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いいの

夜。ハルはひとり外に出た。

冷たい風が、夜の匂いを引き連れて、すうっと通り抜ける。

どきどきするような、それでいて、なんとも言えないもの悲しさが、ハルの中で渦巻いた。

「……怖い」

ハルはぎゅっと目を閉じ、ユリスの毛に顔を埋めた。

硬い毛が、ハルの頬を跳ねる。

濃い獣の匂いが、ハルの心細さを少しだけ和らげた。

「……ありがとう」

ハルが呟く。

「あなたは、やさしい子ね」

「ぐるる……」

「……でも、あなたはもう、完璧なものになってしまった」

「…………」

「わかっていたの。だから、もう、いいのよ」

「ぐるる……」

「行くんでしょう?わたしを置いて」

ハルはすっくと立ち上がると、ユリスの首から綱を外してやった。

「ぐるるる………」

「ふふっ」

心配そうに見るユリスの顔を、ハルはぎゅっと抱き締めた。

「いいのよ。……わたしは、大丈夫」

「…………」

「お行き」

ぽん、と胴を叩くと、ユリスは名残惜しそうに小さく鳴き、そのまま、森の奥へと消えていった。

「……さよなら」

さよなら。美しい、銀色の子。




翌朝、ユリスが居なくなったことに気付いたイサは、ハルに尋ねた。

『昨夜、お別れを言ったの』

自分で放してやったのだ、とハルは言った。

『だってあの子は、走れるから』

『ハル……』

『いいの。わたし、さみしくない』

案じたが、ハルは悲しむこともなく、晴れ晴れとした顔をしていた。

『だって、わたしには、イサが居るもの。ね?』




ハルは歌の力を治療に使い始めた。

イサが治療に行き詰まる度、ハルは歌を歌った。

歌の力で何人もの人を癒した。

『すごいよ!ハル!』

イサが、喜んでくれる。

自分の歌を、喜んでくれる。

自分でも役に立てる。それが、ハルには嬉しかった。

「……イサだけは……。イサならきっと、わかってくれる。だってイサは、わたしと同じ、だから……」




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