光の渦
ユリスはぐったりと地面に横になり、口の端からだらしなく舌を垂らしていた。
『イサ……』
『…………』
狼狽える、ハル。
しかしそれは、イサには予想できていた事態だった。
走ることに特化した獣であるユリスにとって、速く走る脚というのは、彼らの生命維持に、大きな役割を担っている。
如何に速く走るか。彼らはそれだけを研ぎ澄まし、そして、そのために、無駄な機能は削り取られていった。
自然界において、ユリスが脚を失うということは、すなわち死を意味する。
脚を失ったユリスに、生きる意味など存在しない。
この獣は、自らゆっくりと、死に向かっているのだ。
『どうしたの、かな。イサ。わたし、どうしたら、いい?』
『…………』
『ねえ、イサ……』
しかし。
『……ちょっと、体調を崩した、みたいだね』
イサには、それをハルに伝えることはできなかった。
『熱もあるみたいだから……とりあえず、解熱剤を飲ませて様子を見ようか』
『……うん』
『静かに寝かせてあげれば、きっと良くなるさ』
『……わかった』
ハルは頷いて、ユリスのそばに膝をつき、顔を撫でてやった。
ユリスはふう、と弱々しい息を吐き、力なく目を瞑った。
『…………』
イサにはわかった。
きっと今夜、このユリスは死ぬだろう。
「…………」
夜更け。ハルはこっそりと、小屋を出た。
灯りも持たず、夜道をそろそろと歩く。
薄雲の中に、辛うじて見える月。その光を頼りに、ハルはユリスの元へと向かった。
「……、寝てるの……?」
風にそよそよと揺れる銀色は、小さく丸まってそこにいた。
「いいこ、いいこ」
そっと背中を撫でる。ユリスは動かない。
「……あなたは、わたしと同じ」
「…………」
「そう、でしょう?」
ユリスは、応えない。
「…………あなた、死んじゃうの?」
「…………」
「生きたいと、思う?」
「…………」
「……、そう」
ハルは静かに頷くと、ユリスの頬を撫でた。
そして。
「…………」
歌を、口ずさんだ。
「ーーーーー……」
柔らかく、ゆるゆると。
風に揺れる絹のように、美しいハルの歌声は響き渡る。
「…………」
突然。
ユリスの目が、カッと開かれた。
そして…。
「……!きゃっ……!」
ユリスの体が、光り出した。
「………っ、何、これ……眩し……」
目映い光が、弾けるように。ユリスの体に集まっていく。
目が開けられないくらい強烈な光が、ユリスを包み込む。
「……っ、イサ……イサ!」
ハルは、イサを呼んだ。
『……?』
気配がして、イサは目を覚ました。
窓の外を見る。
まるで、夜が明けたように明るい。
『……?』
しかし、朝の光ではない。
『イサ……!』
ハルの声がした。
イサは飛び起き、急いで小屋を飛び出した。
『……!これは……』
イサは息を飲んだ。
目の前には、巨大な光の塊が渦を巻いている。
信じられないほどの光量。
しかし、なぜか不思議と、嫌な感じは受けなかった。
得体の知れないそれを、怖いとか、不気味だとか。そうは思わなかった。
イサはただじっと、その光の渦がまるで生き物のように蠢く様を眺めていた。




