第01話 始まり
家の近所にはおじいさんが一人で経営する古い貸本屋さんがある。
そこにはあらゆるジャンルの様々な本が置いてあり、子供からお年寄りまでみんなが楽しめ、いつもお客さんで賑わっていた。
しかし、市立図書館が出来てからは、活気のあったその店も一人、また一人と客足が途絶えていき、今この店にいる客も私一人だ。
「こんにちは、また来ました」
「あぁ、いらっしゃい。莉菜ちゃん。そろそろ来るころだと思って待っていたんだ」
ニコニコと笑顔で迎えてくれるおじいさんは私がここに通い始めた小学二年生のころから何も変わらない。
「おじいさんがオススメしてくれた本とても面白かったです、ありがとう」
「おぉ、それは良かった。あ、そうだ。新しい本を入荷したよ」
「新しい本?」
「ワシは貸し出しカードとってくるから、そこの新刊コーナーを見てるといい」
「はい、そうします」
おじいさんが店の奥に入るのを確認してから、私は新刊コーナーの前に立った。
そこには最近話題の芸能人が書いた本から、賞をとった純文学の本、子供用の絵本まである。
しかし、私が手にとったのは、外国語で書かれた表紙の辞書並みに分厚い本だった。
その本を一目見た瞬間、吸い寄せられるように目が離せなくなったのだ。
「おや、さすが莉菜ちゃん。お目が高い。その本が気になったのかい?」
「わっ!あ、はい」
後ろから声が聞こえ、肩がびくっと震える。
「それはね、特別の本らしい。だから、莉菜ちゃんに一番に読んでもらいたいんだ」
「一番に…?いいんですか?」
「もちろんだよ。あ、だけど、読んだら、ぜひ、感想を聞かせてね」
「はい」
そんなこんなで私は、その本を胸に抱えて帰路についた。早く読みたくてウズウズする。
家に帰り、縁側に座布団を敷き、その上に寝転がって本を開く。題名と同じで、知らない外国語のはずなのに、何故か書かれている内容が理解できた。
「題名は…ラウェンダ王国物語?…作者はえーと、ルーファス・クロス?……この本は…………」
1ページ目
[・最後まで読むこと
この本は、貴方を本当に物語の中にお連れするものです。簡単な覚悟では決してページを開いてはいけません。ーー私たちの国は今、大きな脅威に脅かされています。現在の私たちではそれに打ち勝つ力がありません。ですので、貴方の力をお借りしたいのです。もし、覚悟が出来、私たちを助けて下さるのならば、次に綴る一つを実践し、後の二つを必ず守ってください、
・一つ、物語に入るにあたり、貴方の容姿を創造してください。美しくしても、どんなものにしても構いません。もちろん、そのままの姿でも結構です。
・二つ、一度始めたら、最後までやり遂げること
・三つ、死なないこと
決意が出来たら、ページを捲ってください。あなたを私たちの国に招待します]
「凝ったつくりの本だな。…物語に入るって…いつもの事なんだけどな。主人公に感情移入して。でも、容姿を考えさせる本は初めて見たなぁ。珍しい。きっと、容姿を決めていた方が想像しやすいんだろうな、話が」
試行錯誤した後、自分的に一番好きな金髪碧眼美少女を思い浮かべた。
「それで…[最後までやり遂げること]って、最後まで読めってことってことかな?[死なないこと]は、読んでるうちに死ぬなってことかな。まぁ、二つ目のと同じか」
そう呟きながら、次のページを開いた。
すると、パァーと本から光が放たれ、私の身体は何かに引きずり込まれるような感覚に陥いり、思わず目をぎゅっと瞑った。