第07話 ルーファス・クロス
掃除もマリンナさん家で散々仕込まれていたおかげでなんとかなり、私的に問題だった教養はエリゼに助けられ、私たちは全てのテストを通過し、メイドの資格を得た。
「エリゼ、やったね!私たち、これでメイドになれ…る…?」
あれ?…私何か忘れてる?
「…わたくしのおかげね」
「うん、最後のはとっても助かった。ありがとう」
「…貴方も少しは役にたったわ。…だから……いいえ、何でもないわ」
…そうだ。私別にメイドになるためにここにきたわけじゃなかった
「…私、用が…」
本来の目的を思いだし、ルーファス・クロスという人を探しに行かなければと思ったところで後ろからメアリーさんに話しかけられた
「さっそくですが、合格者の貴方がたには今日から仕事を覚えていただきます。ですがその前に、この城について知ってもらわなければなりません」
「城を…?」
「えぇ。そうです。ここで最後の課題を出させていただきます。…この城の人間の何人かにある指示を書いた紙を渡してあります。お二人にはその中の一人を見つけ出し、指示に従ってもらいます」
「え…?」
「制限時間は二時間。私が始めと言ったら、人を探し出してください。…はい、始め」
早っ…!!
「エリゼ、行こう!探さなきゃ…」
「…そうね。でもわたくしたちは別行動よ。」
「別行動?」
「えぇ。そっちの方が効率がいいわ。この部屋を出てわたくしは左、貴方は右に行きましょう」
「…分かった」
「では一時間五十分後、またこの部屋の前で会いましょう」
「うん」
エリゼはそう言うとすぐに部屋から出ていってしまった
「…こうなったら仕方ない。私も行こう」
意を決して私も部屋を出てエリゼに言われた通り右側の廊下に進んだ
「あの、…指示を書かれた紙持っていませんか?」
「…!…あー、新しいメイド志望の子か。ごめん、俺下っぱだし、そんな重役任されない」
最初に私が話しかけたのはコックの服を着た同じ年頃の男の子。彼は私を見ると何故か驚いた顔をした
「そうなんですか…。ありがとうございます!」
「…待って。名前、なんていうの?」
背中を向け、他を当たろうとしたら腕を掴まれ引き留められた
「…リナです」
「…!…そっか、いい名前だね。俺はクラヴィス。引き留めてごめん。…あ、腕痛かった?」
「大丈夫です」
「これからここで働くんだろ?何か分からないこととかあったら聞いてくれよ!」
「あ…はい」
「そうだ、俺今暇だし、課題の紙?探すの手伝おうか?」
「いえ、お気遣いだけありがたく受け止っときます!」
「…そうか?遠慮はいらないぜ?」
「おい!!クラヴィス!こんな所で何女の子口説いてるんだ!時と場合を選べ!アホ!」
「うわ、コック長…って別に口説いてるわけじゃないっすよ!」
クラヴィスの後ろからやってきた男の人に彼は掴まった
「今日は忙しいって言っただろ?」
「言われてない!」
「とにかく行くぞ、ほら歩け!」
「リナ、ごめん用事出来た!またな!」
そして彼は引きずられて行ってしまった。
「あ、はい。また…」
「…あの、メイドの課題の紙どこにあるかわかります?」
「いいえ…分からないわ。ごめんなさいね」
「では、誰か持ってそうな人、知りません?」
あの後近くを歩いていたメイドさんに聞くが彼女は知らなかった
「んー?兵士さんたちはどうでしょうか?」
行ってみるも彼も違い、その後しばらく教えられた人を訪ねてはハズレ、また訪ねてはハズレが繰り返し続いた
だいぶ歩いた頃、なんだか不思議な気に引き寄せたように、ある扉の前にたどり着いた
「…何だろ。この感じ…。扉の向こうから誰かに呼ばれているみたい」
そっと扉を押してみると、ギィと音を立て、開いた
「…お邪魔します」
中に入ってみると、見たことのないへんてこなものが視界に飛び込んできた
「わっ!」
それはピンク色のふわふわした何かだったり、カエルに角が生えておまけに長いしっぽまでついた紫色の動物らしきものだったりした。そしてそれらは全てガラスのケースに閉じ込められていて、不気味な雰囲気をただよわせている。
机の上をみると、理科で使うフラスコみたいな形のたくさんの容れ物に色とりどりの液体が入っている
「……魔法使いの部屋みたい」
「…魔法使いの部屋だからね」
私が呟いた時、目の前にパッと、小学校高学年くらいの可愛らしい男の子が現れた
「…え?」
「はじめまして、リナ。僕はルーファス・クロス」
「ルーファス・クロス…!」
「そう、君をこの世界に誘いこんだ張本人」
「…え」
こんな小さな子どもが?…確かライアンは国王つきの魔術師って言ってたと思うんだけど…
「…ここに来るまでたくさんの事があったでしょ?マリンナの家に居候してその間にこの世界の事を学び、城に侵入したはいいけどメイドと間違われて試験を受けさせられる」
「!」
「君の様子はずっと見させてもらってたんだ」
「…ずっと?」
「うん。でも今、ちょうど溜め込んでた仕事が終わって、時間が空いたから君のことを呼び寄せた」
「呼び寄せた?」
「君、何かに引き寄せられるようにここに来ただろ?」
「うん」
「…それは僕の仕業」
「へ?」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。それよりさっそく君に頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「そう。君の世界に送った本にも書いたけど、今この世界には大きな脅威がある。一部の人間しかその存在のことを知らないけど」
「…」
ルーファスと名乗る少年は一気に語り始めた
「…その脅威ってのは、このラヴェンダ王国が所持する兵器と隣のアルヴァン王国が所持する《レイス》のこと。この二つが同時に使われると、この世界は滅びる」
「え?滅びる…?」
「そして今、ラヴェンダとアルヴァンの関係は最悪。いつ戦争が起きてもおかしくない。…戦争となればどちらの国も必ず《レイス》を使うはず」
何を言っているかよく分からないがとりあえずルーファスの言葉に耳を傾ける
「…《レイス》は憎しみを集めるごとに強くなる兵器らしい。普通の武器くらいだったら僕の力で止められるけどさすがにこれには僕の力だけじゃ及ばない。だから異世界に助けを求め、君を呼んだ」
「…何故私を?」
「…知らない。僕が選んだわけじゃないし」
「え」
「…《レイス》を止めるには……[アイ]を集めなきゃいけない」
「アイ?」
「そ。この七つの瓶を全てその[アイ]でいっぱいにしなきゃ、《レイス》を止める魔法は使えないんだ。しかもこの恋瓶にアイを集められるのは異世界の人間だけ」
「…はぁ」
言いながら、ルーファスは何もない空間から、ポンッとテニスボールくらいのハート型の瓶を七つ取り出した。全て透明で透き通っている。
「…言っておくけど君に拒否権はないよ。」
「は?」
「…全てが上手くいったら元の世界に戻してあげるけと、ここで断ったら君、帰れなくなるよ?召喚された人間は召喚した魔導士にしか帰せないからね」
「えぇ?」
ルーファスは私の反応を見ながら、空中で先ほどの恋瓶たちをくるくると規則正しく回している。
見ているとそれはどんどん小さくなり、ルーファスの左手から出てきたブレスレットくらいの鎖に順番に繋がれていった。
「…何してるの?」
「見てわからない?…一つでも無くされたら困るからブレスレットにしてるんだ」
そう言うとルーファスは出来上がったものを私の右手首にはめた。
「そうだ、瓶を元の大きさにしたい時はその瓶に触れて『瓶よ、元の大きさに戻れ』って言えばいいよ。ブレスレットに戻したいなら『瓶よ、小さくなりブレスレットに戻れ』て言えばいい」
まだよく理解出来てないけど、とりあえずルーファスがすごい子どもだってことは分かった。
「うん。…それで[アイ]ってどうやってためるの?」
「…その瓶に導かれて出会う人間と仲良くなればたまるんじゃない?」
「瓶に導かれて出会う人って…」
「僕には分からない。多分に少なからず関わっている人たちかな」
「…」
ルーファスは訝しげにブレスレットを見つめる私にため息をついた
「…僕の勝手で頼むんだから何かあればちゃんと手を貸すよ」
「え」
「心の中で…まぁ口に出してもいいんだけど、強く『ルーファス助けて』と願ったら助けてあげる」
「…はぁ」
「…後、せっかくメイドになってもらったところ悪いんだけど、この世界にいる間、君は僕の妹ってことにするから」
え?こんな小さな子の妹?…私、高校生なんだけど?
「い、妹…?」
「うん、僕の親族って言っとけばとりあえず誰も君を悪くは扱わない」
「いや…」
そういう問題じゃなくて…こんな小さい子にこんな大きな妹がいるわけないよ!
「…今、君が妹だってみんなに公言したから」
「は?え?…どうやって…」
「テレパシーで。ほら、コレあげるからメアリーの試験なんとかしてきなよ」
そう言ってルーファスが渡してきたのは紙。よく見ると文字が書いてある
「これ、課題の紙!ルーファスが持ってたの?」
「まぁね。…そろそろ戻らないとエリゼが待ってるんじゃない?早く行きなよ」
「あ…うん」
そう言われ、扉の外に出た。紙に書かれた指示には暗号らしきものが書かれているが、その下に手書きで答えが書いてある
「…メイド専用更衣室にあるメイド服を二着持ってくること?」
…ルーファスがコレ、解いてくれたのかな?確かに私じゃこれはとけなかったけど
さっそく私は更衣室を探し出し、メイド服を二着持ってエリゼとの待ち合わせ場所に向かった