咆哮
「うああああああーーーー!!」
バキン。
音を立てて、奈都の口枷が外れた。
「何!」
「何故……!枷が、外れただと!?」
「ああああああーーーー!!」
身を反らせ、奈都が吼える。
その気迫に、誰もが気圧され、立ちすくんだ。
「……っ」
「何をしている!は、早く!兵を出せ!」
王が躍起になって叫ぶが、誰も動こうとはしない。
「見せしめはもういい!止めを刺せ!早く……!」
「…………」
「早く殺せ!罪人を……っ」
「……私、は………」
「!」
「私は、なあ……」
奈都が、ゆっくりと口を開く。
「こんな、ことでさ……死ねない、んだよ」
「……っ」
「だって……」
王は思わず、息を飲んだ。
笑って、いる……?
奈都が、微かに笑っている。
燃える炎に今、身を焦がされようとしているのに。
彼女は、笑っている。
「……だってさ。この、命は……イサが、守ってくれたもの、なんだから」
自らの命と引き換えにして。
「この髪も、目も、体も、声も。全部……。イサが、愛して……イサが、命を懸けて、守ってくれたもの、なんだよ……」
だから。
奈都はキッと王を睨み付けた。
「……もったいなくってなあ……。てめーになんか、ひとつだって分けてやれねーんだよ!」
奈都は、深く息を吸った。
「!ま、まずいっ……!」
「…………」
「ーーーーーーー」
奈都は、歌い出した。
噛みつくような、粗削りな歌。
それはまるで、獣の咆哮にも似ていた。
けれども彼女の歌声は地を揺らし、空気を震わせ、うねるように人々を取り囲んだ。
その荒々しく力強い歌声を、群衆はまんじりともせずただじっと聞き入っていた。
「……っ」
カシャン。
兵士が、武器を落とした。
「……っ、な、何をしている!」
「…………」
「おい!聞いているのか!」
兵士も民衆も、王の言葉に応えない。
皆完全に、戦闘意欲を失ってしまっている。
「殺せ!は……早く、奴を捕まえろ……!」
王が叫ぶ。最早誰も視線すら向けようとしない。
「くっ……!こ、この……」
その時。
「奈都さまーー!」
奈都を呼ぶ、声。
「!お、お前たち……」
「奈都さま!よくぞご無事で……!」
「……、生きて、いたのか……!」
それは奈都の隊の、生き残りたちだった。
「遅れて申し訳ありません!今、お助け致します!」
人をかきわけ、奈都の元へと駆け寄ってくる。
「火を消せ!縄を解くんだ!」
磔台から、奈都がゆっくりと下ろされる。
その時。
なっちゃん。
「!」
目の端に、きらりと映る、光。
「あれは……」
空を駈ける。
美しい、銀色。
「ぐるるるるる……」
「スレイプネル……!!」




