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冷たい現実

奈都はコルネシア軍によって捕縛された。

王の命のもと、厳重な牢に閉じ込められた。

「…………」

最早、奈都にはそれに抗う力など残ってはいなかった。

万が一にも歌えないようにと、口に加えさせられた枷によって、舌を噛むことすら、できなかった。

牢屋の番の男たちの、ひそひそとした話し声が聞こえる。

「あの、聖女とやら……」

「ああ。大成功だったじゃないか」

「あのな、聖女にするために、王がしたこと知ってるか?」

「あ?」

「その、歌える可能性のある女の子のさ……」


母親を、殺すんだってさ。


「……っ」

キーンと耳鳴りがして、目の前が、真っ白になった。


「ほんとかあ?」

「ああ。必要な課程らしい」

「俺、母親捕まえるのに駆り出されたんだ。目の前で殺すんだぜ。えげつないよなあ」

「うへえー……」

男たちの声が遠のいていく。

奈都はまんじりともせず。瞬きすらも、忘れていた。


ああ。私のしたことは、一体、なんだったのだろう。


イサも、ミラも。

ただ、自分の執着で。

生かしたつもりが、苦しみを長引かせただけだった。


ぼんやりと空を見る。

その目は何も、映していなかった。

何も見えない。

歌の力に視力を奪われていた時よりも、ずっとずっと、暗い。

ただ、寒くて寒くて、仕方なかった。





アリアムンドに戻ってきた女王は、震えていた。

「どうされたのですか、女王様」

「私……あれは……」

「女王……」

女王は応えない。

「あれ……あれは……」

ぶつぶつと、うわ言のように、部屋の片隅を見つめてひとり呟いている。

「あれは……あの、声は……」

そう。

一瞬。

「ま……まさか……」

あのコルネシアの男が、矢で射ぬかれた、あのとき。

「嘘……嘘よ……」

頭のなかに響いた、声。

「そんなの……っ!」

女王は、両手で耳を塞いだ。

「だって……あの子はもう……!」

声は、消えない。

「あの、子は……!」




……母さん…………




「ーーっ!ああああああああ!!」

「女王様!」

悲鳴をあげ、女王は泣き叫んだ。

「嘘だ!嘘だ!嘘だ!ああああ!!」

喉から血を吐きながら、叫ぶ。

「あの子は……!」

あの子は。

私を呼んだ、あの子は。

「ああああ!!あああああーー!!」

狂気染みた女王の声に、側仕えの兵士たちはみな恐れおののき、誰も女王に近づこうとはしなかった。

「うあああああーー!!」

「…………」

たった、ひとり。

「……ごめんなさい」

ハルを、除いて。

「悲しい。とても悲しいことが、起こってしまった」

「ああああああああ……!」

「あなたは二度、自分の子を、失った」

「嫌ああああ!!ああああ………」

「ああ。なんて、なんてひどい……」

悲しみ。怒り。後悔。

ないまぜになった、大きな暗い渦。

「あああああーーー!!」

彼女は今、絶望している。

全てのものへの憎しみに似た感情が、彼女の慟哭に現れていた。

「……ごめんなさい」

「いやああああああ!!」

「ごめんなさい」

「うあああ、ああああ!」

ハルは、暴れる女王を抱き締めた。

そして。

「……せめて、その苦しみを……」

ハルは、歌った。


「ーーーーーー……」


「あああああ……あ……ぁ……」

女王の体から、力が抜けていく。

「ごめんなさい。……こうするしか、ないのよ」

「あ……あ……」

「あなたを、救うには、もう……」

「ぁあ……ぁ……」

女王の瞳が、ゆらゆらと揺れている。

「記憶を、壊すわ」

「っ、ああああ……!」

「だからもう……」

「……ぁ……!」

「忘れて、しまいなさい」

「…………!」


女王は、完全に弛緩し、床に崩れ落ちた。

横たわり、首を緩やかに上下に振っている。不自然で、不気味な動き。

それはまるで、壊れたロボットのようで、滑稽で憐れな悲しさがあった。

「あぁ……ぁぁ……」

女王の薄い唇から涎が流れ出ている。

かつての威厳はそこには欠片も残っていない。

「……み……け、た……」

呂律の回らない口で、呟く。

「やっと、みつ、けた……」

「…………」

「みつ……、け、たの……」

女王は、微笑んでいた。

「私の……」



私の……かわいい、イサ……。



それが、彼女の、彼女としての、最後の呟きだった。

「…………」

ハルは、ただほろほろと、涙を流した。




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