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【自己解釈 学生戦争】三津ヶ谷学園物語。【声劇台本】  作者: 瀧月 狩織
三津学シリーズ メイン軸の台本
17/37

【六人用】赤軍編・第四話⇒決意、そして、その先に【台本 本編】

※この部分をコピペして、ライブ配信される枠のコメントや概要欄などに一般の人が、わかるようにお載せください。録画を残す際も同様にお願いします。



三津学シリーズ 赤の台本 四本目です。


【劇タイトル】赤軍編・第四話⇒決意、そして、その先へ。

(もしくは、赤の四話。または、三津学 劇る。というテロップ設定をして表示してくださいませ。)

【作者】瀧月 狩織

【台本】※このページのなろうリンクを貼ってください


赤の四話目です。

男声3:女声1:不問1:ナレ1の六人用です。


上演時間は 45分~50分程

※配役表、あらすじ、登場キャラクターの詳細などは前ページの『登場キャラなど』をご覧ください。


──────────────

【演者サマ 各位】

・台本内に出てくる表記について

キャラ名の手前に M や N がでてきます。

Mはマインド。心の声セリフです。 《 》←このカッコで囲われたセリフも心の声ですので、見逃さないで演じてください。

Nはナレーション。キャラになりきったままで、語りをどうぞ。


・ルビについて

キャラ名、読みづらい漢字、台本での特殊な読み方などは初出した場面から間隔をもって振り直しをしています。

場合によっては、振り直していないこともあります。

(キャラ名の読み方は、覚えしまうのが早いかと。)


それでは、本編 はじまります。

ようこそ、三津学の世界へ


──────────────

───────────


☆本編


▼一月某日に黒軍(くろぐん)蒼檄(そうげき)部隊から夜襲を受けた騒動から二ヶ月近くが経過した赤軍(あかぐん)

当時の負傷者は、赤軍(あかぐん)だけでも三〇人以上。死者も出るほどの一夜だった。

かの騒動は『一月の』、『一月の騒動』などと呼ばれ、二ヶ月も経てば負傷者も病棟を退院し、学園生活へと復帰していた。


(間)


~タイトルコール~


冴木「自己解釈(じこかいしゃく) 学生戦争(がくせいせんそう)


浅緋「三津(みつ)(がや)学園物語」


御子芝「赤軍(あかぐん)編・第四話」


小嵐「『決意、そして、その先に。』…なのネ~」


(間)


波月N「その夜は、めずらしく寮の私室に戻れる日だった」


▼二〇八〇年の三月中頃。

学園寮の中央・赤軍棟(あかぐんとう)の五階。そこが、赤軍の上層生たちが私生活の一部を過ごすフロアである。

ちなみに、上層生とは一般的な高等学校でいう生徒会みたいなものである。つまり、軍を代表する学徒たちの総称だ。


波月「ん……んん……んー、ダメだ……寝れない……」


▼難しめなタイトルばかりの本を並べた棚。

そんな棚に囲まれたシングルベッドの上で、その学徒─波月(はづき)遊羽(ゆうわ)はボヤいた。寝返りする度、掛け布団が衣擦(きぬず)れする音が静かな室内に響く。


波月「……今、何時だ……」


▼ベッドヘッドに置いてあるデジタル時計は、深夜二時を示していた。


波月「喉、渇いた…」


▼異様な喉の渇き。

なんとも言えない身体の重だるさに、溜め息を吐いてベッドから降りる。そして、勉強机の横に置いてある小型冷蔵庫を開けた。


波月「ん?あー、そうだった……補充してなかったか……」


▼寝起きの重たい瞳で、中身がガランとしている冷蔵庫を見つめた。独り言のとおり、中は小腹用に冷やしてある栄養ゼリー、プラスチックケースに入れた湿布類くらいだった。


波月「はぁ……しかたねぇな…エレベーターホールの自販機まで行くか……」


▼冷蔵庫をパタン…と閉めて、勉強イスに掛けてあったセーターを羽織(はお)り、部屋を出た。


(間)


▼少し時戻って同日の終業後、学園寮の三階。

学園寮の三階は、二人から四人部屋が集まるフロアである。

そんなフロアの比較的、エレベーターホールに近い部屋から賑やかな話し声が漏れていた。


浅緋「進級試験、突破おめでとうっすー!かんぱぁい!」


▼ハツラツとした声で、乾杯の音頭をとった金髪の学徒─浅緋(あさひ)頼威(らい)

室内には、第三救護室でお茶をするのが日課になった御子芝(みこしば)姫華(きっか)小嵐(シャオラン)波月(はづき)遊羽(ゆうわ)冴木(さえき)暁冬(あきと)と家主の浅緋が揃っていた。


小嵐「いやぁ、一時はどうなるかと思ったのネ〜」


波月「ははっ、よく言うぜ。余裕ぶっこいて、居眠りしてたくせによ」


浅緋「えぇ!小嵐ったら、眠ってたんすか!?」


御子芝「あら、高等部の試験ってそんなに余裕なものだったかしら?」


浅緋「余裕じゃないっすよ~!オレ、赤点とはいかないっすけど縫合(ほうごう)のデッサン問題、落としかけたっすよ!」


御子芝「縫合(ほうごう)とテーピングの巻き方なら教えてあげれるわよ。あたしの得意分野だし」


浅緋「ホントすか!じゃあ、お願いするっす~」


▼各々で持ち寄ったスナック菓子や飲み物を口にしながら、紙コップを両手で包み持つ小嵐(シャオラン)に言葉を投げかける三人。

そのやりとりを微笑(ほほえ)んで見守る冴木(さえき)


小嵐「いやぁ、大変だったのはミィじゃなくて班員の子なのネ〜」


波月「なんだよ、班員のことか。まあ、班長であるオマエが出来悪かったら(しめ)しになんないもんな?」


小嵐「ふふん!ミィはパーフェクトなのネ!」


御子芝「でも、進級できない班員が出ちゃうと困るわよね。」


小嵐「そうなのネー。試験を突破できない子を後輩扱いすべきか、同期扱いすべきか〜、うーん、ミィは三班の心配事が多くなくて羨ましいのネ~」


▼小嵐は愚痴をもらしたあと、ポッポッ…とクッキーにチョコがかかったお菓子を三本まとめて、口に頬張った。その横で、浅緋(あさひ)もスナック菓子を食べている。


波月「何言ってんだよ。こっちだって問題、大アリなんだよ。なぁ?浅緋(あさひ)


浅緋「ん!ひょおっすへっ!(口の中いっぱい)」


波月「……口の中のもの、飲み込んでから喋れよ」


御子芝「今のは、遊羽くんのタイミングが悪かったと思うわよ?」


小嵐「もぐもぐタイムなのネ〜。」


波月「俺のせいかよ」


浅緋「(ゴクッ)……いいんすよ!姫華(きっか)センパイ!遊羽(ゆうわ)さんの言うとおり三班もそこそこ大変なんすよ〜?オレと遊羽さんの二人っすから!」


波月「そうそう。あー、進級後は二人か一人くらいは増員してーな」


御子芝「それ、気になってたのよ。なんで、三班は二人だけなの?」


波月「あー、それは……」


冴木「ふふっ……」


波月「あ?暁冬、なんで笑ったんだよ」


冴木「い、いえ!なんでもないですよ!」


波月「白状しろ。どこが、笑いどころだった!」


▼あからさまに不機嫌になった波月。

冴木は、頬を引っ張られて困った顔になる。すぐに手が離され、ヒリヒリとする頬を擦りながら御子芝へと向き直った。


冴木「いてて……、あ、すみません。御子芝さん」


御子芝「良いわよ。あなたたちのじゃれ合いは嫌いじゃないわ」


小嵐「仲良しさんなのは、微笑ましいのネ〜」


御子柴「……それで?なんで、三班は二人だけなの?」


波月「いや、それはさ」


小嵐「ゆうちんが、恐いからなのネ〜」


波月「オマエっ、リィ!余計なことを…!」


御子芝「あら、そうなの?」


小嵐「うむうむ。事実ヨ。それと、だいたいの要因は、ゆうちんが班員に求める技量が高すぎて、ついていける子が居なくなっちゃった結果なのネ〜」


波月「(舌打ち)…別に、必要最低限のレベルなつもりだったんだよ」


冴木「波月くんは、(さと)でも優秀でしたから。それが、常識だと思ってしまうのも仕方ない話です」


御子芝「でも、優秀だったからこそ二年の進級前に班長の職を受け継いだのよね?」


波月「おう。元々は、三班も一五人くらい班員が居た」


▼紙コップへなみなみに注がれている乳酸菌飲料が揺らめく。


波月「一六期生の先輩たちが卒業して。俺が班長に昇級後で体制が変わるだろ。俺の考えと食い違うやつが多くて、ダメだった。今でも言い方が悪かったかなって思うんだ。……辞めたきゃ、辞めろって何様だって話だよな?」


▼自嘲気味に波月は目を細めた。

その言葉をフォローするように、浅緋が食いつく。


浅緋「でも、でも!オレは、遊羽さんの判断は正しかったと今でも思うっすよ!!」


波月「ははっ、それは残ってくれたオマエだから言えることなんだよ。……今期のさ。一月の奇襲戦。あん時も、連絡遅延が起こったのは一班に、元三班だった学徒が多いからなんだよ」


御子芝「そんな……。それって、逆恨みよね?そんなことしてて、救えるはずの命が救えなかったって考えたら……」


浅緋「うっす。オレ、すっごくムカつくし、頭痛いんす!」


小嵐「でも〜、来期からはそうもいかないのネ。ゆうちんが[総長]になれた。これで、逆らえる救護班の学徒はいないのネ」


冴木「えぇ、そうです。波月くん。キミはすっごく気に病み続けてますけど、外の。……前線で活躍すべき人材なら波月くんレベルの能力は必要だと思っています」


御子芝「たしかに。上層生(じょうそうせい)、ましてや副班長にもなれない学徒が、卒業した後に前線で活躍できるとは思えないわね」


浅緋「そっすよ!遊羽さん!オレたち、見返してやろっす!」


波月「………ぷっ…、あははは!」


▼この場には、波月の味方ばかりだ。

才あるものはぶつかり合うこともあれば、認め合う仲となる。

吹き出し笑った波月は何か吹っ切れたようで晴れた顔し、皆、釣られ笑い。場の空気も明るくなった。


小嵐「そういえば、ミィも気になることあるのネ!」


波月「あ、なんだ?」


冴木「何でしょうか」


浅緋「姫華(きっか)センパイ、これ美味しいっすよ~」


御子芝「あら、ありがとう。頂くわ」


波月「それ、リィが作ったやつだぜ」


御子芝「そうなの?李さんって器用なのね」


浅緋「かわいいデザインっす。食べるのが勿体ないくらい!」


御子芝「ん……(食べる)…本当ね。美味しいわ。ほろっとした食感なのに、ほんのりとした甘みが絶妙ね」


浅緋「こっちの茶色のやつもオススメっす!」


波月「あんまり、食いすぎんなよ?」


小嵐「お菓子の売れ行きは上々なのネ~。あ、そう!あきちんと言えば、特隊生(とくたいせい)ネ!」


冴木「ええ、そうですね。それが?」


小嵐「サポート派の特隊生は、だいたい持ち上がりなのは知ってるネ。けど、あきちんのように攻撃派はどうやって上がるのネ?進級試験ってあるのネ?」


冴木「ええ。もちろん、ありますよ。じゃないと、下位の学徒さんに恨まれちゃいますよ」


浅緋「おー!やっぱ、あるんすね!……言われてみれば、どんなのか知らなかったっす!ねっ、遊羽さん。姫華センパイ。」


波月「俺も知らん。気になるっちゃ気になる」


御子芝「冴木くん、それって話していいことなの?」


冴木「ええ、別に問題はないですよ。ただ、攻撃派の特隊生は僕も例外じゃないですけど……我が強いので……(頬をかく)」


波月「あー、そうだな。アイツら、マジで癖強いよな」


浅緋「遊羽さんがそれ、言うんすか?」


波月「おい、どういう意味だ」


浅緋「わー!顔、顔が怖いっす!調子に乗ったっす~!」


小嵐「それで、どうなのネ〜?」


▼御子芝と小嵐(シャオラン)から期待大と言わんばかりの眼差しを受けた冴木。紙コップに注がれているオレンジジュースを飲みきり、言葉を滑らせる。


冴木「うーんと、今年の進級試験は勝ち抜き戦でした」


御子芝「あら、去年は違ったの?」


冴木「いえ、違うと言っても形式が違うだけですね。チーム戦なのか、個人戦なのか。今年は、一月の騒動もあって何かとバタついてましたし。……僕は、寝たりきりでしたし」


▼冴木の言葉に、救護班の面々は口を閉ざした。


冴木M《僕、これ、完全にまずったこと言いましたね…。》


冴木「……あー、えっと!だからって僕だって負け続けたりしません!今年は、特隊生同士の個人戦だったんです。武器もスタイルも各々で違いますし。一〇戦の間で六戦、勝ちをとれば進級権限の獲得だったんですよ!」


▼ほら、変わってるでしょ。

そう伝えたげに黙ってしまった救護班の面々へと言葉を投げかけた冴木。誰かが、長いタメ息を吐き出した。


波月「ホント、脳筋の集まりだよ」


御子芝「ほんとに武力で競うのね。さすがは攻撃派」


小嵐「なのネ!薬膳(やくぜん)の調合なら勝てる気がするのネ~。ミィは、戦闘を見てるほうが好きなのネ!」


波月「俺は、別に参戦も観戦もしたくないな」


御子芝「あら、どうして?」


波月「こう、(かた)にはまった攻撃ばっか見てると邪魔したくなるんだよ」


冴木「さすが、流派なんて無視の波月くんですね」


波月「堅苦しいのなんて守ってられるかよ。勝てりゃいいだろ?勝てりゃさ」


御子芝「もう、そういうとこ。攻撃派の人たちと同じニオイよね、遊羽(ゆうわ)くんって」


冴木「本当に。傷の手当くらいに繊細な戦い方を学んでほしいですね」


波月「あ?おい、暁冬。今夜は、ヤケに毒吐くな?」


冴木「おや、そうでしょうか?」


波月「オマエっ。そうやって、つっかかってきてーー」


浅緋「あーっと!でもでも、オレは参戦してみたいっす!特隊生さんの中で[銃器の]の方が居るじゃないっすか!」


冴木「えっと、あー、はい。デュレントくん、ですね」


浅緋「そう!その学徒さんっす!遊羽さんと変わらないような体格なのに華麗に銃器を使いこなす姿!オレ、すっごく憧れるんすよ~!」


波月M《……浅緋のヤロー。さらっと俺が小せぇって言いやがったな?》


御子芝「デュレント?」


冴木「ええ。デュレント・ヴィオラ・メーテ=ヒライくんです。学年は僕と波月くんと同じ二年生。名前にあるヒライはデュレントくんの血縁にニホンの方が居るそうなんです」


御子芝「へー、めずらしいわね。この学園で、そこまでしっかりとした英名の人って」


浅緋「言われてみれば、そうっすね!まあ、オレは英名とか持ってないっすけど」


小嵐「ん?らいちん、そんな見た目なのにないのネ?」


浅緋「オレ、前から話してるっすけど。ニホンで生まれて育ってるっすから。ただ血縁に異国の血が混じってるだけっす」


波月「だから、陰口ダイスキな奴らからは『異国モドキ』とか呼ばれんだよな?」


浅緋「それ、かなりの風評被害っすよ。言い出した人を見つけたら、苦い薬を飲ましてやるっす!」


御子芝「報復の仕方が救護班らしいわね。」


冴木「ふふっ、ですね」


小嵐「そのときは、ミィにおまかせなのネ~」


御子芝「いいわね。あたしも、誰かに報復するときは李さんを頼ろうかしら」


浅緋「うっす!頼りにしてるっすよ、小嵐!」


冴木「おふたりさん、程々にしてくださいよー?」


▼浅緋のやる気満々な発言にドッ…!と笑い声が上がった。

この飲み会は終始、笑い声に包まれて小嵐の大きなアクビが伝染し、お開きとなったのだった。


(間)


▼時間は戻る。

眠たい気分を引きずった状態で、廊下へと出た波月。消灯後というのもあり、非常灯の緑っぽい明かりが広がっている。

ガコンッ…と自販機の取り出し口へと落ちるペットボトル飲料。


波月M《持ち込みで、打ち上げしたことを忘れてたのが悪い。そう、夜中に買い物するはめになったのは、自己責任》


▼消灯後の学園内にある自販機は金額が倍になるように設定されている。

この設定は夜遊び防止の対策である。学園生活が三年目になろうとしている波月にとって常識なため、自身に言い聞かせるように自販機の取り出し口へと手を突っ込む。

[ほっとひと息。ぬる~いほうじ茶]を購入した。

これで、目標は達成。部屋に戻れば、一服(いっぷく)して眠るだけである。


波月M《うん?誰か、他に起きて……》


▼暗がりに慣れた視界で長い廊下を凝視する。静まり返っているし、向かい合うように並んでいる私室の扉たち。しかし、微かに奥へと進んでいく足音が聞こえるのだ。


波月M《誰が起きてるのか?気になるな……、護身用のナイフもあるし、探ってみるか……》


▼一服したところで、寝付ける気がしないのか。

波月は寝間着(ねまき)のポケットに、人を脅すくらいなら充分なサイズのナイフが入っていることを確認し、歩き出す。


(間)


▼同時刻。お疲れ様会を終えたお茶会組は、パーティーの片付けを済ませた浅緋の寮部屋に居着いていた。

二段ベッドの上段に御子柴(みこしば)、下段に浅緋(あさひ)

向かい合うように設置された一人用のベッドには小嵐(シャオラン)。ムクッ…、布団から起き上がり、懐中電灯を傍に置いた小嵐が口を開く。


小嵐「らいちん、姫華(きっか)たん、起きてるのネ?」


御子柴「あたしは、起きてるわよ」


浅緋「ん〜…?どうしたんすかぁ、ヒャオラァン……」


小嵐「あー、らいちん、ごめんなのネ〜」


浅緋「(アクビして)いいっすよぉ、ちょうど喉かわいてたんで……」


▼家主の浅緋を起こしてしまったことに申し訳なさを感じつつも、機敏に小型冷蔵庫からペットボトルのウーロン茶をコップに注いで浅緋に手渡す小嵐。『どうもっす』と受け取った。


小嵐「いやぁ〜、まさかお泊まりできるとは思わなかったのネ〜」


御子柴「無理言って、ごめんなさいね浅緋くん」


浅緋「(お茶ごくごく)ぷはぁ……、あっ、大丈夫っすよー!ベッドは余ってるんで!」


小嵐「でも、この部屋は三人部屋ネ。他の人はどうしたのネ?帰ってこないのネ?」


浅緋「その心配も無用っす。同部屋だった人は卒業しちゃったすから」


御子柴「じゃあ、次の人が入るまで一人なの?」


浅緋「そうっすね。もしかすると、進級前に部屋の移動があるかもっすけど」


小嵐「お部屋の移動は大変だと聞くヨ!ミィは、一人部屋だから無縁なのネ〜」


浅緋「オレ、他の人がどんな部屋で寝泊まりしてるのか気になってたんす!教えてくださいっす!」


御子柴「あら、いいわね。さっきから寝付ける気がしなかったから話しましょうよ」


小嵐「楽しいことのあとは、頭が冴えちゃうのネ〜」


浅緋「んじゃあ、オレからっすね!オレの部屋は、見てのとおり三人部屋っす。作りは四人部屋と変わらないみたいっすね。四人部屋だと、小嵐が寝てるベッドの位置に二段ベッドが来るんす」


御子柴「じゃあ、あのカーテンの仕切りは?」


浅緋「あそこは、勉強用の学習机が人数分。あとは、各自の着替えとかが入れてあるタンス置き場っすね」


御子柴「なるほどね。人数が多いと個人で使える場所も限られるのわけね」


小嵐「貴重品は、どうやって管理するのネ?プライベートな事とか大変じゃないのネ?」


浅緋「たしかに、大変なこともあるっすね……」


御子柴「例えば?」


浅緋「えっ、あー……えっと、同室の人がお付き合いしてる人と会うのに、部屋を使われた時とか……?」


小嵐「密会に鉢合わせは、キツイのネ〜」


御子柴「そうかしら。あたし、自分には関係ないって割り切れば気にならないわ」


小嵐「姫華(きっか)たん、つよつよなのネ〜」


浅緋「気まずいのは、それだけじゃないんすよ!そのお付き合いしてる人たちが、会うのはいいと思うっす。けど、えっと……その……姫華センパイには言っちゃダメなこととか……」


御子柴「なんか、察したわ」


浅緋「ごめんなさいっす…」


▼若干、気まずい空気が流れる。

赤面して浅緋が濁したのは、所謂(いわゆる)シモな話なわけで。知識に個人差あれど年頃の健康優良児(?)な男子学徒であることを忘れてはいけない。


浅緋「あ、えっと!貴重品!貴重品は、上手い具合に隠してるんすよ!オレの上段で生活してた先輩なんてベッドのマットレスを私用に替えてて、そのマットレスの一部に隠し穴を作ってたくらいっす!」


小嵐「《助け舟は、いらなかったみたいネ》

……それは、凄い技術なのネ〜。大部屋暮らしに慣れてないとできない技ヨ!」


御子柴「()さん、大部屋暮らしの経験は?」


小嵐「あいにくと、ないのネ〜。一年生の前期はさすがに相部屋だったヨ。けど、後期からは一人部屋に移って、そのあとは五階暮しなのネ〜」


浅緋「憧れの五階での暮らし!」


御子柴「かなり自由度の高い生活ができるって聞いてるわ」


小嵐「たしかに、自由度は高いのネ。でも、部屋の広さは同じヨ。広さが同じだけど床を畳にしたり、シャワー室を設けたり、キッチンスペースをつけてる人もいるのネ〜」


浅緋「キッチンスペース!?そ、それは凄いっす!」


御子柴「あ〜、何だか納得したわ。だから、寮の朝食時間になっても降りて来ない上層生が居るのね」


浅緋「なるほど、なるほど」


小嵐「あきちんが、上層生は我が強いって言ってたのはそこにも起因するのネ〜」


御子柴「食生活の管理は、自身で行う。素敵なことね」


浅緋「寮のビュフェ形式も好きっすけど。誰かが、誰かのためだけに作った手料理は捨てがたいものがあるっすよ〜」


小嵐「ああ、ちなみに」


御子柴「ん?何かしら」


浅緋「なんすか〜?」


小嵐「キッチンスペースも、シャワー室を設けたのもミィの部屋の話なのネ」


御子柴「あら、当事者だったわけね」


浅緋「なんと!ぜひ、遊びに行きたいっす!」


御子柴「浅緋くん、ムリよ。五階は入室制限があるもの」


浅緋「そうっすよねぇ〜……(肩ガックシ)」


小嵐「お泊まりはさすがに無理ヨ。けど、当日のみの訪問なら問題ないのネ〜。あ、これ招待コード送ったヨ」


御子柴「あら、準備がいいのね」


浅緋「招待コードって、発行の手続きが難しいって聞いてるのに!嬉しいっす!」


小嵐「実は、仲良くなった人をお誘いしてみたかったのヨ」


浅緋「仲良くなった認定まで!なんだか、嬉しいことずくめっす!夢じゃないっすよね〜?」


御子柴「これが夢だったら、そうとうよ」


浅緋「えへへ、そうっすよね〜!」


御子柴「()さんの手料理、楽しみにしてるわ」


小嵐「カラダにいいものを、たくさん振る舞うヨ!胃の中を空っぽにしてくるべしネ!」


小嵐M《勇気を出してみるものネ。この二人に喜んでもらえて、ミィも嬉しいヨ》


▼ゴロンゴロン…ベッドの上を転がる浅緋。少しだけベッドが悲鳴をあげている。終始、(なご)やかに夜が()けていった。


(間)


波月(はづき)が聞きとった足音は、避難用の外階段に向かっているようだった。


波月M《外階段…?たしか、上に登りきったら、特隊生の登尾(とび)が趣味で世話してる菜園があったはずだな……》


▼学園寮は、三部軍(さんぶぐん)それぞれに屋上スペースがあり自由に使用できる。その為、赤ではベンチが何脚かあり、自販機を三台並べたスペース。残りのスペースをレンガの大きな囲いで造られた菜園となっていた。


波月M《あ、今。完全に外に出たな。誰なんだ?ホント》


▼追っている相手が、あまり絡みのない学徒なら姿を確認したあとに戻る予定なのだろう。

波月も、閉まったばかりの鉄製の扉を力込めて押し開く。今すぐに手を離せば、大きな音を立てて閉まってしまう。

しかし、一応は尾行だ。慎重に、扉を閉めて顔を上げる。


波月M《風が強いな…。つーか、あの後ろ姿……》


▼見上げた先には、波月が見慣れた学徒の後ろ姿だった。

風が強いものの、煌々と照る月と壁に取り付けられた外灯。

それらに、闇へと浮き出すように見えるのは青髪と赤いパーカーを着ている長身の学徒。


波月M《間違いない。青髪は、他に何人かいる。でも、あそこまで光にキラキラする地毛の青さ……暁冬(あきと)だ……》


▼波月は、当初の目的をどっかに放る。セーターのポケットにペットボトルを押し込んで、これもまた扉と揃いの鉄製の階段と手すりを慎重に登る。


波月M《あと数段で、登りきるな。それにしても、気づかなすぎじゃないか?》


▼とても(いぶか)しんだ。尾行している相手の後ろ姿だけでも分かるのだろう。

相手の意識は、半分近くが上の空だ。


波月M《ここは、()えて声をかけるべきだよな》


▼季節柄の、冷えた空気を吸い込んで声を漏らすとともに手を三段上の冴木の背中へと伸ばす。


波月「……おい、こんな夜更けに不用心だ、なッッ、危ねぇ…。……ははっ、ビビったわ」


▼無言で振り下ろされた銀の輝き。

後屈し、何とか斬撃を()ける波月。手すり側へと避けてしまって、バランスも崩れたし、右足なんて一段下がった所で踏み留めている状態だ。


冴木「波月、くん…?」


波月「おう。何やってんだ暁冬。つーか、ちゃんと言いつけ通りに短刀だけでも所持してたな」


冴木「すみませんっ、怪我してないですか?!」


波月「平気だよ。ちゃんと、()けたのを見てたろ?」


冴木「ですがっ…」


波月「マジで平気だって。《……殺意を引っ込めんの早いな。攻撃派の特隊生ってオンオフの切り替えが上手いよな…。……人格解離、なんてな。暁冬あきとの場合は、昔からだったわ……》」


冴木「えっと…、波月くん。なんで尾行みたいなことを?」


波月「尾行みたい、じゃなくて。尾行してたんだよ」


冴木「こんな夜更けにですか?」


波月「おう、こんな夜更けにな」


冴木「なんで、そんなことを……」


波月「別に。こんな夜更けに出歩く奴が俺の他に居たのかって思ったんだよ。だから、後つけた」


冴木「えっと…。波月くんは、眠れなかったんですか?」


波月「おう。そうだよ」


冴木「そうですか……」


波月M《暁冬め。俺が素直に認めたから、答えに詰まったか》


冴木「あ、すみません。その体勢、ツライですよね。手、貸しますよ」


波月「おう。さんきゅ。……ここで立ち話すんのもなんだし。登りきろうや」


冴木「ええ、そうですね」


▼起こされる瞬間だけ、感じた手の熱さ。

だが、すぐに離れる。

波月は冷えていた自身の手に残った熱に吐息を吹きかけて、なくならないようにさすった。



(間)


──その頃の、お泊まり会になっていた三人は?


浅緋「んっ…、ぐぅー……スピー……」


小嵐「おや、らいちん寝ちゃったのネ〜」


御子柴「ちょっと、すぐそこにベッドあるのに床で寝落ちるなんてっ…」


小嵐「これから冷えるのネ〜。掛け布団くらいは掛けてあげるヨ〜」


御子柴「……()さんって、面倒見いいわよね」


小嵐「ん?突然、どうしたネ〜」


御子柴「なんだかんだ班員さんたちを気にかけるし、お茶やお料理……(はり)の扱いも上手いし、こうやって他班の人とも楽しそうに過ごしてる」


小嵐「姫華(きっか)たん?」


御子芝「あの、変に思わないでほしいの。でも、ちょっとだけ、聞いてくれる?」


▼小嵐は、ニコッと笑う。御子芝も恐る恐ると口を開いて言葉を並べる。


御子柴「……アタシ、変われたの。

冴木さえきくんや、他の被害にあった学徒には申し訳ないけど、『一月の騒動』をきっかけに変われたの。

元々ね。他の補佐生からは、冷たいとか何考えてんのか分かんないとか言われてて、距離も置かれて、すっごく、人が嫌いだったの。


人嫌いしてるなかで、騒動のバタバタとか重なってますます、イライラした。そのイライラを補佐生の資格もなかった波月くんにぶつけたわ。まあ、怒りをぶつけたら都築軍医つづきせんせいに叱られて、なんで歳下のアイツを擁護ようごするのよ!って理不尽な怒りを覚えたの。けど、時間が経ったら考えがまとまってね。第三のことを調べてみたら、尚更、知りたくなったの。


毛嫌いしてないで、踏み出してみるべきだったんだって。素直になれば、いい事づくめね。

今なんて、浅緋あさひくんとさんとはお茶できる仲になれたし。


……それから視野が広がった気がするの、苦手なこともできるようになって、軍医(せんせい)たちにも褒められることが増えたの。やったじゃない、アタシって前向きに考えることも増えて……」


小嵐「人間関係は、傷つくことが当たり前ネ。けど、その分でやしなえることもたくさんあるヨ。本当は、ミィも余計な付き合いはしたくなかったのネ」


小嵐「李さんも……?」


小嵐「ミィも、ゆうちんとあきちん、らいちんを見てたら変わったのネ。だって、あの二人は見てて飽きないネ。しかも、今期の四月にはらいちんも現れて、ワクワクすることが増えたヨ。これは、ず・ば・り」


御子柴「ずばり?」


小嵐「恐れることはない。どれだけ関わりのない人から嫌なことを言われても。関わりのあるミィは姫華(きっか)たんを気に入ってるヨ」


御子柴「(小さく笑う)そうね、ありがとう李さん」


小嵐「ん〜、別になのネ〜」


浅緋M《良かったっすね小嵐(シャオラン)姫華(きっか)センパイ。おふたりは、もう独りじゃないっすよ…》


▼実は、眠りから覚めていた浅緋。

たぬき寝入りだとバレない程度に呼吸をし、目をつぶり続けることで話に聞き耳を立てていた。そうして、胸の中で二人の変化を祝福したのだった。


(間)



▼屋上へとあがって、波月と冴木はベンチに肩を並べて座る。

何を話すわけでもなく。ただ沈黙して空を見たり、手遊びをしたりして、寝つけない気分を夜風に(さら)す。


波月M《…だいぶ、身体も冷えてきたな。…いつもなら、怪我人(けがにん)が身体を冷やすなって言いたいとこだが……俺も、俺で連れ立ったし、共犯か》


▼元々ぬるかったペットボトルの中身は冷えきっている。


波月「なあ、暁冬」


冴木「あの、波月くん」


▼ほぼ同時だった。

お互いに、(まばた)きして控えめに笑う。


冴木「完全に、合いましたね」


波月「だな」


冴木「それで。波月くんは、何を言おうと?」


波月「いや、俺はそろそろ戻ろうかーって言いたかっただけだ」


冴木「あー……そうですよね」


波月「オマエは?」


冴木「えっと、僕は……」


波月「何か、言うつもりだったんだろ」


冴木「それも、そうですけど……」


波月「ほら、早くしろって」


▼冴木は、何かを言い(よど)む。

考えるような視線を空に向けて、目を細めた。

波月は、薄着で来たことを後悔した。セーターの袖の中に手を入れて少しでも暖をとり、言葉を待つ。その横顔を静かに見つめる。


波月M《寒くなってきたから、早くして欲しいな……》


冴木「……四月で、最後ですね」


波月「ん?何がだよ」


冴木「僕は、高等部の学科を修了したら本土に戻ります」


波月「はっ(笑)……それは、俺もそうするつもりだぜ?」


冴木「……だいたいの学徒は高等部で学園やこの島を去りますよね。僕だって、残るつもりはないです」


波月「だから、それがどうしたんだよ。まだ始まってもない来期や進路を決めてんのか?」


冴木「……波月くん。僕は、きみを頼るのをやめようと思います」


波月「はっ…?えっ、おい、何なんだよ。いきなり」


冴木「すみません。本当は、ずっと前から考えていました。でも、自分の無力さに一月の騒動で思い知らされて……」


波月「おい、暁冬!《俺を頼るのをやめる?暁冬が?泣き虫で、弱っちい暁冬が?》……今後はどうすんだよ!」


▼力を込めた両手で冴木の肩を掴む波月。

冴木とは、視線が合わない。どこか遠くを見ているようだ。


冴木「…なるべく。怪我をしないようにします。武器だって持ち歩きますし、波月くんや浅緋くんに迷惑がかからないようにします」


波月「それが、オマエの目標とする強さなのか!?」


冴木「そうです。キミに頼ってる場合じゃない。強さは孤独です。自身の強さがなければ、見つからない…!」


波月「オマエっ、見つからないって……まさか!まだ諦めてなかったのかよ!叔父さんが言っていただろ!?復讐に燃えても、強くなれないって!復讐を果たしたとしても、残るのは虚しさだって!」


冴木「正也医師(まさなりせんせい)の言うことは(もっと)もだとは思います!けど…、けどっ!諦められないっ!!僕が、本当に無力だった!!あの日のこと!!……忘れるわけがない……」


▼弱々しく言葉を絞り出した冴木。

その姿を見て、波月はひどく困惑し。眉間に深いシワを寄せて、奥歯を噛みしめた。


冴木「いえ、忘れないように繰り返してしまう…。《夕暮れ時、血の匂い、薄暗い室内、静まり返った家の中。父さん、母さん、晴登(はると)冬香(とうか)…。お師匠や村の人達……》……あの日、みんな、僕が殺したようなものです……」


▼波月は、冴木の告白に言葉を失う。

自分と温度差の違う過去の話。安易な、ありきたりなセリフなど響くどころか、安くなるだけだと分かってしまう。


波月M《クソッ、俺は何も言ってやれない……。

暁冬、暁冬…。なんで、そんなに追い詰めるんだ…?

オマエは、自責の念で食い潰されたいのか…?オマエが、[家族]を奪われた日。…奪った相手は、軍の関係者なのか。それを装った単なる手練のもの、なのか。……オマエは頑張っている。学園にやってきたのも、何かしらの情報を掴めるかもしれないって理由からだってこも知ってた……。新しい傷をこさえても、一月の騒動の怪我からも這い上がってみせた……》


冴木「僕は、強くなりたい。この学園では、一人も殺しません。僕がこの短刀やあの太刀。父さんが遺してくださった刃で、肉を突き破る相手は決めています。……『不殺(ふさつ)は本当に、人の殺せない奴』と揶揄(からか)いうけても、です」


波月「《ああ、オマエが遠い。遠いよ、暁冬。》

……叔父さんに聞いてた。オマエの過去のこと。聞いてたけどよ。なんで、諦めて(さと)の奴らのために生きてくれないんだ」


冴木「知ってて、黙っててくれたんですね。……波月くんは、優しい人です」


▼両手を合わせて、握り込む。

額を押し付けて、顔を俯かせた波月。

気心知れた仲のはずだ。しかし、心の深い部分には踏み込ませないとする事があるのだろう。


波月「オマエにとって、俺の両親や叔父さん。……俺の存在は家族じゃなかったのか?簡単に切り捨てられる仲なのか?」


冴木「……切り捨てるとかじゃないです。みなさんには、感謝しきれないものを貰ってます。血より深い縁ってものを。……ケジメだと分かってください」


波月「だからってさぁ…、急すぎんだろ……」


▼手で覆っていた顔を上へと向けて、何かを堪える波月。


冴木「すいません」


▼冴木から漏らされた謝罪なのか、それとも別の意味なのか。その一言に、強く照りつける夕焼けを宿したような瞳をしている波月。その瞳が、ゆっくりと閉じられる。


波月「暁冬……、春の休暇は一度、(さと)に戻るぞ……」


冴木「…はい」


波月「オマエが、ケジメだって言うなら。俺も、休暇が終わるまでの間に腹決める……」


冴木「はい。……無理を言って、すいません」


波月「今更だよ、アホ。バカ。……これで、最後だ。頼むから、無理だけはすんな」


冴木「ええ。……ありがとうございます、遊羽(ゆうわ)


▼まだ寒さの残る三月の中頃。

東の空が、うっすらと白い光を広げていく。

ベンチに肩を並べている二人は、暖を分け合うように手を繋ぎ、水玉模様が足下を濡らした。


(間)


▼三月も締めの週。

総司令長の書いた祝辞を補佐官が代読。

三部軍の上層生たちが各軍の象徴である旗へと敬礼した。

そんな、(おごそ)かな式が終わった。終わるや否や、冴木と波月はキャリーバッグを転がして島の港へと走っている。



◇妖島・船乗り場


波月「暁冬あきと!あの船だ!あの船を逃したら、六時間は来ないからな!」


冴木「待って、ください!キミの荷物、重すぎません!?」


波月「そういう、オマエの荷物が少なすぎるんだよ!船内は暇だぞ!」


▼寮から出発する時。

ジャンケンで荷物を交換する遊びをすることにした二人。

まんまと手狡(てずる)い策にハマって波月の重い荷物を持つことになった冴木。しかし、さすがは攻撃派の特隊生。体幹にブレがない。


波月「すみません!在校生、二名!乗船(じょうせん)します!」


▼荷物を乗せる係の船員へと学園支給の端末を見せる波月。

船員がコードを読み込む機械を取り出して、読み込んだ瞬間に乗船の許可が()りる。

乗り遅れると慌てて、走ったものの。実際、出航まで二〇分は余裕があったようだ。港も、話し声などで賑わっている。

今日ばかりは、本土へ帰るものが多い。その為、学園から六つの沖にそれぞれ向かってくれる船が用意された。

二人が乗るのは紫色のラインが入った船体だ。


冴木「あの、この荷物は重めなので」


▼冴木は待機している船員へと気遣う発言をしてキャリーバッグを渡した。冴木のは小旅用。比べて、波月のは長旅用である。

二人は甲板(かんぱん)へと立って、潮風の音を聞く。


波月「ほら、暁冬。乗船許可証がこれな」


冴木「ふむふむ。このアプリから一覧で見られるんですね」


波月「おう。学園から船が用意されてるときは、このアプリで手続きが踏める」


冴木「おお、さすが詳しいですね」


波月「褒めたって、なんも出ないからな」


冴木「船内で何か奢ってくれません?」


波月「値が張るから断る」


冴木「それは、残念です」


▼さほど、残念そうではない冴木を見て肘で小突く波月。


冴木「ん?なんか、声しません?」


波月「あー?お、アイツらか。暁冬。一旦、降りるぞ」


▼波月の言葉に頷いて、港へと再び降りる。

校舎に迎える長い坂から走って来たのは、御子芝(みこしば)浅緋(あさひ)小嵐(シャオラン)の三人だった。


小嵐「ゆうちん~!あきちん~!」


御子芝「遊羽(ゆうわ)くーん!冴木くーん!」


浅緋「ゆ、わさん…さえっ…ゲホッゴホッ…ハァーッハァーッ…」


御子芝「あら、重症ね」


小嵐「姫華(きっか)たんは、ヒールで走ってるのに。らいちんはよわよわなのネ~」


浅緋「おふた、ゲホッ…はやすぎなんすよ!!」


御子芝「それは、どっちに向かってのはやいかしら?」


小嵐「あきちん達にも、ミィ達に向けてともとれるのネ~」


浅緋「このさい、どっちにもっす!!」


冴木「まあまあ、皆さん。……お見送りに来てくださったんですよね?」


御子芝「ええ。そうよ」


小嵐「ミィは、八時間の船旅だと小腹すくと思ったのネ!だから、包子(パオズ)あげるのネ!ほら、らいちん!」


浅緋「あ、はい!どうぞっす!」


波月M《……でけぇ箱だな。荷物持ちさせられてたから走りづらかったのか。そうだよな。浅緋の機動力なら、そうそう疲れるはずかねーもんな…》


冴木「(箱を受け取る)わぁ、ありがとうございます」


小嵐「赤い印がついてるのが、甘い包子(パオズ)!黄色の印がしょっぱい包子なのネ!」


冴木「へ~、中身の具が違う感じですか?」


小嵐「それは、食べてからのお楽しみ!なのネ~」


御子芝「あたしからは、気付け薬の湯よ。ちゃんと、浅緋くんと()さんの手解きで(せん)じたものだから安心して」


小嵐「船酔いは症状が出てからが、ひどいのネ!対策はするべきなのネ~」


浅緋「どうぞ!紙コップもあるっす!安全な旅になるように祈願を込めて一杯!」


波月「うわっ、待て待て。なんでドロっとしてんだ?いや、見た目のグロさだろ……」


冴木「ニオイもかなりですね…。ですが、時間ありません。一気にいきましょう」


波月「おう…。せーのッ……んぐっ…」


冴木「くっ……あっ、う゛んんっ〜!」


御子芝「ふふ、いい顔するわね」


小嵐「スペシャル調合!効き目は保証するのネ~」


浅緋「うん、ニオイがいつに増して凄いっすね…。オレは、お世話になりたくないっす……」


波月「うっへー…ゲロマズっ…」


冴木「僕も、薬湯(やくとう)だけは好きになれません……」


▼出航前だと言うのに、既に重症である。


波月「……よし、行くか」


冴木「はい」


▼船へと続く階段を上っていく波月と冴木。


浅緋「遊羽さん!冴木リーダー!お気をつけて!」


御子芝「また四月に会いましょ!」


小嵐「楽しんでくるのネ~」


波月「おう。またな!」


冴木「皆さんも!体調崩さないでくださいねー!」


▼互いに言葉を交わせば、タイミングを見計らったように汽笛(きてき)が鳴る。船員の声も響く。

港と船を繋げる階段が外され、ついに出航する。

船がゆっくり、ゆっくりと海を掻き分けて動き出す。


(間)


御子芝「行っちゃたわね」


小嵐「姫華たん、寂しいのネー?」


御子芝「え?んー、まあ、少しだけよ」


小嵐「ミィは静かに新学期までの休みが送れるから嬉しさのほうが強いのネ〜」


浅緋「遊羽さんと冴木リーダー、船内で争わなきゃいいっすけど…」


小嵐「らいちんとゆうちんが乗った船は船長さんがコワい事で有名なのネー」


御子芝「ふふ、二人が傍に居なくても心配性ね、浅緋くん」


浅緋「あの二人っすよー?心配にもなるっす…」


小嵐「それはそうと。らいちんと姫華たんは帰らなくてよかったのネ?」


御子芝「えっと、あたしは大丈夫よ。帰っても、やること終わってないのに〜って叱られるだけだから」


浅緋「はわっ、なかなかに厳しいお家なんすね!」


御子芝「そういう、李さんや浅緋くんは?なんで、帰らなかったの?」


浅緋「オレは、単に帰る家がないだけっすねー。じいちゃんが、亡き今、家が残ってても帰らなかったと思うっす」


御子芝「まあ、浅緋くんっておじいさんと暮らされてたの?」


浅緋「そうっすよ~。オレ、生粋のじいちゃん子っす!幼い頃の友達といえば、キノコや木の実を持ってきてくれる狐の親子っすね~」


小嵐「らいちんは、見た目に反して山育ち!意外なのネ~」


御子芝「見た目もあいまって、ファンタジー世界の子みたいね……」


小嵐「ちなみに、ミィは春休暇の間じゃ戻れないからなのネ〜。今のニホン国とミィの国とじゃ渡る手続きだけで春休暇が終わっちゃうくらい大変なのネ!」


浅緋「あ、そっか…。小嵐は、龍中(りゅうちゅう)華国(かこく)の出っすもんね」


小嵐「なのネ〜。九年前のイワテ戦線の影響と政治的混乱が未だに続いてる。だから、帰れないのネ〜」


御子芝「なんか。それも寂しいものね」


小嵐「心配してくれてるのネ?」


御子芝「ええ、そうね。同情するわ」


小嵐「ふふん!でも、心配ないヨ!今年は、らいちんと姫華たん。病棟には揚羽乃たちも居るのネ!」


浅緋「あ、じゃあ小嵐が作った包子(パオズ)持って、突撃しようっす!」


御子芝「いいわね。李さんもどうかしら?」


小嵐「うん!喜んでいくヨ!」


▼潮風が(おだ)やかに吹き抜ける、お昼過ぎ。

こうして、第三救護室でお茶会をするメンバーは自由に各々の春休暇を過ごすことになる。

そんな休暇の間の話を語るのは、また別の機会に…




赤軍(あかぐん)編・第四話⇒決意、そして、その先に。


〜おしまい〜





台本 初回掲載日 2019年11月9日


台本 再掲載日 2021年5月17日


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