黒軍編・第三話⇒云えぬ言葉、癒えぬ想い。(比率・男声5:女声1:ナレ1)
※この部分を上演の際にコメ欄などに投げてくださいませ。
【劇題名】黒軍編・第三話⇒云えぬ言葉、癒えぬ想い。
(※長い場合は 黒軍編・第三話 でも可。)
【作者】瀧月 狩織
【台本】※小説家になろうのURLを貼って投げてください。
黒軍編 第三話の全通しバージョンです。
台本上演 時間(目安)⇒ 120分~
比率・男声5:女声1:不問1
※比率は目安です。
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今回も本編が大変長くなった為、⚫(前編)、⚫⚪(中編)、⚫⚪⚫(後編)を間に挟むことにしました。配信アプリの枠の取り直しや上演時間のご参考になれば、幸いです。
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☆本編
⚫ (前編) 〜約30分〜
陰口A「ねえ、聞いた?あの学徒の話。」
陰口C「聞いた。聞いた。」
陰口B「あの学徒?」
陰口C「なに、オマエ知らねーの?」
陰口B「何のことだよ。」
陰口A「ほら、一月に単独で赤に潜入した隊の話。」
陰口B「あー、それね。それがどうしたの?」
陰口C「どうしたの?……じゃねーよ。その隊に所属してた【狐面の学徒】のこと。」
陰口B「いや、知らないけど。」
陰口A「あ、知らない人いたんだ。意外ね。」
陰口C「こんなに広まってる話なのになー?」
陰口B「何だよそれ。(ムッとして)……もう、勿体ぶらずに言えって。」
陰口A「あ、拗ねた。」
陰口C「わりぃ。ちょっとからかい過ぎたわ。」
陰口A「まあ、知らないなら教えてあげる。……『狐面の学徒が関わった隊は消される』って話。」
陰口B「えっ……なにそれ。」
陰口C「この話を知らないってことは、赤に単独潜入した隊がどうなったかってのも知らねーだろ?」
陰口B「おん。全然、知らない。」
陰口A「……噂の通り。消されたみたい。」
陰口B「なんで、そう言いきれんの?」
陰口C「ほら、これ見てみろよ。(端末を見せる)」
陰口B「いち、にー、さん……(数え中)……あれ?遊撃の数が減ってる。」
陰口C「つまりは、そういうことだよ。(端末をしまう)」
陰口A「本当だったわけよ、学園に伝わる怪談話も。」
陰口C「ああ、あれか。あの話も嘘くさいとは思うけどよ。ここまで、すぐにリスト更新されると信ぴょう性が出てくるよな。」
陰口A「きな臭い話よね。お父様が心配するはずよ。」
陰口C「出た。オマエのお父様発言(笑)」
陰口A「何よ、文句あるの!」
陰口B「……(小声)【狐面の学徒】、死神みたいじゃん……。」
陰口C「何か言ったか?」
陰口B「え。いや、何でもないよ。」
陰口A「(溜め息)……まあ、自分たちは末端の部隊だし、ねぇ?」
陰口C「だな。……さて、教官にバレる前に訓練戻るか。」
陰口A「そうね。ほら、戻りましょ。」
陰口B「うん、そうだね。……狐のお面、か……。」
(間)
~タイトルコール~
及川「自己解釈 学生戦争 三津ヶ谷学園物語。」
六条「黒軍編・第三話」
??「云えぬ言葉、癒えぬ想い。」
(間)
▼時季としては、ニ〇八〇年の二月中頃。
一月某日に単独作戦と称して赤軍へ奇襲戦をしかけた蒼檄部隊の一件からひと月経過。
黒軍内では、三月初頭に控えた[卒業式]の準備が着々と進められていた。
(間)
◇黒軍・特殊治療棟
國崎「イ゛、アッーーーー!!!!」
三浦「うるさい!(脚を叩く)」
國崎「う゛っ!あ~~~、もう!お人な!冗談抜きで加減してーな!」
三浦「はい、はい。大きな声が出せるくらいに回復してるんですし、我慢してくださーい。」
國崎「我慢やと!?ちょっ、ホンマに優しく扱ってぇ!?」
三浦「あと、少しで麻酔が効いてきますから黙っててくださいねー。」
▼國崎詩暮は、あまりにも抵抗するため治療台の上で拘束ベルトを巻かれていた。そんな彼を叱りながら肩の傷の周りに麻酔を注射しているのは、軍医補佐生の三浦登良だ。
國崎「う~~あ~~……痺れてきたでぇー……。」
三浦「良かったですね。身体にあうようで。」
國崎「んーー……なぁ、トラはん?」
三浦「何ですか。というか、トラじゃなくて私はトウリョウなんですけど。」
國崎「えーやん、えーやん。お人の見た目やったら、ツンツンさせたヘッドスタイルも合わせて仔虎みたいで似合っとるでー?」
三浦「どこがいいんですか。しかも仔虎だなんて、納得いかないです。(ムッとする)」
國崎「せやかて。ワイだけあらへんやろ?お人のこと、トラって呼ぶんわ。」
三浦「いや…まあ、そうですけど、でも…。」
國崎「ん?どないしたん。」
三浦「いえ、何でもないです。」
▼三浦は、カチャカチャ…とキャスター付きの道具台をビニール手袋で覆った手で触る。國崎が何かに気づく。
國崎「あんな、トラはん。そのー、まさかなんやけど、このまま……お人が……。(しどろもどろ)」
三浦「ん?ああ、はい。そのまさかですよ。私が抜糸します。」
國崎「えぇ……、軍医は?!」
三浦「来ませんよ。薬藤先生のお手を借りるような作業でもないですから。」
國崎「んなぁ!?い、嫌や!せやったらワイ自身で引き抜いた方が何倍もマシやで!」
三浦「利き腕じゃない手で出来るのでしたらどうぞ。失敗してもしりませんよ?」
國崎「な、何や脅すんか??」
三浦「キミね。私だって、来期で補佐生二年目になるんです。先輩ですよ?仮にも。」
國崎「そないこと言われてもなぁ。治療棟に、世話になってからの数日間は忘れへんでー?」
三浦「うっ……。(咳払い)……その節は失礼しました。キミが多少、耐性ある体質で救われました。」
國崎「へへっー。せやけど。ワイ自身も驚いてん。」
三浦「まあ、私だって驚かされました。通常の二倍濃度の鎮痛剤を誤って、投与したのに副作用も何もないだなんて。」
國崎「ホンマに誤りやったんか疑わしい手付きやったけどなー?」
三浦「あの日は、徹夜続きで判断能力が欠如してたんです。……本当に、あの節はすみませんでした。」
國崎「あー、いやぁ、そう改まって頭下げられると反応に困るで?」
(間)
國崎「正直、言うて。お人を徹夜続きにさせる原因をつくったんワイが関わった一件やしな。」
三浦「蒼檄部隊ですか。」
國崎「おん、それや。あの後、どうなったんか知らへんのやけどな。ワイ、絶対安静やったし。」
三浦「気になりますか。」
國崎「まあ、気になるっちゃなるわなー?」
三浦「じゃあ、肩の抜糸が終わったら私が知ってる話と最近、広まってる噂を教えます。」
國崎「お、ちゃんとご褒美になるような話なんやろな?」
三浦「それは、聞き手しだいですね。」
國崎「ほーか。…よしっ、頼んますわ。トラはん。」
三浦「お。お気持ちが整ったみたいですね。では、今より肩の抜糸作業を始めます。國崎さん、力抜いててください。」
(間)
▼黒軍本校舎と共同棟を繋ぐ渡り廊下にて。
濡れ烏色の髪をポニーテールにした女子学徒が人を尋ねて歩いていた。
??「すみませんの、お訪ねしてよろしいかしら。」
男子A「おう。なんだ!」
??「私、この外套の持ち主を探してますの。」
男子A「落とし物か?拾ったんなら事務室に持っていったらどうだ?」
??「いえ、借り物なんですの。」
男子A「そうなのか。んーーー」
男子B「なになにー?隊長さん、誰と話してんのー?」
男子A「おお、良いとこに来たな。うん?妹ちゃんはどうした。一緒じゃないのか。」
男子B「片割れは図書館よ。で、あんた。誰か探してんの?」
??「ええ。これの持ち主を探してますの。」
男子B「なにこれ、外套?すっげぇ、マジモンだ。でも、着てる奴、見たことないわ(笑)」
男子A「うむ。別段、軍規で禁止されているわけではないが機動性を求める学徒が多いから珍しくはあるな。」
??「ですが……。これを貸してくださった方は着けていたんですの。」
男子B「直接返したいんだよな?」
??「ええ、できれば。」
男子B「じゃあさ。あんた、その外套かした奴の顔とか特徴とか覚えてないの?」
??「特徴、ですか……。」
男子B「俺、一年だし。こっちの隊長さんは二年だし。あんたが特徴さへ覚えてれば、誰か分かるかもだろ?」
??「うんと、そうですね……。あ、あの方は青い瞳をしていますの。濃い青の。」
男子A「濃い青?……つまり、藍色ということか。」
??「藍色…。どちらかと言うと夜更けの空のような色ですわ。」
男子B「お、おお。何だか、詩人チックな例えだな。で、他には?」
??「他には……携えていた武器は双剣ですわね。」
男子B「青い目をした双剣使いかー。俺の知ってるやつには五人いる。隊長さんは?」
男子A「うむ。俺の方では、一〇人はいるな。」
男子B「そっか。千は超えてる同期の中からはだいぶ絞れたな。もっと、他にない?何か装飾品とかさ。」
??「ふふっ……。」
男子B「ん?なに。」
??「いえ。随分と親身になってくださるのですね。」
男子A「何を言うか。困っている女子を放っておけないからな。」
男子B「野郎相手だったら自分で探せって言いたいところだけど。あんたは、何だか手伝ったほうがいい気がするからさ。」
男子A「うむ。そうだな。我が隊の唯一の女子隊員に雰囲気が似ている気もするしな。」
男子B「え?冗談でしょ、隊長さん。俺の妹、こんなに真面目なオーラしてないけど?」
男子A「オーラとかではない。守ってあげたい存在ということだ。」
男子B「はっ(笑)それ言ったら、隊長さんにとったら大半の女子学徒がそういう対象じゃんよ。」
男子A「ああ。女子の盾と剣になってこそ、男だ。」
男子B「かーー、あっつ苦しい〜〜……。」
男子A「なにおう!?」
??「あ、思い出しましたわ。」
男子B「お、他にも特徴ありそう??」
??「ええ。……あの方は狐のお面を着けていましたわ。」
男子B「えっ……?」
男子A「……(咳払い)……。」
??「えっと…どうかなさいましたの?私、変なことを申してしまいましたか?」
男子B「あ、いやー。そのー。」
男子A「すまんな。最近、攻撃部隊の一部で広まっている噂があってな。」
??「あら、そうですの?」
男子B「その反応ってことは知らないやつの一人かー。まあ、知らない方がいいっちゃいいけど。」
??「……この外套の持ち主に行き着く噂なのでしたら。ぜひともお聞きしたいですわ。」
男子A「おお、怖いもの知らずだなぁ。」
男子B「(ニヤッと笑う)……だね。あんた、イイ眼するし。気に入った。」
??「お気に召したようで、幸いですわ。」
男子B「じゃあ、どこから話すかなー。」
▼濡れ烏色の髪をした女子学徒の聞き込みはひとつの噂へと行き着いたのだった。
(間)
◇黒軍・病室フロア
▼國崎は最大で六人の入院が可能な病室に滞在している。
だが、あの一件からひと月も経てば相部屋だった学徒たちは日常へと戻って行くし、会話相手も居なくなる。
(間)
▼肩の傷の抜糸を終えて、病室待機となった國崎。
とても退屈だと言わんばかりの表情で、食事用の折り畳み式テーブルをベッドの両方の柵に渡らせ、机上に肘をついている。
三浦「國崎さーん。遅くなりましたがお昼ご飯にしましょうかー。」
國崎「まいどー、トラはん。さっきぶりやで。」
三浦「ええ、どうも。まだ肩の麻酔が効いてると思うので、利き手じゃなくても食べられるもの持ってきましたよ。」
國崎「おお、そうなん?お気遣いどうもやでー。」
三浦「(紙袋を渡す)はい、購買で五番人気のビーフカツサンドとサバサンドです。」
國崎「おお、まった五番目とか中途半端な人気商品を持ってきましたなー?」
三浦「私は好きなんですけどね。このサンドウィッチセット。」
國崎「で、なんやったけ?サバ?」
三浦「ええ、サバです。まだあばら骨も治りきってないですし。カルシウムとか諸々栄養のあるサバです。」
國崎「…… ……。」
三浦「どうしました?」
國崎「ワイ、ビーフカツサンドだけで……。」
三浦「國崎さん。」
國崎「うん?」
三浦「あなたなら、ちゃんと食べてくれますよね。(黒笑み)」
國崎「あっはー…。そない圧かけんでも……。」
▼國崎は、苦笑する。少し考える素振りをし、短期間だったがお世話になっていた蒼檄隊員たちと一緒にした食事風景を思い出した。なんだかんだ言いつつも、貰ったものは胃におさめるつもりの國崎。インパクトが[パンです。そして焼き鯖ぁぁぁ]なサンドウィッチから手を付けることにした。
國崎「あーー、あむっ!!…(スーパーモグモグタイム、飲み込む)……悪くあらへんな。」
三浦「にひっ、そうでしょう。私のお気に入りなんですよ。」
▼一口目は何とも言い表せないような顔をしていたものの、食べ慣れれば美味さを覚えて、満足そうに食べていく國崎。
國崎の食事姿を見つつ、三浦はバランス栄養バーをかじった。
(間)
國崎「ふぅ~…ごちそうさま。(手を合わせる)」
三浦「お粗末さまです。はい。ペットボトルですけど、麦茶でもどうぞ。……キャップはもう開けてありますので。(差し出す)」
國崎「おお、何から何までありがとうなー。(受け取る)…(一口だけ飲む)…ん、喉が潤うわ~。」
三浦「……國崎さんって、本当に特徴のあるイントネーションですよね。」
國崎「んー?改まって、どうしたん。」
三浦「いえ。知ってるかは分かりませんが、この学園にいる大半の学徒は出身を隠すんです。」
國崎「あー、それなー。ワイ、気になってたんよ。なーんで、お郷を隠すん?別に問題あらへんやろ。ここ離島やし。」
三浦「実は。私も人伝に聞いたことなので真相はわかりませんが、語り継がれてる話があるんです。」
國崎「ほぅ?何なんそれ。」
三浦「三津学は特殊ですが学び舎。三月の卒業式を機に島を離れるものが大多数を占める。語り継がれてる話はとある世代の卒業生が起こした集落壊滅事件の話です。」
國崎「壊滅事件…?」
三浦「はい。事件の主犯たる卒業生は在校中に学生戦争…私たちが〈実戦〉と呼んでいる過程で部隊の仲間を惨たらしく殺されたそうです。」
國崎「つまり、私怨による殺人事件ちゅーことか。その卒業生。仲間を殺った奴さんのお郷を知ってたんやろなー。」
三浦「ええ。この事件が影響してか、暗黙の了解として後輩にあたる学年の学徒から出身地を話題にしなくなったんだそうです。」
國崎「はー、そうなんかー。けど、ワイは別に関係あらへんな。(麦茶を飲む)」
三浦「恐いとは思わないんですか。」
國崎「思わんよ。《無くすもんなんて、もうあらへん…。》……そーいう自分は?」
三浦「私は……。」
國崎「(小さく笑う)……後輩のワイにも敬語で、一人称も私。お人は、知られたくないことが多いんやなー?」
三浦「ちょっと、勝手な決めつけはやめてください。」
國崎「せやかて。ワイにはそうとしか思えへんわ。トラはんってたいそう臆病なんやな?」
三浦「……國崎さん。」
國崎「ん?なんや。怒ったんか?」
三浦「せいっ!(脳天をチョップする)」
國崎「あいったァ!?」
三浦「ふんっ、おしゃべりが過ぎますよ。言いましたよね?私は仮にも先輩だと。」
國崎「(頭を抑えつつ)くぅ~~……それが、この攻撃とどう繋がるん!?」
三浦「國崎さん。キミ自身が巷で何て呼ばれてるか知ってます?」
國崎「いや、知らんけど。」
三浦「……【狐面の死神】」
國崎「こめんのしにがみー?」
三浦「ええ。キミの戦闘時の狐面をつける姿から、そう呼ばれてます。……あとは蒼檄部隊の一件も関係してるみたいです。」
國崎「ほぅ?どう関わってくるん。」
三浦「実質、今回の蒼檄部隊が起こした奇襲戦は現参謀である及川さんには大きな痛手です。勿論、相手側である赤にも。……今回は『犯人』を発見し、赤側に情報提供できるのか、が論点になっているそうです。」
國崎「ふーん、そうなんかー。たしかに、ワイは蒼檄のお人らと少しだけ居ったけど。ワイと関係ありますの?」
三浦「私たちは、学徒です。上層同士が言い合いになった場合は少しでも協力すべきだと暗黙のルールがあります。」
國崎「(ため息)まーた、決まり事かぁ…。縛ればいいってもんやないやろ…。」
三浦「まあ、そう言わずに。ですが、なぜ。キミが【狐面の死神】と呼ばれるのか。……生き残ったのがキミだけだからです。」
國崎「は?どういう事なん…?」
三浦「…… ……。」
國崎「なあ、トラはん。生き残りが、ワイだけ?それって、どういう事なん!?あっ、いッ……。(脇腹を押さえる)」
三浦「もう、肋に響いてるじゃないですか。あまり大きな声出さないでください。」
國崎「あー、折れてるのは不便でアカンわ…。(枕に背中を預ける)」
三浦「…良いですか、國崎さん。今からお話するのは知り合いの諜報隊員から聞いたことです。」
(間)
三浦「…結論から言うと蒼檄部隊は解隊となりました。隊長の責島煌次と副隊長の入惰聖は、参謀部の警務班に拘束されてから行方知らずになっているそうです。」
國崎「ほへー。あの入惰はんが副隊長ねぇー?だから、長はんの隣によう居ったわけなんかー。」
三浦「知らなかったんですか?」
國崎「いや、知っとたよ。知っとたけど興味あらへんねん。役職とか立場とか。」
三浦「國崎さんって、ひどく変わってますよね。」
國崎「変わってるっていう言葉はワイへの褒め言葉やな〜。まあ、他人と同じなんて意味あらへんしな。まあ何や、この学園での〈実戦〉はどないもんか知りたかったんよ。」
▼あっけら感とした語り口で、告げる國崎。
彼は、編入してから半年も経っておらず。なのに、関わった初陣が散々に終わり。肩を裂傷し、あばら骨は四本折れている。
三浦と話している間も、気になるのか。抜糸したばかりの肩を触った。
三浦「違和感ありますか…。かなり深い傷でしたけど、誰にやられたものだったんです?」
國崎「ん?これは若はんにもろた傷やで。」
三浦「……先程から気になってたのです。その若とか長というのは何なんです?」
國崎「うん?呼び分けやで。入惰はんの受け売り。」
三浦「呼び分けって誰をです?」
國崎「誰って。長は責島煌次のことやし。若は長はんの双子の片割れこと影慈のことやで。」
▼三浦は、困惑の感情を見せて首を横に振った。
國崎「えっ、何なん?何で、そない反応するん?」
三浦「いえ、國崎さんが誰のこと言ってるのか分からなくて……。その、エイジって人。見たことも聞いたこともないです。」
國崎「はっ??いやいや、いくら、あのお人が影武者なんちゅー呼び名やったとしてもやで?見たことないは言い過ぎやろ?《頭が痛む。トラはんと話が食い違っていく。ワイがおかしいのか、それとも……。》」
三浦「いえ、本当に。誰なんです、その人。私の言うことを疑うのでしたら、見てみます?学徒名簿。」
國崎「ああ、見して!」
▼國崎は、三浦の手から掻っ攫うが如く差し出されたタブレット端末を取り。まじまじ…と画面越しの情報を見始める。
(間)
▼一方、濡れ烏色の髪をした女子学徒の人探しは続いていた。
??「【狐面の死神】ですの…?」
男子B「そう。【狐面の死神】。」
男子A「呼び名の理由としては、噂の学徒が使用している武器の雰囲気からきているらしい。」
男子B「結構、殺し方も容赦ないらしいし。」
男子A「赤の方で、預りとなっている遺体のいくつかはその学徒がやったのでは?って言う話も上がっている。……まあ。大なり、小なり尾ひれはついているだろうがな。」
??「(顔を俯かせる)」
男子B「あとはそうだなー。」
??「いえ、もう結構ですの。」
男子A「おや、いいのか?」
??「ええ、充分ですわ。ありがとうございました。」
男子B「そっか。まあ、見つかるといいな。」
男子A「気をつけるのだぞ。」
??「はい。では、失礼しますの。」
▼濡れ烏色の髪をした女子学徒は深々と頭を下げて、本校舎へと歩いていった。
男子B「ねえ、隊長さん。」
男子A「ん?どうした。」
男子B「俺、あの子。黒軍の子じゃないと思うわ。」
男子A「……正直言うとオレもだ。」
男子B「お、めずらしく鋭い感性だね。」
男子A「いや、まあ。嗅いだことのないニオイの香だっただけさ。」
男子B「あー、なるほどね。たしかに、あの匂いは市販のやつじゃなさそう。」
男子A「だな。……さーて、気づかなかったってことにして妹ちゃんを迎えに行くか。」
男子B「おっけー。」
▼濡烏色の髪をした女子学徒に甲斐甲斐しく情報を与えていたかと思えば、実際は勘づいていた男子二人。
だが、なけなしの紳士な心(?)で、気付かないふりをし図書館へと向かったのだった。
(間)
〇⚫〜中編 約30分〜
▼さて、特殊治療棟の病室での國崎と三浦の二人。
三浦から学園に流れている話と噂話を聴き、真実に少しでも辿り着こうと、夢中でタブレット端末を弄り倒している國崎。そんな彼を三浦が、暇そうに身体を左右に揺らしつつ返してもらえるのを待っている。しかし、いっこうに國崎が返す気がないと理解出来て声を滑らせる三浦。
三浦「あのー、國崎さん。そろそろ返してくれません?」
國崎「ちょい待ち。まだ何や、まだ……。」
三浦「……。はい、没収ー。」
國崎「ああっ!トラはん、返したって!」
三浦「返すも何もこれは私の仕事道具なんです。……ゲッ、これ。閲覧権限ギリギリのサイトじゃないですか。もう、勝手にダメですよ?」
國崎「(ふくれっ面)そない子供相手みたい言わんでもええやんか。納得いかへんわ。」
三浦「納得いなかくても情報は確かです。私は、國崎さんの言うエイジっていう人は知らないですから。」
國崎「……じゃあ、この傷をお見舞いしてくれたんは他人の空似なん?それとも、長はんの他人格か?」
三浦「(ため息)私に訊かれても接点ありませんでしたから。」
▼三浦はため息を盛大に吐きつつ、國崎が勝手に開いた検索タブを閉じていく。
三浦「さっ、おしゃべりはここまで。麻酔がきれるまでベッドで安静にーー」
▼三浦の言葉を遮るが如く、病室の自動ドアが静かに開いた。
及川「失礼する。」
三浦「おや、及川参謀長。如何されましたか?」
及川「そこの学徒に用があって参った次第。(國崎を見やる)」
三浦「それは、病室で済むことですか?彼は、傷の処置を終わらせたばかりなんです。」
及川「いや、一月の騒動について事情聴取したい。……病室から連れ出しても構わないか?」
國崎「何や、まだその話を引きずるんか。お人、暇なん?」
▼ニヤニヤとしながら國崎は、お得意の煽りスキルが炸裂する。
参謀長たる及川征獄は、静かに眉間にシワを寄せた。
國崎「で、どうなん?ワイとしては、もう話すことなんてあらへんよ。一件のあとは気づいたら、病室で寝とったわけやしな?」
三浦「コラっ!國崎さん、口答えする相手を考えて!」
國崎「せやかて、おかしいやろ?痛い思いしてる人を出歩かせるなんて、人の上に立ってはる人のする必要がーー」
集「國崎。口を慎むんだ。」
國崎「……。(ため息)…集くん。お人も居ったんか。」
集「今、来たんだよ。……遅れてすみません、及川参謀長。」
及川「いや、構わん。ただ、あと数秒遅ければ撃ち殺していたところだ。」
▼及川は腰に携えているピストルポーチに触れていない。
しかし、明らかに彼のオーラに明確な殺意が滲んでいる。
國崎「ははっ、怖っ……。」
三浦「(小声)誰だか知らないけど、止めてくれてありがとう。……病室で、死人出さずに済みました……。」
集「(微笑んで)よかったです。参謀長の弾を減らさずに済んだようで。(三浦を見やる)……突然、お邪魔してすみません。参謀部所属の國織集です。」
三浦「あ、いえいえ。大丈夫です。私は三浦登良、軍医補佐生です。」
國崎「トラはんって言うんやで。」
三浦「トラじゃないです。トウリョウです。」
國崎「ええやん。ワイとトラはんの仲やろ?」
三浦「……。《どんな仲だと主張する気なんだ…。》」
國崎「あははー、不満そうな顔やな~。……それで?なんで、集くんまで出てくるん?」
及川「國織は俺の直属の部下だ。」
國崎「はっ?何やそれ。ワイ、知らへん話やで。」
集「ゴメンよ、國崎。山のような事情があるんだ。」
國崎「その山のような事情ちゅうんはいつ聞けるん?」
集「機会を設けるよ。……手荒な真似はしないって約束する。だから、今は連行されてほしい。」
國崎「…… ……。」
集「頼む。」
國崎「はぁ……、わかった。ホンマに話すことなんてあらへんからな?ないのに出ちあげた罪を掛けられるんはナシやで。」
集「それに関しては善処するよ。」
三浦「えっとー。國崎さん、車椅子つかいます?」
國崎「ええよ、トラはん。ゆっくり歩けば、ひびかへんし。」
三浦「わかりました。えっと、外出申請を…」
及川「三浦 軍医補佐生。」
三浦「は、はい!」
及川「この学徒の外出申請は通してある。きみは、これを日誌に挟んでおけばいい。(紙を渡す)」
三浦「(受け取る)何から、何までありがとうございます。よく、薬藤先生が許可だしましたね。」
及川「薬藤軍医とは腹を割って話せば、問題ない。」
三浦「そうですか…。《いったい、何を話したんだ?》」
國崎「(小声)なあなあ、トラはん。(袖を引く)」
三浦「ん、何です?」
國崎「(小声)何で、お人。この参謀長はんに敬語なん?お人の方が、年上やろ?」
三浦「……キミ、何も知らないで在学してるんですね。」
國崎「え?何なん?そない呆れ顔をせーへんでもええやん。」
三浦「(ため息)……病室、戻って来たら予習しましょうか。」
國崎「え?ホンマ、どないしたん??」
集「話はそこまで。……國崎、立てる?」
國崎「ああ、掴まってなら立てるで。」
集「じゃあ、僕が支えるから立とうか。」
國崎「何や、赤やんみたいやな?」
集『……。(呆れ顔)アホか、自分。ふざけとる暇あったら、ささっと立ちや。』
國崎「おっ。」
集『ん?何なん。』
國崎「にひひっ、移ったな~」
三浦「はぇー、まさかの國織さんもですか…。」
集「え?え?」
及川「國織。お国言葉になっていたぞ。」
集「……。(顔覆い)……すみません。本当に見なかった事にしてください…。」
▼何かしら苦労する体質の國織集。國崎のマイペースさに飲まれて、言葉遣いを崩さないように意識していたが、揺らいでしまう瞬間だった。
(間)
▼四階の中央辺りに目的としている部屋はある。
國崎の腕を肩に掛けさせ、歩幅も合わせる集。
連れ出すことを言い出した及川は、背後を気にせずスタスタ…と自身の歩幅で先を歩いている。
國崎『なあ、集くん。』
▼傍から見ると、ただ手で顔を扇いでいる動きにしか見えない。しかし、この動きはこの二人の間で通じる"特殊なハンドサイン"なのだ。
集『なに、どうしたの。』
▼集は、親指を立てて左右に動かす。
お互いに久方に使い合うハンドサイン。忘れていなかったようだ。國崎が少しだけ驚いた表情をしたあと、動きを続けた。
國崎『ホンマに、ワイはなんも知らん。事件の後はベッドに居ったん。そもそも、どうやって病棟まで運ばれたのかも知らんねん。』
集「…… ……。」
國崎『あの部隊のお人らが、行方知らずらしいな。』
集「…… ……。」
國崎『なあ、集くん。お人、他にも知ってるんやろ?参謀長はんの部下なんやろ?なあ、教えてほしいで、ワイは。ワイとお人の仲やんか。なあ、どうなん?』
集「ごめん。」
▼歩みを止める程に、何か思い詰めた表情をする集。だが、答えは謝罪だった。
突き放されるような感覚が國崎を襲う。目を見開いて、奥歯を噛み締める。
集と國崎は、お互いに顔を逸らした。既に、及川が腕組みをして目的の部屋の前に立って、真っ直ぐな視線で國崎と集を見つめている。駆け寄る集。
集「すみません、及川参謀長。お待たせしたようで。」
及川「いや。俺に気をかけるな。その一年と手荒には扱わないと口約束したんだろ?」
集「ええ、まあ。」
及川「……國織、耳を貸せ。」
集「あ、はい。」
及川「(小声)独自のハンドサインを使うのは結構。だが、自分の立場を忘れるなよ。國織 集。」
集「……はい。わかっています、及川参謀長。」
▼集は、右を拳の形にして握りこんだ。
少し離れた位置で、そんな二人を見ていた國崎。
その視線はどこか冷めており、呆れたような遠い目をしている。
及川「終業時刻まで、あと三時間だ。……國崎、素直に答えさへすれば時間は取らせん。わかったな?」
國崎「素直って言われてもなー?ワイには、答えることはホンマにあらへんねん。」
及川「……まあいい。中で聞く。入れ。」
▼部屋の鍵を隠し持っていたのか、スッ…と鍵を出し解錠する及川。洋風な両扉が微かに音を立てて開く。
國崎は、ため息を吐いて、頭を搔く。一つ頷けば意を決し、顔を上げた時だ。カツン、コツン…とヒール特有の音が及川の立っている方向から聞こえた。
及川「誰だ?この時間帯は俺が指示したもの以外の通り抜けを禁じたはずだが……」
集「ッ!?参謀長!息を止めてください!!」
及川「なッ!? (押し倒される)」
集「國崎!キミも伏せ…うぐっ、ウエッ、ゲホッッ…!」
國崎「な、何が起こってん!?《この状況、既視感が…!》」
▼空気中にはピリッとした刺激を感じるニオイが漂っていた。
だが、目に見えた煙などなく。嗅覚が鈍いものならば、ニオイに気づかないで手足に痺れを感じ出す。そんな薬品だ。
□□「おやおや、さすがは参謀長直属の部下ですね。本当にニオイを感じた瞬間に防御へ回るとは。」
及川「……六条綾か。参謀助勤の。國織、オマエはそこに座っていろ。(集を押し退ける)」
集「すみません…。不覚にも吸ってしまいました…。」
國崎M《え?なんなん??肩幅からして、男か?いや、でも、格好が……。》
▼國崎は、言葉に出来なかった。
奇襲のような行為をした学徒は、セーラー服で藤色の長い髪を一本に結った美人である。
六条「そんなに睨まないでくださいな。別に、取って食おうとは思ってせんよ。」
及川「どうだか。わざわざ、その愛用の扇子を扇いでまで痺れ薬を使ってくるとはな。……そんなに、席を代わりたいか?」
六条「(扇子を隠す)いえいえ。本当に、そんなつもりはないですよ。単に、押収品だったものを投げて遊んでいたら……ねぇ?」
及川「ほー?押収品で遊ぶとは訓練生でもしないぞ。特に、自分より上級の前ではな。」
國崎M《はぁ〜険悪やなぁ。誰だか知らんけど…。》
六条「ふふふ、まあ。そうですよね。ああ、でも興味ありませんか?こんな薬品を作れる学徒のこと。」
及川「ふんっ、そう言って話を変えようとするか。まあ、いいさ。聞いてやる。話せ。」
國崎M《上級同士が険悪って…黒も黒でアカンなぁ…。》
▼國崎は、チラッと集を見やる。痺れが残っているのか、短い呼吸を繰り返し、汗が顎から滴るのを見た。
六条「じゃーん、これ。この瓶にさっき事故って、使用してしまった薬品が入ってたんですよ。」
及川「何だそれは。女物の化粧瓶か?」
集「あ……。」
國崎「集くん?」
六条「おや、國織 集さん。これに見覚えが?」
集「あ…いえ、何でもありません…。(顔を俯かせる)」
國崎M《……ははーん、分かったわ。あの瓶の持ち主。集くんが、赤に居った時に関わってた金髪の子のものやな。》
▼集は、かの蒼檄部隊が主犯で起こした奇襲戦の日までの間、赤軍へ潜入任務をしており。その際、女子学徒として振る舞っていた。
國崎は丁度、その任務中の集と対面しており、中途半端ではあるが、何かと関わっていたのだ。
及川「それで?その作り主はどこの誰なんだ。」
六条「ああ、これを持っていた学徒を作り主と考えるなら。……あの子はスパイというわけでもなさそうですし。ただの侵入者にしてはかなり用意周到ではありましたね。」
及川「侵入者?時期的に考えるなら赤から来た学徒か。」
六条「恐らくそうでしょうね。だって、あんなに整った濡れ烏色の髪をした学徒はそうそう居ませんからねぇ?」
國崎「濡れ烏やと…?」
▼声に出すつもりはなかったのか、國崎は慌てて口を押えた。
だが、その反応に六条が聞き逃しはしない。
値踏みするような視線が國崎へと向けられる。
六条「ふふふ、もしかして。あなたが、巷で話題の【狐面の死神】ですか?」
國崎「……その呼び名はやめて欲しいわ。」
六条「いえ、失礼。想像より幼い顔をしてらっしゃるのだなーと思ったんですよ。死神なんて呼ばれてる割には、ねぇ?」
國崎「ははっ、ワイも大層な呼び名をつけられた気ぃするわ。……ワイが傷つけたお人は今んとこ二人だけ何やけどな。」
及川「なに?オマエ、本当に二人だけなのか。」
國崎「は?何で疑うん?」
集M《國崎は、濡れ衣を一番に嫌う。昔からそうだ。……及川参謀長はずっと騒動の一件から疑い続けている。どう出る。國崎。》
國崎「(溜め息)…不思議なんよ。及川はん、ワイに何の疑いがあるちゅうん?正直に言わせてもらうけど、ワイが、手ぇ出したんは二人だけやで。あと、同軍のお人とも殺りあったわな。」
及川「信じられん…。警務班の報告と違うじゃないか。じゃあ、何だ。今回、死んだ赤の特隊生はオマエの仕業じゃないのか?」
六条「おやおや、食い違いが起きてるみたいですねー?」
國崎「特隊生ー?いや、まあ。確かに特隊生を名乗るお人と殺りあったで。せやかて、死んでまう程の傷は負わせたつもりあらへんわ。」
及川「では、いったい誰だと言うんだ?赤の特隊生であったーー」
▼及川の言葉を遮るタイミングで、無機質な着信音が響く。
六条が『おっと、失礼』と言葉をもらし、薄型の端末を取り出して着信に応答した。
六条「申します、申しますー。ああ、警務班の。ええ、はい。あー、別にいいんじゃないですかー?私、興味惹かれませんし。それの持ち主も、名前を書いておかないのがいけないと思いますしー。ええ、はい。はい。はーい、そういう感じでー。(通話を終了)」
及川「何だったんだ?」
六条「あー、いえ。その侵入者の子から押収し損ねたものがあったんですけど。持ち主がわからないので、警務班から燃やすなりすると報告を受けまして。」
及川「何を押収しなかったんだ?」
六条「外套とか言ってましたね。」
及川「外套?狙撃手とかが身を隠す為に着ているマントか?」
六条「いえ、そういうポンチョ的なやつではなくて…エリザベスカラーみたいな短いやつですね。」
國崎「はぁーーー!?」
六条「うん?どうしました?」
國崎「いや、何でやねん!!なに、勝手なことしてくれとんの!?」
及川「あー、そうか。もしかしなくとも、この反応で分かるな。その外套の持ち主は國崎だったんだろう。」
六条「おや、それはまずいです。あの人達、押収品を処理してから侵入者の子を送還すると言ってましたし……うぉっと。」
國崎「(六条の胸ぐらを掴む)……早う、そのお人らの居場所を言えや!!」
集「あ、國崎!またキミは感情を優先してっ!」
六条「えー、そんな乱暴する人には教えたくないですねー?」
國崎「御託はエエねん!!あの外套はワイの大切なもんなんや!」
六条「(ため息)……わかりましたよ。警務班の人達はたぶん一階の第一救護室から伸びている渡り廊下を抜けて、焼却炉に行くかと。」
國崎「焼却炉やな!?」
集「く、國崎!キミ、あばら骨が……って他人の話聞けよォォォ」
▼集の制止など全く耳に入っていない國崎。
歩いて来ていた通路を戻るかたちで猛ダッシュし、三人から離れて行った。嘆く集に六条がポンッ…と肩に手を置いた。
(間)
國崎「そこの、お人らァ!ちょい、待てやァ!!」
▼わざわざ戦闘用のスラックスに着替えていたのか、全力で走る國崎。あばら骨の骨折など怒りと焦りの感情が溢れすぎてて、忘れている。
青年A「だ、誰だい!?」
國崎「(立ち止まり、深呼吸する)……お人ら、その紙袋に入ってるもんを見してーな。」
青年A「これのことかい?」
國崎「せや。あの参謀助勤のお人が言うことが正しいんやったら、それの持ち主はワイや。」
青年A「んー、まあいっか。渡していいよ。」
▼班長なのか分からないが、爽やかな雰囲気を纏う青年が指示すると帽子を目深く被った学徒が紙袋を差し出す。
國崎「どうもやで。(紙袋の中を見る)……おん、やっぱりワイの外套や。」
青年A「一応、押収品だから訊くけど、それは本当にアナタのなんだね?」
國崎「せやで。ちょいと香っとる匂いがちゃうけど……あった。ほら、内側に刺繍がしてあんねん。」
青年A「おや、本当だ。全然、気づかなかった。」
▼外套を取り出して、肩辺りの内布をひっくり返して見せる國崎。確かに、そこには濃いピンク色の刺繍糸で桜の模様が描かれていた。
國崎「(得意気に)これでワイが持ち主っていう証拠になったやろ?」
青年A「うん、そうだね。こればかりは証拠として認めるよ。それは、アナタに返します。」
國崎「ふぅー、危なかったわー。あと少し遅れとったら燃やされて……ウッ、安心しよったら骨がっ……。」
青年A「大丈夫?救護班の人を呼びます?」
國崎「えっ、あー……いや、遠慮しとくわ!」
青年A「そうですか。まあ、気をつけて帰ってください。我々はこれから送還の任がありますので。」
國崎「おん、そこのお人のこと頼んますわ。」
▼帽子を目深く被った学徒におんぶされている濡鴉色の髪をした女子学徒。どうやら、眠らされているようで静かだ。
國崎の言葉に青年が会釈し、渡り廊下の分かれ目から赤の校舎へと歩いて行った。彼らの背中が見えなくなるまで、視線を送った。
國崎「さーて、ワイはどないしようかー……ん?何やこれ。」
▼ふと、紙袋の中を見た。
袋の底に隠される形で空になった小瓶が入っていた。
國崎「まーた、小瓶か?うーん、これ。あのお人の私物かもしれへんな。……直接、渡した方がエエか。」
▼國崎は小走りをする。別れを告げたばかりの警務班のメンバーを追いかけることにしたのだ。
(間)
▼一方、参謀長たちは。
及川「……納得が行かん。」
六条「ふふふ、そんな不機嫌な顔をしてても犯人は見つからないですよ。逆に逃げてしまいます。」
及川「だが、ここまで警務班の証言と食い違うのは可笑しい。やはり、國崎がこちらを謀る為にーー」
集「失礼ながら、及川参謀長。」
及川「何だ?」
集「昔馴染みである自分の憶えでは、國崎は良くも悪くも素直な性格をしています。あのヘラヘラとした態度も素直な表れなんです。」
及川「だが、このままでは赤の参謀長との期日に間に合わない。」
集「ですが、編入してきたばかりの國崎が犯人扱いされるのはどうかと思います。巷の噂を鵜呑みにするような決めつけも自分は好きではありません。……昔馴染みの自分に免じて、真面目な調査を。」
及川「ああ、わかっている。…クソッ…、何もかも"彼奴ら"が行方知らずになったことが気に食わん。警務班の一部が捜索しているが一向に見つからんし…。」
六条「ふふふ、脳とされる参謀長が卒業間近で大変だねぇ?」
及川「オマエ。まだ、任命まで期間があるからと余裕ぶっていると、自分の世代の時に痛い目に遭うぞ。」
六条「おやおや、ご忠告どうも。なかなかに染み入るお言葉だねぇ。(ニヤニヤとする)」
及川「(舌打ち)嫌味なやつだ。」
集「とりあえず、自分は國崎を探して来ます。」
及川「ああ、そうだな。國織、頼んだぞ。」
集「はい。行ってきます。」
▼集は取り調べをするはずだった広い部屋から出て行く。
二人っきりになった及川と六条は視線が合えば、逸らした。六条が笑い。及川が舌打ちをする。
及川「……オマエはどう思うんだ。」
六条「おや、私の意見を聞いてくれるのかい?」
及川「かなり、不本意。且つ、信頼に値しないとは思っている。……何を考えているか、分からんしな。」
六条「ふふっ、そう仰っても。アナタは、自分さへ信頼していないのでは?」
及川「そんなわけあるか。ほら、さっさと答えろ。オマエが考えている『犯人』ってやつを。」
六条「《やっぱり、動じるわけないかー。残念。》……では、少しだけ話しましょうかね?」
▼無骨さなど微塵もないスラリとした脚を組んだ六条。
険悪な空気は変わらないが、軍内の"脳"同士の推測が始まった。
(間)
國崎M《そない遠くまで行ってへんと思うが…。》
▼タタタッ…と歩幅を小さくして、走る國崎。
倉庫が建ち並ぶ場所へ踏み入った時、何かを踏んづけた。
國崎「な、なんや??なんか、踏んだか?」
▼自然に足が止まった。
チラッと踏みつけたものを確認すべく、振り返る。
國崎「なんやスニーカーか。誰か、脱ぎほったんかー?……ん?誰か倒れて……はぁ……?!」
▼変な所に靴が落ちていると思いつつ、拾おうとしゃがんだ國崎。だが、彼の視界には倒れている学徒と他のものも写りこんだ。
國崎「ヒュッ……ッ!!(口を押える)《アカン!アカンで、ワイ!叫んだら気付かれてまう…!》」
▼そう。國崎の視界に写りこんだのは先程、別れた警務班の二人が血を流して倒れており。その少し奥で同じ人間とは思えない形相のモノがうろついていたのだ。
國崎M《考えろ、ワイ。何が起こってるんか、どうしたらエエか考えるんや…!!》
??「やっ!離して!!いやぁっ、うぐっ、うっ、うぁっ……」
國崎「なっ!?」
▼考える暇などない。
覗き込む先には倉庫同士の間に隠れていたあの女子学徒が捕まり、襟首を掴まれてギリギリと首を絞められる姿が見えた。
國崎M《嘘やろ!?なんで、捕まったん?!今、ワイはいつもの得物を持っとらへんのやぞ!?》
??「うっ、あっ、はな、し…てっ…」
國崎M《ホンマ、どないしたらエエんや!!》
??「し、にたくない…うぅっ…お、おうじっ……あ、つめ……」
國崎「ッ!……うおぉぉぉぉ!!」
▼雄叫び。國崎は倉庫の陰から駆け出す。
倒れている警務班の一人からサーベルを拝借し、中腰で人間離れした形相のモノーーバケモノの斜め横へ回る。
國崎「その!お人から手ぇ離せや!!」
▼ズッ、クシュッ!!と左の脇腹を一突きする。バケモノが呻いて、大きく腕を振り回して抵抗を見せる。
國崎は、防御の構えで後方へと飛び退く。バケモノが國崎へと咆哮し、岩ほどに巨大化している拳で殴りかかってくる。その拳を体をかがめて避ければ再度、バケモノの攻撃範囲はと踏み込む。そのまま飛び上がり、バケモノの左胸の下をサーベルを柄のギリギリまで突き通し、一気に引き抜く。刺し傷から鮮血が、吹き出る。
バケモノは、ほとばしる声を上げて地面へ崩れ動かなくなった。あの女子学徒も投げ捨てられ、ぐったりとした様子で地面へと倒れている。
國崎「ハァーッ…ハァーッ…(唾を飲み込む)……痛い……。」
▼國崎も、血塗れたサーベルから手を離して倉庫に寄りかかる体勢で小さく呟いた。
國崎「(息を乱しながら)……つい、身体が動いたわ…。」
▼ヨロヨロ…と倒れている女子学徒に近づいて、顔に掛かっている横髪を払う。
國崎「やっぱり、あの赤の子やな…。なんで、わざわざ黒髪になんてしたんやろ…。あの色、けっこうキレイやったのに…。」
▼ツンツン、女子学徒の頬を指でつつく。
集「國崎!どこだ!」
國崎「集くん?」
集「國崎!居るなら返事しろー!」
國崎「あー、今だいぶ辛いんやけど……あ、せや。」
▼國崎はサーベルの柄頭を倉庫の鉄扉へと打ち付けた。大きな音をたてることで、集に気づいてもらおうと考えたのだ。
集「こっちから音が……(小走り)……あ、居た。くにさー…ってなんだい!?この状況は!!」
國崎「(弱々しく)あはー。まいどー、集くん。」
集「國崎、大丈夫なの!?」
國崎「うーん、本音いうと辛いわぁ。」
集「無茶しすぎだよ、キミ。……このバケモノはキミが殺ったのか?」
國崎「あー、まあ、そうやな。けっこうアカン状況やったし、つい身体が動いてしもたわ。というか、集くんにもバケモノに見えるんやな。」
集「見えるもの何もバケモノのにしか見えないよ。……(小声)人体改造された学徒か?作り物にしては、かなり生々しい肌質してるし……。」
國崎「なあ、集くん。このお人なんやけど。」
集「うん?ああ、侵入者の子だね。」
國崎「見覚えあらへんか?ワイはあるで。」
集「見覚えって侵入者をわざわざ覚え……」
國崎「せいっ。(紙袋の中身を嗅がす)」
集「何するんだよ!くにさ、……え、この香り…。」
國崎「集くんにかなり関わりのある子やろ?」
集「ッ!?…ああ、どうして、ここに居るの……マリっ…」
▼國崎に嗅がされた匂いに覚えがあった集。
首を横に振りながら、唇をワナワナとさせて気絶している女子学徒に向けて『マリ』と呼んだ。
(間)
⚫⚪⚫ (後編) 〜約45分〜
▼國崎が重症のまま、身を呈して救った女子学徒。
彼女は一月の騒動で被害を受けた赤側の夢衣進撃部隊に所属している学徒だ。当時を知る國崎と集は、彼女の髪が金色だったことを覚えている。
だが、現在。気を失って倒れている彼女の髪は濡れた烏の羽のような色と艷めく髪をしている。そんな彼女の存在は異様に写り、とある学徒を思い出させ、重なる。
(間)
▼國崎は徐ろに声を滑らせる。
國崎「このお人、マリって言うんか?」
集「……手鞠。この子は手鞠だよ。けど、キミも知っての通り。この子の容姿からしてマリって呼んだ方が似合っているって理由で隊のメンバー全員で『姫』とか『マリ』って呼んでた。」
國崎「ほーか、このお人。手鞠、言うんか。」
集「うん、コロコロとしてて合ってるよね。《今、目を覚まされるとバレちゃうかな?そうすると、説明出来ないなぁ…。》」
▼顔色は変えないが、何か思い詰める雰囲気を纏う集。
集「國崎、この子は、見た目より聡い子でね。……『王子』が一目置く学徒なんだ。」
國崎「一目置くか…、なんで黒髪になんかしてるんやろ。あの地毛の色。ワイ、キレイやと思っとたんよ?」
集「何でだろうね。……あ、そういえば。やっぱり外套って國崎のだったんだ。よかったね、間に合って。」
國崎「ああ、ホンマよかったわ。駆けつけるん遅かったら燃えとったで。」
集「もしかして、キミがマリに貸したの?」
國崎「貸したというより、奇襲しに行った時に鉢合わせになったんよ。でも、抵抗されて気絶させなアカンくなって……まあ、そういうことや。風邪ひかれても嫌やし。脱いで、掛けてきたん。」
集「キミ、変とこで律儀だよね。」
國崎「紳士的やろ?」
集「それ、自分で言うことじゃないよ(笑)。……キミの外套もボクのあれと同じだよね。」
國崎「ああ。まあ、せやな。」
▼紙袋の中身を見つつ、集はあれこれと言う。
その意味を知っている國崎は、自然と集の指先を見た。
相変わらず男にしては手入れの行き届いた指先をしており、綺麗に爪紅が塗りこまれている。
國崎「……なあ、集くん。さっきは答えてくれへんかったよな。お人、どこまで蒼檄部隊の一件を知ってるん?」
集「どうしても、知りたいの?」
▼集は、あの女子学徒ーー手鞠を抱き上げて移動する。國崎も着いていく。移動する理由としては、手鞠が目覚めた時に遺体を見ると見ないとでは気分が変わるからだろう。
國崎「さっきから言うとる。ワイは、なんも知らんままは嫌なんや。」
集「……じゃあ、何から知りたい?ボクにも話せる限界はあるけれど。」
國崎「おっ、そうやなー。やっぱり、何で目覚めたら病室に居ったんか知りたいわ。」
▼國崎は血濡れてしまった学ランを脱いで、腰に巻いた。
集「それは簡単だよ。警務班の人が木の上で気絶してるキミを見つけて、救護班に託したからだよ。」
國崎「あー、ワイ。あのまま気絶したんか。……思うんやけど。あんなに実技が下手なお人が軍医の補佐ってどうなっとるん?」
集「それは誰のことを言ってるの?」
國崎「トラはん。」
集「あー、三浦さんのことか。あの人、そんなに下手くそなの?」
國崎「そうなんよ。気遣い上手ではあるけど、薬の量を間違えたり抜糸するとき、ちょっと雑やったりで散々やわ…。」
集「そうなんだね。《……たぶん、三浦さん。ワザとだろうな…。教えてあげないけど。》」
國崎「あ、集くん。そこのベンチで続き話そうや。」
集「あれ、こんなとこに屋根付きの休憩所とかあったかな?」
國崎「どっちでもええやん。なるべく黒の校舎に近づかん方がええし。このお人が目覚めたら、すぐに赤に帰せたほうがええやろ?」
▼右端を陣取る國崎。
集は、少し首を傾げつつも左端に手鞠を座らせ、國崎からこぶし一つ分のスペースをあけて腰掛けた。
手鞠のセーラー服についている砂を払いながら続ける。
集「國崎、キミが一番気になってることってそう言った話なのかい?」
國崎「何やそれ。ワイが、どうでもええ事を訊いたみたいな言い方やな。」
集「どうでもいいとは思わないよ。」
國崎「じゃあ、踏み込んだ話を訊いてもええんやな?逃げへんな?」
集「逃げるも、何もないよ。ボクにも答えられる限界はあるって言っただろ。」
國崎「…… ……。」
集「國崎?」
國崎「(深呼吸してから)ワイが知りたいことは四つや。
……蒼檄の長と入惰はんが、行方不明ってどういうことなん?お人は影慈って知っとるか?なんでワイが及川はんから疑われてるん?蒼檄のメンバーが全滅ってホンマなん?」
▼まくし立てる勢いで疑問に思っていることを言葉にした。集の掌が手鞠の頭を撫でながら、視線が國崎の横顔を見つめる。
集「うん、そっか。そういう事の答えが聞きたいんだね。」
國崎「せや。ずっと引っかかってたんや。」
集「わかった(少し考え)。……うん、じゃあ、一つ目と二つ目をまとめて答えるよ。」
國崎「ええよ。」
(間)
◆疑問解答シーン◆
集「あの騒動の後、すぐに隊長の責島と副隊長の入惰は警務班によって拘束されたんだ。けど、拘束から五日後の早朝。見回りの班が収容部屋を確認したら、姿が無かったんだ。忽然とね。本当に大人しく抵抗もなく過ごしていただけあって、その状況は異様だった。」
國崎「何が異様だったん?」
集「……畳みかけの布団、真ん中のページに開かれたノート。そこで、今さっきまで居たであろう空気があるのに、姿がない。
収容されたものには、自白は文字が良いという人も居るからね。それ用のノートに『奴が来る。やはり、迎えに来る気だ。奴は俺たちを許してなどいない。早く、早く見張りの』という走り書きが残っていた。でもね、収容部屋の窓は鉄柵が嵌められている。壊された形跡もなければ、責島のような体格の人は出られるような大きさでもないんだ。」
國崎「ちょい待って、集くん。」
集「どうしたの?」
國崎「確かに、その話は異様や。けどな、その時点でワイの記憶してる事と異なるんよ。」
集「どういう事?」
國崎「ワイは見とった。若はんが警務班の鎖で拘束されるのを。聞いたんや、入惰はんの叫びを。……それと、ワイ。肩に傷を負ったんよ。あの騒動の日にな。でも、その傷をつけてきたのは若はん…、影慈なんや。(肩に触れる)」
集「じゃあ、その人の話からしようか。……ボクは責島影慈を知ってる。けどね。その学徒は昨年度に亡くなってるんだ。」
國崎「……はっ?……死んでる??」
集「うん。昨年度にあたる白と黒の間で起こった《実戦》で。流れ弾に当たって亡くなったんだ。」
國崎「何や、それ…。なら、ワイを斬ったお人は誰なん…?」
集「わからない。あの日……、蒼檄が攻め入った日、ボクはまだ赤で活動していたし、黒に帰還したのは騒動から数時間後なんだ。」
國崎「ははっ……ホンマ、化け物じみたことも起こる学園やなぁ……理解できひんわ……。(顔を覆う)」
集「この質問回、続ける?」
國崎「(顔を俯かせたまま)うん、ええよ。気になるもんは気になる。」
集「わかった。続けるよ。……参謀部としては、入惰と責島はどこかで生きているかもしれない。そう考えて、一部の警務班が捜索を続けてる。まだ扱いとしては一般兵でもないキミに話すのもアレだけどさ。赤の参謀長さんが『今回の主犯格を必ず赤側へと連れてくること。』と条件を出してきたんだ。話し合いはそれから、だと。」
國崎「だから、及川はんはワイを疑ってる、と。」
集「……それもある。けど、あの騒動の最中で他に赤へと潜入していた学徒が動いたという証言があったんだ。赤側から。」
國崎「じゃあ、その他に潜入しとったお人らも動いたから被害が大きく出たって事なんやな?」
集「そうだね。そうかもしれない。」
國崎「その日の集くんも アツメ として動いたんやろ?」
集「……動いたよ。動いたけど、間に合わなかった。」
國崎「間に合わなかった?」
集「そう。ボクが所属していた夢衣の部隊室へ向かった頃には全てが終わってた。」
國崎「なんや、結論が掴めへん話し方やな。何が終わってたん?」
集「……隊長。いや、特隊生の『氷雨ノ王子』。彼女が死んでいたんだ。」
國崎「ウソやろ…!?何でや!!」
集「くっ……。」
▼國崎は、押し倒さんばかりの勢いをつけて集の学ランを掴んだ。瞳が、大きく揺らいでいる。
(間)
集M《ああ、ごめんよ。ごめんよ、國崎。ボクは、キミに本当のことを話すことが出来ない。それも含めての【務め】だから。キミは、ボクが祈里を殺したって知ったらどうするのかな。殴る?泣く?……ああ、ごめん。でもね、この学園に来たことが、キミの運命の動きなんだ……。》
(間)
集「離して、國崎。マリが落ちちゃうよ。」
▼グイッ…と國崎の手をいなして、突き放すような口調で告げる。
國崎「……六津井はんは、苦しんだんか…?」
集「どうだろう。……でも、とても穏やかな表情だった。」
國崎「ほーか、苦しまんで死んだならエエ。苦しいのは嫌やしな。」
集「……國崎、キミの容疑は今日中に晴れると思う。」
國崎「どういうことや?」
集「あくまで、勘だけどそう思うんだ。」
▼國崎は、頭に疑問符をたくさん並べるような表情をして集を見つめる。微笑む集の表情が途端に変わる。ベンチから少し離れた茂みが揺れたからだ。
集「まずい、聞かれた!」
國崎「えっ、ちょっ、集くん!」
集「國崎!マリを頼んだよ!!」
國崎「どこ行くんや!なあ、集くん!!(ため息)……お人も、独りなんか。」
◆疑問回答シーン おしまい◆
(間)
◇黒軍・取り調べ室◇
及川「ほう?オマエは、そう考えるのか。」
六条「ええ。単なる推測ではありますけど、捕まった蒼檄の隊長と副隊長。そのあとに、我々、参謀部は不覚にも行方不明にしてしまった。けれど、蒼檄の二人が行方不明になった事実より【狐面の死神】の噂話が巧みに流れている今。……その噂を流した学徒って誰なんでしょうね?」
及川「ははっ、なるほどな。黒幕説、か。……性格の悪いオマエが考えるにしては真摯な内容だな。」
六条「ふふふっ…。性格が悪い、ですか。褒められたような気がしませんが、褒め言葉として受けとめますよ。」
▼"脳"同士の話し合いは一つの推測に行き着いた。
さて、実はこの推測は大きく的を射ており、その『黒幕説』は幾つもの偶然が絡み合って、必然となるとは思いもしないのだった。
(間)
集「あの!逃げないでください!!」
▼集は、茂みから走り出した人を追いかけて共同使用棟の付近まで来てしまった。既に時刻が終業近くということもあり、学徒の姿もまばらだ。
集「はぁー、ふぅ……。あの、何で盗み聞きなんてしてたんです?三浦さん。」
三浦「いや、失礼。聞くつもりなんてなかったんですよ。私、隠れる癖がありまして。通り過ぎるにも通り過ぎれなかっただけです。」
集M《なるほど。……偽るのが得意そうだ…。》
▼呼び止められ、くるりと振り返ったのは國崎を担当している軍医補佐生の三浦登良だ。
彼の表情は、至って普通。当たり障りのない笑顔を浮かべている。
集「でしたら、逃げる必要はなかったのでは?」
三浦「それも、つい反射的に動いてしまったんですよ。」
集「逃げるのも隠れるのも得意なんですね。……さすがは、元【シロサギ】の一人だ。」
三浦「ピクッ…)ははっ。なんの事ですかね。しろさぎ…?知らない言葉ですよ。」
集「三浦さん。病室では、初対面のような態度をお互いに取りましたけど……面識がないはずありませんよね?」
三浦「(舌打ちし、ため息)……あーあー、なんでわざわざ掘り下げようとするんだか。」
集M《来た…。》
▼自ら相手を詮索するような言い方をした集。
抗うのも無駄だと判断したのか、明らかに三浦の口調や態度が変わった。
三浦「それで、國織さん。話題を掘り下げて、何をしたい?興味本位は痛い目を見るってアナタもよく知ってるでしょ。」
集「いえ。ただ、三浦さんもあの子を目の敵にしていたように感じたので。」
三浦「あの子…、ああ。國崎さんのことですか。……まあ、認めるよ。私は、國崎さんを疑っていた。けど、あの人は 知らない の一点張り。じゃあ、薬でも盛ってみたらどうかと思いましたがそれも意味なし。全くもって、強情だ。」
集「お手上げといった感じですか。そりゃあ、そうでしょうね。國崎は何も知らない。ただ、巻き込まれただけだ。」
三浦「巻き込まれた、か。なら、かなりの凶運の持ち主だ。」
集「昔からです。あの子は、何かと不運が付きまとう。けれど、その不運さへも味方にする。それが、あの子です。……聞いていたから分かってくださいますよね?」
三浦「…はぁー。…アナタの言い分はわかりました。國織さん。けど、結局は犯人が見つかっていない。六津井祈里は誰が、殺した?それも見つけられない程に参謀部 直属の警務班は無能なのか?」
集「いえ、見つかりますよ。今日中にね。」
三浦「ほぅ?なぜ、そう言い切れるのですかね。」
集「及川参謀長からしたら大変、後味の悪い話になりますが……犯人死亡として今回の騒動を終わらせるからですよ。」
三浦「犯人死亡、だと…?……ははっ、じゃあ!その犯人とやらはどこから連れてくる!?死んでいても遺体くらいは挙がらないとおかしな話ですなぁ?!」
集「それも問題ない。遺体だって用意できています。というより、用意する手間は……三浦さん。キミが省いてくれました。」
三浦「なに?」
集「さすが、【シロサギ】と兼職で軍医補佐になられた人だ。……人体改造はお手の物なんですね。」
三浦「ッ!?貴様ァ、まさか!!」
集「そう。そのまさかです。國崎がバケモノと称したあの代物。アレの鎖骨部分にティーアールエヌアール。ローマ字で焼き印されてるのを見つけたんです。……心当たりありますよね?」
三浦「ッ…ああ。そうさ。その焼き印は私が施したものだ。……だからってそれを利用するつもりか?」
集「さすがは【シロサギ】。物分りが早い。いやぁ、本当に助かりました。参謀部の指示ではないですが、ボクもいろいろ動かなきゃいけない立場ですから。」
三浦「こっのっ〜!……鬼畜生!下衆!!私を貶める気か!?」
集「(突き放すように)いくらでも罵ってください。ボクは、そんな言葉は聞き飽きるくらいに汚れていますから。」
三浦「あぁ!!ああああっ!!(顔を覆う)よくも!そんな穢れた色で祈里に接触したな!!許さない!!許さない!!あの子は、あの子はっ!!」
集「ええ、お好きに恨んでください。どうせ、お互いに報われない身なんですから。《……祈里、ゴメンね。ボクは、やっぱり長生きなんてしたくないや……。》」
▼三浦は激怒し、感情の昂りからボロボロと涙を流す。
そんな三浦の姿を見つめる集。何も映さない暗い感情を宿して、胸の内で懺悔し、瑠璃色に塗っている薬指を隠すように左手を拳の形に握り込んだ。
(間)
國崎M《アカン。そろそろ、脚が痺れてきたわ…。つーか、深呼吸しようとすると骨が痛むし、最悪やなぁ……。》
▼集から投げ渡されるかたちで手鞠を任された國崎。
手鞠を肩に寄りかからせていた状況から、膝枕へと変わってしまい。動けずにいた。
國崎M《そろそろ、目覚めてくれてもええ気ぃするが…。》
▼安定した呼吸を続けている手鞠の寝顔をチラ見し、何も出来ずにため息を長く吐いた。
國崎「ホンマ。なんで、黒なんかに染めたんやろ……。」
手鞠「うぅん……。」
國崎「お。目ぇ覚めたかー?」
手鞠「えっ、誰っ!?」
國崎「うぉ、危なっ!いきなり起きたらぶつかるやろ!」
手鞠「あ、それは…ご、ごめんなさいですの…。あの、アナタは誰ですの?どうして膝枕なんて……。」
國崎「ああ、ワイ?ワイはお人の窮地を救ったというか、何というかー。まあ、ちょいとバケモノをぶっ刺しただけやで。」
手鞠「アナタがあのバケモノを?」
國崎「せやで。まあ、言葉だけじゃ信じられへんなら別にええけど。」
手鞠「いえ、信じますの。だって、その紙袋。」
國崎「え、ああ。これか。」
手鞠「ちゃんと渡してくださったのですね。あの方々は。……あの夜は、アナタはお面をしてらしたもの。本当にお返しするのに時間がかかりまして、すみません。」
國崎M《素直というより、疑わん人やな。あの方々……警務のお人らのことか。いや、ホンマは燃やそうとしてたけどな。寝かされとったから気付かへんかったか。》
▼國崎は頭を掻き、長くため息を吐いた。手鞠が不思議そうに目を瞬く。
國崎「わざわざ、ありがとうな。お人に貸した時はあの状況やったさかい。返ってこーへんかと思っとたんよ。《……それこそ、捨てられても文句言えんしな。》」
手鞠「いいえ。アナタには殴られましたが、ちゃんと加減をして下さったのですよね。……救護班の方から無傷で良かったと言われたので。」
國崎「加減、まあ、加減したことになるんかなー。」
手鞠「アナタはお優しい方ですの。良ければ、お名前を教えてくださいません?」
國崎「えっ、あー…詩暮やで。ワイは、詩につづられた夕暮れって意味や。」
手鞠「しぐれ。」
國崎「せやで、詩暮や。お人は、手鞠って言うんやろ。可愛ええな。名は体を表す言うし。」
手鞠「私、名乗りました?」
國崎「あー?あー、いや、この紙袋を受け取るときにな。警務班のお人らから聞いたやんよ。」
手鞠「あら。ふふっ、そうだったんですのね。」
國崎「おん、驚かせて悪かったわ。」
▼二人の間に流れる空気は、あの一夜とは比べ物にならない程に穏やかである。しかし、ここはあくまで黒軍側の敷地であって、手鞠が赤の学徒である事実は変わらない。
國崎「さーて、そろそろ行こか。赤の敷地まで送るで。(立ち上がる)」
手鞠「いいんですの?お手間ではありませんの?」
國崎「ええよ。お人だって、黒まで来てくれたんやし。男のワイが送らんなんて出来へんよ。」
手鞠「では、お言葉に甘えて。」
手鞠M《気さくて、素敵な人ですわ…。》
國崎「こっちから行こか。今なら、見回りの班の人も居らへんやろ。」
手鞠「ええ、分かりましたわ。」
▼人目がつきにくい列を選んで、倉庫の前を歩いて行く。
國崎は、手鞠がちゃんと後ろから付いて来ているのか、軽く様子見しながら赤の敷地へと進んで行った。
(間)
◇赤軍と黒軍の境目◇
▼赤と黒の敷地の境い目はブロンズで造られている像だ。
赤の方には彼岸花の群生。
黒の方には三匹の烏。そんなブロンズ像が静かに台座へと固定されている。像の周りに目に見えた柵などはなく。バレたら捕まるだけで、行き来は簡単に出来てしまう。
國崎と手鞠は像の間で見合う。
國崎「ほな、ここでお別れやな。」
手鞠「はい、ありがとうございました。」
國崎「んにゃ、気にせんでええよ。ワイが勝手にしただけやしな。」
手鞠「あの、詩暮さん。(もじもじとする)」
國崎「ん?どないしたん。」
手鞠「《このまま、ただの他軍の者同士になるなんて、嫌だわ…。》……宜しければ、連絡先を交換してくださいません?」
國崎「連絡先?」
手鞠「ええ。私、異性の方とここまで親しくしていただけるなんて思ってみませんでしたの。ですからーー」
國崎「(被せるように)すまんな。手鞠はん。」
手鞠「(ドキッ)……駄目、ですの?」
國崎「そうやで。アカンねん。……お人、なんで学徒が三つの軍に分けられるか考えたことあるか?」
手鞠「それは、その人の素質や才能を活かして……」
國崎「うん、模範解答やな。まあ、そういうことや。ワイは、黒。お人は赤。意味、分かるか?」
手鞠「赤と黒?それが、私と今後、親しくできない理由と関係ありますの??」
▼本当に意味がわかっていないようだ。
手鞠からは、焦りと悲痛な感情が滲んでいる。
國崎「……ワイは不本意やけど、お人と会った日の後から【狐面の死神】なんて呼ばれとる。」
手鞠「ず、随分と物騒な呼び名ですのね。」
國崎「ホンマは、疑っとるんやろ?お人はワイを信じるって言ったな。けど、お人はあのお人と同じ目したで。」
手鞠「疑う?あの、話が見えませんわ…。詩暮さんはなんの話をしていますの??」
國崎「……ワイが、『王子』を殺したって言ったら。お人はどないする?」
手鞠「な、なんでアナタが『王子』を知っていますの……?」
國崎「何でってわざわざ訊くんか?分かってるやろ。そんなの、ワイが蒼檄に名を連ねとったからや。隊の計画は『赤が来期での戦績を挙げにくくさせる為の混乱を起こす』。つまり、戦績を挙げるのに深く関わっとる『特待生』が邪魔やったんや。……ここまで言えば分かるやろ?」
▼國崎は、ベラベラと言葉を連ねる。
酷く、とても冷たく嘘と真を混ぜ込んで音にしていく。
手鞠「あっ、あぁ……。」
國崎「なあ、お人。わざわざ髪染めたみたいやけど、似合っとらへんよ。……執着なんてやめて、元に戻したらどうや?」
手鞠m《アツメっ…『王子』…!私はどうしたら……!!》
▼クンッ…と手鞠の長い髪の一束を掴んで、引っ張る國崎。
顔を俯かせて、ブツブツと何かを音にしている手鞠。
國崎「お人、さっきも言ったけどワイは黒やで。何色にも染まりきることなんて出来へんし。させへん。……ワイとトモダチになんてなれると思ったら大間違いやで。」
▼酷薄な笑みを浮かべた。
彼女の毛先を指に巻き付けて、弄ぶ。その瞬間、風が吹き抜ける。
國崎「はっ?何なん。あ、えっ、いったぁ……。」
▼状況が呑み込めず、目を瞬いた國崎。
地面には黒々とした髪の毛束が落ち、左頬に熱さと痛みを覚える。恐る恐る左頬を触ってみる。ヌルリ…と紅い液体が掌についた。
國崎「ははぁっ…、お人。やったなぁ?」
▼その言葉に顔をあげる手鞠。
彼女は陽炎のような怒気を宿し、アクアマリンの瞳を揺らがせている。
國崎「《やっぱり、刃物くらいは隠し持ってるか…。》で。なんで斬りつけて来たん?地味に痛いんやけど。」
手鞠「《声よ、震えないで。お願いよ。》……すみませんの。考えた末の行動ですの。」
國崎「へー、何を考えとったらワイを切ることとつながるん?」
手鞠「アナタの言葉、とても傷つきましたわ。思い出していたんですの。『王子』や隊の仲間から教えられた心得を。……『罪の意識を持っているものは、微かな殺意も見抜いて避ける』と。」
國崎「ほーか。それはえっらい博打やな。ほんで?ワイは避けへんかったよ。」
手鞠「そうですね…。だから、私は私の嗅覚を信じることにしますわ。」
國崎「嗅覚ー?」
手鞠「ええ、嗅覚ですの。……人を殺したことがあるものにはそれ特有のニオイが浸みついているものなんですの。けれど、アナタは今までお相手した黒の方としてはニオイが薄い。」
國崎「だから、きりつけたんか。なんや、新手のお仕置きみたいやな?」
手鞠「詩暮さん。いいえ、【狐面の死神】。これは私なりの戒めと忠告ですの。……どうか、今後はむやみやたらに嘘をつかないでください。」
國崎「ははっ、よう言うわ。許容しかねたから切ったんやろ。……ワイは狐やで?人を嘲笑うか如くにつまむんが性に合ってんねん。」
手鞠「そうですか…。《アナタはまだまだ黒に染まれていない。無理に染まろうとしないでほしい。》……過ぎた事を言いましたわ。詩暮さん、どうか…」
▼ポッポッ……と地面に水玉模様がつけられる。それに呆気を取られる國崎。
手鞠は國崎に背を向け歩き出す。
手鞠「さよなら、詩暮さん。今度、お会いするときは敵同士。その時は、ご容赦しませんの。」
手鞠M《好ましい香りの持ち主でしたのに…、残念でなりませんわ…。アツメ、『王子』。これで、間違っていませんか?……私は、上手く偽れましたか……?》
▼遠ざかっていく手鞠の後ろ姿を見つめ、乾いた左頬を撫でる。
嘲笑のような、どこか渇いた笑いが漏れて、空を見上げた。
いつの間にか、雲が集まっていたようで重い垂れ込んだ灰色の空になっていた。
集「(走りながら)く、くにさきー!!」
國崎「……集くん。」
集「(立ち止まり、深呼吸)…なんで、こんな所に居るの!骨は?平気??」
國崎「うーん、ちょいと野暮用やで。……もう、どこが痛いんか分からへんくらいボロボロやな。」
集「?!__ッ…國崎。その傷は…」
國崎「うん?ああ、これか。」
▼左頬を軽く撫でてから、目を伏せて笑う。
(間)
國崎「ワイ、嫌われたわ。」
(間)
~エピローグ~
手鞠N「それから二日後。その日はやってきましたの。」
三浦N「[卒業式]まで残り三十日をきった日。赤と黒の参謀長が再び顔を合わせ、対面することになった。」
及川N「決着と言うより黒側の謝罪会のようなことをした。まずもって非を認め。大変、不本意だが『犯人』の情報を赤の前で公開し、直々に説明した。三浦登良の秘密裏の行動によって『犯人』を生存したままの確保はならなかったと全体の締めくくりとした。その後に、なぜ、どうして。飛び交う質疑を俺が受け止め、答えるという形をとった。」
三浦N「秘密裏の行動。薬品を扱うことが多い軍医補佐だから出来ること。つまり、人体を急激に強化させる薬を用いたと説明した及川参謀長。その副作用で、暴走し。警務班によって『犯人』は命を絶たれた。という解説。」
六条N「及川征獄の誠意ある対応に、赤軍側が絆されたようで。この一月の件は黒軍側が損することになるが『痛み分け』。つまりの引き分けとして話がまとまった。」
及川N「損というのは、赤で身柄を確保されていた学徒はそのまま赤の捕虜として『非人道的な事』以外なら好きに扱って良い、という書類にサインさせられた。」
六条N「ニマリッ…と口角を上げた赤の参謀長の顔を。私は。」
及川N「俺は忘れられそうにない。」
手鞠N「こうして、話し合いを終えた両軍は胸中に様々な思いを抱いたまま、解散となったのです。」
(間)
◇禱りの地~三部軍 共同墓地~◇
▼潮風が吹き抜ける土地に、爪紅を塗り込んだ男子学徒はとある墓標の前に佇んでいた。
集「祈里、卒業。おめでとう。」
▼西洋風の墓標には、赤色のドッグタグがカランカラン…と音をたてて風で踊る。
集「……あの後、考えてみたんだ。なんで、三浦さんがボクに噛み付いてきたのか。でも、考える必要なんてなかった。……あの人は、キミとそっくりの目元と目の色をしていた。でも、家名が違うから調べても出てこないような理由があるのかな。そうすると、踏み込みすぎるのは野暮ってやつだよね。」
▼集の髪を撫でるように風が吹き抜ける。
集「噂で聞いたけど、キミはここに眠っていないんだってね。……親御さんが学園と交渉したって聞いたよ。まあ、キミの親御さんって軍部のお偉いさんなんだね。学園も断れるわけないや。」
▼地面に膝をつく。集の掌が、墓標を撫でる。
集「ここに眠っているのは思い出なのかな。見えてる?この花束とか夢衣の誰かが備えたやつだと思うよ。……キミは、愛された存在だ。(立ち上がる)祈里に言ってない事があるんだ。……ボク、本当はキミと同学年なんだ。だから…、これから一週間のうちに学園を立ち去らないといけない。[卒業式]に参加している姿はあの子は知らないよ。骨折が悪化してね。ほぼ、病室に軟禁状態だったんだ。」
▼集は目を伏せて、優しく肌を撫でる風を感じながら言葉を続ける。
集「……あの子を置いていくことになる。昔、距離をとる為に離れたのに、ここで再会するとは思っていなかったしさ。これ以上、甘えられても困るんだ。薄情、かな。……ああ、そうだ。」
▼チャリッ…と六津井祈里のドッグタグを掌へ収める。
再びドッグタグが墓標へと戻された。赤色のドッグタグのままだが、彫られている名前が違うものが一枚。六津井のものと一緒にチェーンへと通される。
集「祈里のを、一枚もらっていくね。代わりに『アツメ』を置いていく。……キミと長く過ごしたのは『アツメ』だから。ボクは。國織集は置いていけないけど、許してね。」
▼ローマ字で『イノリ・ムツイ』と彫られている赤色のドッグタグを優しく握った。
集「愛しているよ、祈里。……さようなら。」
▼墓標から離れ、歩き出す集。
潮風が吹き抜ける。チャラン、チャララン…とドッグタグが音をたてる。
その軽やかな音は、風を伴奏に舞うワルツのようだった。
(間)
國崎「集くーん!」
集「ん、國崎。」
國崎「お昼時やで、一緒にご飯。行こかおもてな。」
集「ふふっ、いいよ。行こうか。」
▼集はキュッ…と左手を拳の形に握り込んだ。
いったい何を思ったのか。彼の想いは声に出ぬまま、白んだ青い空と共に流れていった。
黒軍編・第三話⇒云えぬ言葉、癒えぬ想い。
~おしまい~
【台本公開日】2019年8月13日(火)
【最終修正・更新日】2020年1月28日(火)
おはよう、そして。こんにちは。
閲覧もしくは演じてくださった方に感謝します!
どうも!無計画実行委員会 委員長(作者)の瀧月狩織です(σ゜∀゜)σ
さあ!本編と同じくらいにグダグダな後書きタイムですよ!!
|・`ω・)えー、やっとですね。
三津学シリーズの声劇台本も 一四本目 となりました。活動開始から一年半で一四本…。
果たして、早いのか遅いのか…(笑)
こうやって活動を続けていけるのは、ひとえにお世話になっている台本テスト時の演者様のお陰です!!……今のとこ、テスト以外で演じてくださった方をお見かけしたのが指折り程度…。
あ、いや!それでも大変、嬉しいですよ!?うん!!でもさ。ほら。ね?書いてる身としては……オダマリィ( ^o^)=⊃)´・`;)
(´・ω・`)失礼しました。
いやぁ、でもね。まさか黒軍編・第二話のサヨナラを~の後日談を書くことになるとは思っていませんでした(苦笑)
というか、後日談なのか??
一応、展開的には心理戦みたいなシーンを多めで、主役の詩暮&集が周りを振り回す形に落ち着きました(*´﹃`)
ええ、もちろん。書いてる時は大変、楽しく。ニマニマとしながらの作業でした。
なので、今作の第三話。黒の二話を知らない方には着いていけない話になっております。
いや、知らなくても着いていける気がしますけど作者としては知った上での演じの方が数倍?楽しめるかと!たぶんね!!
毎回、ぽっと出キャラ満載です(笑)
再登場はだいたい番外の【幕間】になるキャラばかりで…まあ、キャラ設定を凝っておきながら回収しないのは毎度のことですね…(。-∀-)ふへ
とまあ!あまり、本編の内容には触れない後書きとなりましたが…このへんで終いです!
また、何かの作品でお目にかかれれば幸い!
おつかれさまです!ありがとうございました。
またいずれ~☆彡
瀧月 狩織
【台本•公開日】2019年8月13日(火)