心模様
イサは、処理場に捨てられた人々の治療を続けていた。
「ぐるるる……」
ユリスの嘶く声が聞こえる。
ユリスは、外を気持ち良さそうに駆け回っていた。
ようやく4本揃った脚を優雅に動かし、風を切り、銀色の毛を揺らす。
しかし、その隣にハルはいない。
ハルは窓から一番遠い場所に椅子を置き、ぼんやり本を読んでいた。
ユリスの声など、聞こえていないというふうに。
ハルはまた、ユリスが来る以前のように、小屋に引きこもるようになってしまった。
ユリスの面倒は変わらず見ているが、前のような、執着に近いものは感じない。
『…………』
イサは払うように頭を振り、ハルから目を逸らした。
何度反芻しても、考えても。彼女の話を理解できるとは思えなかった。
そのことが、却って彼女を傷つけるような気がして、イサは、ハルのことはそのまま宙に浮かせておくことにした。
イサは運んできた患者の前で、苦い顔をした。
「ヒュウウウー…ヒュウウウー……」
彼は全身にひどい火傷を負っていた。
肺まで焼けたのだろう。苦しそうに、胸が上下する度、喉が鳴っている。
もう、何もできない。
辛うじて息はあるけれど、治療のしようがない。
こういうことは、たまにある。
時間が経ちすぎたせい、物資が不足しているせい。または、イサの技術が足りないせいでも、あった。
今目の前に居る、この青年もそうだ。
できるのは、せめて命の糸が切れるまで、苦痛を和らげてやることくらいだった。
「……、………、………」
患者は、爛れた口を動かし、何か言っているようだ。
しかし、イサにはそれを、聞くことができない。
『なんだい?何か、僕にできることは………』
「ーーーーー………」
『!?』
突然。
患者の体が、光り出した。
イサが振り返ると、ハルが椅子に腰掛けたまま、歌っていた。
「ーーーーー……」
患者の体に、すうっと光が染み込んでいく。
体液が滲み、膿んでいた肌が、まっさらなものに変わっていく。
「……、うう……?」
患者が、目を覚ました。
きょろきょろと目だけ動かし、辺りを見回している。
「……ここは………、!」
自分の両手を顔の前に持ってきて、きれいになった皮膚を見て、驚いていた。
「……い、生きてるのか、俺は……」
もう喉の音もしない。胸いっぱいに息を吸い込み、彼は横になったまま、ほろほろと涙を溢した。
『……治ったの』
『!ハル……』
『…………』
『……君が、やったのか……?』
イサが尋ねると、ハルは頷いた。
『じゃあ、やはり、ユリスの脚も……』
『…………』
ハルは何も言わず、読んでいた本に目線を戻した。




