懐かしい時間
「みんな……すまない」
奈都は頭を下げた。
危険で、見返りのない命令。
しかし、隊のみなのことを考えれば、命を撥ね付けることなどできなかった。
既にみな、この世界では弾かれ、ぎりぎり生かしてもらっている、という立場なのだ。
そして、隊のみなもそれをわかっていた。
だから、誰も奈都を責めなかった。
「とんでもございません……。奈都さま。私共はイサ様に拾って頂き、あなた様に生きる道をもらったのでございます。みなの家族もです。奈都様のおかげで、報酬を得られて、人並みの生活を送れているのです。全て、奈都様のおかげなのです」
「お受けした命は、必ず成し遂げます。みな、必ず生きて、戻りましょう」
奈都は目が覚める思いだった。
ああ、なんと力強い瞳なんだろう。
皆、生きることだけを考えている。
前を、希望を見ているのだ。
「ありがとう、みんな……」
それだけで、奈都は救われるような心地だった。
「……さ。久しぶりの故郷だ。戦が始まるまで、数日ある。この時間を、どうか家族や友人、大切な人たちと、ゆっくりと過ごしてくれ」
「はい。ありがとうございます。奈都さま……」
解散したあと、奈都はひとり、町にある家に向かった。
まだ一応、残してあった、奈都の家。
出たときそのままの状態で、うっすら塵が積もっている。
「……。また、ここに戻ってくるとはな」
奈都は明かりもつけず、部屋の隅に座り込んだ。
色んなことが思い出される。
絶望の淵に居たとき。
イサと夜を過ごしたとき。
そして、再び戦う決意をしたとき。
「……疲れた、な…………」
ぼそ、と呟く。
とうとう、時期が来たのだ。
決戦にはハルが来るだろうか。きっと、来るだろう。
彼方は国を潰しにくるのだから。
総力をかけて、挑んでくるだろう。
「ハルに、勝てるかな……」
勝たなければ、未来はない。
奈都たちがハルの立つ場所に、届かなければ……。
自分も、イサも、ハルも。
そこで、終わりだ。
ハルを、奪還する。
……そして。
「アリアムンドの、女王にも……」
トントンとドアを叩く音がした。
扉を開けると、イサがいた。
『イサ。どうしたんだ?』
『うん。奈都、何か食べたかい?』
『?いや……』
イサは両手一杯に、土の塊を抱えていた。
『うわっ……!なんだよそりゃ……』
『あれ?わからないか』
そのうちのひとつを、奈都に手渡す。
表面を擦って土汚れをとると、奈都はやっとそれが何なのか気付いた。
『メリゴの根か!』
『久しぶりだろう?』
このところ、久しく口にしていなかった。
『懐かしいな……』
メリゴの根は、イサの小屋のある森にたくさん自生していた。
あの頃は、よく食べたものだった。
何もかもが乏しい森の生活で、メリゴの根は貴重な食料だった。
『奈都と一緒に食べようと思って。来る途中採ってきたんだ』
『!森に行ったのか?』
『うん……。何か、残ってないかと思ったけれど……もう、何も無かった』
『……、そうか』
二人の生活の痕跡。奈都がこの世界に飛ばされて、彼に出会い、それからの、色々。全部、壊されてしまった。
『それで、仕方なくこれをとってきたってわけか』
『ああ。ひとつ見つけたら、次々。キリがなくなってしまってね』
目を合わせ、少し笑う。
『さて。じゃあこれ、早速食うか』
『どう調理しようか』
山ほどあるメリゴの根を前に、二人で思案する。
そうだ、とイサが声をあげた。
『僕、あれを食べてみたいな』
『ん?』
『ほら。奈都があの子に作った、あれ』
薄く切った、紙のような。
イサが言うそれは、奈都がミラのために作ってやった、チップスのことだった。
『あー、そういや、お前は食べたことなかったな』
ミラが全部食べちゃって、と、奈都は笑った。
あのときの、ミラの笑顔と笑い声が、まざまざと浮かび上がってくる。
「…………」
思い返す。
あの少女は、元気だろうか。
母親想いの、優しい子……。
また母親のところに戻って、温かい日々を送っているだろうか。
『……奈都』
『いいよ』
『!』
『お前にも、作ってやる』
そう言って笑って、奈都は腕をまくって鍋の用意を始めた。
『でも半分はお前の担当だぞ!チップスじゃ、腹は膨れないからな』
『……ふふ。わかったよ。奈都、リクエストは?』




