おわり。
「お兄ちゃん……!」
今まで人の形をしていたものが光の粒となり、空へと飛んでいく。志保はそれに手を伸ばそうとして、瞬時に引っ込めた。もう、“兄”離れしなければならないのだ。ここで掴もうとしたら、彼はまた戻ってきてしまう。
「ごめんね、お兄ちゃん。ありがとう」
志保は呟くと、彼の姿が跡形もなくなったのを確認してから、左手の薬指にはめていた安物の指輪を道路の排水溝に投げ捨てた。ここに来る前に三百円ショップで購入した品物だ。彼に安心してもらう、ただそれだけのために付けてきた。
自分はもう、成長が追いついた。あとは超えて、老いていくだけだ。ずっと“妹”の立場に甘んじていた彼女は、“お兄ちゃん”にその様を見られるのが嫌だった。
初めは死んでしまおうかと思っていたが、どうしても出来なかった。ならば、生きてこの姿のまま永遠に共にいられる方法を探すしかない。だが、不老不死になる方法なんて、見つかっても実践なんて出来ない。たとえなれても遅いところまできてしまった。だから。
「お兄ちゃん、ありがとう。ずっとずっと大好きだよ」
志保は、これから一人で歩いていく。
心の中の彼は、永遠に褪せることなどなく彼女と共に生き続けてくれるだろうから――。