遠い
「ハル……」
奈都は懐に手を当てた。
イサが子供たちに預けた、薬。
包んでいる紙に、彼からのメッセージが書かれていた。
【これで、ハルの失ったものを取り戻せる。】
【あとは、君に頼むよ。】
【ハルの時を、進めてやってくれ。】
時を、進める。
イサは一体、何のことを言っていたのだろうか。
「……私には、わからないよ。イサ」
左手の薬指に、ぽつりと溢した。
「奈都さま!」
隊のひとりが甲高い声で叫んだ。
「彼処を!」
指差した方を見る。
そこに。
「ハル……!」
ハルは、居た。
砦の頂上にひとり立ち、ハルは待っていた。
「……ハル」
その顔に。
アリアの、仮面を被って。
「あ……あ……!」
「アリア様だ!アリア様がお出でくださったぞ!」
アリアムンド勢がにわかに活気付いた。
「俺たちにはアリア様がついている!」
「ああ!アリア様が負けるはずない!」
彼らの、アリアに対する絶大な信頼感。
ハルの圧倒的な力によるものだ。
「くっ……」
その、重さに。
つい、押し潰されそうになる。
「イサ……」
お前は私に、何をしろと言うんだ。
「アリア様!!」
私がハルにしてやれることなど、もう……。
「アリア様万歳!!」
だって。
ハルは、違うんだ。
「アリア様ーー!!」
私なんかじゃ手の届かないほどに。
ハルは、特別で。
ハルは。
ああ。
「アリア様!!」
ハルは、遠い。
「………っ」
しかし。
「…………」
ハルは、歌わなかった。
「……、あ……アリア、様……?」
「…………」
動きの無いハルに、皆が戸惑いをみせる。
奈都もまた、不審に思った。
何を。
何を考えている。ハル。
ハルはただ、仮面の奥からじっと、見下ろしている。




