神の声
その女は、ハルに自分の話をした。
彼女は以前に我が子を失ったのだと言う。
「生まれた子は、呪われた子供だった……。だから森に隠してこっそり育てていたの。けれどある日、突然森へ立ち入ることを禁じられてしまった……」
「どうして?」
「……処分場を作るためよ」
あの、人間を捨てる場所。
それを用意するために、人を遠ざけたのだ。
「もう、あの子に、会えない…。食料を届けることすら、できなくなった。きっとあの子は飢えて死んだんだ。いや、もしかしたら、兵士に見つかって殺されたのかも……」
深く悲しい女の声だとハルは思った。
女は、全てはこの国の仕組みのせいなのだと怒った。
「……だから、私は決めたのよ」
「何を……?」
「新たな国を、作るの」
既に同じ境遇の者たちを集め、用意はほぼ整っているのだという。
「あとは、あなただけよ」
「わたし……?」
「そう。私たちには、あなたの力が必要なの」
女は、処分場から戻ってきた者からハルの話を聞いたと言う。
口から音を奏で、光となって、人の体に作用する力。
「こんな、人を人とも思わない、不良品を捨てるような国は、あるべきではないわ。あなたもそう思うでしょう?」
「!不良、品……」
ハルの心の隙間に女の言葉が染み込んでいく。
「どうか、この国の悲しき秩序を正すために。わたしたちを、救うために……」
「…………」
「あなたの神の声を、聞かせて」
ハルは、女と共に森を出た。
そして、ハルは戦へと取り込まれていった。
女の予想通り、ハルの歌は戦場で、恐ろしい力を発揮した。
たった一声で、何十人もの兵士たちが容易く死んでいく。
「なんと素晴らしい……!我が、歌姫よ……」
女は、新たな国の女王となった。
ハルの力を使い、続々と領地を広げていった。
「さあ、歌姫さま…。我らが志のため。どうか、あなたの歌声を、あの憎き敵共に……」
「…………」
ハルは彼女に言われるがままに歌い続けた。
繰り返される、虐殺。
曇った瞳は正常な判断までも奪った。
破壊するたび、仲間たちはハルを誉め称えた。
彼らに必要とされているという、充実感がハルを包み込んだ。
「歌姫さま。この国の名を、決めました。アリアムンド、と名付けます」
「アリア…ムンド……」
「そう。そして、あなたはこのアリアムンドの歌姫にございます。ですからあなたにも、新たな名をお付けしましょう」
「わたしの、名前……?」
「ええ。あなたの美しい歌声に見合う名を……」
女王はハルの前にひざまづくと、その手を恭しくとって言った。
「どうぞ、これからもその神の声で、我らが民をお守りください」
「……アリア様」
そして。
女王は、ハルに仮面を被せた。
こうして、ハルはアリアムンドの歌姫、アリアとなったのだった。




