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もう一度、触れる

「スレイプネル!」

「ぐるるるるる!」

駆け寄ったスレイプネルは、奈都の前で立ち止まった。

「お前……」

「…………」

奈都は、尋ねた。

「……私で、いいのか……?」

「…………」

スレイプネルは黙って身を伏せ、奈都に背中を差し出した。

「スレイプネル……」

奈都はそっとその銀色に触れた。

硬い。けれど、あたたかい。

懐かしい感触。

スレイプネルの耳は、いつぞやのように、半分、垂れていた。





スレイプネルの背に乗り、奈都は走り出した。

「奈都さま」

「…………」

「奈都さま、何処へ……」

後を追う、隊の者たち。

しばらくして、彼女が何処へ向かっているのか気づいた。

「!奈都さま……」

其処で、奈都はスレイプネルの脚を止めさせ、ゆっくりと降り立った。

「…………」

「奈都さま……」

「……っ」

其処は、イサが亡くなった、場所。

「……申し訳ありません。ご遺体は、既に……」

「…………」

わかっている。

あの状況では、遺体を移すことも出来なかっただろう。もしかしたら、敢えて破壊されたかもしれない。あの、王のことだ。

彼は原型すら、留めていなかったかも、しれない。

けれど。

「わかってる。……けど」

「…………」

「確認だけは、しておきたかったんだ」

「確認……?」

「…………」

彼が、最期に見た、景色を。

「もう、増えることは、ないだろうからな」

少しでも、多く。

彼と何かを共有しておきたかった。

もう彼との記憶は、あの時、此処から。増えることは、ないのだから。

「……奈都、さま……」

顔にアザのある女が、奈都を呼んだ。

「あ、あの……奈都さま。こ、これを……」

「?……!これ……」

彼女が、おずおずと奈都に差し出した、それ。

「も、申し訳、ありません。これしか、持ってこれません、でした……」

「…………」

奈都には、すぐにわかった。

これが、イサの髪だと。

「……、そう、か……」

「奈都さま……?」

奈都は震える手でそれを受けとると、両手で包み込むように握り、そっと、頬に押し当てた。

「……っ」

イサの、感触がした。

「……ありがとう」

「!奈都さま……」

女は、どきりとした。

「もう一度……あいつに触れられるとは……思わなかったよ」

その、奈都の、微笑みに。

「……、はい。奈都さま……」

まるで、目がチカチカするような。そんな笑みだと、女は思った。



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