第17話 舞踏会
「…え?」
「何?聞こえなかったの?…そんなわけないよね」
「聞こえたけど、え?」
「…君は僕の妹ってことになってるんだ。しょうがないでしょ」
私は今、ルーファスの部屋のソファで固まっていた。
それは彼が急に呼び出したあげく「一週間後の隣の国が主催する舞踏会に君も呼ばれてるから来て」と言うからだ。
「…隣の国と仲悪いんじゃなかったの?」
「…君は国同士が一直線に並んでいるとでも思ってるの?隣の国と言っても何個かあるんだよ」
「あ、そうだよね」
「それで、今回はカシャート王国の開催だけど…ラヴェンダ王国もアルヴァン王国も招待されている」
「え…それって」
「…二つの国に隣接するカシャートだ。今回の舞踏会が開かれるのは暗に戦争は起こすなという主張をするためでもあると思う」
「わぁ…そうなんだ、よく分かるねルーファス」
「…普通に考えたら分かるでしょ。…後もう一つ、言っておくけど、この舞踏会、表向きはカシャート王国の王子の結婚相手を探すためのものってことになってるから」
「へー…でもさ、どうしてルーファスはそんな…隣の国の舞踏会になんて呼ばれてるの?」
そう聞くとルーファスは少し眉を寄せたがすぐにまたさっきと同じ真面目な顔に戻った。
「…君は知らないかもしれないけど、この世界では魔法使いはとても重宝されていてね、位もそれなりに高いんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。そして僕はこの王国に来る前はカシャートにいたんだ。そこで散々あの王子の世話をしてあげてたからね。呼んでくれたんじゃない?」
「ここに来る前に…?」
あれ、ルーファス何歳だっけ?
「まぁ、僕に妹がいるって聞いて興味を持ったこともあると思うんだけど」
「…そっか。ねえ、ルーファス」
「なに?」
「私さ、ダンスとか出来ないよ。礼儀とかもよく解らないし」
「うん、知ってる。…君は今メイドとして働いてるみたいだけど、僕の妹ってことになってるんだから本来はいい部屋で綺麗なドレスとか着れるんだよ」
「…え?」
「…だから、一週間だけメイド休んで本来の位置に戻って。礼儀やダンスの事を教えさせるから」
「?」
「僕が君のために人を用意しておいたから、その人に教えてもらってってことだよ」
「え、あ…うん」
「とりあえず、ここ行って」
「うん…」
ルーファスに渡された紙を受けとるとそこには地図が書いてある。
「何、ここ…」
「僕のこの国での家だよ。君には一週間そこに行ってもらう」
「嘘…」
「この後すぐに行って大丈夫だよ。必要な物は全部あっちに揃ってるし」
「え…でも」
「ドローテアに許可取ってあるし、安心して行っていいよ。じゃ、頑張れ」
彼はニコッと笑い、私を部屋の外に出した。
部屋から出ると不機嫌そうなエリゼが立っていた。
「ドローテアさんに聞きましたわよ!…わたくしに何も言わずに行ってしまうなんて酷いですわ!」
「いや…私も今ルーファスに聞いたばかりなんだ」
「…そうなんですの?」
「ごめんね、エリゼ。一週間留守にするよ」
「…」
「あれ?さみしいの?」
少し俯くエリゼを見て思わずそう言ってしまう。
「そ、そんなことありませんわ!」
「大丈夫だよね、エリゼにはエリックもいるし」
エリックの名前を出すとエリゼの顔はみるみるうちに赤く染まる。
「…そんなの、関係ないですわ!」
「よし、じゃあ私一度部屋に戻るね。…持ってく荷物の整理しなきゃだから」
「…もう行くんですの?」
「うん、早く行きたいんだ」
一週間しかないんだもん。それまでにたくさん覚えなきゃいけないことがあるだろうし。
「そう…わたくしはまた仕事に戻らなくてはいけませんけど、気をつけて行ってほしいですわ。それと…が、頑張って」
「うん、ありがとう。エリゼ」
エリゼはその言葉を聞くと照れたように背を向け、そのまま走っていってしまう。
その後私は一度部屋に戻り、荷物を持って地図に書かれた建物を目指すために城から出た。
「……え!」
城から出ると地図が二足歩行をしているウサギの姿になり、「着いてきてください」と言った。
ウサギが案内してくれた先には可愛らしいお城があった。王城よりは断然小さいが、それでも充分な広さがある。
「あら、貴方がリナ様?」
門の前で二人の衛兵の間に立っていたメイド姿の女の子が、城に見とれている私に声をかけた。
「あ、はい!」
「はじめまして。私は貴方の案内役のマリーです。このお屋敷で奉公させていただいています。…よろしくお願いします!」
私とあまり歳は変わらないであろうその女の子は自己紹介が終わると深々と頭を下げた。
「…あ、頭を上げて!よろしくね、マリー!」
「はい!」
慌ててそう言うと、マリーはどこか嬉しそうに顔をあげた。
「お屋敷を案内しますね、リナ様」
「ありがとう」
マリーは広い屋敷の部屋を一つ一つ説明しながら案内してくれる。
「それにしても、ルーファス様にこんなにお美しい妹様がいるなんて知りませんでした」
「…」
最近出来た妹だからね…。
「ルーファス様は謎が多い方ですが…私たちにもよくしてくださる優しいお方です」
「そっか」
確かにルーファスは色々助けてくれるし、優しいよね。
「あ、こちらがリナ様のお部屋です!」
中に入ってみると、ピンク色と白を基調とした可愛い部屋だった。
「可愛い…お姫様の部屋みたい…」
「ふふ、気にいってくださいました?このお部屋、私たちが考えたんです」
「へぇ!センスいいんだね!とっても素敵!」
「ありがとうございます」
マリーはニコニコとずっと頬笑みを浮かべている。
「あ、もう時間!…リナ様最後に…」
マリーは時計を見て焦った顔になり、慌てて部屋の外に私を連れ出し、ある階段の前に止まる。
「ここから上には言ってはいけません」
「どうして?」
さっきとうって変わって真剣な顔をするマリー。
「ルーファス様にそう言われているからです。…使用人の私たちも入ることができません」
「…うん、わかった」
私がそう言うと、マリーは驚いた顔をした。
「…入りたいと思わないのですか?」
「え、思うよ。けど、ルーファスがダメって言うなら入らない。そこに何があるかは気になるけど」
「階段を上ると、ルーファス様のお部屋があるそうです。だれも言ったことがないため、真相は解りませんが…」
「そうなんだ。でも、誰も見ようとしないなんて…みんな言いつけを守るいい人たちですね」
マリーは少し気まずそうに笑顔をつくる。
「…いえ。好奇心で見に行こうとした人は何人かいました。けど…」
「けど?」
「みなさん、途中で何かに飛ばされ階段を落ちるのです。そしてすぐに仕事を辞めてしまうのです…」
「ふーん、何があるんだろう」
「あ、リナ様。今、興味を持ちましたね?ですが、絶対にいけませんよ!」
「はーい…」
「では、案内は一応終わったのでリナ様の先生になる方を紹介しますね!」