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ラヴェンダ王国と魔法の恋瓶  作者: 佐倉 猫子
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第05話 写真


「え!?崖から落ちたの?…それって死んで…」


「ない!死んでないから今ここにいるんだろ!」


「だよね…。でも、マリンナさんにそんな過去が…」


「意外だよな。あんなやつが伯爵の娘だなんて」


「いや…。でも、崖から落ちて、よく生きてられたね…」


「あぁ、まぁ、あいつ丈夫だからな。何故か奇跡的に助かって、川で流されてたとこを、おばあさんに助けられたらしい」


「桃太郎みたい…」


「え?」


「ううん。それで、どうしたの?」


「しばらくはそのおばあさんのとこにいさせてもらってたらしい。で、怪我が治ってからそこを出て、色々あってこの店を開いたんだな。」


「そうなんだ…」


「ちなみに、そのあと店が軌道に乗り始めた頃にオレを拾ったんだ」


「拾った?」


「ん?言ってなかったか?オレ拾われたんだ。なんか、どっかで倒れてたらしい」


「えぇ!?」


「ま、そんなこんなでマリンナは王が嫌いなんだよ。例え違う国の王でもな。」


「…そっか。…私知らなくて悪いことしたな…」


「知らなかったんだからしょうがないだろ。で、どうするんだ?やっぱ城行くのか?」


「……うん。でも私、もう一回マリンナさんと話してみる。…マリンナさんは私の恩人だから…このまま行くのは嫌だ」


「そうか、ま、頑張れよ!途中までなら城に入るの手伝ってやる」


「ありがとう」


私たちは会話を切り上げ、お皿を洗ってそれぞれの部屋に戻った。




部屋に戻り、ベッドに座る。ほとんど物がない部屋だが、一つだけ、三人で撮った写真が写真立てに飾ってある。


それを手にとって、見つめた。


「……もうここに来て何ヵ月も経ってる。…早く元の世界に帰らなきゃなのに…。…もっとここにいたい…二人ともっと一緒にいたいのにっ。でも…みんな私を心配している。こんなに家、開けてるんだから…」


ガタッ、その時扉の前で音がした。


「…誰?」


部屋の外に出てみるが誰もいない。


「風…かな。まぁ、とりあえず今日は寝よう。明日、もう一回マリンナさんに話してみて…それから今後のことを決めよう」


私はもう一度ベッドに戻り、眠りについた。




次の日、早く目が覚めた私は、散歩をしようと思い、外に出た。


「リナ」


名前を呼ばれ、振り返ると、今出たばかりの玄関にマリンナさんが立っていた。


「…マリンナさん」


「リナ、昨日は悪かったね。…あんたは何も知らないのに…」


「いいえ…昨日、ライアンにマリンナさんの過去のこと…聞きました。だから、マリンナさんがお城に行くのを反対する理由も今は分かっています」


「は?過去?…何でライアンが知ってるんだ?」


「へ?」


「まぁ、それは今はいい。リナ、あんた家族のこととか…思い出したのか?」


「え…?」


「あー、えっと、昨日…部屋の前で聞いちゃったんだ」


「…あ」


部屋の前の物音、マリンナさんだったんだ!


「…思い出して、帰るには、ルーファスの力がいる…ってことなのかい?」


「…はい、そうです」


「……そうだよね、あんたにも家族はいるんだ。あたしの過去がどうこうじゃない。……あんたの記憶がないうちはあたしはあんたの保護者でいようと思ってたけど、もうその必要はないね。…城でもどこでも行くといい」


「マリンナさん…」


「…ただし、またここに必ず戻ってくると約束しな」


「…え?…また戻ってきて、いいんですか?」


「当たり前だろ?…少なくともあたしはあんたを家族だと思ってる。家族は同じ家に帰るはずだ。それに、家族の一員なら、家族の人生の道を邪魔しちゃダメだと思ったんだ…だから…」


「…マリンナさん!」


私は思わずマリンナさんに抱きついてしまった。


あんなに昨日は反対していたのに、マリンナさんはマリンナさんなりに色々考えて、私を先へ進ませる選択をしてくれたんだ。


「うわっ!いきなり抱きつくな!危ないでしょ!」


「…朝から何、騒いでんだよ、二人して!」


玄関から、ライアンまで出てきた。


「あ、うるさかった?ごめんね」


「別に。…でも、その顔…マリンナと話し合えたみたいだな」


「うん、ライアンもありがとう!」


ライアンのこともぎゅっと抱きしめる。


「うわっ!ちょっ…止めろよ!」


「あっはっはっは! ライアン、赤くなってやんの!」


「な、なってねぇし!」


「…よし、じゃあみんな起きてるし、朝食にするか!」


「はい!」


そうして私は、マリンナさんから許しを得てお城に行けることとなった。





「リナ、いつ城に行くんだい?」


「あ、えっと、なるべく早く行きたいんです」


「早く…か。まぁ、善は急げって言うしね。分かった。じゃあ、今日行ってきな」


「え!?今日?」


唐突に告げられ、朝食を食べるのに使っていたスプーンを思わず落としてしまった。


「わっ、大丈夫か?」


「あ、大丈夫です。 すみません…。でも、今日…ですか?」


「そう、今日だ。あたしは仕事もあるし、城へは見送りに行ってやれないが…ライアンについていってもらいな。」


「あ、はい」


「ライアン、城への道、覚えているよね?」


「あぁ、もちろん」


「じゃあ、リナ、食べ終わったら持っていく荷物を準備しな。 あたしがあんたに買ってあげたものも持っていっていいんだよ。要らないものは置いていってもいいけど、あたしたちは使わないからさ」


「え?荷物を?」


「…ルーファスは魔術師だ。もし、会えて運が良ければ、魔術でそのまま国へ帰してくれるかもしれないだろ?」


「…はい」


「あ、カバン。あたしのお下がりのやつ後で渡すから、荷物は全部そこに入れて行きな」


「ありがとうございます」





朝食を食べ終え、私はマリンナさんにもらったカバンに荷物を全て詰め込み、玄関へ行った。

すると、二人ともすでにそこにいて、私の姿を確認すると、ライアンは私の荷物を持ってくれ、マリンナさんは私を抱きしめた。


「え…?」


「…リナ、絶対にまた、元気な姿でここに戻ってくるんだよ。 あたしたちはいつでも待ってるから!」


マリンナさんは笑顔で優しい言葉をかけてくれる。


「はい!必ずまたここに来ます…いつか」


私もそう告げて、どんどん込み上げてくる寂しさをおさえ、涙が出てしまいそうなのを我慢し、マリンナさんとライアン、今まで暮らしてきた家、店を目にやきつけた。


「…ライアン、しっかりリナを送り届けるんだよ!」


「分かってる!」


「じゃあ、またね」


「はい、また」


私はマリンナさんと別れを告げ、先に歩き出したライアンを追いかけた。







城は遠くからなら見たことがあったが、やはり近くで見ると、とても大きい。


「わぁ~、すごいね!」


それに、美しい。なんだかおとぎ話の国の中へ入ってしまったような感覚に陥る。…まぁ似たような状況にはなっているわけだけど。


「リナ、こっちだ」


ライアンは、私を裏の方へ案内しようとする。


「え?何処に行くの?門はあっちだよ?」


「お前、アホか?あそこには門番がいるだろう!?…入れてくるわけない!」


「あ、それもそうだね」


「今から行くとこの兵は他と比べて手薄だし、オレが囮やればお前はすぐに中に入れるだろ」


ライアンは歩きながら話し始めた。


「何でそんなこと知ってるの?兵が手薄とか…」


「マリンナには秘密だけど、オレよくここに来てるんだ。なんか、きらびやかだし、別世界みたいで楽しいんだ」


「あぁ、たまに何処かに行ってると思ったらここに来てたんだね」


「まぁ、ここだけじゃないけど。オレ、冒険すんのも好きだからさ、色々行ってんだよ」


「そうなんた?」


「そ。よし、着いたぞ。ここだ。」


ライアンが止まって見据えた先には高い塀がある。


「え?…ここ?…塀があるように見えるんだけど」


「あるぜ?だから、兵はもあんま多くないんだよ」


「そっか。でも、どうやってこの塀に上るの?」


私が聞くと、ライアンは後ろにあった木に登り始めた。


「リナも来い!」


「えぇ?」


…向こうの世界では、あまり木登りなんてしたことがなかったし、こっちの世界に来てからだってそんなことしていない。


「早く来いよ。 城に入んなきゃなんだろ?」


私は恐る恐る枝に手をかけ、かなりの時間をかけてライアンのところに行った。


「遅い!」


「う…ごめん」


「でも、よくここまで来れたな。そこら辺の女だったら、『きゃ~!こわーい!』とか何とか行って登れないだろ」


「…今はそんなこと言ってられないからね」


「あー、まあな。…じゃ、リナ。今から作戦言うからよく聞けよ」

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