惹かれた
『……僕とハルは、似た者同士だった』
イサは、少しずつ話し出した。
『だから、僕には彼女の見るものが、わかってしまった。彼女の目の前には、いつだって暗闇が漂っていた』
『……、闇……?』
『哀しみに、溢れた……痛みにも似た、哀しみだよ』
孤独という、空虚。
孤独は奈都も知っている。
しかし、奈都と異なるのは、その暗闇には誰もいない。ハル自身すらも、居ないのということだ。
彼女は自らを、否定し続けていた。
『だから、ハルが自分の力に気付いた時……彼女は目を引き替えに差し出しても良いと言うくらい、執着したんだろう』
ハルにとっては、それは初めての生き甲斐だったのだから。
でも、イサにはわかった。
歌は目だけではない。視覚を奪ったらその次は嗅覚や、聴覚。そうやって、いずれ彼女の持つ感覚全てを、奪い尽くすだろう。
『……僕には、耐えられなかった』
彼女を待ち受ける、果てのない本当の暗闇。
自分と似た孤独を抱える彼女がそこに自ら堕ちようとしている。
だかはイサはハルに歌うことを禁じたのだ。
『……けれど、彼女は黙って、僕の元から姿を消した。町の噂で聞いたよ。彼女の居場所。アリアムンドという国。そして、歌が起こした、惨劇を……』
『…………』
『全て、僕のせいだ』
『イサ……』
イサはうつむくと、両手で顔を覆った。
『……僕が彼女を、追い込んだ。彼女を孤独に、追いやってしまった』
ハルを結果的に、殺戮兵器にしてしまったのは自分だと。
イサはずっと責任を感じていたのだ。
『……わかったよ。イサ』
奈都は、イサの背中に手を置いた。
『だから、お前はずっと、ハルを追いかけていたんだな』
『…………』
『もう一度、ハルを救い出そうと……』
奈都は優しく、イサの背中を撫でた。
まるで、イサの背中に乗っていたものを、払い除けるように。
『でもな、イサ……。ハルはきっと、嬉しかったんじゃないかと、思うよ』
『!』
『だって、初めて、自分を理解してくれる人間と出会ったんだから』
自分には、ハルを理解してやることは、できなかった。
ハルの孤独を作り上げたのはイサや、この世界ではない。
彼女を理解しようとしなかった、あの世界の、自分たちだ。
『ハルはお前に似ているというだけで、孤独を埋めていたんだ。でも、だから、お前が自分と違う意見を言ったのが、理解できなかったのさ』
イサははっと奈都を見た。
改めて肯定するように、奈都はこくりと頷いた。
『一緒に行こう。ハルのところへ』
『……ああ、奈都……』
『あいつを、迎えに行ってやろう。薬を飲ませてやらないとな。目が曇っているから、お前の気持ちがわからないんだ』
『奈都……』
イサの強ばった表情が、少しずつ、和らいでいく。
『……本当に……君は、僕とは違う人間だね』
『違う?』
『うん』
イサが微笑む。
『君は、僕とは違う。だから、惹かれたんだ』
『!』
イサは奈都の手をとり、握った。
『……君はいつだって一生懸命だ。僕を守ろうと、戦ってくれる』
『…………』
『だから僕は、せめて君の枷にならないようにと、細かい事情は話さないでいたんだけど……逆効果だったね』
イサは苦笑した。
『どうしたらいいのか、わからなかったんだ……。だって、こんなこと初めてだった。誰かを好きになって、僕のことも、好きになってほしいと、思ったのは』
『…………』
『本当にごめん。奈都……』
所在なさげに謝るイサが、まるであどけない、少年みたいに見えた。
そんな彼を、奈都はなんだかかわいらしい、と思った。
いつもは冷静で落ち着き払っているあの彼が、今はこんなにも、一生懸命に、自分の気持ちを言葉にしようと悪戦苦闘している。
知らなかった。いや、知ろうとしなかったのかもしれない。
『奈都』
『……ん?』
『僕は、ずっと君の側に居るよ』
『…………』
『もう決めた。僕は、君のものだ』
どこか誇らしそうにそう言うイサに、奈都は笑って、イサを抱き締めた。




