざ学園の敷地に入る人はそうそう居ないでしょ。
あ、下級生さん、お疲れ様。戻っていいよ、ありがとう。」
下級生「いえ!失礼しますっ!!」
操生「まったく、なんなんだか…(茶封筒を受け取り、裏面を見て察する)あ、兄さんのやつ、逃げたな。」
風神「なにぃ!?おれ、手合わせをしてもらってないぞ!!」
操生「風神、手合わせは諦めたほうがいい。茶封筒の裏面に『黒の常駐軍医に、挨拶してから艦艇に戻ります。また、いずれ』……だってさ。」
風神「ま、また騙されたぁ……!!」
操生「お、おい。ここでうずくまるなよ。オマエ、図体デカいんだから目立つよ。」
風神「うぅ、悔しいぞぉ…。おれは、何度…師匠に騙されれば…。」
操生「(小声)……ホント、兄さん絡みだと間抜けだなぁ…。」
風神「うん?なんか、言ったかぁ…?」
操生「何もないよ。」
風神「そうかぁ?(立ち上がる)」
操生「そうだよ。……さて、兄さんも帰ちゃったしなー。」
風神「この飲み物はどうする?」
操生「悪いけど、持ち出し用の容器に移して後輩くんたちに持って行ってあげな。」
風神「うむ?今地は、どこに行くのだ。」
操生「このあとは、いろいろ考えたい。だから、単独行動ってことで。」
風神「おう、それもそうだな。またな、今地。」
操生「うん。またね。」
操生M
《今日は、あの頃みたいに長く傍に居られたな…。アキも、よそよそしくなかったし…。……にしても、筆不精の兄さんが置き手紙か…。》
▼操生は、風神と別れて長兄の澪留が置いていった茶封筒に肩を竦めた。いったい、何が書かれているのだろうか。
操生「まあ、あとで読もうかな…。とりあえず、俺も捜索班と合流しなきゃな。」
▼手紙は、その日に読まれることはなかった。そして、日が暮れる頃にはあやしかった雲行きが活発化し、終業時刻が二時間ほど繰り上がるくらいの、暴風雨となった。
(間)
◆◆後半(40分程)◆◆
▼翌日の早朝。
すっかり晴れ渡った空の下、玄武港に停泊していた艦艇は、妖島を離れて行ったのであった。
妖島に風が吹き抜ける。
◇港が一望できる丘
風神「帰られたな。」
操生「ああ、そうだね。」
風神「師匠は、どうしてあんな話をしたのだろうな?」
操生「さぁね。ついぞ、兄さんの考えは僕にはわからないよ。」
風神「そうか。まあ、おれも同じだがな。」
操生「ははっ、まあ、そうなるよね。」
▼朝方の、爽やかな風が二人の間を駆け抜け、黒い髪が風に躍る。
操生「……なあ、風神。」
風神「うむ?どうした。」
操生「……本当は、全部。分かってるって言ったらどうする?」
風神「改まって、なんの話だ?」
操生「いや、とぼけるってんなら追求しない。けど、僕が欲しい答え、オマエならわかるだろ?……アキ。」
風神「待て待てッ、その呼び名は卑怯だろうッ」
操生「ハハハッ…、そう怒るなよ。」
▼丘の下に広がる崖に強く波が打ち付け、ザザァァァ…とひいていく。
風神「今地!オマエ、おれから何を聞き出したいんだ!全部、わかってるって何なんだ!何をわかったつもりで──」
操生「だってさ、アキ。アキはこの協力体制が続いてる間じゃないと、こうやって面と向かって話もしてくれないじゃん?僕のこと、避けてるしさ。」
風神「仕方ないだろ!それは、おれが『風神』だからで!」
操生「うん、でも。けっこう、寂しいんだ。」
風神「それは……。」
操生「あの時のことは、謝らない。オマエが、受かるはずだった特隊生の試験を蹴ったこと。
……そのあとに、上級生を負かして東乱第一の隊長になったこと祝うべきだったんだろうけど、どうしても許せなくて怒鳴りつけてさ。……それでいて、寂しいって思ってんのは僕だけ何だろうなって。」
風神「……今地…。」
操生「隊長に決まってからのオマエってば。やりたい放題じゃん?中等部と関わりを持つし、伝統や継承ってのを重要視してる部隊のやつらを敵に回すし。……破天荒なのに。なんか、楽しそうでさ。僕なんかいなくても大丈夫なんだなって。」
風神「…ちが…」
操生「……なに?」
風神「それは、違う!!断じて、違うと否定する!!」
▼目を見開き、鬼気迫る表情で操生の言葉に弁解する風神。早朝の、嵐が過ぎ去って晴れ渡った空の下では、不釣り合いすぎる修羅場である。
──実はこの修羅場を慌てて木々の陰に隠れ見守る者がいた。
國崎「アカンって、これ聞いちゃアカン…!」
語厘「いやぁ、まさか言い合いが始まったのは想定外。」
羽梨「……にぃ、羽梨の眠気がどっか行っちゃった…。」
語厘「あー、ごめんなー。隊長さんの怒鳴りって、めちゃくちゃビックリするよなぁ」
國崎「ワイは、単に停まっとった艦艇が離れるって情報を貰ったから早起きしただけやねん…!」
語厘「うんうん、それなー。まあ、俺は國崎の反応をみるのが楽しかったから着いてきただけなんだけどなー。」
羽梨「うぅ…、なんか変な気分…。」
語厘「でも、まあ。これで、調べても出てこなかった隊長さんと今地の特隊生さんの関係がわかるわけだー。」
國崎「ひぃぃ…、修羅場やぁ…!」
語厘「おい、國崎。耳塞いでっと、聞き逃すぜ?」
國崎「うぇん…、罪悪感がひどい…。」
羽梨「…あ、とても辛そう。あんな隊長さんの顔は初めて…。」
▼そう、ご存知の通り。東乱第一の二年生トリオである。
彼らは、停泊していた艦艇が早朝には島を離れるという情報を知って、わざわざ見に来たのだ。艦艇を見送り、そして、校舎のある敷地に戻る道中。聞き慣れた声が聞こえて、立ち去ることも出来ずに隠れる行動に。太い幹から顔や視線を送るトリオは、日差しの下で言い合う三年生を見やるのだ。
風神「傍に居られんこと!おれだって、寂しいと感じたさ!でも、おまえは全うするだろう!挫折を嫌うじゃないか!」
操生「仕方ないじゃないか!兄さんたちや、父さんに顔向けするには実績を残さなきゃ!」
風神「ああ、そうだ!おれも同じ立場だから気にしないように過ごしてきた!でもなっ、おれは、ずっと悔やんでいた!悔やんで、悔やんで!おまえが、大丈夫。謝らないで、と言う日を思い出す度にどれ程、胸が痛かったことか!」
操生「ちょっと!それと、これは関係ないよ!」
風神「いいや、関係ある!!
おまえの、心や!ましてや海で過ごすはずだった未来を奪い!師匠たちに気遣わせて、改名させた!おまえが、その名になる前の過去を奪ったのは、おれ…いいや、この『風神』だ!!」
操生「バカ!何言ってんだよ!俺は、奪われたなんて思ってない!ちゃんと、納得した上で受け入れたんだ!!」
風神「では、いまだに狭く暗い所が無理なのはなぜだ!受け入れきれていたら、恐怖なんて感じないはずだろ!」
操生「それは…!アキの気にするところじゃない…!」
▼声を荒らげ合う二人。ゼェッ、ゼェッ…と呼吸を乱して、強く睨む風神。操生の表情が曇り、俯く。
隠れている二年生トリオが、その会話を理解しようと声を潜めて言葉を交わす。何だかんだと、聞き耳を立てていた。
語厘「……えっとー、何がなんだって?」
國崎「うーん、せやなぁ。察するに風神はんと今地はんは幼なじみちゅう、関係みたいやな。」
羽梨「幼なじみ…。でも、仲悪い…?」
國崎「ワイの、考察があっとるんなら。何かが原因で仲違いをしとるちゅう、考えのほうがええかもしれへんな。」
羽梨「仲違い…、仲直りできるかな…。」
國崎「んー?本人たち次第やろな。」
語厘「おまえ、こういう手の話には洞察力あるよなー。」
國崎「まあ、知らんけど。」
語厘「知らないのかよ。」
國崎「あってるとは言うとやらんやろ?」
語厘「それもそうか。で?」
國崎「ん?」
語厘「なんか、二人がごちゃごちゃ話してたけど。オマエの、気になったポイントを聞きたいかなー。」
國崎「せやな。まずもって、あのお人らが港が見下ろせるこの丘におる時点でさっきまで停まってた艦に知り合い…いや、身内がおるんやろ。」
語厘「なるほど、そりゃあ調べても特隊生さんの身内が過去録に出てこないわけだ。」
羽梨「これなら、隊長さんの…海での未来も納得かも…?」
語厘「だな。他は?」
國崎「せやなぁ、なんか改名とか言うとったから今地はんには元々の名前があるんやろな。せやから、忘れきれへん思いから軍規とはちゃう格好をしとる…とか。」
羽梨「元の名前…。」
語厘「ほほう、だからセーラー服とスラックスなわけだ。てっきり、趣味かと思ったわ。」
國崎「まあ、趣味っていう方向も考えられるで。」
語厘「あとは、何が気になったんだー?」
國崎「うーん、まあ。あとは、今地はんってけっこう完璧超人みたいな雰囲気あるやろ。けど、実は恐怖症もちって言うんは意外やな。」
羽梨「…暗くて、狭いところって言ってる…。」
語厘「俺たちは、好きだよな。暗くて狭いところ。」
羽梨「うん、落ち着く…。にぃの、体温が近くで感じられるから…。」
國崎「あー、二人で居ることが前提なんやな。」
語厘「は?」
國崎「え?」
語厘「当たり前だろ。」
國崎「おぉん、わかった。わかった。そない顔で見んといて…。」
▼語厘の妙なキメ顔に苦笑いをして、視線から逃れる國崎。羽梨に関しては、棒付きキャンディーを舐めている。──いまだに、三年生の二人が気まずい空気だ。だが、この修羅場を切り上げる瞬間がやってきた。この場にいる五人の端末がけたたましく着信音を響かせたからだ。
國崎「どわっぷっ…!ビックリしたでっ…」
語厘「なんか、めちゃくちゃ通知来たわー。」
羽梨「…羽梨のも、鳴った…。」
國崎「はぁー…、心臓に悪すぎ。何やねん。」
語厘「國崎、代表で確認よろー。」
國崎「はぁ〜?他力本願すぎとちゃいますの?」
語厘「どうせ、同じ通知の内容だろー?」
國崎「そうかもしれへんけど……、(端末の通知確認)えぇっ!?」
羽梨「シグくん…?」
國崎「これはっ、大ニュースや!お人らも確認し!」
語厘「お、おう?」
▼國崎が瀬応の双子に端末を押し付けた。
茂みのほうへ風神が一瞥し、めずらしく持ち歩いていた端末をポケットから取り出してから操生を見やった。
風神「他に人がいたみたいだな。」
操生「ごめん。こんな話、外ですることじゃなかったね…。」
風神「いや、おれも怒鳴ったりしてすまなかった。」
操生「いいや、話を振ったのは俺だから。アキ、この話はわすれ」
風神「また、時間を持って話そう。」
操生「え?」
風神「おれたちは、お互いに隠した気持ちが多すぎる。だから、絶対に時間を合わせよう。」
操生「あ、ああ…。《なんで、そんな本気な顔してんだよ…。バカ、アキのばか…。》」
風神「(深呼吸し、両頬を自打)よしッ……さて!何が送られてきたんだろうな!」
操生「ああ、たぶん俺が設定してる着信音からして、大汐からだよ。」
風神「なるほど!理文からか!」
操生「確認してみよう。風神、ひらける?」
風神「(端末とにらめっこ)……すまん。代わりにひらいてくれ。」
操生「ハハッ、本当に機械オンチだな。(自分の端末を出す)」
風神「なにぃ!笑うな〜!」
操生「ごめんって…(笑)えっと、通知の内容は……」
風神「見してくれ。(端末を覗き込む)こ、これはっ!!」
大汐─メッセージ
[[このメッセージは捜索班に、一斉送信している。
おはよう。班長の大汐だ。
今月から活動が活発化した我ら捜索班だが、やっとだ。
やっと、やっこさんのしっぽを掴むことに成功した。
昨晩、わざわざ情報を与えてくれた東乱第一の二年生 諸君に感謝の意を評するとともに。
これは、國崎くんが教えてくれた手法と送ってくれたデータから割り出した内容だ。
(画像送信)
(画像送信)
上記の。
國崎くんが送ってくれたデータに違和感を覚えたので、潜入係に周囲を探索してもらった。結果、人の出入りを確認。
もしかしなくとも、その場所こそ容疑者グループの巣穴かと思われる。國崎くんの私物が盗られたさいに、追跡センサーで追った場所が空振りに終わってしまった二週間前の悔しさ。
今回こそ、当たりであって欲しく思う。
このメッセージを受けたものから、捜索班の部屋に来てほしい。そして、計画を話し合おう。 以上。]]
操生「なるほど…。…風神、俺らが兄さんと遊んでるうちに、かなり進展したみたいだね。」
風神「ああ、しかも進展の一手を後輩に取られたようだしな!」
操生「にしても、大汐は國崎びいきだな。」
風神「気に入ってくれるのはありがたいが、あくまで東乱の部隊員だってことを忘れてもらっちゃ困るな!」
操生「困るか。そりゃそうだね。(端末をしまう)……とりあえず、捜索班の部屋に向かおう。」
風神「そうだな!ひとっ走りと行くか!」
操生「ああ、行こう。」
▼風神の誘いで、操生が駆け出す。
軽い足取りで走り抜ける操生の後ろを、風神が全体に重量感あるものの、速度のある走りでついて行くのだった。
(間)
▼さて、置き手紙を残して無言で立ち去った今地 澪留。
末っ子の操生と居合道場で師弟関係だった風神に『あの人、何しに来たんだ?』な気分にさせて艦艇へ戻ったわけだが…。
彼は、妖島を離れてニホン国の領海を航行している艦艇内の執務室で書類仕事をしていた。
澪留「〜〜♪(なんかの鼻歌)」
水兵「……あの、失礼ながら今地中尉。何やらご機嫌でありますね。」
澪留「ん?ああ、そうだね。まあ、妖島への上陸は勉強になったからね。」
水兵「勉強で、ありますか。」
澪留「そうさ。貴官は、何も思わなかったかい。」
水兵「(書類の端を揃えつつ)
……ワタクシは、あの閉鎖的な島の中で陸地を護る若者を育てているのは不思議な感覚でありました。」
澪留「ふむ。ワタシたちは、本土で生まれ育ち。そして、海で過ごすことを決めた。閉鎖的な空間は似たようなものだね。」
水兵「して、今地中尉が勉強になったこととは…なんでありますか?」
澪留「そうだね。……閉鎖的ではあったが、人を育むという環境で言えば本土の軍学校より整っているように見えた。」
水兵「つまり?」
澪留「人というのは、常に『死』を意識し、『死』と隣り合わせであるからこそ、育っていくものがある。」
水兵「……少々、ワタクシには分かり兼ねる内容であります。」
澪留「ははっ、難しかったか。まあ、島への上陸は正解だったようだ。艦内を見ていて分かるが、船員の息抜きになったようだしね。」
水兵「ええ、島の中にあった銭湯施設は気持ちよかったです。」
澪留「ワタシも、入りに行ったがなかなかだったね。」
水兵「ええ、本当に。今度は、任務の一環ではなく降り立ってみたいものです。」
澪留「そうだね。……さてっ、残りの書類を片付けて。会議に向かおうかね。」
水兵「はい、お手伝い致します。」
▼ニホン国防海軍は、今日も静かに領海内を護る存在であり続ける。時に、命を賭して闘うことがあろう日に備えて。
(間)
▼国防海軍の艦艇が妖島を離れて、大汐からの一斉送信のメッセージが送られてきてから三日後。
週が変わり六月の中頃。
──森林公園および黒軍の倉庫郡の一帯は騒がしさで満ちている。
◇森林公園 中流
國崎「おにぃやん!そっち、行ったで!」
語厘「わかってらァ」
國崎「お人!ワイに後ろ取らせたのが負けやで!でりゃっ!」
語厘「はい、俺も二人撃破!!……羽梨!そっち行ったわ!」
羽梨「…もう、めんどう…、これで、眠ってて……」
語厘「(妹の行動に)げっ、」
國崎「うわっ、ケムリっ〜?」
語厘「バカ崎っ!呼吸とめろ、動けなくなるぞ!」
國崎「ぅんぐむっ…」
▼もくもくと周囲・二米をケムリ──いや、シビレと催眠作用のあるガス──が漂う。ドサッ、ガサバサッ…と所から倒れて行く音がする。
風が吹き抜けて徐々にケムリは薄まり、視野が晴れたのを確認してから口と鼻を塞いでいた語厘の手が離れ、國崎が深呼吸した。
國崎「ヒューッ…うぇっ!…ケホッ…、ゴホッ…」
語厘「國崎ぃー、オマエ軟弱だなー。耐性なさすぎだろー。」
國崎「(涙目)アホか!突然、口とか鼻とか塞がれたら呼吸できへんやろ!」
語厘「別に一分や二分の無呼吸で人は死なないー、死なない〜」
國崎「はぁ!そんな暴論が通るわけあらへんやろ!つーか、ワイの脳細胞が死ぬるわ!」
羽梨「(木から降りてくる)……にぃ、シグくん…。」
語厘「お!羽梨〜!薬品の投下、ナイスタイミングだったぜ〜!(抱きしめ)」
羽梨「うゆっ…、それは、よかった…。」
國崎「はぁー…、なんかやりずらくてアカンわ…。」
語厘「はぁ?何がだしー。」
國崎「何がって、いろいろや!いろいろ!」
語厘「あっそう。」
國崎「あーはいはい、興味あらへんのやな。」
羽梨「にぃ、そんなに抱きつかないで…、もしかして、つかれた…?」
語厘「うーん?疲れたよー。だって、三日目ってなると残党探しみたいなところあるじゃん?なんか、メンドーでさ。」
羽梨「うん、そうだね…。羽梨も、疲れた…。」
語厘「ああ、でもさ。大汐の特隊生さんが、最初の巣穴を特定して扉をぶち破るところはカッコ良かったよなー。」
國崎「せやな。警務班との呼吸もバッチリやったなー。あれは、憧れるわ。」
語厘「……オマエは元気そうだなー。」
國崎「うん?ワイのことか?」
語厘「そう、國崎にふってんの。」
國崎「そらぁ、元気でいるしかあらへんやろ!初日と二日にだいぶ盗品の回収もできたみたいやし、やっとワイの私物が戻ってくると思ったらな〜」
語厘「あれ、そういえば國崎の制服って」
羽梨「にぃ、それは言っちゃダメな話…。」
語厘「あー、なるほど。まっ、襟首の線の数が違うだけだし。変わんないかー。」
羽梨「あと…、腕章もないからセーフ…。」
國崎「え?お人ら、なんの話ししとんの?」
▼特隊生の大汐から私物盗難事件の潜伏先を突き止めた…というメッセージを送られてから東乱第一のメンバーは、捜索班と協力して容疑者の身柄拘束および突入作戦を決行した。
そして、三日目の現在。
作戦も終盤に差し掛かっている。
羽梨「……シグくん、ほっぺたにすり傷あるよ…。」
國崎「え?あ、そうなん?血ィ出てへんから気づかんかったわ。」
語厘「まあ、オマエ。動くときは、お面してるもんな。なんで?」
國崎「なんで?えっとー、まあ、せやな。顔を汚さんようにする意味もあんねん。」
羽梨「やっぱり…、そういう理由なんだね…。」
語厘「前に話した通りだったなー。」
羽梨「…うん、予想どおり…。」
▼何やら納得し合う瀬応の双子。
國崎は、諦めのため息をついた。この盗難事件が起こって以来、何だかんだとメンバーとして受け入れらている気もしなくもない…と絆されつつあるのだった。すると、声がした。
風神「おーい!!くにさきー!かたりー!はなしー!」
操生「風神、あんまり端っこを歩くと草の中に落ちるよっ」
風神「おお、すまん!それもそうだな!」
國崎「ん?風神はんと今地はんの声やな。」
語厘「だな。國崎、返事してやれよ。」
國崎「なんで?お人らでもええやろ?」
羽梨「…羽梨は、大きい声出すの苦手…。」
語厘「いいからー。」
國崎「(舌打ち)意味わからんわ。まあ、ええ。……おーい!風神はん!今地はん!」
風神「お!あっちから声がしたな!」
操生「ああ、行ってみるか。」
國崎「って、あれぇ?足音、遠ざかって…??」
語厘「やっぱな。」
國崎「どうゆう事なん?」
語厘「あの二人、方向音痴なんだよ。」
國崎「えっ!『剣技の才』やら『猛進の一刀』とか呼ばれとるお人らが??」
羽梨「……戦闘中は、別の感覚が働いてるタイプ…。」
語厘「だから、今みたいに視認できない場所から声かけても気づいて貰えないってわけ。」
國崎「それ、遭難とかしたら死ぬやつやん…。」
語厘「まあ、そうな。……(伸びをする)さーて。気絶したヤツらを拘束しようぜ。」
羽梨「縛り終わったら…、隊長さんたちと合流する…。」
語厘「んで、大汐の特隊生さんにも報告して容疑者を回収してもらうっていうながれでヨロー。」
國崎「拘束するんは、腕だけでエエか?」
語厘「あー、どうすっかな。まあ、足首と手首をガムテでグルグルにしとけばいいんじゃね?」
羽梨「本当なら…、傷つけて動けなくするのが合理的…。」
國崎「げっ、妹はん。けっこう容赦ないこと言うんやな。」
羽梨「ん?そうでもないよ…。生きる残るための手段…。」
語厘「まあ、今回の作戦さ。参加者の武器が模擬戦用の木製武器なのはあやまって殺さないようにする為らしいし。血で汚れずに済んでラッキーじゃん?」
國崎「ははっ、まあ……せやな。《ワイより、このお人らを死神って呼ぶべきやろ!!》」
▼まさかの國崎が反応に困ることになるとは、これが黒軍ならではの『生死観』である。
黒軍の学徒の割合としては、衰退した街や貧困街などで子どもだけで生きてきたものが多い。生きる為に『罪を犯す』というのは意識せずとも身に付いている処世術の一種と考えるのが最善なのだ。
語厘「ってことで、國崎はあっちの奴らを拘束よろ〜。」
羽梨「はい…、シグくんの分…。上手く使ってね…。」
國崎「ああ、りょーかいやで。」
▼こうして、二年生トリオの別行動が始まった。
(間)
▼その頃、國崎の声に反応して舗装された側の道を歩いていた風神と操生は──
風神「おかしい!いっこうに、会えんぞ!」
操生「でも、こっちから聞こえたことは確かだったよ。」
風神「だが、作戦を開始した拠点についてしまったし!間違いだったのではないか?」
操生「うーん、着信して音を便りに探すべきかな。」
風神「おお!そうしよう!さっ、鳴らしてくれ!」
操生「風神、おまえのは?」
風神「持ってきていないぞ!」
操生「……それ、自信満々に言うことじゃないから。」
風神「壊すよりマシだろう!」
操生「破壊魔の異名は伊達じゃないって?……その自信満々な顔、ムカつくなぁ……まあ、いいや。えっと、瀬応のどっちかにかければ応答してくれるよね。」
風神「大丈夫だろう!あの三人は一緒にいるだろうからな!」
操生「それじゃあ、着信して…」
風神「!?ッ、今地!こっちだ!!」
操生「はぁッ!?なっ、なぁぁぁぁぁ!!」
▼野生的な勘なのか。
何かを察知して、端末を耳に当てていた操生を茂みに引っ張りこんだ風神。そのまま、操生に覆い被さるようにカラダを縮め、操生の口を手で押さえつつ息を潜めた。
操生M《近いっ、近い…!つーか、何なんだよ…!アキのばか、あぁ!静まれっ、僕の心臓っ…!》
風神「(小声)……憲兵だ。」
操生M《今、なんて言った?憲兵って言ったか??いや、憲兵って、軍人を取り締まる警察組織の?》
▼隠れた茂みの木々の隙間から、さっきまで立っていた場所を見ることが出来た。目を凝らす操生、同時に目を見張る。
そこには光沢のある黒文字で『MP』という腕章をつけた軍人が八名。ゾロゾロと道を登っていく光景が見える。そして、話し声も聞こえてきた。
憲兵A「この上に、本当にホシが居るのかねぇ?」
憲兵B「居るからこそ、わざわざ出向いるのですよ。」
憲兵C「だからって、こんな面倒な手順を踏まないでも…」
憲兵A「バカ言え。権力があっても、この孤島だけは別モンさ。」
憲兵B「あの『鬼神さま』が。この作戦の為だけに海軍と学園の関係者に頭を下げたらしいですよ?」
憲兵C「へぇー…、あの『鬼神さま』がね。相当、本気なわけだ。」
憲兵A「あたりまえだろ?本土から逃げられてた時点で『鬼神さま』の信用問題なわけだしな。」
憲兵C「信用問題って言ったてさ。あの役に立たない中佐の尻拭いでの挙兵だろ?ご苦労なもんだよなぁ。」
憲兵A「役にたたなくても、指揮官は指揮官さ。」
憲兵B「というか、キツイなぁ…。こんな坂道があるなんて説明は受けてないんですけど??」
憲兵A「諦めろ。『鬼神さま』は、卒業生だから島のことを熟知してる。自分たちは、その指示に従うだけ。熟知してるこの島にホシが逃げ込んだと聞いて作戦を決行したんだろ。」
憲兵C「まあ、やみくもにホシを捜しまわるより楽でイイな。逃げられても周囲は海だろ?」
憲兵B「ちょいちょい、安心すんのまだ早いですよ?本隊と、合流してからが本戦ですし。」
憲兵A「それもそうだが。さっきから、ちらほら『トリ』がうろついてるみたいだな。完全な閉鎖とは行かなかったみたいだ。」
憲兵C「せいぜい、流れ弾には当たってほしくないねぇ」
憲兵A「まあ。間違って撃ってしまっても……、何とかなんだろ。」
憲兵B「証言はいくらでも用意できますよ。」
憲兵C「ハハハッ、そうだよ。自分らは『憲兵隊』だ。」
▼笑い合う憲兵の下士官たち。
実に、無粋な話である。
操生は、今にも談笑していた兵士を殴りに行きたくなる怒りの感情が芽生える。
けれども、背後の風神がさせてくれない。というより、背後の風神のほうが言葉では言い表せない怒気のオーラが漏れている。風神の手が、操生の口から離れた。
操生「か、風神…。」
風神「行くぞ、今地。(立ち上がる)」
操生「で、でも!あの人たちの話が本当なら!」
風神「ああ、話にあがってた『鬼神さま』ってのは諭にぃさんだ。にぃさんが島に来ている。にぃさんは、邪魔だと判断したものに躊躇なんてしない。」
操生「だ、だったら今すぐに電話して、瀬応の双子や國崎を退避させたほうが…」
風神「いいやッ、それでは遅い!この森林公園に安定した電波なんてない!アイツらが、応答するとは限らん!」
操生「だ、だからって…!本土の軍警察を相手どらなくても!」
風神「では、オマエはここに居ろ!おれだけで行く!(走り出す)」
操生「ま、待ってよ…!おい、アキ…!!」
▼模擬戦用の木刀を草むらに投げ捨て、隠し持っていた脇差に差し替えた風神。そして、駆け出した。
すぐに見えなくなってしまった風神の後ろ姿の残像に、悔しさから奥歯を噛みしめる操生。だが、すぐに顔をあげた。
操生「テメェの都合で、俺を置いて行こうなんてすんじゃねぇ!ばかアキ!」
▼操生も、走り出す。
その目には『諦めない』という強い意志を宿して。
(間)
※演じなくても大丈夫な、次回予告です。
〜おまけ、2年生トリオの茶番〜
語厘「ジ、カ、イ!」
羽梨「予告、なの……」
國崎「え、お人らなんなん!?」
語厘「いやぁ、ほとんど見せ場なかった回だったわ〜」
羽梨「羽梨…、隊長さんたちの関係が気になるの…。」
國崎「まあ、たしかにウヤムヤにはなったけんど。そろそろ、ワイの私物が返ってきて欲しいで?」
語厘「でも、訓練生の夏服と高等部の夏服って、あんまり違いないから問題ないっしょ?」
國崎「なんやそれ、ちょい詳しく」
羽梨「にぃ……それは、言っちゃダメなやつ……」
語厘「おっと、やべぇ……つーことで!次回!」
羽梨『繋げ、団結。後編。』
語厘「東乱第一の前に現れたのは、風神家の長男!そして!國崎、またもや入院!?」
羽梨「で、お送りするかもしれません……?」
國崎「いやいや。勝手に入院させんでええわ!」
羽梨「でも…、ほんとうに絶体絶命ともいう…。」
國崎「ひぃーん!ワイ、もう怪我したくないわ!勘弁してぇな!!」
羽梨「不幸体質…?」
語厘「よっ!凶運に好かれた男!!」
國崎「アホっ!やかましいわ!」
語厘「そんなこんなで、次回に続きます!」
羽梨「次回も、よろしく、お願いします…」
國崎「はぁ…、ほんなら、次回もよろしゅう頼んますぅ…!」
黒軍編・第六話⇒繋げ、団結。前編
〜おしまい〜
台本公開日 2020年12月27日(日)
台本最新修正日 2021年5月16日(日)
アッ、トッ、ガッ、キッ!!
はい、こちら後書きです。
本編を読み終わったあとに読んでください。
((((((((((っ゜∀゜)っ アヒャーン
はい、この作品を閲覧や上演してくださった人に感謝を!
初めましてのかたは、初めまして!
お久しぶりのかたは、お久しぶりですです!
無計画実行委員会 委員長(作者)の瀧月です★
いやぁ、半年間も更新せずで…
この作品を忘れていた人もいるでしょう。
あ、作者はちゃんと生きていますのでご安心を。え?そんな心配はしてない?…ですよねぇ(笑)
はい、結局ね。
前作から半年間も経っているのに、黒の内戦みたいな話が終わらなかったこと!
本当に、無計画やなぁ!?と自分でもツッコミたいです。あまちゃん。あまちゃん。
でね、試しに演じてくださった方に「初見殺し」と言わしめた今作ですけれども。
実に、ナレーションする人を殺しかかっているなぁー…と読み返して思いました。
(ぶっちゃけ…。人に配慮しない自己満なところは、瀧月の芸風なので深く考えたら負けです。諦めた上で、お付き合い下さいませね。)
そしてね。有難いことに元 防大生さん(以下 かの人)にも台本の手直しを手伝って頂きまして。
実に、有意義な時間を過ごせました。
かの人からは「自衛隊員の言葉遣い」を教えてもらったり、時刻を伝えるときの「音の読み方」だったり(今作でもヒトフタ:マルマルなどの真ん中に「:」この記号をつけていますが、文字のみやすさを考慮してつけています。実際は読まないし、要らない記号です。)、この行動はリアルでやったら骨折れるからな??みたいなツッコミを…etc.
まあ、作者の瀧月がお返しできるのは『創作はファンタジーだぞ☆』という頭の悪い回答です。
ちなみに、今作の終わり部分に出した憲兵隊ですけれども。
やはり、かの人から「え、そんな簡単に憲兵だしちゃう?だしちゃうの?いいの?」とか「憲兵って言っちゃえば、軍隊の規範を破ったやつを処刑する部隊だからね?」とかツッコミを頂き((
はい、憲兵って現在は『ミリタリーポリス』という横文字なんだそうで。だから、MPです。間違っても、ドラゴンほにゃらん とかのゲームで見かけるマジックポイントの略字ではありませんので。あしからず。
ということで〜また長くなりましたが、今作は以上となります!
次作は次回予告の通りに進むかは分かりません!!
そして、今後こそ半年なんていうバカげたお休みを取らずに次作の掲載に至りたいです。
がんばれ、國崎!ついでに、ちゃんと掘り下げてもらえよ、黒の幼なじみ組!
皆さま、お疲れ様でした!
(*・ω・)*_ _))ペコリン
二〇二〇年もお世話になりました。
二〇二一年も、気長にお付き合い下さいませ。
大変な時勢ですので。
読者さんも、ご自愛ください。
それでは、元気に。またいずれ!!
ありがとうございました〜!
2020年12月27日(日) 瀧月 狩織