出撃
決戦の、朝が来た。
「全員、揃ったな」
奈都は目の前の隊列を見渡した。
誰もみな、それぞれの想いと、覚悟を携えた顔をしていた。
『……奈都』
「!イサ」
振り向くと、イサがいた。
『顔が怖いよ。奈都』
『あ?顔?』
『ほら。ここ』
イサは人差し指で奈都の眉間を軽く擦った。
ハッとして、慌てて表情を和らげる。余程険しい顔をしていたんだろうと奈都は思った。
『緊張してるの?奈都』
『あー……ん。少し、な』
奈都は己の手のひらを見つめていた。頼りなげに、それは小刻みに震えている。
「……臆病者」
吐き捨てるように呟く。
「引っ張って行くお前が、こんなんでどうする」
奈都は隠すようにその手をぎゅっと握りしめた。
『奈都?』
『大丈夫。……絶対、負けられないんだ』
『…………』
『私が守り抜く。誰一人、死なせてなるもんか……!』
力強く握ったその手を、イサが両手で包み込んだ。
『……君も、だよ』
『?』
『隊のみんなだけじゃない……自分が生きることも、考えてくれ』
『!イサ……』
『君が居ないと、僕は生きていけないのだから』
そう、イサが言った。
『……随分な言葉だな』
茶化すように、奈都が言う。
『なんだか、お前らしくないよ』
『そうかい?』
『ああ。だってまるで子供みたいだ』
くっくっ、と奈都が笑う。
『いつも冷静なお前が、そんなこと言うなんてな』
『冷静?僕が?』
『へ?』
『僕が冷静で居たことなんてないよ。こと、君に関しては』
『んなっ……!』
意味ありげにイサが笑う。
見事にやり返され、奈都は赤面した。
『!……は、恥ずかしいやつだなあ……』
『いいじゃないか。僕はもう、正直に生きることにしたんだからさ』
『正直って……』
『奈都』
『あ?……!』
イサは片手を添えて奈都の顔をくいと上げると、その目をじっと見つめた。
『君の言う通り。僕は子供だ。寂しがりの、子供の独占欲さ』
『!イサ……』
『君の目も、髪も、肌も、声も……全部、僕のものだ。ようやく、手に入れた。失うわけには、いかない』
奈都は目を丸くしてイサを見た。
イサの目の、その奥に、強い光が見えた気がした。
『奈都。君は、僕が守るよ』
熱い、炎のような、何か。
『君には指先一本、触れさせない』
それはきっと、イサの覚悟の光なのだと、奈都は思った。
「…………」
奈都は再び、自分の手に目をやった。
震えはとうに、治まっていた。
『……イサ』
『……………』
『ありがとう。イサ』
奈都の声色に、イサが顔を緩めた。
『奈都』
『……うん』
『必ず、帰って来よう』
『……ああ』
『みんなを、連れて』
『ああ。そうだな』
奈都は目の前の道を見据えた。
この先に、未来への試練が待っている。
『……イサ』
『ん?』
『帰って、来たら』
『…………』
『お前に、言うことがある』
『…………』
それは守り抜いてきた、奈都の最後の砦だ。
『これが、終わったら。きちんと、言う』
『うん』
『だから……』
『……うん。わかっているよ。奈都』
『…………』
奈都の覚悟が、決まった。
「よし!隊列!進むぞ!」
奈都は叫んだ。
纏う空気が戦場のそれになっていく。
ビリビリとした緊張が、辺りを満たしていく。
しかし二人は、それに似つかわしくない、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「皆!私の後に続け!送れるな!」
奈都は、走り出した。
『行くぞ、イサ』
『ああ』
『ハルの、所へ!』
『アリアムンドの女王……。僕の、母親の所へ……!』




