罪人
朝。
両の手を後ろに縛られた奈都が、牢から出された。
久しぶりの外気に身が震える。
「あれが……」
「ああ」
「ついに来たか……」
ざわめく民衆。
無遠慮に向けられる、好奇の目。
それはかつて、奈都が命を懸けて、守ろうとしたものたち。
「アリアムンドに寝返ろうとしたとか」
「なんと恐ろしい」
「歌姫も、最早見る影もない……」
何も見えない。
何も、聞こえない。
「道を開けよ!」
兵士が合図をすると、ごった返していた人々が、綺麗に二手に割れた。
奈都の前に道が出来る。
それは、処刑場まで続く長い道。
……まるで、花道じゃねーか。
心のうちで、呟いた。
「さあ!早く進め!歩くのだ!」
背中をどんと押される。
「…………」
刺すような視線の中。
奈都が、ゆっくりと進む。
と、その時。
「ねえさま!」
奈都の前に、小さな人影が現れた。
「ねえさま!」
「ねえさまー!」
わらわらと、こどもたちが次々現れ、奈都に抱きついた。
「ねえさま!死んじゃだめ!」
「嫌よ!ねえさまー!」
彼らはかつて、イサの家の周りで出会った、奈都を慕ってくれた、子供たちだ。
わんわんと泣きながら奈都の体にしがみつく。
「ねえさま!」
「あのね、お医者のおにいさんが……」
「!」
何か言いかけた子を、兵士が捕らえた。
「この……!」
「!?」
兵士は、ぶんと子供を群衆の中へと放り投げた。
「きゃっ……!」
「っ!」
乱暴で、まるで犬の子でも放るようだった。
少女は地面に体を打ち付け、動かなくなった。
奈都が火傷を治してやった、あの、少女……。
「何をしている。早くこの子供らを退けよ!」
兵士が出てきて、子供たちを散らしていく。
「ふん……役にもたたぬ、ゴミ共が」
「ーーーっ!」
吐き捨てた言葉に、奈都は口枷の中から、くぐもった叫びをあげた。
「ーー!ーー!」
「おい!押さえろ!」
暴れようとする奈都を、兵士が押さえる。
「くっ……!」
「動くな!この……」
「罪人が!」
「っ……」
罪人。
奈都の体が、しん、と冷えた。
「さあっ!罪人が通る!道を開けよ!開けよ!」
「…………」
静まり返ったその中を、重い足取りで奈都は再び、進み出した。
ずり、ずりと。
一歩、また一歩と進む。
「反逆者だ!」
「汚らわしい罪人め!」
奈都に向かって小石がなげつけられた。
「っ!」
そのうちの一つが奈都の目の上をかすった。
たら、と血が垂れる。
「……ぁ……」
ばつの悪そうな顔をする、群衆。
けれど、奈都には痛みなどもう、感じなかった。
奈都は歩く。
ただ、罵声と蔑んだ視線の中を、進む。
そして。
「…………」
目の前に現れた、そびえ立つ、木柱。
奈都はここで、今から処刑されるのだ。
罪人、として。




