黒軍編・第四話⇒進む先、それは波乱の予感。(比率・男声3:女声1:不問1)
|ω・)この部分のコピー利用はご自由にどうぞ。
【題名】黒軍編・第四話⇒進む先、それは波乱の予感。
(もしくは、『黒の四話』とコメント欄などに投稿してください。)
【作者】瀧月 狩織
【台本】※小説家になろう のURLを貼ってください。
【配役表】※作者オススメの5人用
(内訳・男声3:女声1:不問1)
國崎♣︎♂>>
大汐♂/(兼)教官 弐>>
語厘♣︎♂/(兼)学徒 壱>>
羽梨♀/(兼)学徒 弐&教官 壱>>
▼ナレーション>>
【配役表2】※登場数が変則的な6人用。
(内訳・男声3:女声1:不問2)
國崎♣︎♂>>
大汐♂>>
語厘♣︎♂/(兼)学徒壱>>
羽梨♀>>
サブキャラ総演 不問>>>
(※内訳・学徒弐/(兼)教官壱&教官弐)
▼ナレーション 不問>>
|ω・)作者です。
6人用は本当に変則的です。
特に今作で新たに表記しています『サブキャラ総演』は総セリフが16個とかなり少なめ。
今作は約60分台本ですので…気長に出番を待ってられる方向けとなっています。
演者への配慮がなくて申し訳ないです。
それでも、三津学の世界を楽しんでもらえれば幸いです~( ̄▽ ̄;)
黒軍編・第四話⇒進む先、それは波乱の予感。
台本上演時間(目安)→ 60~65分
比率:男声3人:女声1人:不問1人の5人台本。
※比率はオススメと言うだけなので、目安です。
※※当台本は転載、自作発言、登場キャラの性転換など禁止。
読み込み(世界観の確認、文字の読み方など含む)をちゃんとしましょう。台本にキラーされますよ?
※※※当台本には ♣️♂ という特殊表記があります。
これが登場キャラの名前にある場合は、女性演者さんの低音や中性声で演じて大丈夫な ♂キャラ です。
それ以外の細かいことは【台本利用上のお願い】を必読でお願いします。
☆登場キャラ☆
國崎 詩暮 ♣️♂ 高二生(進級後)
・二○七九年の初夏に三津学へと編入してきた。
「一月の騒動」から『狐面の死神』という異名がついた。
・のらりくらりとした立ち振る舞いがしょうに合っている。けれど、なぜか不運に巻き込まれる主役。
・特徴→白黒の狐面、暗めの茶髪、藍色の瞳。
【作者から】関東育ちの作者が生み出した 関西弁キャラ です。
なので、方言やセリフにおかしな点があると思いますが…大目に見てください。
大汐 理文 ♂ 高三生(進級後)
・大型犬っぽい男子。熱血で、裏表がなくて純粋。
・ハキハキとした口調をしており、テンションが上がるとウルサイが人望もあるし、かなりのお人好し。
・特徴→襟足は刈り上げの前髪は上に撫で付けた黒髪。八重歯。
南義進撃中隊の隊長補佐。
彼が、副隊長と言うわけでは無い。あくまで補佐。
瀬応 語厘 ♣️♂ 高二生(進級後)
・東乱第一遊撃部隊の隊員。
・妹を溺愛。妹を傷つけるやつは、相手の性別関係なしに許さない。なぜか、本編で國崎に突っかかる。
というか、妹を溺愛しすぎててヤバい人になった。
・特徴→灰色の髪、薄い紫色の瞳、オレンジ色のバンダナ。
妹に近づく異性を潰すのが趣味。
瀬応 羽梨 ♀ 高二生(進級後)
・今作の唯一の女子キャラ。兄の語厘と同じ所属。
溺愛とも行かないが、兄は好き。モジモジ、ボソボソと話す。
大半は、たどたどしい口調に、どこか無気力な態度。興味ないことには、素直に「知らない」という。兄より常識的(?)
・特徴→灰色の髪をツインテール、薄い紫色の瞳、オレンジ色のハートの髪飾り。
実は、爆薬や薬品の調合するのが趣味。
▼ナレーション 不問
・当台本シリーズの ▼マーク と言えば、ナレーション。
またもや皆勤賞です。
休みかと思いきや、出番だったりします。
長文読み、語りが得意な人にオススメします。
☆サブキャラの皆様
学徒 壱(セリフ数 5個)&学徒 弐(セリフ数 4個)
・所属している部隊の先輩に教えられて、國崎こと『狐面の死神』を広まった噂によって間接的に知っている。
教官 壱 (セリフ数 5個)
・真面目だが、任された職務だけをこなしたい日々。
面倒くさいことには首を突っ込みたくないタイプ。
教官 弐 (セリフ数 7個)
・童顔で、軍服を着てないと在校生に間違われる。
だいたいのことは、流せるタイプ。ハキハキとした口調に反して、だいぶユルい性格。
☆メインキャラのセリフ数
國崎 詩暮>>>110個
大汐 理文>>>75個
瀬応 語厘>>>47個
瀬応 羽梨>>>42個
ナレーション>>>52個
☆前置き
ニ〇五〇年に時の政府が発令した政策によって、ニ〇六〇年に孤島へ創られた学び舎・三津ヶ谷学園。
そんな学園も創設から二〇年目。
ついに、ニ〇八〇年の四月。在校生たちが進級し、期待に胸を躍らせる新入生も増えた。そんな四月なのに、主人公の國崎は個人活動を強いられていた。その理由とは?
【作者から】
キャラ名の前に M がある場合はマインド。心の声です。
《 》←このカッコに囲われたセリフも心の声です。存分に本音が書かれています。読んでやってください。
N はナレーション。キャラになりきって、語ってください。
台本内に (間) というのがあります。
それは、一呼吸や二秒くらい間をあけてから続きを読んでください。小すぎる小休憩ってやつです。
それでは、今作もよろしくお願いします。
ようこそ。三津学の世界へ
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☆☆本編☆☆
▼二〇八〇年四月中頃。
進級と入学を終えて、どの所属も部隊も新しい顔ぶれが見える黒軍。
しかし、進級早々。倉庫やプレハブの物置小屋が建ち並ぶ区域で、狐のお面を側頭部に乗せた男子学徒こと──國崎詩暮がポツン…と一人で竹箒を振り回していた。
國崎「なんで!ワイが!ひとりでっ!やらにゃ!アカンの!かっ!!」
▼ブンッ…ブンッ…と竹箒を振り回し、辺りに砂埃が舞う。
先程から國崎はグラウンドから誤射された矢、薬莢などを倉庫の屋根から下ろす作業をしているのだ。
國崎「ふんっ!(突きの一閃)……飽きた。飽きたッ!ワイ、もうやりとうないッ!!」
▼力任せに、竹箒を地面へと放り投げた。
放り投げた角度が悪かったのか、持ち手の部分が倉庫の鉄扉にぶち当たり、大きな衝撃音が響く。
國崎「あちゃー、やってもうた…。完全にへっこんだわ。…黙っとたらバレへんか……?」
学徒 壱「すっげー音したな。誰だ?こんなとこで、騒いでるやつ。」
学徒 弐「なぁ、あそこ。誰かいるけどさ、先輩たちが話してた『狐面の死神』じゃね?」
学徒 壱「えー、あの学徒が?……たしかに、狐のお面つけてるけど…。」
学徒 弐「なんか、聞いた感じより普通の人っぽい。」
学徒 壱「だよな。」
▼その話し声は、國崎の真後ろに位置する第二校舎へ行ける渡り廊下から聞こえていた。
國崎M
《普通?……ワイは、普通代表やで!?流れとる噂には迷惑しとんねん!!》
▼聞こえた会話に苛立つ。
その苛立ちをぶつける先は竹箒だ。そもそも、どうして國崎は人通りの少ない区域で個人活動させられているのか。
その理由は、数週間前にさかのぼる。
(間)
〜劇中タイトルコール〜
語厘「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
羽梨「黒軍編、第四話。」
大汐「進む先、それは波乱の予感。……だな!!」
(間)
▼三月中頃。
卒業式が終わり、学徒が入れ替わっていく時季。
黒軍側のグラウンドにはビニールテントが設置され、運動用の服装に着替えた学徒たちで賑わっている。
その中で、國崎だけが受付担当の教官につっかかっていた。
國崎「はぁ!?今回の進級試験はチーム戦?!」
教官 壱「はい。何度も申し上げておりますが、今期の進級試験は部隊対抗戦です。」
國崎「いやいや!困るわ!ワイの所属しとったとこが、解隊されたばかりなんですわ!」
教官 壱「それでしたら。急遽、どこかの隊に参加して勝ち抜いてください。」
國崎「どこかって、どこやねん!こ、個人戦は?」
教官 壱「ありません。」
國崎「ノォォォォン!!」
▼頭を抱えて、膝から崩れ落ちる國崎。
その姿を対応している教官は呆れ顔で見下ろし、他の学徒も遠巻きに『ざまぁみろ』と言った具合に笑っている。
すると駆け足が聞こえ、話に割ってはいる学徒が居た。
大汐「すみません!あの、今からでも手続きできますか?」
教官 壱「ええ、大丈夫ですよ。……では、所属と学年などをお答えください。」
大汐「南義進撃中隊、所属。二年の大汐理文です!」
▼チャラン…という電子音が大汐の端末から鳴る。
教官が用意した小型の印刷機みたいたものに、端末を向けると機械がコピー用紙へと情報を印字して刷り出した。
教官 壱「参加許可証です。試験が終わるまで、各自で保管をお願いします。」
大汐「ありがとうございます!……ん?きみは。」
國崎「あーーー?何やねん。人の顔ジロジロと。」
大汐「きみは、蒼檄の奴か。」
國崎「……そうやけど。お人は?」
大汐「自分は、大汐だ。南義中隊に所属している。」
國崎「ははぁ、そうですかー。ワイは、國崎いいますー。よろしゅうなー?《…大汐ねぇ…まあ、情報としては知っとるな。見た目としては、男前な青年って感じやな…。》」
大汐「遠目から見ていた。なにか、揉めていたようだな。……今回は、チーム戦だろう。蒼檄の隊員と参戦しないのか。」
國崎「あー、えーっと…。(軽く咳払い)……お人、知らんの?この前の赤さんと黒の参謀さんらの会談後に蒼檄は解隊されたんやで。」
大汐「む、そうだったか。だとすると……」
國崎「お察しの通りやで。ワイ、絶賛ボッチで困ってんねん。」
▼國崎は、あっけらかんとした態度で大汐と言葉を交わす。
周囲の学徒は、確実に『困ってないだろ、コイツ』という心のツッコミである。
大汐「うーん、そうか…。うん、そうだな。ちょっと待ってろ。」
國崎「ん?うん。《何なんやろ、大汐はんって。待ってろ言われてもなぁ…?》」
▼スタタタッ…小走りで國崎から離れて行った大汐。
本格的にひとりぼっちとなり、遠巻きに投げられる視線が精神を刺激していく。
國崎M
《あからさまっちゅーか。なんちゅーか。周りのお人らはジロジロと何なんや。しばいたろか。》
▼苛立ちは、無意識に足へと流れて貧乏ゆすりとなった。
──それから一五分後。
大汐「おーい!國崎くん!」
▼獲物を追いかけるドーベルマンのような軽い足取りで、尚且つ速度のある駆け足。再び、大汐が國崎の傍へと戻って来た。
國崎「まいどー。お人、案外早かったなー?」
大汐「さあ、行くぞ國崎くん!(國崎の腕を掴む)」
國崎「えっ、ちょ、ちょっと待ってなっ!」
大汐「むっ、何だ?」
國崎「行くってどこに連れてくつもりや!」
大汐「どこって、自分とチームを組んでくれているミンナのところにだ。」
國崎「いやいや!なんで?!なして?!」
大汐「さっき、話をつけてきた。もちろん、南義中隊の顧問をしている教官も納得してくれている。」
國崎「くッ~~!なぁ、お人!知らんわけやないやろ!?」
大汐「む?何がだ。」
國崎「ワイが周りになんて呼ばれとるか、とか!一月の騒動で何をやったか!」
大汐「そんなもの噂に過ぎん。きみがどんな人物なのかは、これから分かることだ。」
國崎「なっ……!《アカン!このお人、純粋すぎるし!お人好しにも程がある!!》」
▼飄々(ひょうひょう)とした態度こそ國崎の処世術。そんな國崎でも、言葉を失うレベルのお人好しが相手ではのらりくらりとした返しが出来そうにない。
大汐「きみだって、進級したいだろ。まあ、なぜ今期の試験がチーム戦なのかは意図はわからない。
だが、人の在り方は闘い方に出ると自分は思う。」
國崎「……そう、やな…。」
大汐「うむ、そうだろ。そうだろ。では、行くぞ!」
國崎「えっ、やっ、うわぁぁぁぁ!!」
▼純粋な説得は國崎の心へと響いた。
しかし、このお人好し。満面の笑みで國崎の両腕を掴んだと思いきや、軽々と背負って走り出した。状況に追いつけなかった國崎の絶叫が人の中を掻き分けて行った。
(間)
大汐「ということだ。この試験中は、仲間に加わる國崎詩暮くん だ!」
國崎「あー、えっと。ご紹介にあがりましたー。國崎いいます。何や突然の参加ですみません。よろしゅう頼んますー。」
▼國崎の参戦は、大汐の事前の説明と改めての紹介により。良き方向へと効果を発揮したようで難なく受け入れられた。
大汐「以上!試験開始まで自由にしててくれ!……さて、國崎くん。」
國崎「なんですかー?」
大汐「きみは、今期の進級試験が初参加だったな?」
國崎「せやで。それが?」
大汐「きみと受付の教官との揉め方を見てな。チーム戦とわかった時点で、事前説明を受けていないだろうと思ったんだ。」
國崎「えっ、ああ、せやな。聞いてないな。《……うわぁ、怖っ、お見通してやつか?このお人、実は隊長格とかなんか?》」
大汐「やはり、そうか。では、自分のほうから軽く説明するな。」
▼お人好しな大汐。
彼による説明は、とても分かりやすいものだった。
──要約するなら『今期の試験はチーム戦だ。』
二〇米四方の臨時の囲いの中で、一試合が五分間の乱闘形式。勝利条件は対戦チームのメンバーが半数をきったら自分チームの勝ち。五戦行われて三戦、勝利すれば進級権限は獲得。一つのチームは最少で三人、最大で一〇人まで。
使用する武器は模擬戦用の木製武器。』とのことだ。
大汐の才能や人望。
野心家が多い黒の中では珍しい善人っぷり。チームを組むときに、定員数ギリギリまで人が集まるのも納得してしまう話だ。
國崎M《よう、人員の枠あけとったなぁ…。》
▼國崎は、大汐が説明している間。
どこか他人事のような心持ちで遠い目をしていた。
大汐「國崎くん、質問はあるか?」
國崎「え、あーっと……あ、せや。普段、使うとる武器はどこに預けとけばエエですの?」
大汐「武器か。武器なら受付テントの隣にあるテントで木製武器と交換制で預かってもらえるぞ。」
國崎「ああ、そうなん?せやったら、さっそく……」
大汐「駒田!國崎くんについて行ってあげろ!」
國崎「えっ、大汐はん、別にワイは一人でも……」
大汐「きみを侮っているわけではないんだ。うーんと、理由をつけるなら……。うむ、少しでもチームのメンバーと試験開始まで交流しておいてほしいだけだ!」
國崎「そ、そういう理由やったら断れへんなぁ…?」
▼完全なる光属性の大汐。彼の悪意のない。
否、悪意のなさすぎる対応と態度は、尚更、國崎の人間不信と疑心を強める結果となる。
國崎M
《このお人、絶対に黒軍の軍規律に合わんやろ。なんで、このお人は黒なんやろか。……それこそ『闘い方に人の在り方』が出るんか?》
▼國崎は、大汐から宛てがわれた駒田と共に武器の交換へと向かった。その道中で駒田から質問攻めにされるが、それこそ。お得意ののらりくらりとした態度で答えを返した。
(間)
國崎「大汐はん、戻ったでー。」
大汐「うむ!駒田、ご苦労だったな。……む?おお、國崎くんは双剣使いだったか。どうだ?模擬戦用を握ってみて。」
國崎「いやー、凄い技術やでホンマに。グリップの部分の再現は出来へんかったらしいけど、形と重さは完璧やで。」
大汐「おお!そうだろう!そうだろう!」
國崎「えっ、どえらい自慢げ……。」
大汐「國崎くん!この学園に常駐されている製作部の方々は『職人』と呼んでも差し支えないレベルの人ばかりなんだ!
自分の愛用は、槍なのだが……
見てほしい!この柄の長いのが特徴の、我が武器も容易く再現してしまう!実に素晴らしい!
もちろん、装飾の激しいもの、細かいものでも巧みな手先と観察眼で作ってしまうのだ!」
▼キラキラとした眼差し。
学園の敷地に住み込みで、武器製作している人たちを賞賛する大汐。その熱のこもった瞳に國崎が圧されて空笑いをした。
國崎「ほーか…。えっとー……大汐はん、模擬戦用ってどうやって作ってるか知ってますの?」
大汐「うむ?ああ、知っているぞ!なにせ、自分は攻撃隊に配属されていなければ製作部に行きたかったくらいだからな!」
國崎「へー、大汐はんって手先器用なんか?」
大汐「む?あー、自分は……」
▼大汐が國崎の質問に答えようとした時だ。
ワッ!と周囲が騒がしくなり、罵声やら歓声やらが交じりあって國崎にはその音が聴覚に刺さる感覚を覚えた。
國崎「あ~、何やねんっ!やかましい!!」
大汐「むむっ、おー!ご到着のようだな。」
國崎「はぁ~~~…。ん、到着ぅ?何がや、誰がや。」
大汐「あの学徒だ!見てみよ、國崎くん。あれが、前回の進級試験で一〇戦行われた模擬戦を全勝した学徒たちだぞ。」
▼大汐に肩を組まれて、人混みを覗くかたちで見やる國崎。
そこに見えた学徒たちに國崎は、言葉を失った。
大汐「彼らが東乱第一だ!」
國崎「……東乱第一。」
大汐「元より東乱第一は、我らの南義進撃と同じく学園の創設時から存在する隊なのだ!
進撃大隊から始まって、今は所属人数が激減して遊撃までなったが……むしろ、隊長が参謀と司令を兼ねてしまうのがスゴイのさ!」
國崎「ほーか、歴史のある隊ですなー。その、東乱第一は小隊とは名乗ってへんのやな。」
大汐「ああ、そう言えばそうだな!なにかしら、こだわりがあるのだろう!でな。
あの背も高くて、体格もしっかりしているのが隊長の風神明。そして、揃いの髪色をしている男女が瀬応の双子だ。」
▼大汐が指さす方向には、三人の学徒が立っていた。
オレンジ色の髪飾りとバンダナ、長さが一〇〇センチは越すであろう木刀。それが真っ先に國崎の視野にとまり、次にそれらを所有している学徒を認識する。
國崎M
《…ハハァ、あの女の子。
どっかで見たことある気がしとったけど、人違いやないな…。うん、やっぱりか。にぃやんと喧嘩しよったって泣いとった子やな…。にぃやんは、あのバンダナのほうか。んで、隊長は大汐はんが言うとったお人か…。当たりたくないなぁ…。》
國崎「……大汐はん、試験開始はいつですの?」
大汐「む?開始はあと三〇分後だな。」
國崎「良ければ、準備運動がてらに一戦、付き合てくれへん?」
大汐「おお、自分のほうも願ったり叶ったりだ。広い場所に移動しよう。」
國崎「おん。行こか。」
▼さり気なく大汐を人混みから連れ出す國崎。
大汐が集めたメンバーにも一言かけたあと、お面を装着した。
國崎が『狐面の死神』と呼ばれる所以となった狐のお面を。
(間)
◇東乱第一遊撃部隊サイド
▼彼らは、校舎から集合場所であるグラウンドへと踏み出した。
その瞬間。彼らの登場に周囲が騒がしくなった。周囲の空気が変わる。灰色の髪を二つ結びにしている女子学徒、瀬応羽梨が揃いの髪色をしている男子学徒、瀬応語厘の服の裾を掴んだ。
語厘「んー?どうした、羽梨ー。」
羽梨「……にぃ、こわい…。」
語厘「あー、こわいよなー。ザワザワしてて、耳に障って仕方ないね。」
羽梨「……うん、うるさい…こわい…。」
▼ますます、スカートの裾を握る手に力がこもる羽梨。
その姿に語厘がデレデレとした表情へと変わった。
語厘「はなしぃ~、かわいいなぁ~(抱きしめ)」
羽梨「うゆ…、苦しいよ、にぃ…。」
語厘「あーやって、騒ぐだけ騒いでるやつはにぃがコテンパンにしてやるからな~。」
羽梨「うん、にぃガンバって。羽梨、応援する…。」
語厘「おう!頑張るぜ!……にしても、隊長さんの作戦としては俺が先鋒。
中堅と大将を隊長さんだったけ。
次鋒を羽梨に任せるなんて何を考えてんだかなー。」
羽梨「……隊長さん、にぃがガンバってくれれば出番ないよって言ってた…。」
語厘「何それ、どういうこと?」
羽梨「……今日の試験、乱闘形式だって言ってた…。」
語厘「つまり?」
羽梨「……にぃ、羽梨が狙われたら庇うでしょ…?」
語厘「ははっ、そういうねぇ…。
わかった、わかった。隊長さんの作戦の意図がやっと分かったよ。……羽梨に手ぇ出すやつは男なら叩きのめすレベルに容赦しない。女でも手加減はしない。」
羽梨M《……語厘、目の中ギラギラ…。これ、本気にさせすぎたかも……。》
語厘「ん?なあ、羽梨。あそこで誰か指さしてないか?」
羽梨「うゆ?……あのガッシリしたカラダの人、隊長さんと仲いい人だ…。《隣は誰だろう…。》」
語厘「隊長さんと仲いい人?つーことは、南義の人か。てか、その隣にいる学徒、初めて見るわ。」
羽梨「……にぃも、初めて見る?羽梨も初めて…。」
語厘「え、いや。でもよー。あの学徒さ。狐のお面、頭に着けてないか?」
羽梨「そうなの…?羽梨の位置からじゃ見えない……。」
語厘「肩車するか?」
羽梨「大丈夫…。よけいに目立つ…。」
語厘「それもそうだな。
……ハハッ、もしかしたらさ。あの学徒が『狐面の死神』かもな。」
羽梨「あの、うわさの…?」
語厘「そう、噂の。」
羽梨「にぃが見てみて、噂どおりに見える……?」
語厘「うーん、どうだろ。けど、黒は特に闘うとスイッチ入るやつ多いし。あの学徒も例に漏れずなタイプかもなー。」
羽梨「そっか…。試験中に、当たるといいね…。」
語厘「だな。ん、隊長さんが呼んでる。行こ、羽梨。」
羽梨「うん、にぃ。」
羽梨M
《語厘が言うとおり、闘うとスイッチ入る…。なら、赤の人たちを一人で追い詰めたっていううわさも間違いじゃないのかな…。》
▼自然な流れで、語厘が羽梨と手を繋いだ。そして、遠くから声を張り上げている隊長のもとへと歩き出した。
(間)
▼一方、手合わせを始めた大汐と國崎は。
大汐「セェェェイ!」
國崎「うおっ…!くっ、でりゃあっ!!」
大汐「セッ!ハッ!ホッ!セイっ!!ホォーッ!」
國崎「はぁっ!とっ!うっ、なっ、ふぁ!?…ぐぅっ!」
▼人混みから離れて、木製の武器をぶつけ合っていた國崎と大汐。
──しかし、長物を得意としている大汐のリーチを利用した闘い方は、近接武器の國崎にはぶが悪かった。
一戦どころか、気分が昂って何戦か、手合わせをしたようだ。
だが、どの手合わせも大汐の槍先が國崎の喉元をスレスレに向けられ負けとなった。
國崎「くぅっ…!(脱力の)……はぁぁぁぁ…。」
大汐「ははっ!國崎くん、なかなかの腕前だった!」
國崎「はぁー…。いやいや、お世辞なんて要らへんよ。」
大汐「む?お世辞ではないぞ。本当に、良き動きだったから良かったと言ったまでだ。」
國崎「ハハァッ…、お人はホンマに素直な人ですなー。」
大汐「なぁ、國崎くん。一つ、訊いてもいいだろうか?」
國崎「ん?なんですの。」
大汐「きみにとっての蒼檄部隊とはどんなものだった?……初めて所属した部隊だったのだろ?」
▼とても、まっすぐな性格をしている大汐。
なんの、悪意や裏のない質問だろう。というのはすぐに理解できた國崎。しかし、真意が測りかねた。
國崎「それは、どういうことなん?どんなもんって、単に誘われたから名を連ねさせてもろただけやで。」
大汐「……誘われたから?」
國崎「せやで。」
大汐「つまり、きみは誰かに誘われたら……どんな隊であっても、ついて行くのかな?」
國崎「あー、いや。そういうわけやないで。……ワイ、記憶力だけは負け知らずなんよ。」
大汐「記憶力。」
國崎「おん。せやから、あの蒼檄のお人らもワイの"記憶力"を真っ先に必要としとった。けんど、使う幕があらへんくてな。あっさり、解隊されてしもて。」
大汐「……もし、隊が残っていたら居続けていたかな?」
國崎「うーん、どうなんやろな。残っとっても誘ってくれたお人らは居らんわけやし。所詮はぽっと出やしな。」
大汐「そうか…。なぁ、國崎くん。」
國崎「なんや?」
大汐「きみさへ良ければ、自分の率いる予定の隊に入ってくれないか?」
國崎「それは……。」
大汐「自分は、手合わせしてわかった。きみは、戦い慣れているな。《いったい、どういう生い立ちなのか…。》
……きみの言う"記憶力"というのも素敵な才能だ。卑下することじゃない。だが、自分は純粋に戦力としてきみの力が欲しく思う。」
▼國崎は、引きつった笑みを浮かべてしまう。
黒という『強者こそが力に飢えつつも、上に立つ』を体現した軍に染まらない純粋な存在に。
己とは隔絶とした違いを見せつけられて、身震いを覚えた。
大汐「……ダメ、だろうか。」
國崎「せやな。……すまんな、大汐はん。」
大汐「うむ〜〜、ふぅ……。そうか。残念だ。(寂しげに笑う)」
國崎「《そんな寂しそうな顔するかぁ…!?飼い主に叱られた犬か!?》…ッ…せやけど、嬉しかったで?ワイに対する噂を噂と一蹴してくれたこと。」
大汐「うむ。たしかに、噂は人を形づくる。だが、それだけでは真意を測り損ねるだろう。自分は、そんなことで人材を減らすのは勿体なく思うのだ。」
國崎「ぷっ、あははっ!大汐はん、ホンマに黒のお人なん?!」
大汐「む?自分は、正真正銘。黒軍の学徒だ!」
國崎「(笑いを含みつつ)あー、ちゃうちゃう。そういうことやなくてな?」
大汐「むむっ、どういうことだ?」
國崎「まあ、気にせんでエエですわ。」
大汐「むむっ!気になるぞ!國崎くん!」
國崎「ええんよ、大汐はん。……ほな、戻りましょ。
《……こんな粋で澄んだ学徒が黒に居ったことに驚きやわ。大汐はんには、変わらんでほしいな…。》」
▼國崎を真っ向で、裏のない考えで振り回せるものは今後も大汐しかいないだろう。だが、考え方を変えれば。
大汐も十分に変わった存在である。
(間)
語厘「(伸びして)はぁ〜……準備運動にもなんねぇ」
羽梨「……そう、かな……」
語厘「なーんか、張り合いなくてさー。もっと、強いチームと当たってくれないもんかなぁ」
羽梨「当たってる……、けど、隊長さんが倒しちゃう……」
語厘「たしかにー、出る幕ナシな展開が多いなーとは思う」
羽梨「さすがに……、あの大きな木刀で、叩かれたら痛いなんて、もんじゃない……」
語厘「隊長さん、陸での特攻が専売特許だからなー」
羽梨「……『緑眼ノ猪』……」
語厘「でた〜、広報部が考えてるセンスのない異名〜」
羽梨「でも、実際……目ェ、ミドリだよね……」
語厘「まあ、特徴は捉えてるよなー。けどさ、隊長さんはイノシシなんてもんじゃないっしょ」
羽梨「……例えば?」
語厘「あの人は、ゴリラっしょ。声でかいし、カラダもデカい」
羽梨「……たしかに……?」
語厘「まあ、何はともあれ。もっと、楽しい。……ってなる相手と当たらないもんかなー!あの、隊長さんと仲良い人がいる南義のとことかさー!」
羽梨「なかなか、難しい……くじ引きの運も必要……。弱く感じるのは……たぶん、にぃが強くなったんだよ……」
語厘「お!なに〜?羽梨さん、今日はにぃを素直に褒めてくれる日なのー?」
羽梨「……羽梨だって、褒めるときは褒める……。そういう反応するなら、もう、褒めない……」
語厘「わー!ウソうそ!羽梨〜、拗ねんなよ〜」
羽梨「知らない……、あ、隊長さんが呼んでる……」
語厘「あ〜、ごめんって羽梨ー!置いていくなよー!」
(間)
▼さて、グラウンドに戻ると同時。
試験開始のアナウンスが流れ、國崎が参戦した大汐の率いるチーム『真月』は進級権限を得る為の試合へと地を蹴る。
──そうして、着々と勝ち進む。
一戦だけ引き分けになりつつも最終である五戦目を白星で終えたチーム『真月』。
組み立てられたテントと、ブルーシートが敷かれただけの休憩スペースで、お互いに労う言葉を口にしつつ、他の対戦を見る時間になっていた。
大汐「いやぁ!実に見事な動きだったぞ、國崎くん!お陰で、我らのチームは四勝できた!」
國崎「ハハァ…、ワイは何もしてへんし、凄いことなんてあらへんよ。運が良かっただけやさかい。」
大汐「うむ!運も実力のうちと言うしな!……だが、一人で五人も倒してしまったときは出る幕がなかったな!」
國崎「あ〜…えっと、大汐はん!三戦目の試合のことはホンマにすんません!」
大汐「む?なぜ、謝る?」
國崎「え、や、だって…チーム戦なのに何の連携もせんかったし……。」
大汐「ハハッ!そんなことか。気にするな!むしろ、駒田が『連戦だったから、休めてよかったです』とか言っていたくらいだしな!ミンナ、気にしていないぞ!」
▼大汐は、笑いながら手で國崎の背中をバシバシと叩いた。
國崎「ッ、うっ、ぐっ……そ、そういうことやったらエエんやけど…。」
大汐「あの三戦目を観ていたものは、國崎くんを見直したことだろうな。《……むしろ、納得したものも居るだろうな…。》」
國崎「ハハァ…、ワイもあんな通り名で呼ばれたくないんよ。お稲荷様の怒りを買てまうわ。」
大汐「そうか、お稲荷様か。」
國崎「せやで。(面で顔を覆う)……似合っとるやろ?」
大汐「うむ!似合っているぞ!《……キミは、そのお面から何を見ているのだろうな…。》」
國崎「ふっ…、ホンマにお人は大型犬みたいやな?(面を外す)」
大汐「む、そうだろうか?」
國崎「おん、素直でエエとは思うけどな。」
大汐「素直か〜。自分は、素直なのだうか?」
國崎「素直じゃあらへんの?お人、人の在り方は闘い方にでるんやろ。……ワイ、あの突き技と対戦相手の攻撃を柄の部分を回しながら避ける姿。迷いがなくて好きやで。」
大汐「…… ……。(頬を搔く)」
國崎「ん、大汐はん??」
大汐「いや、なんだろうな。面と向かって褒められると反応に…困るぞ…。」
國崎「ぷっ!ハハァ…!お人、照れとるん!?」
大汐「か、からかうな!性格が悪いぞ、國崎くん!」
國崎「いやいや!ハハァ!エエもんが見れたわ〜。」
大汐「ぐっ…!不覚だ!!」
▼引き笑いになりながらも國崎は、遠慮のない笑い声をあげた。
大汐「……國崎くん。」
國崎「ハハッ、ハァ〜…ん、なんやー?」
大汐「キミは、強くなれる。自分が保証しよう。それで……」
國崎「すまんな、大汐はん。」
大汐「ッ、まだ何も言ってないぞっ!」
國崎「また誘う気やったんやろ〜?」
大汐「……はぁ、バレているのか…。」
國崎「ホンマにすまんな、断るには理由があんねん。むしろ、大汐はんが率いるとこなら過ごしやすいやろなー。けんど、あの三戦目みたいに、煽られて、冷静になれずに乗って叩きのめして…。ホンマの学生戦争で、そうなったら命取りやろ。」
大汐「國崎くん…。」
國崎「ワイ、かなり不安定な立場なんや。編入生なのに、一月の騒動に関わってしもたし。」
大汐「…… ……。」
國崎「せやから、今日の試験でくれた恩は大汐はんが卒業するまでには返すつもりや。」
大汐「そうか…。約束だぞ。」
國崎「おん、約束や。」
▼大汐が、拳を突き出す。國崎も応えるようにコツン…と拳を軽くぶつけた。
國崎:語り
「大汐はんのお陰で、ワイは進級権限を得た。」
(間)
◇東乱第一遊撃部隊サイド。
▼試験開始から一時間と三十分ほど。
風神が率いる東乱第一は、最終戦に出ていた。対戦チームは九人である。
語厘「うらっ!ら、り、る、れ、ろぉ!」
▼一人で三人を同時に相手している語厘。
木製のトゲがついたメリケンサック、踵と爪先に詰め物をした靴で相手をのしていく。殴り、蹴り、両方の拳を合わせて脳天を叩く。
圧倒的な動きと力に戦意を削がれるものが尻もちを着いていく。
羽梨「にぃ…、がんばれ…。」
語厘「おう。任せとけ」
▼語厘が、大剣使いの学徒と対峙し始めた時だ。
隊長の風神が『羽梨、逃げろ』と声を張った。
その声に語厘が反応し、相手の大剣使いが大きく剣を振り上げた隙に、顎を蹴りあげて気絶させ、羽梨のほうへと駆ける。
語厘「羽梨ッ!!」
羽梨「……にぃ……。」
語厘「テメェ!羽梨に手ぇ出すなぁ!!」
羽梨「羽梨の…、ジャマをしないでっ…」
▼語厘は跳躍する。
羽梨の前に立ちはだかっている相手の背中へと蹴りをくらわせようと跳んだのだ。
しかし、語厘の飛び蹴りは相手の背中に当たる前に相手が前のめりに倒れた。
語厘「ッ、わっとっとっ…!」
羽梨「……羽梨の、勝ち。」
語厘「アハハ〜、なんだよー。シビレ薬とネムリ薬、持ってたのかよー。」
羽梨「うん、間に合ってよかった…。」
▼今回の進級試験では、薬品を使用武器としている学徒に対して。
服や皮膚の溶けるような酸系の薬品は、使用禁止とされている。
なので、羽梨もルールにならってシビレ薬とネムリ薬を入れた小瓶。それを懐に忍ばせていたのだ。
語厘「本当だよ。ヒヤッとしたわ〜。(羽梨を撫でる)」
羽梨「うゆ…、ごめん、気を抜いてた…。」
語厘「たくっ、気をつけろよなー。……まあ、これで俺たち全勝だし。結果オーライだな。」
羽梨「…うん。すごいよ、さすが…にぃだね…。」
語厘「だろー?まあ、隊長さんの力もあるけどなー。」
羽梨「うん…、戦績からして…隊長さんって感じ…。」
語厘「だな。よーし、俺たちも隊長さんと休憩スペース行こうぜ。」
羽梨「うん、行く…。」
▼東乱第一の試合を観戦していた学徒は、異口同音に言うだろう。『敵に回すべき存在じゃない』と。
國崎M
《はぁ〜…、たまらんわ…。なんやねん、あのお人らの圧倒的な動きは…。個人技も、連携もたまったもんやないわ。仲間だとしても、信頼は出来へんな…。》
▼國崎は、爪を強くかじる。
かくして。進級試験は、無事に終わった。
だが、試験後も國崎に対して『狐面の死神』として噂するものは居るし。
一月の騒動を引きずるように陰口を叩くものも居る。それでも、騒動後の時間 経過により数を減らしていった。
(間)
▼時は戻って、二○八○年の四月。
つまり、國崎は進級試験での行いも影響し、どこの隊からもお誘いがかからなかったのだ。
指導担当の教官からも『配属が決まるまでは、敷地内の清掃を頼みます』といった投げやり具合。
──そして、そんな教官から頼まれた誤射の矢、薬莢の片付け。
そのさいちゅう、陰口に近い話し声に、苛立ちを隠せない國崎。怒りをぶつけられる竹箒が可哀想だ。
大汐「そこの新入生!」
学徒 壱「はっ、はいっ!!」
学徒 弐「はい!!」
大汐「こんなとこで、油を売っている時間があるなら室内稽古場へ向かいなさい!」
学徒 壱「了解ですっ!失礼しますっ!」
学徒 弐「し、失礼します!大汐特隊生!!」
▼背後から聞こえる声。
聞きなれたようで、聞きなれない呼称に國崎はついつい興味本位で振り向いた。
走って行く学徒たちを見送っていたのは大汐だった。
國崎M
《んー、あの学徒どこかで…。》
大汐「(ため息)……むむっ!そこにいるのは國崎くんじゃないか!」
國崎「《やっぱり、そうか…。》
……ハハァ、まいどー、大汐はん。」
大汐「元気そうだな!進級試験ぶりか!」
國崎「せやな。ちょうど一ヶ月ぶりやなー。」
大汐「して、なぜ倉庫の掃除をしているのだ?」
國崎「ああ、ワイ。結局、どこの隊にも所属しとらんのや。」
大汐「なんと!國崎くんほどの学徒を誘わんとは!」
國崎「まあ、試験中にやらかしたしなぁ?どっかで恨みを買っててもおかしくないわ。」
大汐「むむっ、実に勿体ないっ…!」
▼ドーベルマンのような身軽さと躍動のある走りで、駆け寄ってきた大汐。言葉を交わし合う二人は、とても打ち解けた雰囲気である。
國崎「……ん?お人、制服かわったん?」
大汐「うむ?おお、そうか。この制服で会うのは初めてだったな!……この金色の線が入った制服は上層生の証なのだ。」
國崎「んぇっ!?お人、いつの間に上層生なんかになったん!?」
大汐「うむ、進級と同時だ。だから、半月は経ったな。」
國崎「はぁ〜〜、そりゃあエラい出世やな。」
大汐「ハハッ!だが。自分も、まだ実感なくてな。まさか槍使いの特隊生として選ばれるとは思っていなかった。」
國崎「いやぁ、見とる人は見とるやなぁ。お人を選んだ人、エエ目しとるで。…知らんけど…。」
大汐「にしても、きみはどこに所属するのだろうな。」
國崎「ははぁ、ワイみたいな存在を必要とする隊なんてあらへんやろ。」
大汐「何を言うか、自分は今からでもきみを誘いたいくらいだぞ!」
國崎「何や、相変わらずワイを買うてくれるんか?」
大汐「もちろんだ!」
▼そんな他愛ない話をしている二人を、ほかの倉庫の陰から盗み見る学徒が居た。あの、揃いの灰色の髪をしている双子だ。
語厘「へー…『狐面の死神』ってあんな顔なんだな。」
羽梨「……整ってる…。なんで、お面つけるの、かな…。」
語厘「整ってるかー?羽梨、にぃのほうがカッコよくね。」
羽梨「……にぃは、他の人と比べる必要ない…。」
語厘「それ、褒めてんの?……つーか、お面つけるやつってさ。闘い方が大胆なやつに多くね?」
羽梨「……そう、かな…?」
語厘「しかも、刃物系の武器使ってるやつとか。」
羽梨「……つまり、血が目に入らないように防ぐため…?」
語厘「かもなー。でも、試験での動き見たけどアイツの闘い方はそうでもないんだよなー…。」
羽梨「……大胆さと、豪快さは隊長さんが上…。」
語厘「まあ、隊長さんは武器が武器だし。あの人、血を浴びて愉しむタイプだし。立ち回りがデカくなんのは自然だよ。」
羽梨「……そう、かもしれない…。」
語厘「てか、意外だな。『狐面の死神』って誰にも懐かないと思ってたわ。」
羽梨「……というより、相手が南義の人…。」
語厘「うーん、そうな。あの南義の人、隊長さんと似ててグイグイ来るし、嫌いになれないタイプだよなー。」
羽梨「…人望、ある。…だから、特隊生になれた…。」
語厘「スゲェよなー。所属してる隊の隊長を差し置いて特隊生だもんな。」
羽梨「……実力主義の黒ならでは…。」
語厘「ホント、それ。……つーか、俺らはいつまでしゃがんでればイイんだ?」
羽梨「……話が、終わるまで…。」
語厘「えー、長くなりそー。」
▼なんて、会話は國崎に丸聞こえである。
位置的に、瀬応の双子は大汐に見えない。
國崎M
《丸聞こえやで。いや、隠れとる意味やろ…。》
大汐「自分も、まさか隊長より先に、特隊生に選ばれるなんて思っていなかったさ。」
國崎「あ、せやから試験の日。ワイのこと誘ったんか?新しい部隊を作るって言うとったやろ。」
大汐「いや、実は言うとアレは自分が任されるはずだった班のことなんだ。」
國崎「ん?どういうことなん?」
大汐「進級後に南義は増員されてな、それに伴った班に分ける制度が実施されたんだ。
だから、自分はそこの班長になるはずだったんだ。」
國崎「あ~、せやけどフタ開けたら特隊生ですかー。」
大汐「ああ。実に驚いた。春の休暇中だったかな。昇級に関する手紙が届いてな。しかも、総司令長様の直筆だったぞ!」
國崎「へ~、それはエラい話やなぁ?《……あのおっちゃん、ホンマに偉い人なんやな…。》」
大汐「ああ!とても嬉しかった!だから、尚更。特隊生に選ばれた分、頑張ろうという気になった!」
▼キラキラとした純粋な瞳をしている大汐。
一応、大汐が先輩だが、國崎は子供っぽい彼に少しだけ複雑な心境である。そして、鳴りだす鐘の音。
大汐「む?もう、三つ時の鐘だな。國崎くん、また手合わせや昼でも一緒してくれ!」
國崎「おん、エエよー。」
大汐「約束だぞ!國崎くん!またな!」
國崎「ほなな、大汐はん~。」
▼遠ざかって行く大汐の背中を見えなくなるまで手を振って、見送った國崎。下げた手を、自身の腕を抓るように掴んだ。
國崎M
《……面倒見がエエし、集くんの代わりに…。なんて思とったけど…。大汐はん、純粋すぎるんやもんなぁ…。》
▼大汐と打ち解けはした。
だが、どことなく複雑な心境だったのは國崎を置いて、三月中に学園を去ってしまった國織集と存在を重ねていたからだった。大きくタメ息し、顔をあげる。
(間)
國崎「……で!いつまで、こそこそしてるん?」
▼倉庫の陰からの聞こえていた話し声が止む。
國崎「お人らに言うとんねん。えっと…、せや。瀬応の双子はん?」
▼少しだけ挑発するような口調で陰へと投げかける。
すると、次に気配を感じたのは大汐が走って行った渡り廊下側からだった。もちろん、すぐに反応をして振り向く。
國崎「今、たしかに後ろにおった気がしたんやけど…。」
語厘「へー…、さすがの反応速度だなァ!」
國崎「うぐっ!?」
羽梨「……ごめんね…。後ろは羽梨なの…。」
▼強めの力で下顎を鷲掴みにされる國崎。
驚きで息が詰まり、目の前に立ちはだかる語厘を睨んだ。背後を羽梨にとられ、挟みうちにされる。
語厘「ははっ、反抗的な視線もできんのな。……(小声で)羽梨に興味を持ってもらったからって調子乗んなよ?」
國崎M
《逆恨みか!?はなし!?はなしって誰やねんっ!つーか、喋れんし、どちゃくそ痛いっ!!》
羽梨「……にぃ、それじゃあ可哀想…。」
語厘「あー?別に何もしてねーよ。」
羽梨「…してる…。ケガさせちゃ、メッ……。」
語厘「チッ、はいはい。羽梨さまの仰せのままにぃー。」
▼かなり無気力な制止だが、語厘には効果的だったようだ。
あっさりと顎から拘束が解かれて、噎せる國崎。
國崎「ゲホッ、ゲホッ……!」
羽梨「……にぃが、ごめんね…?」
國崎「ホンマやで!お人、ちゃんと手綱は掴んどいてもらわんと困るわ!」
語厘「あぁ?誰が、羽梨と口きいていいって言った?」
國崎「なんやねん!そういう、お人は妹はんを縛りすぎとちゃいますの?!」
語厘「はんっ、噂で有名になったやつに威張られる筋合いはないね。あんな闘い方のくせによ。なぁにが、『狐面の死神』だよ。」
國崎「ワイのほうが勘弁願いたいわ!誰やねん!そない名前を吹聴しよったん!?」
語厘「知るかよ。俺に聞くなし。」
羽梨M
《語厘、イジワル…。本当は広めてるのは広報部の人たちって知ってるくせに…。》
國崎「はぁーー…、わかった。もう、お人らには関わらん。ワイは個人活動中なんや。あっち行け。」
▼國崎は心底、面倒くさいと言葉にしないだけで嫌悪感を剥き出しにし、瀬応の双子にシッシッ…と手を振った。
語厘「なんだよ。もう終わりか?」
國崎「はぁ?お人らが、勝手に絡んで来たんやろ。ワイは、元より真面目に活動しとったんや。」
▼竹箒の持ち手がひび割れている時点で、真面目というワードに説得力はない。だが、この双子と話している姿を見られれば指導員である教官から、どんな小言を食らうのか。
國崎は、それを想像しただけで心底ウンザリしてくるのだ。
羽梨「……あの、羽梨たちはキミに会いに来たの…。」
國崎「会いに?何でや。……ああ、もしかせんでも、噂を実証しに来たんか?せやったら残念やね。
ワイは、出回っとる噂とは違うで。」
語厘「おい、羽梨の理由をちゃんと聞けよ。そんな、つっけんどんな態度だから!ますます周囲に馴染めないんだろ!」
國崎「(長いタメ息)……あんなぁ、ワイはお人らと関わる気はあらへんねん!しかも、なんやねん。名乗りもせんで、突っかかって来よって!態度わるいんはどっちや!」
語厘「オメェ、同じ軍だから手ぇ出さないでいてやったってのに!」
羽梨「……ちょ、ちょっと…。」
國崎「あぁん!?ええ加減にせーよ!お人、いてこますぞ!」
羽梨「……ふ、二人ともな、仲良く…」
語厘「さっきから、ちょいちょい訛るのやめろっ!何言ってるか分かんねぇんだよ!!」
羽梨「むぅ!!やめてっ!!!!」
語厘「ッ、羽梨っ…」
國崎「っ…ハハァ…、お人、エラいデカい声だせるやん。」
羽梨「『狐面の死神』くん…。……いろいろ、不快な思いさせて、ゴメンなさい…。」
國崎「な、なんや素直に謝られると反応に困るで。…まあ、ワイも怒り散らして悪かったわ。」
▼どこか、バツの悪そうな表情しつつも羽梨からの謝罪に國崎も意気消沈というより怒りを鎮めていく。しかし、語厘は舌打ちをして完全に視線を逸らした。
國崎「で?お人らは、何しに会いに来たん?」
羽梨「あ、あのね…。羽梨たち……」
教官 弐「おーい!國崎学生っ!」
國崎「うん?この声は……ワイはココやでぇ!!」
羽梨「……うゆ…また、遮られちゃった……。」
語厘「ドンマイ。羽梨。」
▼離れたところから聞こえた呼び声。
國崎は、真っ先に反応して声を張り上げた。
教官 弐「お、居た。って、あれぇ?きみ達…。」
羽梨「……だれ?」
語厘「いや、知らん。」
羽梨「知らない…?」
語厘「うん、知らん。」
羽梨「……そっか…。」
▼歩み寄って来た軍服の教官は、瀬応の双子を見るなり不思議そうな表情をした。
國崎「まいどー、センセェ。なんの用ですかー?」
教官 弐「え、ああ。そうそう、國崎学生の配属先が決まったんだよ。だから、それの伝達にね。」
國崎「そうなん?わざわざ、どうもですー。」
語厘「端末を使えばいいのに。」
羽梨「……にぃ、それは言っちゃメッ…。」
語厘「へいへーい。」
教官 弐「ははっ、瀬応学生らの言うとおり。でも、こう言う話は本人に直接したくてね。だから、探しに来たんだ。」
▼瀬応の双子(特に兄による)の無礼な態度。
気位の高い教官が相手なら鉄拳制裁を食らってても文句は言えない。
だが、この年若い教官は優しい笑顔を浮かべたまま三人を見やった。
國崎「ほんで?ワイの配属先はどこですの?《……このさい、大汐はんの率いとる隊でもエエなぁ…。》」
教官 弐「ああ、それが…もう、國崎学生は会っているよ。」
國崎「会っとる?どういうことですの?」
教官 弐「うん、だから。その配属先の隊員は彼らなんだ。」
▼ね?と話を譲るかたちで瀬応の双子を見る教官。
國崎は、状況を理解するために一時停止した。
國崎「えっ…、えーっと…?」
語厘「ははっ、そういうことだ。俺は、瀬応語厘。兄な。」
羽梨「……羽梨。瀬応羽梨、です。にぃの妹…。」
教官 弐「ということ。彼らと隊長の風神学生、そして新隊員の國崎学生を含めた四人で今後は行動することになるよ。」
語厘「妹に手ぇ出したら容赦しないが、まあ、よろしくー。」
羽梨「……よろしく、ね…。ようこそ、東乱第一へ…。」
國崎「ハハァ…っ…く、國崎詩暮ですぅ…。」
▼悔し涙なのか、なんなのかはわからないがホロリ…と國崎の目元から涙が溢れたとか溢れてないとか。
こうして、やっと配属された部隊は東乱第一遊撃部隊だった。
この東乱に、國崎は正直いって、入りたくないと思っていた事実など誰も知らない。
(間)
國崎「んぁぁぁぁ、勘弁してぇ!!」
語厘「バシバシ、シバいてやっからな!」
羽梨「……仲良くが第一…。」
大汐M《気張れ、國崎くん!!》
▼今後、國崎がツッコミのし過ぎて過労により医務室の常連になる話は…また別の機会に…。
頑張れ、國崎詩暮。波乱が渦まく、学園生活は始まったばかりなのだから。
黒軍編・第四話⇒進む先、それは波乱の予感。
おしまい。
公開日→2019年12月17日(火)
あっ!とっ!がっ!きっ!!(⊙ヮ⊙)
だから、ネタバレあるよ!本編を読んだ方が目を通してね☆
はい、今作も閲覧もしくは上演してくださった方に感謝します!
無計画実行委員会 委員長(作者)の瀧月です!
ひと月半ぶりの更新となります。
お待たせしました!(待ってくれてる人なんているのだろうか…(震え声))
はい、ということで!
なんと!初登場から1年半の時を経て…瀬応の双子が再登場です!!(セリフらしいセリフはありませんでしたが、風神さんも出ました。)
まあ、初登場から羽梨は國崎くんと絡みがあったので…だいたい予想がついていた方はいたかと思います。
東乱第一への所属、決定!!
これで、國崎くんは2回目の部隊所属です。
いやぁ、どうなるんでしょうね(笑)
のらりくらりとした立ち振る舞いが國崎の処世術なので、流したような態度を許さないのが語厘です。特に妹の羽梨に対して。
ちなみに、キャラ名の発音ですけど。
「語厘」は「か・ た・ り・」です。
上がったり、下がったりもしません。
「羽梨」は「は↑なし→」です。
は だけ少し上がって、あとは流すような発音です。「話をする」とかの 話 とは別の発音です。細かっ…とは思わず、演者様同士、発音は統一でお願いします(>人<;)
んん、文字で発音を伝えるの難しい~!!
はい、ということで。あまり裏話らしい裏話はありませんでしたね(笑)
今作の後書きはここまで!
ありがとうございましたー!
お疲れさまです!またいずれ~(´ω`)ノシ
2019年12月17日(火) 瀧月 狩織より