表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/65

行く先と行く末

「うおおおおおーーー!」

奈都は雄叫びをあげ、駆け出す。

「おい!」

「あ、あれは!」

アリアムンドの兵が奈都たちに気付いた。

「コルネシアの歌姫……!?」

「こっちに向かってくるぞ!」

しかし奈都は動じない。

「私が道を作る!皆は後に続いてくれ!」

兵の数に臆することなく、奈都は冷静に指揮をとる。

「撃ち捕らえろ!」

「返り討ちにしてくれるわ!」

アリアムンド兵は直ちに迎撃体制を敷いた。

「……いいか、スレイプネル」

「グルル……」

きっと彼らの狙いは、大将である奈都に集中する。

奈都はスレイプネルに合図を送った。

「……よし」

「…………」

「今だ!」

「グルル……!」

相手の射程距離に入って、すぐに。

「!?な……!」

スレイプネルと、奈都は。

「……っ」


空高く、跳んだ。




「……奈都さま」

横たわる死体を見下ろし、コーサは呟いた。

「最早……とても遠く、感じます……」

むせかえるような、血の匂い。

「あの日……赤く血に染まったあなたは、美しかった」

奈都と共に、戦場を駆けていた、あの、日々。

死体に囲まれた荒野で。

柔らかに笑う、愛しい人。

「美しすぎて……私は目が眩むよう、でした」

銀色の風に乗って。

どこまでも駆けてゆく、彼女。

彼女は暗闇に光を届けるために走る。

戦い、課せられた運命に、抗い続けるのだ。

ああ。

彼女は希望だった。

この残酷な世界で、コーサにとってたった一筋、射し込んだ、光。

「……奈都さま」

ぽたり、ぽたりと血の滴り落ちる、剣。

「……私は……」

コーサはその刃を持ち変えると、自分の首筋に当てた。

「私は、イサ様のようには、なれなかった……」

しっかりと、構え。

「奈都さま……」

その刃を、一気にひいた。




「あ……!」

きらきらと光る、スレイプネルの銀色の体毛。

その背に跨がる、猛々しい、戦士。

まるで空を駆けるようなその姿に、アリアムンドの兵士たちは一瞬、見とれてしまった。


なんと美しく、神々しいのだろう。


スレイプネルはアリアムンドの兵士たちの上を易々と飛び越え、着地した。

後ろから兵たちを蹴散らしていく。

「よし!道ができた!」

「奈都さまに続けーー!」

奈都の隊が、進軍していく。

「待ってろよ……」

奈都は走る。

「今、行くからな!ハル……!」




「奈都さま……」

血だまりに横たわるコーサは、薄れ行く意識の中、ただ、奈都の名を呼び続けた。

「奈都さま……奈都、さま……」

体はゆっくりと冷たくなっていく。

けれど痛みは、感じない。

これよりもっと大きな痛みを、ずっと抱えていた。


ああ。奈都さま。

どうか、お許しください。


愚かな私が、あなたを想うことを。

最期に呼ぶ名が、あなたであることを……。

「……あなたは私の、最後の、救い……。私も彼のように……全てを捨てて、あなたを愛せた、なら……」

コーサの目から、滴が落ちる。

「ふふ……。もう、遅い……」

そう。全ては、既に過ぎ去った、こと。

「ああ……できることなら、もう、一度……」



あなたの歌を。

聞きたかったなあ……。



「…………」

そして、コーサは動かなくなった。

彼にはもう、何も見えない。

何も、聞こえない。



血だまりに溶けるように。

彼はその生を、手放した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ