私、洗脳しちゃった、されちゃった
私は16歳の女子高生。佐藤雪という名前です。生まれたときに雪が降っていたので、雪という名前になったんだって。単純な両親なのです。もし、ひょうが降っていたらと思うと、ぞっとしちゃいます。
実は、私には好きな人がいます。一回り年上の堀田茜という、女性です。28歳のお姉さんで、私の通っている高校の先生なのです。数学の先生で、背が高く、髪はショートで、いつもきりりとしていて、すごく素敵なんです。簡単に言うと、とびきりの美人です。授業中も先生を見ていると、キュンキュンしちゃうんです。私は別にレズとかではなくて、普通に男の人にも興味はあります。でも、茜先生だけは別なのです。
先生はプライベートについては決して話さない方で、恋人がいるのか、どこに住んでいるのか謎だらけです。そこが、またいいんです。ミステリアスな雰囲気を醸し出していて、近寄りがたい感じがいいんです。授業後、本当は理解している数学の問題を、わざと分からないふりをして、質問に行くのが日課になっています。先生は嫌がらず、丁寧に教えてくれます。
「こうすれば、解けるでしょ。もう少し、問題数をこなさないといけないかも。そしたら、明日までに、この問題を解いてきて。宿題よ。」
「はーい。雪、頑張りまーす。解くの楽しいです。」
茜先生の前では、ぶりっ子になっちゃうんの。そんな私は、ある日、思い切った行動にでちゃったんです。
日曜日のお昼、駅前の本屋さんで、立ち読みをしていると、茜先生を発見したのです。茜先生は、学校にいるときとは違い、とてもおしゃれな服を着ていました。膝が見えるくらいの薄い青のワンピースに、オレンジのカーディガンを羽織っていました。初めて、先生のプライベートをのぞき見したようで、どきどきしちゃいました。そして、もっと先生のことを知りたいという欲求に勝てず、先生を尾行することにしたのです。きっと、おしゃれなカフェでお茶をし、素敵な彼と待ち合わせをして、デートとかするんだろうなあ、なんてことを想像しながら、後ろを歩いていました。
先生は、駅の構内に入ると、学校とは違う方向のホームの階段を上がって行きました。私は迷ったけど、そのまま一緒の電車に乗っちゃいました。2つ先の駅で先生は降りて、駅前の商店街をまっすぐに歩いていました。私は、ああ、もう自宅に帰るのかなと思いました。5分ほど歩いて、交差点を右に曲がったところで、先生の足は止まりました。先生は、白い小さな建物の中に入っていきました。ここが先生のお家なんだと思って、建物に近づき、建物を見ました。入口に小さな看板が掲げられていました。
「宇宙能力財団」
なんだか、怪しい名称の建物に、私はびっくりです。先生は、ここで何をしているのか、怖くなりました。尊敬する茜先生が、わけのわからないところに入っていくなんて、ショックです。でも大好きな先生です。私は正義感にかられて、そうだ、私が、先生を救い出そうと思いました。
私は、意を決して、扉をあけました。
「こんにちは。」
挨拶をすると、すぐ近くに先生がいました。
「雪ちゃん、何でここにいるの?」
「先生が入っていくのを見て、ついてきちゃいました。」
「まあ、いいわ。お入りなさい。」
部屋に通されると、先生と、あと3人の女の人と、2人の男の人がいました。怖い感じの人はいなくて、少し安心しました。
「何飲む?紅茶でいい?」
「はい。ねえ、先生。ここで何してるんですか?」
「お勉強しているのよ。」
「お勉強って、何の勉強してるんですか?」
先生も含め、ここにいる人たちの目つきがおかしい。なんて言えばいいのか、目に力がない。光がない。
「私たちは、宇宙神について勉強しているのよ。世界は宇宙から見れな小さいの。だから、宇宙の真理を極めれば、幸せになれるの。分かるかな。」
だめだ。いつもの、きりりとした先生ではない。心が抜けている。
「先生、茜先生。どうしちゃたの、一緒にここを出ましょう。」
「雪ちゃん、幸せになりたくないの?ここで一緒に勉強しましょう。」
周りの人たちは、にこにこしているだけだ。ここには、エネルギーが感じられない。ここで一番エネルギーを持っているのは私だわ
。
私は、先生を救うために、賭けに出るとにしました。
「私がここに来たのには理由があります。私は、地球人ではありません。遠く離れた星からやってきた神です。」
私は、適当にでたらめなことを叫んだ。証明のしようがないことを、話し続けた。
「物事には全て理由がある。私がここに来たのにも理由があるのです。勉強を続けたあなた方を幸せにするために、やってきたのです。私こそ宇宙神なのです。」
言っている私自信が恥ずかしくなっちゃう。全く、支離滅裂で意味のない言葉です。でも、一番年上と思われる男性が、涙を流しながら、ひれ伏したの。
「宇宙神様。ありがたき幸せ。」
それを合図に、全員がひざをつき、私に向かって土下座をしました。私は唖然としちゃいましたが、気持ちがよくなってきたので、図々しくも、さらに大げさなことを語ったの。
「みな、私を信じなさい。さすれば、幸せになれます。」
「宇宙神さまあ。」
みんな、涙を流して喜んでいる。
私は、洗脳には洗脳で挑みました。その結果、ここにいる人たちを「宇宙開発財団」の洗脳から救うことができました。でも、新たに私という「宇宙神」の洗脳を受けてしまったの。
私は、先生に命令しました。
「堀田茜、ついてきなさい」
茜先生をつれて、建物から脱出に成功した。
「雪様が宇宙神さまでしたのね。」
茜先生の洗脳は解けていない。あんなに難しい数学の問題は解けるのに。