度胸試し
どうしたらいいんだろうか。
隣で俯きぎみの女の子をチラりと見ながら僕は困ってしまっていた。うなじのあたりに垂れたポニーテールがバスの揺れに合わせて揺れている。
僕がこの春入学したこの清嶺高校は入学してすぐ2泊3日の合宿が行われることになっていて、合宿をする宿泊施設までのバスはいわゆる出席番号順になっている。バスのシートが2人ずつに区切られているのがまた腹立たしい。「2人組」で余るのも辛いが、知らない人間と2人組の方がよほど辛いだろう。
「佐々木佑介」が僕の名前。
隣の子は、「瀬尾さん」というらしく、隣に配置されているわけだけど、何を話していいのか全くわからない。
少し考えて、後ろの方から聞こえてきた出身中学校の話題をフろうと思った矢先、
「あの、佐々木くん?ってさ、ペンギン好きなの?」
「ひぇっ?えぇ、なんで?」
ひぇってなんだよ、ひぇって。
「リュックに、ほら、このキーホルダーってペンギンでしょ?」
「あ、あぁ!そう!そう!可愛いでしょ?」
自分ではそんなキーホルダーを付けていたことなんて忘れてしまっていたが。
「ふふっ。うん。可愛いね!」
片手で口を押さえて笑う彼女はとても素敵で続ける言葉は出て来なかった。
僕らの最初の会話はすぐに終わったが、音割れのひどいスピーカーから流れる校歌のおかげでその後の沈黙は苦にはならなかった。
彼女のほんのり赤いほっぺが妙に気になってチラチラ見ているうちに目的地に到着した。
その後は特に変わったこともなく、部屋割りに従って自分の部屋に荷物を運び入れ、クラスごとに集まり自己紹介をし、様々なアナウンスをされた後、ほぼ初対面の野郎共と裸の付き合いを強要された。
そして今、むさ苦しい男子達が階段に集まっている。目的は女子がいる上階だ。
「ヤバい。ヤバいって。やっぱ上まではムリ。」
胸に手を当てながら息を切らしながら河本が言う。
「お前が言い出したんだろ。男見せろよ。」
とニヤニヤしながら信田が言う。
ここで仲間に入っておこうと思い、
「なんだよ、半分でギブか。俺なら女子の階の床にタッチぐらいは出来る。」
と、自分の思っていた8割り増しで威勢のいいことを言ってしまった。
信田と河本がそそくさと横に退けて、「やってみろー!」だの「見つかっても俺の名前出すなよ!」だの言い出したので、「見てろよ。」と覚悟を決めて、脱兎の如く走り出した。
一段一段を踏みしめ、早くなる拍動を感じながら、階段が180°折れ曲る踊り場までやってきた。
壁に手をつき勢い良く方向転換、手すりを握って手の力も使ってあと半分を行こうとしたときだ、
「りなちゃんって西中だったんだー!」
高い声が鼓膜を揺らした。
汗が噴き出る、思考が止まる、ヤバい。ここにいたらヤバい。
小さくを息を吐き、大きく吸い込んで、今度は本当に脱兎のような気分で階下へ急いだ。
「ヤバいわ!これやっぱムリだわ!床タッ、、」
階下の男子に感想を言うつもりだったのだが、そこにいたのは目を丸くした「瀬尾さん」だった。