聖女
「なんで……」
奈都には訳がわからなかった。
自分とハルの他に、歌姫はいないはずだ。
「遂に、完成したのさ」
コルネシア王がくくと笑う。
「待ちに待った、御披露目だ……。さあ、彼女たちを、前へ」
王が手を翳して合図する。
「これがコルネシアの新しい兵器。僕の、聖女たちさ」
「!聖女……だと……」
ずらりと並ぶ、13人の、少女たち。
そのなかに、奈都は見知った顔を見つけた。
「!あ、あれは……」
間違いない。あの子は。
「ミラ……!」
森で共に過ごした、あの、少女。
彼女がなぜ、彼処に……?
「ミラ!ミラ!!」
奈都が叫ぶ。
しかし、ミラは応えない。
他の少女たちと同じく。真っ白な顔で、ただ、前を見据えている。
「そんな……!」
「ふふ……。さあ、聖女たち」
再び王が手を翳す。
「……美しいその声を、聞かせておくれ」
「…………」
少女たちは、一斉に歌い出した。
「ーーーーーー」
重なる、成熟する前の高い声。
寸分の狂いもなくピタリと揃ったその、歌声は。
「ーーーっ!あああああああああ!!!!」
「!!」
アリアムンドの兵士たちを、粉々に打ち砕いた。
「あっはっはっはっは!!あーっははは!!」
アリアムンドの兵士の悲鳴と、王の笑い声がこだまする。
「なんて力だ!聖女とは……!あははははは!!」
聖女と呼ばれる、あどけない少女たちの、力。
破壊されゆく無数の人間を、奈都はただ、見ているしかなかった。
『イサ……』
『……ああ』
『ミラ……、ミラが……』
イサも真っ青な顔でそれを眺めていた。
「っ……何なのだ、あれは……!」
アリアムンドの女王もその異常に気がついた。
隣に居るハル……アリアは相変わらず歌っている。
にも、関わらず。
「うあああああああ!!」
「女王さま……アリア様あああああ!!」
アリアの歌をも圧倒する、その力。
「何故だ……!アリア様の歌が、押し負けていると、いうのか……!」
これ以上、ここに留まっても敵の虐殺を許すだけ。
やがて自分達にまで、被害が及ぶかもしれない。
「この……っ、忌々しい、コルネシアめ……!」
女王は目を血走らせ、叫んだ。
「下がれ!兵を下がらせろ!」
「女王様!」
「退却だ……。作戦は、中止!」
女王の命により、潮が引くように、アリアムンドの軍は退いていった。
「!待てっ……!」
彼らを追いかけようと、奈都が構える。
しかし、その肩をイサが掴んで止めた。
『何をする!イサ!』
『奈都。僕らも戻ろう』
『!何だと!』
『隊のみんなも無事だよ。みんなで、戻ろう』
『なんで!だって!すぐ、そこに……!』
ハルと女王はすぐ、そこに居るというのに。
『おめおめと引き下がれって言うのかよ!』
あと少し。
あと、少しなのに。
『……僕らの敗けだよ。奈都』
『!』
『僕らは、敗けたんだ』
イサの言葉に、奈都は口を閉じた。
イサの言うことは、正しい。
奇しくも聖女たちのおかげで、奈都たちはアリアの歌の力から解放されたが、それがなければ、今頃皆、殺されていた。
完全な、敗北。
奈都にはただ、茫然と見ているしかできなかった。
『……、わかったよ。イサ』
奈都は、ぎっと拳を握った。
「皆……」
「奈都さま……」
「…………戻るぞ」
奈都は隊を集め、コルネシアへ、戻る決断をした。
『これで終わりじゃないよ。奈都』
肩を落とす奈都に、イサが言う。
『生きていれば、またチャンスが来るんだから』
『イサ……』
そして、帰路につこうと向きを変えた、その時。
ヒュン……!
「!?」
奈都たちに向かって、矢が飛んできた。
『奈都!』
「くっ!」
咄嗟に盾で防ぐ。
「な……飛矢だと……!?」
「奈都さま!コルネシアの方角です!」
「何!?」
矢は、コルネシアの方から、奈都に向かって射られたものだった。
「……ま、まさか……」
「ふふ……」
奈都はハッとした。
いつの間にか、コルネシアの軍が陣を敷いている。
王が不敵な笑みを浮かべた。
「ーーっ!皆!逃げろ!」
声を振り絞って、奈都は叫んだ。




