王命
数日後。
砦を攻める隊の中に、イサがいた。
『お前……!なんで……』
『僕も行くよ』
奈都は驚いた。
イサの腰には、剣が携えてあった。
『君と一緒に。戦場へ』
『な……!?』
今まで、彼は奈都たちと行動は共にしていたが、あくまで医療班としてであり、決して戦闘には参加させなかった。
なぜなら戦場とは殺し合う場であり、それはイサとは真逆に位置するものであったからだ。
『お前、何を言ってるのかわかっているのか?』
『わかってる。それでも行きたいんだ』
『…………』
『君の側で。君を守りたいんだよ』
『……、な……』
『もう決めたんだ。さあ、行こう、奈都。命令してくれ』
イサの決心に、奈都は折れるしかなかった。
そして、それからイサも、奈都と共に戦場で戦うようになった。
『右から来る!イサ!迎え撃て!』
奈都は隊長として、イサに人殺しの指示を与えなければならなかった。
人を癒すことを喜びとするイサに、人の命を奪う手伝いをさせている。
それはとても、心苦しかった。
「私は……」
なんて残酷なことを、彼にさせているのか。
そんな奈都の呟きは、血生臭い戦場の空気の中にかき消されていった。
ある日、コルネシア王から奈都たちに命が下った。
『……すぐ、戻れだと……?』
至急戦闘を中止し、隊を連れて城に来いとのことだった。
『……なんだろう』
少し、嫌な予感がした。
『奈都』
『イサ……』
『どうするんだい?』
『…………』
何故このタイミングで呼び出したのか。
わからない。が。
『……逆らうわけには、いかねーだろうな』
この隊の指揮権は全て奈都にある。といっても、属しているのはみなこの国の民である。
国王を無視することは、できないだろう。
『行こう』
『奈都……』
『コルネシア城に』
「ふふ……久しぶりだね。奈都」
「…………」
「会えて嬉しいよ」
奈都たちを前にした王は、挨拶もそこそこに本題に入った。
「アリアムンドがね。とうとう、ここに直接攻めいるとの情報が入った」
「!ここに……」
「……つまり、あちらもそろそろ、カタをつけるつもりなんだろうねえ」
ふう、と王は気だるげにため息をついた。
「……つまり、私たちに城を守るため、戦いに参加しろ、ということか?」
「んー、少し、違うねえ」
「……何?」
「待つのではない。此方から撃って出るのさ」
「!」
にや、と王の口角がつり上がる。
何度みても嫌な笑い方だと奈都は思った。
「……奴等を出し抜くんだよ。……いい気になっているアリアムンドのカス共の鼻を、へし折ってやらないとね。二度と此方に手出ししようと思わないように」
「…………」
「しかしね。国の戦力は出来るだけ減らしたくないんだよ。そこで、君たちの出番なわけだ」
王はニタニタと笑って、垂れ下がる長い前髪をぐいと横に撫で付けた。
「君達にはその先陣を切ってもらう。君達が蹴散らしたところを、軍が一斉に攻撃するという作戦さ」
「!お前……!」
つまり、国の兵を死なすことが躊躇われたから、奈都達をその役目につかせようというのだ。
なんという、侮辱。
明らかに、奈都たちを見下げた発言だ。
奈都たちならば死んでも惜しくないと。王はそう、言っている。
「まあ一応言っておくが、これは国王の命、つまり決定事項として話している」
「!」
「断った場合は、国家の反逆者、として扱わせてもらうよ」
「………っ」
やはり、この男は……。
奈都は苦々しく思った。
これは決して単なる脅しなどではない。
この男は、やると言ったらやる。
奈都は、王命を受け入れるしかなかった。




