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ラヴェンダ王国と魔法の恋瓶  作者: 佐倉 猫子
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第02話 ライアンとマリンナ

眩しい光が徐々に薄らいでいき、そっと目を開けてみる。しばらくは残像で何も見えなかったが慣れてくると周りが見えるようになってきた。


「…あれ…?どこ、ここ…」


ぼーとした後、辺りをキョロキョロと見渡してみると、先ほどまで居た自分の家ではなく、どこか遠くの、まるで映画のセットのような外国風の家がたくさん立ち並んでいる。



慌てて寝転がった体勢から起き上がろうとしたところ、ゴチンッと頭が何かにぶつかり、また地面にうずくまる。少し涙が出てしまうのを止められはしない。


「痛ったぁ~~!!」


「痛ってぇな!いきなり起き上がんなよ!バカ!」


隣から声が聞こえ、ちらりと横を見ると、私と同じように頭を抱えてうずくまる十歳前後の男の子がいた。


「え…あ、ごめんね。大丈夫?」


「大丈夫じゃねぇよ!!石頭!」


「ん?…石頭?それはアンタのことでしょ!」


「なんだとっ!やんのかっ!コラ!」


男の子が立ち上がった時、バシイッと少年の頭めがけて何かがとんだ。いや、正確にはいきなり人が現れて、男の子の頭を殴ったのだ。


「…ライアン!!…あんたは簡単な買い物さえろくに出来ないのかい?それに、何道端で女の子泣かせてるんだっ!」


「はっ!?あ、うわっ、マリンナ?なんでここに…って別に泣かせてねぇよ!」


「あんたがなかなか帰って来ないもんだから、迎えに来たに決まってんだろ!……お嬢ちゃん、大丈夫かい?」



マリンナと呼ばれた勇ましい女性は、まだ若そうなのにかなり貫禄がある。…この男の子はこの人の息子か何かだろうか。


「若いのに、傷痕が残ってしまったら大変だね。ほら、家に来な。 手当てしよう」


女性は手を差し出し、私を支えながら立ち上がらせてくれた。


「あ…いえ、そんな迷惑になるので…」


「そんなこと気にしなくていいんだよっ。これもあのバカライアンのせいなんだから。遠慮せずに、おいで。」


「え…」


「あ、そうだ。 バカライアン、あんたはちゃんと買い物してから帰ってくんだよ。全部揃ってなかったら夕飯なしだからね!」


「は!?」


男の子はそう言われると、血相を変え、走ってどこかへ行ってしまった。


それを見届けると、女性は「こっちだよ。ついておいで」と言い、私を彼女の家に招待してくれた。







「んー。怪我はないようだね。良かった良かった」


家に着いた後、すぐにイスに座らせられ、怪我を確認してくれた女性は安心したようにほっとため息をついた。


「あ…ありがとうございます」


「いやいや、いいんだよっ。あ、それよりその服、珍しいね。外国から来たのかい?」


「え…あぁ、まぁ。…あの、ここどこでしょうか?」


服はこの世界に来る前のもの、そのものだ。ここのきものとは大分ちがう。


自分の服を見て、曖昧に答えた後に、先程から気になっていたことを聞く。


ん?この世界に来る前?…ここ、何?


「え?あんたまさか…さっき頭打ったせいで記憶でもとんだ?」


「…そうかもしれません」


だってここがどこか本気で分からないし。まるで夢のようだよ。…ん?夢?あ、夢か、コレ。…でもそれにしてはさっきの頭突き、かなり痛かったような?


「なんだって?…本当かい?記憶喪失?……ここはラウェンダ王国さ。どうだい。思い出せたか?」


「…いや…ん?ラウェンダ…王国?」


ラウェンダ王国?なんかどっかで見た気がするなぁ。どこだっけ………あ!まさか…あの本に書いてあった国!?


「思い出せたのかい!?」


「うーん…」


…ってそんなわけないか。


「…困ったな。お嬢ちゃん…あれ、そう言えば、お嬢ちゃんの名前は?名前、覚えている?」


心配そうに顔をのぞきこんでくるグリーンの瞳に見つめられ、私は首を縦にふる。


「あ、はい。私は篠原莉菜と言います!」


「ササハラリナ?…んー、珍しい名前だね。なんて呼べばいいんだい?」


「えっと、では、リナと」


「リナ、ね。あたしはマリンナって言うんだ。さっきの子はライアン。」


「マリンナさんに、ライアン。…親子、ですか?」


そう言うと、マリンナさんは手を叩いて大爆笑し始めた。


「あっはっはっは。え?あたし達そんなに似てるかい?」


「えっと、親しそうに見えたので…」


「あー、そう見える?いや、親子じゃないから!…しかもまだあたし二十代だよ!」


ゲラゲラ笑いながら答えてくれる。


「…え?すみません、失礼でした…ね」


「大丈夫。あたし、面白いコは好きだよ!」


マリンナさんが笑いながらそう言い終わるか終わらないかのうちにドアがバンッと開き、たくさんの食材を抱えたライアンが戻ってきた。


「戻ったぞ、マリンナ!…夕食は…って、何でコイツまだいんだよっ!」


扉を足で閉めたあと、ふとこちらを見てライアンは目を見開いて驚いている。


「お、なんだ。早かったね。」


「おい、何でコイツまだここに…」


「うるさい!」


二度同じセリフを叫ぼうとした少年にゲンコツがとぶ。


「何しやがる!てめぇ!」


「…近所迷惑だろ!全く…。そうだ、リナは外国から来たんだろ?」


「…はぁ」


まぁ、そういうことにしておこう。


「今夜泊まる場所はあるのかい?…そういえば荷物はどうした?」


「荷物…?」


…確かに、外国に手ぶらで行く人なんていないよね。


「…まさか、どっかで山賊とかに奪われたんじゃないだろうね?」


「…いえ、そんなことないと思いますけど…」


「思います?…やっぱさっきので記憶とんでるのかねぇ。誰かさんのせいで」


マリンナさんはじろっとライアンを睨む。


「う…」


後退りしながら、彼は頬に汗を浮かばせた。


「…今日の宿がないなら、家に泊まっていきな。記憶が抜けた女の子を外に追い出すなんてあたしにはできないからね」


「おい、何言って…こんなよく分からねぇ人間家に置いておけるかよ!」


「…ふーん?あんた、倒れてるこのコを心配して買い物ほったらかしてまで様子見てただろ?何を今さら。元から家に連れてくる気だったんだろ」


「は?み、見てたのかよっ!だったら声かけろ…じゃなくて、そんなことしてねぇよ!なんで見ず知らずの女なんて心配して…」


「あの、いいですよ。私、なんとかするので…」


「ダメだ!…もう夜も遅いし、家に泊まっていきな」


「は…はい」


マリンナさんの気迫に負けて、つい了承してしまった。


「よし、決まりだね。じゃあ夕飯作るか」


「…しょうがねぇな。…おい、お前!」


「…私のこと?」


「そうだ。お前だ。オレの名前はライアン。ライアン様って呼べ」


「私はリナだよ。ライアン、あの時、私を心配してくれてたんだね。失礼な事言ってごめんね」


「い、いや。オレの方こそ…って、違う!それに、ライアン様だ!様!」


「うん、よろしくね、ライアン」


「おい、夕飯作るよ!ライアン、リナ、元気なら手伝ってくれ」


「あぁ、分かった!」


「はいっ!」


まだ何か言おうとしていたライアンは口を閉じ、代わりに返事を一つして台所のマリンナさんの方に向かっていった。

私もそれに習い、後について台所に向かった。


夕飯は初めて見る料理も多く、作るのも食べるのにも少し手間取ったが、味はとても良かった。


「美味しいです!」


「おぉ、それは良かった。」


「…これでも、小さいレストランやってるからな!」


嬉しそうにマリンナさんは笑い、ライアンは誇らしげに胸をはる


「そうだったんですか!」


「リナ、そういえばあんた、明日から行くところとかあるのかい?」


「行くところ…?」


「そう。なんか目的があってこの国に来たんでしょ?…やっぱ覚えてない?」


「…はい、すみません」


「いや、いいんだ。…じゃあさ、家のレストランで働かない?」


「えっ?」


「あんたけっこう器用だし、最近一人辞めちゃってちょっと困ってたんだよね」


「でも…」


「家の部屋一部屋空いてるし、そこ貸すからさ!」


「…そんな、怪我の看病までしてもらって夕食もいただき、それに働き口に部屋まで…」


「いいの、いいの。これもなんかの縁だと思うし。ね?」


…夢の中だとしても、レストランで働くのはなんか楽しそうだと思い、少しワクワクしてしまう。でも…


ちらりとライアンの方を見る。


「…マリンナが言うなら、いいんじゃね?一人増えればオレの仕事も減るし」


「あんたの仕事は減らさないよ!…どうだい、リナ。ライアンもこう言ってるし」


「えっと、じゃあ、お願いします」


「オッケー。じゃ、食べ終わったら部屋に案内するわ」


ニカッと歯を見せて笑うマリンナさんは女の私でも思わず惚れてしまいそうなほど美しい。



…それにしても、現実はこんな甘くないでしょ。こんなに優しい人いないよ!まるで夢のよう…てさっきもこのくだりやったな。



その日は皿洗いを手伝った後少し家を案内してもらい、その後はすぐにベッドに入り、眠りについた。



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