母と妹
「用意は整ったか?」
「は」
王の傍らのコーサが頷く。
「民衆に聖女たちの力を見せつけるチャンスだ……時代は歌姫から聖女に変わったのだと、知らしめてやる」
「…………」
「どうした?コーサ」
「……本当に、やるのですか」
「んん?」
「本当に……!」
コーサは、バッと顔をあげた。
「彼女は……彼女はただ、戦っただけです……!この国のため……この世界に暮らす、民のために……!」
「…………」
「無理矢理戦に巻き込んで……戦わせて……その結果がこれでは、あんまりでは……」
「コーサ」
王の瞳が、ぎらりと光る。
「……お母上と、妹は元気かい?」
「!」
王の言葉に、コーサが顔色を変えた。
「……もとはといえば、お前が拒絶したからではないか」
「……っ」
「あの女を生け贄に差し出したのは、他ならぬお前。それを、忘れたのか?」
王は強ばるコーサの肩に、ぽんと手を置いた。
「今からでも、遅くはないぞ」
「!」
「……お前の妹と、母親……。私に差し出すか?」
「っ……!」
ぞっとするような声色に、コーサは顔を俯かせた。
「……い、いえ……」
「…………」
「申し訳、ありません、でした……」
「ふん……」
王はコーサの言葉に満足そうに頷くと、鼻をならして部屋を出ていった。
「…………」
取り残されたコーサは、歯を食い縛り、握った拳をぶるぶると震わせていた。
コーサが王から聖女について聞かされたのは、二年前のことだった。
アリアという脅威に対抗するため、王が極秘に進めていた計画。
「ほう……適性のある者がひとり、見つかったと?」
「は!数値にありますように、この少女が抜きん出ております」
「ふむ……確かにな」
渡された資料をざっと眺め、王は言った。
「よし。このC4223を城に呼べ」
「は!」
「彼女をこの聖女化計画、第一実験体とする!」
王の命が、下った。
「……、そ、そんな……」
コーサは、愕然とした。
「実験、体……だと……」
聖女の適性ありと見なされた、C4223と呼ばれる少女。
「リリィ……」
そのナンバーは、コーサのよく知っているものだった。
「リリィ!母さん……!」
コーサはすぐさま母と妹のところへ走った。
「!おにいちゃん!」
突然息を切らせて帰ってきた兄を見て、リリィは驚いた。
「良かった!間に合った……!」
「どうしたの?お仕事は……」
きょとんとしているリリィの肩をがっと掴み、コーサは言った。
「リリィ!今すぐ逃げるんだ!」
「え?」
「早く!母さんと一緒に!」
「おにいちゃん……?」
気圧され泣きそうな顔をするリリィ。
大声に驚いた母親も、どうしたことかと家から出てきた。
「コーサ!あんた、一体どうしたんだい……」
「……、母さん……!」
コーサは急いで、二人に事の次第を話した。




