【六人用】黒軍編・第五話⇒ハジマリの波打ち際。 【台本 本編】
※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。録画を残す際も同様にお願いします。
三津学シリーズ 黒の台本 五本目です。
【劇タイトル】黒軍編・第五話⇒ハジマリの波打ち際。
(もしくは、黒の五話。または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)
【作者】瀧月 狩織
【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください
こちら黒の五話/ハジマリの波打ち際。
▶全通しバージョンです。
比率 男声3人:女声2人:不問1人の6人台本
※作者オススメの配役表/登場キャラクターの詳細紹介は前ページの『登場キャラなど』をご覧ください。
全通し/上演時間(目安)⇨ 90分~100分程
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【演者サマ 各位】
・台本内に出てくる表記について
キャラ名の手前に M がでてきます。
Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。
・ルビについて
キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。
場合によっては、振り直していないこともあります。
(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)
それでは、本編 はじまります。
ようこそ、三津学の世界へ
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☆本編
★★前半★★
今地「僕はっ…!オマエも、なるからって!特隊生になるから共に頑張ろうって…、そう言ったのはオマエじゃないか!なのに、なんで簡単に諦めてんだよ!!僕と、頑張ってくれるって…!アキのバカ野郎っ!!負けず嫌いはどこいった!!」
今地「ああ…そーかよ…。オマエの言い分はよく分かったよ。もういい!アキなんてっ!アキなんて、大嫌いだっ!!」
▼学園を有する離れ孤島にある丘の上には祷りの地。
そこへ吸い込まれるように、沈みゆく太陽と広がる夜の色が混ざりあった空の下。
その学徒は、大粒の涙を夕陽によって橙色に染めながら声を枯らした。
今地:語り
『……わかってる。わかっているんだ。本当のバカは、僕のほうだって。今なら分かるんだ。だって全部。全部。知ってしまったから……』
(間)
▼きらきらと太陽の光を反射させて、輝く海面。
波が、穏やかに押し寄せては引いていく。
そして、太陽に熱せられ素足で歩くのを躊躇うレベルに熱い砂浜を駆けて、透き通った海水へと飛び込む学徒たち。
だが、そんな中には夜空のような藍色の瞳を死んだ魚の目ようにした男子学徒が居た。彼の視線の先では。
國崎:語り
『ワイの視野に写るんは、ヒラヒラと踊る白い布。キャッキャッ…と楽しげな声をあげとるんは男二人。炎天下で、鍛え上げられ引き締まった肉体を惜しみなく曝け出されとって。
見ようによっては、絶景なんやけど……』
風神「おーら!語厘!こっちだ!」
語厘「なぬ!?やったなぁ、お返しだ!隊長さん!」
▼水鉄砲で撃ち合いながら、はしゃいでいる野郎二人。
男子学徒は、そんな二人をげんなりと…いや、感情のよみとれない顔と視線で砂浜の上に体育座りしている。
國崎「……なんして…?」
風神「おら!六連射だ!!」
語厘「うおっ!しょっぺぇ~!なら、俺は!」
國崎「……なんして……、なんして!ワイはこんなとこに居るんやぁー!!」
羽梨「シグくん、元気だね…。」
▼國崎の叫びは、押し寄せた波の音にかき消された。
(間)
~タイトルコール~
今地「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
羽梨「黒軍編・第五話…。」
今地「『ハジマリの波打ち際。』
……楽しそうでイイな。オレも特隊生より、そっちがいい。」
(間)
▼現在は二○八○年の五月末日。快晴。
ニホン国の南に位置する学園を有する離島──妖島は、すでに海の水温が人肌で暖かく感じられるくらいになっていた。その為、教官から海開きが宣言され。海上訓練を題した海遊びが、黒軍の内部でブームとなった。
國崎「なんして…!なんして、ワイはこんな所に居るんやぁぁぁ!!」
▼ザザザッ、ザッパーン!と大波が押し寄せる。
嘆きの叫び声を上げた國崎の隣には、セパレートタイプの水着姿に大きめのパーカーを着た灰色の髪の女子学徒──瀬応羽梨が座って来た。
羽梨「シグくん、元気なの…。」
國崎「う、うおっ…お人。相変わらずの影の薄さやな…。」
羽梨「…そう…?ねぇ…シグくん、どうしてここに居るのかって叫んだよね…?」
國崎「お、おん。叫んだけど、それがどうしたん?
《アカン。入惰はんに雰囲気が似とるから、調子狂うわ…。》」
羽梨「今日は…海上訓練…ってことになってる…。けど、学校のグラウンドで稽古ばっかじゃ楽しくないよね…。」
國崎「せやかて、稽古って楽しいもんやないやろ?」
羽梨「うん…。けど、隊長さんは少しでも楽しくっていう…考えの人だから…。」
國崎「へー、そうなんかー。
《ワイは、この隊に馴染めるんかな…》」
▼國崎が気のない返事をすれば、沈黙が流れる。
いまだに、海の上では羽梨の双子の兄である語厘と。
彼らの所属である東乱第一の隊長こと風神 明が水鉄砲でおおはしゃぎである。
國崎「妹はん。そう言えばな、ワイ、更衣室で問答無用に制服から褌に剥かれたんやけど。何でなん?」
羽梨「隊長さん…おそろいが好き…。あと、気合いが入るって言ってた…。」
國崎「いやいや。なんでやねん。なんで、褌なん?股の間がヒラヒラするし、落ち着かんねん。時代錯誤にも程があるやろ。」
羽梨「むぅ…羽梨にいわれても困る…。」
國崎「あ、ああ…それもそうやな。すまんな。」
羽梨「いいよ…。けど、別に時代錯誤じゃないと思う…。褌は今でも本土のお祭りで神輿担ぐ人がするって聞くよ…。」
國崎「そう言われれば、そうやったなー。まあ、このご時世に大々的にお祭りやってる土地のほうが珍しいもんやで。」
▼羽梨は、國崎の言葉に目を細めて頷くだけに留めた。
(間)
〜今地役 以外は小休憩スペース〜
今地「どうも、僕は今地っていいます。
あとで、また登場する予定だよ。
なんで、ここでは解説役をさせてもらうよ。
えっと……(カンペ見つつ)
今から、一五年前の二〇六五年。
本土で、真冬に行われる参加者が男のみという特殊な祭りでのこと。
そこは、男が真冬の寒空の下で褌一丁という恰好で川に飛び込んだり、冷水を浴びせあったりする奇妙な度胸試しがテーマの催し物が有名な土地。
そんな土地で事件は起こった。
所謂、テロ事件だ。
祭りを観覧する客の波の中から悲鳴があがり、爆発音が響いた。祭りのクライマックスで水へ投げ込まれるはずだった神輿。それに、爆薬が仕込まれていたのだ。
死傷者を多く出した凄惨なテロ事件。
犯人は、時の政府が指名手配していた過激派組織の手のものだった。
雪降る時季だったこともあり、後世に『ブラッドスノー』と呼ばれる事件。これを境に、本土では人が集まり、警備が手薄になりやすい催しものが自粛傾向となった。
これが、國崎が褌が時代錯誤すぎると言った理由なわけだ。
同じ布切れ一枚だというのに、パンティーへの信頼が高いって面白い文化だよな。」
(間)
國崎「なあ、お人は海の中に……」
語厘「隙ありっ!!」
國崎「ぶぇっ!?うえっ…、なん…、しょっぱぁっ!!」
語厘「(近寄って)やいやい。アホ崎。俺の妹に色目を使うな。」
國崎「はぁ!?なにが、色目や!お人、目が悪いんとちゃうんか!!」
語厘「正常だわ!なんなんなら、海の上で証明してやる!!」
國崎「はぁ~…、お人なぁ、子供やないんやし。ワイと遊びたいなら、遊びたいって……うべぁっ…、ッ!せやから!しょっぱいやろが!!」
語厘「ケッ!誰も、遊びたいなんて言ってねーよ。」
國崎「はぁん!?素直じゃあらへんな、お人!?……ええわ、のったる!覚悟しいや!!」
語厘「ははっ!せいぜい、かかって来い!!」
▼突如として顔面に海水を浴びせられた國崎。
言いがかりにも程があるが、妹を愛して止まない兄の語厘からすれば、妹の横に異性が座ることも許せないのだろう。
まんまとガキのような誘いにのって、水鉄砲を二丁持って國崎が語厘の待つ海上へと駆けてしまう。
風神「いやはや!元気だなぁー?」
▼豊満な鍛えられた胸筋を曝け出して、越中褌という褌のなかでも初心者向けの巻き方をした風神が浜へと上がってきた。
羽梨「…隊長さん、おかえり…」
風神「おう、羽梨!ちゃんと休めているか?」
羽梨「うん。平気。ただ今日は、もう。にぃが泳がしくてくれないと思う…。もっと泳ぎたかった…。」
風神「仕方あるまい!溺れたのだし、今日は我慢だぞ!」
羽梨「むぅ…、ちゃんと…体操したのに…。なのに、足がつって気がついたら…砂浜に居た…。」
風神「おれも驚いたぞ?なにせ、浅瀬に居たかと思いきや、沖に流されてるのだからな!
まあ、もちろん助けに行ったのは語厘だぞ。おれの出る幕はなかった!」
羽梨「……にぃ、また羽梨のことほっといてくれなくなる…。」
風神「なんだ!羽梨は、離れたいのか!」
羽梨「ちょっとだけ…。でも、やっぱり羽梨もにぃも一緒じゃないとダメなの…。」
風神「ふむ!双子特有の感覚というやつか!」
羽梨「わかんない…。けど、にぃがほかの子と話してると、ちょっとイヤだなって思うの…。」
風神「そうか!まあ、何がともあれ!羽梨が、語厘から大切にされている事実は変わらん。
他の学徒と話している姿が気になるのなら、その場だけ目を塞ぐといい!」
羽梨「目をふさぐ…。……隊長さん、イヤだって思うことある?」
風神「おれか?うむ、そうだなー。おれは、男ばっかの五人兄弟だからな!しかも、おれは末っ子だ!だから、あんまり兄弟の誰かが他と話してて気になることはないな!」
羽梨「そっか…。じゃあ、これは羽梨とにぃの間だけなのかも…。」
▼羽梨が体育座りして膝へと顔を埋めてしまう。風神も、特に言えることもなく澄み切った快晴の空を見上げる。
その時だ。
國崎「いやぁぁぁ!!ワイのっ!ワイのが流されてしもたぁぁぁ!!」
語厘「うるせぇ!アホ崎!叫ぶな!!」
風神「むっ!?何事だ!!」
羽梨「え、なに……?」
▼他の部隊が真面目に遠泳訓練などしている中で、自由すぎる部隊の心情に倣って、水鉄砲で遊んでいたはずの國崎と語厘だが。
國崎は、股間を両手で覆い隠しながら浅瀬にしゃがみ、叫んでいる。
遠くから真面目に訓練している他部隊の隊員たちが不思議そうに視線を投げてくる。
風神「おお!なるほど!そういうことか!」
羽梨「え?…隊長さん…、どうしたの…?」
風神「うむ!羽梨は、見ないほうがいいぞ!ちょいとした事故でな!國崎がフルチンだからな!」
羽梨「シグくんが……ふるちん……??」
語厘「隊長さんのバカっ!!羽梨になんつーこと教えんだよ!!」
風神「すまん!聞こえてたか!!」
語厘「嫌でも聞こえるわ!声量ゴリラ!!」
風神「ワハハハッ!!(一息ついて)……すまんなっ!!」
語厘「謝って済むことかよっ!!」
羽梨「……にぃが怒ってるから、聞かなかったことにする…。」
▼高校二年にもなる妹に過保護すぎる双子の兄は、卑猥というか下世話な単語一つさへ教えたくないらしい。
國崎「ちょいと!そんなことより、ワイの布を拾ってな!!」
語厘「はぁ?嫌だわ。なんで、オマエのヘマで流された褌を拾ってこなきゃなんだよ。」
國崎「いや、温度差!!つーか、ヘマちゃうわ!!お人が、積極的に下半身を狙ってきたんやろ!?」
語厘「もう、そのまま海水漬けになってろよ。お粗末なムスコを押さえてよ。」
國崎「お粗末ちゃうわ、アホ!!」
語厘「誰が、アホだよ。こんにゃろー!」
國崎「いや、そんなことより!言葉の荒塩ききすぎやろ!潮だけにってか!って、やかましいわ!!お兄やんのお人が、下世話でどないすんねん!!」
語厘「うるせぇのはオマエだ、アホ崎!
……(ため息)……あーー、飽きた。上がるわ。」
國崎「え?放置?お人、ワイのこと置いていくん??」
語厘「羽梨と話した罰だからな。」
國崎「いや、罰が重すぎるわ!ワイ、仮にもお人らと同軍の同部隊やろ!?」
▼國崎のツッコミが炸裂するが、語厘はどこ吹く風である。
だが、不意に鋭い目付きで國崎を見やった。
語厘「……馴染む気もないやつに優しくする義理もない。」
國崎「はぁっ?お人、なんのことを!」
語厘「別に。シラを切るなら別にイイけどな。」
國崎「ワイは…!隠し事もシラも切ってなんて……!」
語厘「ふんっ…、じゃあな、貝殻でも見つけて隠しながら上がれよ。」
▼本当に最初こそ、悪ふざけで水鉄砲あそびをしていたはずだ。
だが、語厘から発せられた言葉と声のトーンに國崎から反論の言葉を奪った。國崎の足元にザザァー、ザザァー…と波が押し寄せては引いていく。
(間)
語厘「隊長さん、羽梨。帰ろ。」
風神「うむ?國崎を置いていくのか。」
語厘「あいつが、馴染むっていうなら拾うさ。」
風神「ふむ…、まあ。國崎に対する仕置きを、副隊長の語厘がそうするというなら口出しはせん。」
語厘「そうしといて。……羽梨、立てる?」
羽梨「うん、大丈夫…。」
語厘「さっさと帰ろ。さっきから、他の部隊の奴らが羽梨のこと見てるし。」
羽梨「うん…、わかった…。
《語厘…かなしいのね…。たぶん、羽梨が他の人に見られてヤダってことより、シグくんが…シグくんが何だろう…。語厘の、かなしい顔は羽梨もかなしい…。》」
▼手を繋いで歩き出す語厘に合わせて、歩く羽梨はチラッ…と浜の方を見やって、國崎の横顔を視界に残した。
國崎は、どこか遠い目をして海面を見つめている。すると、風神が声を張った。
風神「國崎ー!!いっそ、堂々と全裸で歩くのも一興だぞー!!」
國崎「はぁ!?お人!何言っとんねん!!」
風神「冗談だ!!だが、いいこと教えてやろう!」
國崎「良いことって、なんや!!」
風神「オマエの立っている位置から!上に四歩、右に三歩進んだところに!おれのジャージの上着が埋めてある!!」
國崎「埋めてある!?そもそもの話!お人が、ワイの下着を剥いて褌にさせたんやろが!!」
風神「すまん!!脱げるとは思っていなかったのだ!!」
國崎「初心者に厳しすぎやろが!!」
風神「たしかに、厳しかったな!!だが、フルチンよりマシだろう!!見つけたら、ジャージを身につけ、制服に着替え!部隊室に戻ってくるように!!」
▼そう言い残して、風神は告げたいことだけ告げて瀬応の双子を追いかけていく。
風神と國崎が大声で交した話は、周囲に丸聞こえ。クスクスと笑われる始末。國崎のメンタルを尽く削っていくのが東乱第一の男メンバーなのだろう。
(間)
▼海水浴場として開かれている浜辺から二五〇米離れた先には、三階建てのプレハブ校舎が三棟ならんでいる。
この校舎は更衣室だ。在校生一人一つずつロッカーが用意されている着替える為だけの校舎である。
そんな校舎の鉄製の階段の陰で、日差しから隠れている語厘。彼の視野には、何かが見えたようで眉間にシワがよった。
語厘M
《……今、なんかあやしい動きしたヤツらが…。》
羽梨「にぃ、着替えおわったよ…。」
語厘「ん?おう、ちゃんと洗ってきたか?」
羽梨「うん、大丈夫……。にぃは、大丈夫…?」
語厘「俺も、しっかり洗ったよ。ほら、海水のにおいもしないだろ?」
羽梨「うん…しない…。けど、そうじゃなくて…。」
語厘「なに?」
羽梨「え、あ、うん…やっぱり、なんでもない…。」
語厘「ほら、じゃあ戻ろうぜ。隊長さんが、部隊室で待ってるだろうしさ。」
▼語厘から差し出された手を羽梨は、握り返す。
語厘の最優先事項は、片割れである羽梨の相手をすること。その他の事など気になっても大抵、後回しになる。
羽梨M
《……語厘は、かなしいの。本当は、シグくんと仲良くなりたい…。けど、語厘も不器用だし、シグくんも近付けさせてくれない…。だから、語厘も冷たくしちゃう…。語厘は、羽梨のかわいそうな にぃ だもん…。》
▼羽梨が、そんなことを思っているなど知る由もない語厘。
昼過ぎのカンカン照りの日差しの下、二人は手を繋いで部隊室のある校舎へ戻っていく。
(間)
◇妖島・浜辺の南西側
▼隊長の風神から貸してもらった──砂浜に埋められていた──ジャージの上着へ袖を通して、チャックを上までしっかりと閉じた國崎は、砂の上に座り込んでいる。
借りたジャージの裾が國崎の膝上まである為、ワンピースのようだ。
風神の指令に従うなら、制服に着替えて部隊室に戻るべきである。だが、戻らずに砂浜に座っている。その理由は……
國崎「……さすがの、ワイでも泣きそうや……。」
▼浜に打ち上げられた海洋生物のように、砂の上に横たわる。
足の先を満潮でかさが増した海水が濡らしていく。
國崎「……何なん、ホンマに…。ワイ、たしかに評判は良くないで?良くないけど…。」
▼未だに、下着も身につけていない股の間が心許ないのか、ジャージの裾を下へと引っ張って鼻をすする。
國崎「こんなん仕打ちされるなんて…あんまりやろ…。なんして制服が…、ましてやお面も持ってかれるなんて思っとらんやんか……。」
▼そう。國崎がめずらしく気落ちしている理由は、彼の制服や──今日は海水浴の為、外しているが──側頭部に身につけている狐のお面が更衣室のロッカーから持ち出されてしまったのだ。
狐のお面だけは、持っていく!と風神に抵抗したものの力技で負けて、ロッカーに仕舞われ、制服から褌に剥かれたら反抗する意志も奪われるものだ。
國崎「ロッカーが電子キーのオートロックっていう機能には驚かされたし…。せや、ワイはちゃんと鍵をかけたんやで…。
じゃあ、誰が持ち出したん?何の変哲もない指定の学ランやで??(起きる)……まさかやと思うんやけど…!語厘はんが、持ち出したとか…!?」
▼ガバッ!と砂の上から上半身だけ起き上がり、果てしなくつづく澄みきった海水を見つめた。
國崎「……いや、そんなアホな。ええか、ワイ。考え改めるんや。仮にも同部隊のお人を疑うなんて…」
今地「おい、オマエ。」
國崎「んぇー?……えっと、どちらさんですか?」
今地「オマエ、大汐が気に入ったと言っていた学徒だろ。」
國崎「え、はい。たしかに、ワイは大汐はんとは仲良うさせてもらってますが?」
今地「そうか、そうか。やっぱり、オマエが。」
國崎「いや、だから…お人はどちらさん??」
▼気怠い感情で振り向き、突然の声掛けに答えてみれば。
立っていたのは、容姿だけでは性別の判断がしにくい学徒だった。なにせ、この学徒。上は、女子物のセーラー服でありつつも下がスラックスといった出で立ちで、髪もバッサリと短く切り揃えられている。だが、どこか異性を惹き寄せそうな甘めのフェイスが尚更、性別の判断ができない要因となっている。
國崎M
《あ、嘘や…。ワイ、このお人の顔と名前は知っとる…!》
▼本能から危険信号が出て、逃げようと後ずさりするが残念ながら背後は海だ。ザザァー…と波が押し寄せて、引いていく。
さて、どうする國崎?
(間)
★★中盤★★
◇黒軍の第二校舎─遊撃部隊専門フロア
▼その頃、國崎が絶体絶命(?)な状況のなか。
黒軍の第二校舎にある東乱第一の古ぼけた部隊室には、購買で売っているもので昼食を終えた風神と瀬応の双子が居た。
語厘「え、マジで國崎のやつ居ないじゃん。」
風神「だから、先程から言っているだろ。どういうわけか、國崎が戻ってきていないとな!」
語厘「うーん、アイツ。逃げたんじゃないの?」
風神「語厘ぃ…、その冗談には笑えんぞ?」
羽梨「……シグくん、耐えきれなかった…?」
語厘「俺は、いじめたつもりはない。俺の羽梨に対する言動に慣れてもらうつもりで、冷たくしたとこはあるけどね。」
風神「ふむ…、入隊早々に隊長としての指示をすっぽかされるとは思わなんだ。でもな。國崎は、そう簡単に逃げ出すよう奴とは思っていない。」
語厘「隊長さん、めっちゃ國崎のこと買うじゃん。なんで?」
風神「なぜと言われてもな。
ただの勘としか答えられん。まあ、おれが信用してみようとする気持ちは、理文が認めた奴だからだ。」
語厘「でたよ。隊長さんの大汐の特隊生さんを信じ込んでる感じ〜!大汐を信仰する会ってかー?」
風神「おいおい!その発言は感心せんな!おれは、別に理文を信じ込んでなどいないし。ましてや、信仰なんぞ!」
語厘「とか言って!あんた、なんか考えあるって時にだいたいリブン、リブンって言うじゃんよ!そんなの信者じゃん!」
風神「語厘っ!!いい加減にしないか!さすがに、その言葉は頂けんぞ!!」
羽梨「…うるさいっ…!ふたりとも、めっ!!」
▼語厘と風神の語気が強まり、今にも殴り合いが始まらんとした瞬間だ。パソコンを操作していた羽梨が立ち上がって、めずらしく声を張ったのだ。
語厘「チッ……、悪かったよ。」
風神「すまん…!おれも熱くなりすぎた!」
羽梨「うん、わかればいいの……。」
▼勢いが治まった二人を見て、満足そうに床へ座り直す羽梨。
その隣に、至極当然だと言わんばかりに語厘が座って、羽梨の肩を抱く。ツインテールにしてある羽梨の毛先を指に絡ませる遊びをしつつ、訊ねた。
語厘「それで?羽梨さん、國崎の居場所を突き止める作業の進捗はー?」
羽梨「……それが、変なの…。」
語厘「変?何がよ。」
風神「何か可笑しな点でもあったか!」
羽梨「うん、あのね…。シグくんの端末は電源が切られてて……反応しないのは最初に話したよね……?」
風神「ああ、話されたな!だが、それがどうした?」
羽梨「あの、学園から支給されてる電子機器って……」
語厘「ロック解除は、支給された学徒本人のみ。緊急時には、ハッキングを得意とした学徒にもロックは外せることになってるな。」
羽梨「うん、でね……?今、シグくんの端末に強制アクセスをしてみたの…。そしたら……」
風神「そしたら?」
羽梨「画面、見てほしい…。…ほら、ここ…。あきらかに、シグくんが行かなそうな場所に現在地が表示されたの…。」
語厘「つまり、これは??」
羽梨「隊長さんの指示では、着替えたら、部隊室に戻ってくるようにだったよね……?」
風神「ああ、そうだ!おれは、しかと國崎に伝えた!」
羽梨「なのに、シグくんは部隊室には戻って来てない…。」
語厘「羽梨っ!つまり、それって!!」
羽梨「……シグくん、攫われたかもしれない…。」
風神「おいおい!さすがに、考えすぎではないか!?」
羽梨「でも…、シグくんは…シグくん個人としても悪目立ちしてる…。」
語厘「可能性は大いに有り得るって話だね。どうする?隊長さん。」
風神「う〜〜〜ん!どうすると言われてもだな!大事に考えすぎではないか!?」
羽梨「シグくんの……、腕が立つのは知ってる……。もし、攫われてないとしても……隊長さんの指示を無視したことに変わりない……。」
語厘「後者だとするなら。悪い子は捕まえて、お仕置しなきゃな?」
羽梨「うん、そう…。……ねえ、隊長さん。指示をください……。」
▼瀬応の双子による判断を仰ぐ発言に乗るか乗るまいか。
風神は、床に胡座をかいて考える。目をつぶって、ウーンウーン…と唸る。
(間)
◇妖島・浜辺 南西側。
國崎M
《嘘や、ワイ…このお人のこと知っとる…。》
▼ザザザッ…ザッ、バーーン!
波が引いては、大きく押し寄せてくる。
制服を持ち出されてしまい途方に暮れていた國崎。
今も、真っ裸の上に、隊長の風神から借りたジャージの上着だけを身に着けている心許ない状態だ。
國崎「……お人、ワイのこと知ってるようやけど、どちらさん?」
今地「僕か?僕は、『剣ノ演舞者』の異名で呼ばれている今地操生だ。
大汐とは同じ特隊生でな。」
國崎M
《名前も相まって、ますます分からんお人やなぁ…。》
國崎「自己紹介どうもですー。はじめまして、今地はん。
知っとると思うけど、ワイも一応名乗っておきますー。
ワイは、國崎や。
今は、風神はんが隊長しとる部隊に居るんよ。」
▼他人を性別だけでその人を推しはかろうという考えは、前時代から残る因習だ。
今地と名乗った学徒は、立ち振る舞いからして『男子』のようだ。しかし、國崎の口から 東乱隊長の風神 が話題として出されると今地の周囲に、色とりどりの花が咲き乱れるような幻覚を國崎は覚えた。
今地「そうか!オマエが蒼檄の次に入ったのは東乱第一だったか!」
國崎「おお、せやで。《なんや、笑うと可愛ええやんか。》」
今地「それで?アキ……あー、じゃなかった。風神は?」
國崎「あー、それなんやけど。浜辺に居るんわ、ワイだけやで。」
今地「ん?何でだ。海上訓練じゃなかったのか?」
國崎「えーっと…うーん…。
《制服が盗られて、下着も履けずにジャージしか着とらんとか…言えへんやろ…。》」
今地「オマエ…!」
國崎「はっ、はいっ!?」
今地「何かやましいことでもあるのか!アキを困らせるなら、新隊員だろうと容赦しないぞ!」
▼今地が、瞬時に抜剣した。
炎天下にギラリ…と磨きあげられた鋼のボディが輝いて、國崎の喉元へ向けられた。
國崎M
《アキ!?アキって、話の流れからするなら風神はんのことか…!?》
國崎「……んぇっ!?そ、それは勘違いやで!ほら、見て!ワイ、お人より軽装やろ?な?武器もワイは双剣使いやし!今は持ってへんしな?!」
今地「じゃあ、何でだ!オマエ、大汐が認めたからと言っても!やっぱり、噂どおりのクズなのか!」
國崎「いや、落ち着いてぇ!?今、どない噂が流れとるんか分からへんけど!ワイは、良心的な人物やで!!」
▼剣先を向けられて、焦り気味に答えた國崎。
だが、今地から警戒というか疑心がとかれることはない。
あと一寸、突き入れられば國崎の喉元から血が吹き出る…それくらいに近い。
今地「答えろ!何で、アキとあの双子が居ない!」
國崎「せ、せやからっ!!ワイだけ、置いていかれたからや!!」
今地「なに?置いてかれたぁ?
(タメ息)……なんだ、オマエ。ハブられているのか…。」
國崎「え、ハブられ……いや。まあ。たしかに、ワイはまだ仲良うなれてへんけど…。」
▼今地の激昂の炎は、すぐに鎮火される。得物を腰に差しているケースへ戻した。
勘違いとは言いきれない状況のせいで、國崎は今地の眼差しに混ざる同情と憐れみの感情を受け入れるしかなかった。
今地「それで?ハブられたせいで、部室に戻りにくい理由は理解した。だが、なぜ着替えていないんだ。
……その大きいジャージはアキのか?」
國崎「ああ、せやで。
《このお人の言いよるアキちゅーんは、風神はんのことって覚えとかんと…。》
……風神はんが貸してくれたんよ。よう風神はんのやって分かったなー?」
今地「そ、そりゃあ……そのジャージの肘の部分を縫い直したのは僕だからな……。(頬を掻く)」
國崎「へー!お人、手先が器用なんやね。
《……さっきから、風神はんの下の名前を呼んだり、妙に照れたり…何か深い関係でもあるんやろか…。》」
今地「そ、そうか?なんか、面と向かって褒められることがないから照れるな……って、違うーー!!」
國崎「うわっ、ビックリした。何やねん、突然、大きな声出して…。」
今地「僕が聞きたいのは、褒めてほしいってことじゃない!
なんで、オマエがアキのジャージから着替えてないのかってことだ!!」
國崎「あー、やっぱり気になるん?言わなあかんの?」
今地「言え!さもなきゃ、そのジャージを脱がせる!!」
國崎「ええっ!?お人、それはアカンって!ワイ、もう十二分にはっずい思いしたんやから!」
今地「うるさい!答えないやつに拒否権なんてないからな!」
國崎「や、やめっ!嫌や、嫌やァァァ!!」
▼今地の手が國崎から最後の砦であるジャージを奪おうとチャックに伸びた。もちろん、國崎が抵抗して暴れる。
今地も、熱くなってチャック一つに激しく攻防する。
だが、戦況はひっくり返った。
國崎が、後ろ足を押し寄せていた波にとられ、半身が傾いたからだ。ザパッ!!と大きな水しぶきが上がる。
今地「プハッ、ぐっ…けほッ…バカっ、オマエのせいで濡れたじゃないか!!」
國崎「ぷはぁっ……ゲホッゴホッ…まっで、ぎがんにっ、がいずいがっ…」
今地「はぁー、まったくオマエのせいで散々だ。ほら、立てるか?」
國崎「ゲホッゲホッ……んんっ、スゥーハァー……あー、どうも。」
今地「んんっ!?ちょっ、ちょっ、ちょっと待て…!」
國崎「は?何やねん、お人。手を差し出したり、引っ込めたりと忙しいやっちゃね。」
今地「いや、引き上げてやるつもりだった!だが、なんでオマエ!水着をつけてないんだ!?」
國崎「えっ?あ、いや、そんなっ……
《アカン!見られた!!》
……うわぁぁぁぁ!!(海へクロールで逃げる)」
今地「あっ!コラッ!海に逃げるな!というか、見えてんだよ!!」
國崎「見んで!見んなっ!!」
今地「見たくて、見たわけじゃない!!」
▼これぞ、水に泡。
國崎の攻防もむなしく、海水のイタズラか。
初対面で何かと感情を露わにする今地に、何も身に着けていない無防備な股間を見られる羽目になったのだった。
(間)
▼さて、場所は戻って東乱第一の古ぼけた部隊室。
未だに決断しかねる判断を仰がれて、うーん、うーんと唸っている風神。
瀬応の双子は、風神の判断を待つ間にお互いの髪や頬を触り合っている。何かを『共有』し合っているようだ。すると、突如として着信音が鳴り響く。風神がビクッ!と肩を跳ねさせた。
語厘「俺じゃなーい。」
羽梨「違うよ…。羽梨、サイレントだから…。」
風神「では、おれか!」
▼風神は、ビシッと立ち上がって音の出元を探しつつ、長方形の棚が積み上げられた所から給食着が入るくらいの大きめな巾着袋。そこから、灰色の端末を取り出した。
風神「もしもし!二年の風神だ!」
語厘「いや、あんた、もう三年生だろうが」
風神「おお、そうだった!すまん!おれは、三年の風神だ!……ん?ああ、まあな。学園に、おれしか風神は居らんな!」
▼通話相手と話が弾み出したのか、瀬応の双子をそっちのけで会話をし出す風神。語厘がタメ息をついて、羽梨の肩へ寄りかかかった。
語厘「はぁーー…、自分の学年くらい覚えとけよなぁ…。」
羽梨「そういうことは…気にしてない…。」
語厘「つーか、隊長さん自身が端末を持ち歩いてないじゃん。」
羽梨「東阪センセ…。」
語厘「おん、その人がどうした?」
羽梨「隊長さん…、よく端末を壊したり、なくすから…。東阪センセがいい加減にしろって…。」
語厘「ああ、なるへそー。隊長さん、入学してから何台の端末をおじゃんにしたんだろ。」
羽梨「羽梨が知ってるかぎり、四台は…こわれたかな…。」
語厘「破壊魔じゃん。……つーか、なんか深刻そうな顔になってんだけど?」
羽梨「そうだね…。めずらしい…。」
風神「ああ、そうか……。うむ、うん、うん。」
▼返せる言葉がないのか。
それとも、通話相手の意見に真剣に耳を傾けているから短い相づちばかり打つのか。瀬応の双子が、風神の表情を観察している間にスッ…と視線が向いた。何か、伝えたいようだが通話が終わらないようで視線が床に戻された。
風神「わかった。こちらも、後輩たちに話しておこう。ああ、ありがと。またな。」
語厘「隊長さーん、誰からの電話だったのー?」
▼特に風神からの発言を期待していないのか。
語厘は、暇つぶしに妹の手をいじりながら何となく問いかけた。
風神のトーンが普段より低めにもらされる。
風神「うむ。……それが、相手は理文の後輩くんからでな。何やら、許し難い行為をしている学徒の集団がでてきたそうだ。」
羽梨「それの…、注意としての連絡…?」
風神「ああ、それもあるが。……たぶん、羽梨がハッキングをして見つかった場所があるだろう。」
羽梨「うん。シグくんが、居るかもしれない…場所…。」
風神「話によると、とある集団の隠れ場所らしいんだ。
その集団は、三部軍の中からはみ出した学徒が集まったようでな。そして、許し難いというのが"在校生の私物を持ち出して、その在校生の学徒情報を盗む"…行為をしている、とな。」
語厘「はみ出しものの集まりで、盗むのは在校生の学徒情報…。」
羽梨M
《……語厘、とても悪い顔してる…。》
風神「うむ?どうした。」
語厘「その集団を捕まえたら、何かをご褒美もらえたりしないかな?」
風神「なに?語厘、オマエ!正気か?!」
語厘「正気だよ。ちゃんと大真面目に言ってる。」
羽梨「隊長さん…、にぃには…にぃなりの考えがあるの…。良ければ、話しを聞いてほしいの…。」
風神「いや、待て!そんなの無謀だ!まだ、その集団の情報も不確かな状況で特攻しに行くなど!許可できん!」
語厘「うかうかしてらんないだろ!今!この瞬間にも、誰かの私物が持ち出されてんだ!」
風神「語厘!今、特隊生と上層生が情報を集めてくれている!ちゃんとした機会を見てだな!」
語厘「んなの、待ってられっか!!」
風神「こればかりは、オマエの身勝手を許せんぞ!?」
語厘「オレには、犯人の心当たりがある!!つーか、國崎をいじっていいのはオレだけなんだよっ!!」
▼なんという横暴な発言だろうか。
裏を返せば、不器用な語厘なりに國崎への心配なのだろうが。それにしたとしても隊長である風神に噛みつくとは、さすがの肝の据わりようである。
風神「ッ……だが……。
《犯人に、心当たりがあるだと…?本当に??情報収集の精鋭である諜報部が手を妬いてる案件だぞ…?おれたち、遊撃ごときが手を出していい案件なのか…?》」
語厘「頼むよ!!隊長さんっ」
風神「う〜〜〜む……(ため息)…、わかったっ…」
語厘「おっ!マジか!隊長さんっ」
風神「語厘の、熱意は伝わった。
集団の捜索する許可は出す。捜索係の特隊生たちにも話を通しておく。犯人の心当たりってやつも教えてくれ。」
語厘「わかった。あとで、メールする。」
風神「語厘…。これだけは約束してくれ。無茶はするな。人数で敵わないと、判断できたら引き返して来い。……わかったか!」
語厘「おう、守るよ!隊長さん!」
風神「羽梨。語厘のストッパー役を頼めるな?」
羽梨「うん。わかった…。にぃのことは、任せてください…。」
風神「ああ。頼んだ。
……よし、行動開始だ!おれは、海岸に戻って國崎が居ないかを確認する!随時、連絡を入れるように!」
羽梨「りょうかいっ…」
語厘「りょーかいっ!」
▼風神の一声で、瀬応の双子が部隊室から駆け出して行った。
時刻は、お昼休憩も終わって午後の修練が始まろうとしていた時刻である。
(間)
★★後半★★
◇妖島・南西側の海岸
國崎:語り
『今地はんの手を借りて、海から引き上げてもらってから羞恥なん投げ捨てて打ち明けた。
褌にされたこと、水遊びしとったら褌が流されて全裸になったこと。
風神はんの指示通りに着替えて戻ろうかと行動したが、私物が更衣室のロッカーから無くなっていたこと。
ぜーんぶ、赤裸々に答えた。』
(間)
國崎「以上や。他に、なんか質問あるか…?
《いっそ、笑いたきゃ笑えや…》」
▼正面に立っている今地に視線を向ける國崎。
だが、笑うような素振りも見せずに真剣な顔つきで何かを考え込んでいる今地が居た。
今地「そうか……、わかった。ちょっと電話をかけてくる。待ってて。」
國崎「え、ほーか。行ってらっしゃい。」
▼今地が、走って離れて行く。言われるままに、砂浜にポツンと立つことになる國崎。
國崎M
《私物が持ち出されるちゅーことは、ワイが考えとるより大事なんか…?》
▼それから、いくらか待たされる國崎。
浜辺に打ち上げられる貝殻やヒトデなどを見つけて暇を潰すものの。徐々に飽きてきて、砂浜に寝転がって海のさざめきを聞いて、考えるのも飽きた頃だ。
今地「國崎ー!おーい!」
國崎「ん?おー。今地はーん、ワイはここやでー。」
▼半身だけ起こして、ジャージの袖を振り回す。
今地が何やら紙袋を抱えて走りよって来た。
今地「なんだ、こんなところに寝っ転がってたのか。」
國崎「まあ、暇やったしな。お人に待っててと言われたからには待つしかあらへんやろ?」
今地「……オマエ。けっこう、律儀な性格してるんだな。」
國崎「ん?なんや、今地はん。そんなにワイの性格が意外やったんか。」
今地「ああ、正直いって意外だった。オレも噂ばかりに知識が偏りすぎてたみたいだ。」
國崎「今、どんな噂が流れとるんか知らんけど。……それと、お人は何を持ってきたん?」
今地「ああ、これか?國崎には、待たせて悪かったよ。戻ってくるのに時間がかかったのはさ……」
▼今地が、國崎へ紙袋を手渡す。
中身を確認するように視線で告げられて、不思議に思いつつも紙袋の中を見る國崎。驚きで、目が見開いた。
國崎「え、これ。黒の夏服やんか!なんで、お人が…」
今地M
《よしっ…本当は、訓練生が着てるやつだって気づかれてないな。言わないでおこう…。》
今地「いやさ、さっき電話してくるって離れたのは制服を貸してくれそうな人に話をつけてたからなんだ。……不可抗力だとしても、裸にジャージだと学園寮にも戻れないだろ?」
國崎「おお!なんや〜!お人、エライ、エエ人やんなー!剣を向けられた時は怖い人かと思ったけど、ホンマ、助かるわ!」
今地「ッ……、そうか。早く着替えてこいよ。午後練で、他の部隊が浜辺に来るぞ?」
國崎「ん?それもそうやなー。ちょっくら、着替えてきますさかい〜。」
▼太陽に負けぬ明るい笑顔を浮かべて國崎は、ルンルン気分だ。
離れて行く國崎の背中を見つつ、今地は胸の辺りを押える。なぜだか、高鳴る心臓が苦しく感じたのだ。だが、その胸の高鳴りが一瞬にしてしぼむ事になる。
風神「おーい!國崎ぃ!國崎 詩暮は居るかー!!」
今地「ッ!?こ、この声は……!」
風神「どこに居るー!くにさっ……ッ!?い、今地…。」
今地「や、やぁ!か、風神っ!」
風神「なぜ、オマエがここに?あ、いや。えっと、おれのとこの隊員を見かけなかったか?茶髪で、少し狐っぽい目付きの……」
今地M
《アキだ…、アキが僕の目の前にいる…。ぬかった…、そりゃそうだ…!
指示通りに隊員が戻ってこなければ隊長のアキが迎えに来る可能性があるってこと忘れてた…!》
▼今地と風神。どういうわけか、お互いに顔色が優れず。言葉もどもりどもりに交わし合う。
(間)
▼その頃、瀬応の双子は盗難事件の捜索係として活動している特隊生から情報を聞き取り、現地調査の為に室内稽古場の地下更衣室にいた。
語厘「羽梨ー、そっちはどうよー?」
羽梨「うん…、一応、人の指のアブラに反応する薬品つかってみた…。」
語厘「どう、反応あった?」
羽梨「うん…、反応はあったけど…。ここは、外の更衣室の校舎とは違うから…。」
語厘「あー、なるほどね。人の指紋がベタベタすぎて、どれが関わってるやつのか分からんってことかー。」
羽梨「でも、捜索係の、特隊生さんが…教えてくれたホシの指紋は…なかったよ…。」
語厘「たしか、この私物の盗難が目立ち出したのが四日前からだったよな?」
羽梨「うん…、最初はただの隊員同士のイザコザ…だと思われてたみたい…。」
語厘「けど、フタをあけてみれば赤や白でも同時期に起こってたわけだ。まあ、三部軍の教官さんたちは不定期に情報交換してるらしいし、この事件が同時に発生したものだって発覚したのも頷けるね。」
羽梨「むしろ…、三部軍あわせても…被害が三ケタ超える前に気づけてよかった…?」
語厘「だな。でも、つまりだ。この四日前から、黒のほうでホシとしてる学徒がこの更衣室を利用した形跡はないってことになるよな。」
羽梨「うん…、他に加担してる人の情報が入ってくるまで動けない…。」
語厘「だなー。にしても、俺が見かけた怪しい動きしてた学徒。どっかで見たことあったんだよなー。」
羽梨「が、がんばろう…にぃ…。」
語厘「おん!俺たちで力を合わせりゃ犯人の捕獲にそう時間はかかんないよな!」
▼両腕でガッツポーズのようにする羽梨に、語厘も親指を突き出してグッドとして見せた。
(間)
▼さて、相変わらず海岸側では風神と今地による気まずい空気が流れ続けている。
今地「か、風神、調子はどうだ?」
風神「変わりない。そういう今地はどうなんだ。」
今地「僕もさ。」
風神「そうか。」
今地M
《会話が…!いや、というより息が上手くつけない…。胸が、苦しい…。》
國崎「ありゃー?風神はん。どないして、ここに居るん?」
風神「國崎…!」
今地「く、國崎っ…」
國崎「えっ、はい。ワイが、國崎やけど…?」
▼険悪というか、何とも言えない空気が漂う今地と風神に名前を呼ばれ、修羅場かな??とはなったものの。
まだ、國崎の中ではこの二人の関係性が不明瞭だ。なので、目を瞬くだけに留めた。
風神「(一呼吸したあと)
……國崎、無事だったか!たしか、制服が盗まれたのではなかったのか?」
國崎「《風神はんが知っとるちゅーことは、今地はんが教えたんかな?》
……ああ、そうなんよ。
風神はんの言うとおりに持ち出されましてね?ワイ、全裸やったし。浜辺から移動できへんで、ずーっと困っとったんよ。」
風神「うむ、そうだったのか。
迎えに来るのが遅くなった!それで?その着ている制服は誰のなんだ。……いつ、今地とも知り合った?」
國崎M
《えっ、なになに?怒っとるん?風神はん、エライ不機嫌やんか…。えー、怖っ…。》
▼國崎は、助け舟を求めるように今地へ視線を送る。
今地が視線に気づいて、小さく頷いた。
今地「……風神、國崎を責めないでやってくれ。制服は、僕が用意したんだ。」
風神「む?今地、オマエがか。」
今地「そうだ。
それと、いつ知り合ったかだったな。それは、本当にここ数時間の話だ。元々は大汐と、海岸の南西側と南東側で手分けして巡回することになったんだ。
……その時に、この浜辺で誰も傍にいないで立ってる國崎が不審でさ。声をかけた。」
國崎「いやぁ、剣先を向けられた時は冷や冷やしましたわ〜」
今地「それは、悪かったよ。國崎に対する噂が噂だったばっかりに先入観でさ。」
國崎「はははっ、エエよ。もう気にしてへん。今も、制服を持ってきてくれましたし〜。」
國崎M
《ワイの中での情報の更新がない分、分からんことが多い…。
ワイが『狐面の死神』ちゅー呼ばれ方をされとる事は知っとるけど…、新しく?流れとる噂ってなんや…?
気軽に話してくれるようなお人が、ワイにはおらんくなったし…分からんなぁ…。》
▼國崎は、胸の中で寂しさとともに除け者感が否めない空気が堪えられず。おちゃらけて、作り笑みをして見せる。
風神は、頷いた。
風神「そうか。世話になった。」
今地「あ、うん。いいよ。……オレとオマエの仲だろ?」
風神「……ああ、そうだな。
して、國崎が着ている制服は誰のなんだ?学園寮に戻った時にでも、本人に返しておくから教えてくれ。」
今地「え、なんで風神が返しに行くんだ?」
風神「うん?なぜ、困った顔する?おれでは、返しにいけない相手なのか?」
今地「あ、いや……そういうわけじゃないけど……。」
國崎M
《なんや、随分と歯切れの悪い会話やな。でも、踏み込めそうにないちゅーか。なんちゅーか。》
▼ふざけるのも躊躇われる空気。
それこそ、普段は風神のガッツの効いた語調がなりを潜めて、冷淡すぎるせいもあるのだろう。
今地「……えっと、あの…。」
國崎「せや、今地はん。」
今地「な、なんだ?」
國崎「ここは、借りた側が返すんが道理やろ。」
今地「うん、たしかにそうだな…?」
國崎「せやから、返しに行く時は今地はんにも連絡させてほしいと思っていましてね。」
▼この國崎の発言に、風神が表情こそ変えないが纏うオーラが黒々となったことに気づいた今地。少し怯えた雰囲気で國崎の提案に答える。
今地「……つまり、僕と連絡先を交換したいってことか?」
國崎「おん、そういうことやな。」
今地「でも、オマエ。端末も持ってかれたんだよな?」
國崎「あー、せやけど。
連絡先のIDくらい覚えとるし。たぶん、管理部の先生に話を通せば替わりの端末くらい貸してくれるんとちゃいますの?」
風神「すまん、國崎。それは無理だな。」
國崎「え、なんでなん?」
今地「あー、なるほど。うん、たしか無理だった気がする…。」
▼風神が國崎の肩をポンポンとしながら謝る。その謝罪に何を言いたいのか察した今地。國崎は、え?え?と目を瞬く。
風神「実は、所属部隊によって貸してもらえる端末の数というのは決まっているのだ。」
國崎「へー、そない決まりがあるんですかー。そんで?何が謝ることなん?」
風神「はははっ、いやー、そのだなぁ?」
今地「國崎、実はね。
おまえのとこの隊長。つまり、風神が端末を壊しまくるから、管理部の部長の東阪先生が、東乱第一には追加で貸し出さないって言われてるんだ。」
國崎「んなぁ!?お人!!どんだけ壊したんや!!」
風神「うむ?そうだなー、かれこれ四つほどか?」
國崎「四つ!?なんで、そうそう壊れるような作りじゃあらへんやろ?!」
風神「いやー、稽古中とか壊れる原因はいろいろあったのだ。
……だから謝っているだろう?」
國崎「いや、開き直られても困るんよ!今地はんっ、ワイはどないしたらエエん!?」
今地「うーん……よし、わかった。申請が通るかは微妙だけど考えはある。」
國崎「え、ホンマか!」
今地「風神、國崎を借りるよ。」
風神「ん?ああ、わかった。國崎、用が済んだら部隊室に戻ってくるんだぞ!」
國崎「了解ですー。」
今地「さ、行こうか。」
▼このあと、國崎はとても関心した。
今地の先導で連れられたのは、学園の管理部の部屋。初めて入る部屋に落ち着きの無さを國崎が見せたがすぐに息をのんだ。
今地の説得術は、國崎が今まで見てきた人の中でも群を抜いて優れていたからだ。
國崎M
《大汐はん とは違った人望の厚さちゅうやつやな。いやぁ、エラい凄いやっちゃ……》
今地「ありがとうございます。それでは、僕の名義での借り出しということで。はい、故障などの責任は僕が負いますので……(一礼)
(振り向き)──國崎、ほら。これで大丈夫だよ」
國崎「おお!今地はん、ホンマにありがとう!」
今地「いいよ、気にすんな。
……まあ、説明を受けただろうけど、もし壊れるなんてことがあったらオレが責任を負わされるんだからな。くれぐれも!壊すなよ!!」
國崎「あははっ、エライ圧かけますやん?まあ、理解したし安心してや〜」
今地「うん、じゃあ。この事件が早急に解決して、無事にオマエの私物が戻ってくることを願うよ。」
國崎「せやなー。この制服も借りっぱなしでいるわけにも行かへんしな。」
今地「あ、でさ。國崎」
國崎「ん?なんや」
今地「その制服さ。実は中等部の夏服なんだよね」
國崎「んぇっ、つまり持ち主は訓練生なん??」
今地「いや、持ち主 本人は高等部だよ。けど、黒ってそこまで厳しい服装の縛りってないからさ」
國崎「あー、なるほどやで。高等部のお人でもサイズとか変わってへんなら着続けることがあるんやな」
今地「まあ、そういうこと。……じゃあ、またね。」
國崎「おん。また、よろしゅうなー!」
▼そうして、今地と別れた國崎。
風神の指示通りに今度こそ部隊室へ戻れば、(國崎が発見できぞと風神に呼び戻された)不機嫌だと言わんばかりの表情や態度に表した瀬応の双子が居り。
國崎を見るや否や両サイドを陣取った。
國崎「ただいまー、戻りましたー。」
風神「うむ!無事に戻ったようだな、國崎!」
語厘「おうおう、國崎ぃ!」
國崎「な、なんやねん。お兄やん、近いで?」
羽梨「シグくん…、何やってるの…。羽梨、すっごく胸がいたかったんだから…。」
國崎「妹はんも、近いなぁ!?」
語厘「隊長さんの指示通りにすぐ戻って来いよなー。つか、隙あり過ぎなんだよ。簡単に私物を持ち出されるなんてさ。」
羽梨「羽梨…、シグくんがいない間、とても胸がザワザワしたの…。どうしてくれるの…?」
國崎「あー、もぅ!わかった!わかったからっ!お人ら、ワイにいろいろ言いたい気持ちは充分に伝わったわ!つーか、妹はん。さっきから語弊を感じる言葉が多いで!?」
羽梨「ゴヘイ…?羽梨、なにか変かな…?」
語厘「國崎がー、下心があるから変に聞こえんだろ!つーか、羽梨の傍に寄るな!(國崎を壁に押し退ける)」
國崎「痛いわっ!ホンマに、ヒドイ扱いやなぁ!?」
風神「うむうむ!元気なことは良いことだ!」
國崎「お人は、止めてくれてもエエんやで!?」
▼後輩たちのやり取りなんて気にも留めず笑い飛ばす風神。
正直なところ、彼のとある学徒に対する態度こそ気になるところではあったが触らぬ神に祟りなし。触れなくていいこともあるのだろう。
(間)
▼さて何だかんだと終業し、一時 解散。その日の夜の、学園寮。
語厘「ったくよー。ずっと海辺に居たなんて人騒がせなやつだよなー。」
羽梨「……本当に、誘拐じゃなくてよかったね…。」
語厘「でもさー、別に攫われたところでって感じじゃん?」
羽梨「にぃ、想像してみて…。」
語厘「想像?」
羽梨「うん…、視界がふさがれてて…ジメジメしたところで、身動き取れなくされる……どう?」
語厘「……(考え中)…あー、うん。おけ。無理だわ。」
羽梨「うん、羽梨もムリだった…。」
語厘「はぁー、そう考えたら良かったちゃ良かったかー。けどさ!新しい集団の動き!ありゃねーわ!」
羽梨「調べたら…いろいろ分かったね…。」
語厘「おん。なんも対策しないで、のさばらせるのも癪だし。ここは、俺と羽梨の力で解決の糸口を見つけようぜ!」
羽梨「うん…にぃ、がんばろ…。」
語厘「おうよ!」
羽梨M
《……語厘は、気づいてない…。シグくんが、部隊室に戻ってきた途端に真っ先に体当たりしにいった…。喜びが抑えられてなかった…。》
羽梨「(小声)…よかったね…にぃ…。」
語厘「うーん?なんか、言った?」
羽梨「な、なんでもないよ…。」
語厘「そっかー。じゃあ、もう寝ようー。」
羽梨「うん…ねんねする…。」
▼そんな会話を学園寮の私室で瀬応の双子がしていた事なんて、國崎は知らない。
國崎「ふぇっくし!!(くしゃみ)……あー、しばらく裸やったさかい。風邪ひいたかもしれへん。気をつけとかな…。」
▼与えられた六畳の私室で、ボヤきつつ掛け布団を手繰り寄せる國崎。穏やかに夜が深けていったのだった。
黒軍編・第五話⇒ハジマリの波打ち際。
おしまい
ア!ト!ガ!キ!εε=(((((ノ・ω・)ノ後書き〜!
閲覧や上演してくださった方に感謝します。
はい、どうもー!無計画実行委員会 委員長こと作者の瀧月です☆
初めましての方は、初めまして。
お久しぶりです。待機していてくださった方は本当にありがとうございます。
ぶちゃけ、台本の執筆に三ヶ月もかかるとは思っていませんでした(真顔)
そう、でね。やっと黒軍のキャラクターたちが学園の二十期(五月の終わり頃)を歩き出しました!いやぁ、遅かったなぁ…(笑)
そして、今作で新キャラが登場しましたね。
今地ちゃんですねぇ…
この子は、赤の六津井ちゃんとは違った理由から男装?をしているわけですが…
誰からしら一人でも読者さんの趣味に合えばいいんですけれどもね…(汗)
まあ、男装?の理由や何だか知らんけど不穏な空気感が漂った風神との関係性とかをね。今後の台本で回収できれば作者自身としても優秀かなー?とは思っております。
あ、ちなみに。
今作にも出てきました瀬応の双子。
あの子たちの下の名前の発音講座は 黒の四話の後書き にて紹介しております。
そちらも合わせて、読んでくださると嬉しく思います。
ではでは、今回の後書きはこのへんで!
それでは、またいずれ〜
お相手は瀧月 狩織でした!
( ノシ ・ω・)ノシ
後書き 掲載日 2020年7月21日




