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壊れかけた者たち

ずぶ濡れのハルと、彼女が連れてきたものを見て、イサは目を丸くした。

『これは……ユリスの仔じゃないか。なぜ……』

『森の奥で、見つけたの』

今まで小屋に引きこもっていたハルが、外に出たことに、イサは驚いた。

この雨の中、どれほど歩き回ったのだろうか。

髪は濡れそぼり、服も足も泥だらけだ。

『……脚が悪いの』

『脚?』

ハルが、指をさして知らせた。

『治る?』

『……診てみよう』


二人はユリスを雨の当たらない木陰に連れていった。

イサが、脚を見ようと近付くと、ユリスはびくっと体を震わせ、離れようとした。

「ぐるるるる……」

歯をむき、低く唸る。

怯えているのだ。

「大丈夫よ」

ハルがその顔を包むように抱き締め言った。

「痛くしないよ」

「ぐるる………」

「いいこ。いいこ」

ハルが落ち着かせているうちに、イサは後ろにまわってそっと脚に近付いた。

『!』

具合を診て、イサは顔色を変えた。

『イサ?』

『……、ハル。この脚、折れてるみたいだ』

『治る?』

『…………』

イサは首を振った。

『……無理だ。ユリスの脚は、折れたらもう、治らない』

ハルの目を見ず、そう言った。

ユリスの、ガラス細工のように繊細なその脚は脆く、治癒能力が著しく低い。

一度壊れてしまえば、もう、二度と元には戻らないのだ。

『……、だから……』

『そっか』

『!』

『わかった』

イサは耳を疑った。

ハルの声に、どこか安堵のような響きがあったからだ。

『ハル?』

『……雨、止んだね』

ハルはそう言って、布でユリスの体を拭き始めた。




ハルは毎日、外へ出るようになった。

晴れた日も、雨の日も。

ハルはユリスの隣に座って、にこにこと嬉しそうに銀色の毛を手ですいていた。

汚れていたユリスの体は、ハルの手入れのおかげで、すっかりきれいになった。

日に透ける銀色。きらきら光るそれを、ハルは眩しそうに見、微笑む。

彼女は、笑うと急に大人びて見えるから、不思議だ。

普段はどちらかといえば幼く、おどおどした風なのに。ユリスを見ているときだけは、うってかわって表情が和らぎ、重荷がとれたように、どこかすっきりとして見えた。

『……イサ?』

視線に気付いたハルが、振り向く。

木漏れ日が、ハルの長い髪に零れてゆらゆらと揺れていた。

『どうしたの?』

今にも壊れてしまいそうな美しさが、そこにある。

『……、いいや』

だからつい、見とれてしまう。

『なんでもないよ。ハル』

美しいものを前にした彼女は、輝いていた。



しかし。

『イサ。あのこの様子がおかしいの』

数日たった頃。顔を青くしたハルが、イサを呼んでそう言った。




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