発揮
翌日、奈都はひとり戦場へと、連れてこられた。
『奈都…』
『いいんだ。お前はここで、待っていてくれ』
イサは部屋に置いてきた。
ほぼ、軟禁に近い扱いになるだろうが、構わない。
人と人が殺しあうところなど…況してや、それに今から自分も加担するのだ。
イサには見せなくて済むのなら、そのほうがいい。
「お待ちしておりました。奈都さま」
「!お前は…」
丘の上で待っていたのは、奈都を迎えに小屋へ来た、あの背の高い青年兵士だった。
「コーサ、と申します。奈都さま。どうぞ、こちらへ」
コーサと名乗った彼は、奈都を崖の間際まで呼び寄せると、そっと腰に手を添えた。
「なんだよ…!」
「気を付けて。下をご覧ください」
言われるがまま、奈都はそろそろと崖の際まで進み、下をのぞきこんだ。
「うおっ…!」
崖の下では、ちょうど、軍が布陣を敷いていた。
夥しい数の人、人、人。
その塊が、ぞろぞろと、敵軍へ向かって行進していく。
「これが、我が軍です」
「……っ」
「恐れることはありません。奈都さまはこちらから、支援していただきますので」
「ここから…?こんな、遠くでか」
「万が一、あなたが攻撃されるということもありますので、あまり近くには行くなと、王から指示がありました」
「…なるほどな」
ここから陣までは、人が豆粒ほどにしか見えない位、距離が離れている。
奈都の立つここは、完全だ。戦の渦中、という感じではない。
「わかった。まだ、私も自分の力をよくわかっていないしな。今回の戦は、私を試す、試験的なもんなんだろ」
「はい。奈都さまは何も案ずることなく、ただ歌ってくださればいいのです」
コーサは奈都を庇うように、前に立った。
「何があっても奈都さまにはお怪我ひとつ、させません。このコーサが盾になります」
「ハッ!んなもん、いらねえよ」
奈都はコーサを押し退けると、際にひとり立った。
「…………」
すう、と深く一息吸い込み、奈都は、歌い出した。
「ーーーーーーーー」
空気が、震えた。
「…っ!こ、これが…!」
歌声は波となって、敵軍へと押し寄せる。
同じく陣をひいてこちらからの攻撃を迎え撃とうと構えている、その、最前列。
「あああああああ!!」
吹き飛んだ。
空いた穴へ兵士たちが突っ込んでいく。少しの綻びが拡がっていくように、敵の陣はあっという間に崩壊していった。
「…こ、これが、歌…」
コーサは呆然と歌う奈都を見ていた。
「女王様!西の軍が敗北しました!」
「なんだと!?何故だ!」
「コルネシア…コルネシアに、歌姫が、現れ…」
「!?なんてことだ……」
「ーーーー…………」
「!」
「あ、アリア様が…」
「…共鳴、している……」
「ーーーー……」