動き出す
「何!」
「なんだこの声は!」
群衆が、ざわめきだす。
「何事だ!」
「わ、わかりません……!どこからか、声が……!」
「くそっ……」
さっきまでの余裕を失い、王は顔色を変え側近に向かって叫んだ。
「聖女の声のボリュームを上げさせろ!この声をかき消せ!」
「……、は、はっ!」
命令通りに、聖女たちが声のボリュームを上げた。
しかし。
「ーーーーーー」
ハルの歌声は、消えない。
「王……!」
「な、何故だ……」
それどころか、ハルの歌は力を増していく。
更に強くなった聖女の歌声をも凌ぐ強さで。ハルの歌はこの陰鬱な空に、滲むように広がっていく。
「くっ……!」
王は壁に拳を叩きつけた。
「アリアめ……!」
曇天の中。
ハルはひとり、空に向かって歌声を紡いでいた。
「なっちゃん。どうか、思い出して」
ハルは歌う。
もう見えない、その空の先にいるはずの奈都を思って。
「……なっちゃん。ほら」
凍り付き、息もできない心が。
「今、動き出すよ」
「……!」
奈都は目を見開いた。
ハルの声を通して。奈都の胸に。死に行こうとしていた、心に。
何か注ぎ込まれるように、温かいものを感じた。
「……!」
それは。
『奈都』
「イ、サ……」
彼の、記憶。
『奈都。愛してる』
「あぁ……」
溢れてくる。愛しい彼の、愛しい言葉。
彼に愛されていたという、確かな、記憶。
聞こえる。
感じる。
「イサ……」
彼の心が。
彼の体温が。
なっちゃん。
ハルの、歌声を通して……。
確かに。
なっちゃん。
彼が、最期に。
あなたに残した、言葉は。
『奈都』
「そうだ……」
『奈都。どうか、君は……』
『いきて、くれ』
「……!!」
奈都の心が。
再び、息をし始めた。




